注目ヘッドホン・スペシャルレポート

ヘッドホン・リスニングの概念に革新をもたらすプレミアムモデル − ULTRASONE「edition10」を山之内正氏が聴く

試聴・レポート 山之内正
2010年11月12日
世界的なヘッドホン専業ブランドであるULTRASONE(ウルトラゾーン)が展開するフラグシップ“edition”シリーズに、初の開放型モデルとなる「edition10」が登場した。editionシリーズの歴史を翻れば、2004年に誕生した「edition7」に幕を開け、2007年の「edition9」、2008年の「edition8」と、これまで3つのモデルが生まれ、“高級ハイエンドヘッドホン”のジャンルを開拓してきたエポックメーキングなヘッドホンだ。これまでに商品化されてきたeditionシリーズはいずれも密閉型のモデルだった。一方で、ULTRASONEの既存ユーザーやファンから「開放型のedition」を求める多くの声を受けて、いよいよ完成した開放型のフラグシップモデルが「edition10」である。本機は“edition”シリーズに、あるいはこれまでのヘッドホン体験にどのような革新をもたらすモデルなのか。オーディオ評論家の山之内正氏が本機を試聴したインプレッションをお届けしよう。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ヘッドホン愛好家の注目を浴びて登場した、editionシリーズ初の開放型モデル
試聴・レポート 山之内正


高級ヘッドホンという概念が一般化する以前から、ドイツのウルトラゾーンは一切の妥協を排した究極のヘッドホン作りを指向し、editionシリーズという特別な製品群を提供してきた。そこで得たノウハウの一部はレギュラーモデルにも投入し、製品のクオリティ向上に大きく貢献する。もともと「S-Logic」、「ULE」という独自技術を有している強みもあり、同社のヘッドホンはエントリー機からフラグシップまで、音にこだわる音楽ファンの間で高い評価を獲得することになった。

限定モデルの「edition7」と「edition9」、そして現行モデルの「edition8」は密閉型という枠組みのなかで最上のクオリティを追求して大きな成果を上げたが、この秋登場した「edition10」は同社としては初めて開放型を採用し、話題を集めている。

ULTRASONE「edition10」
 
密閉型の優れた静寂感や音圧感に対し、開放型は文字通りオープンで伸び伸びとしたサウンドが得られるメリットがあり、それぞれの方式に他では置き換えられない良さがある。「ウルトラゾーンが開放型でフラグシップを作ったらどんな音が生まれるのか?」という期待がヘッドホン愛好家の間で強まるのは、ごく自然な流れなのだ。

edition10はこれまでのeditionシリーズとはまったく違う発想で開発されているが、素材にこだわることと、妥協を排除するという点においては、従来の同社の設計思想を忠実に受け継いでいる。エチオピアン・シープスキン・レザーの採用や、ルテニウムをコーティングしたイヤカップはその代表例だ。開放型ならではの新機軸として流麗な形状のスリットや天然木のインレイを導入しているが、いずれも意匠としてこだわりにとどまらず、音質改善と密接に関連していることに、完璧を指向するウルトラゾーンのフィロソフィを読み取ることができる。


驚くべき開放感と充実した低域再生 − 従来のヘッドホンリスニングの概念を覆すサウンド

「edition10」の試聴にはCDとネットオーディオプレーヤーの両方を使用した。ディスクメディアとメカレス再生それぞれのメリットを「edition10」がどう再現するのか、強い興味があったからだ。

ベースとギターのサポートで歌うムジカ・ヌーダのジャズボーカルは、深みのある低音からメタリックでパワフルな高音まで、広い音域にわたって声に余分な歪み感が一切なく、透明で自然な声のタッチが素晴らしい。ベースは音が立ち上がる瞬間の速度が大きく、大量の空気が瞬時に動く生々しさが耳を心地よく刺激する。開放型はオープンな低音に良さがあるというのが定説だが、「edition10」の低音はそれに加えて明確な芯があり、エッジがにじむこともない。ギターのスチール弦のピュアな響きは明らかにメディアレス再生のメリットで、ディスクとは一味違うその感触を「edition10」は忠実に引き出してくる。

edition10を専用ケースから取り出して質感を確かめる山之内氏。本体の軽量さにも驚きの声をあげた

イヤーパッド、ヘッドバンドに“エチオピアン・シープスキン・レザー”を採用したことにより、心地よい装着感を実現した点も本機の大きな魅力だ

大編成のオーケストラを大きめの音量で聴く醍醐味は、まさに開放型ならではの贅沢な体験だ。フォルテの全奏でここまでのセパレーションを確保している例は聴いたことがないし、余韻がホール全体に広がる様子をこれほどリアルに再現するヘッドホンも思い浮かばない。いずれも開放型の大きなメリットであり、密閉型とは音の広がりに大きな差があると感じた。

普通の環境で聴く限り、静寂感の表現においても本機は期待以上の実力をそなえていることがわかった。ピアノやギター1本の伴奏で歌うソプラノをCDで聴いたときの、声と伴奏の余韻が空間のなかで溶け合って静かに消えていくまでの精妙な空気感、そのリアルな感触は驚くばかりだ。

自宅試聴室にてedition10のサウンドを確かめる山之内氏

edition10の試聴には、山之内氏の高音質オーディオ・データファイルのコレクションも用いた

微細な音はもちろん、気配感までも精緻に再現する表現力は、ウルトラゾーンのフラグシップならではのもので、それが開放型のヘッドホンでも味わえることに大きな意味がある。同社のヘッドホンは細部にいたるまで不要な共振を徹底的に排除しているため、細かい音がノイズや歪みにマスクされず、すべてが聴き手の耳にそのまま届けられるのだ。密閉型のフラグシップモデルの開発で追い込んだ技術的アプローチが、開放型の「edition10」にも形を変えて生きているのである。

開放型の伸びやかな低音を味わうために、オルガンを加えた弦楽オーケストラの録音を聴いてみることにした。この192kHz/24bitのPCM録音には、暗騒音の帯域からオルガンの最低音域にいたる超低域に膨大なエネルギーが含まれており、一般的なスピーカーではカバーできない30Hz以下の信号も入っている。驚くべきことに、「edition10」の超低域はこの音域においても歪み感が皆無で、一切のくもりがない。超低域の響きが澄んでいるおかげで、チェロやヴァイオリンの旋律が鮮明に浮かび上がり、低域のエネルギーに振られて音像が揺らぐこともない。低音の支えが安定しているからこそ、純度の高いハーモニーが得られるのだ。

edition10のサウンドは、その類い希なる“柔軟性”が大きな特長の一つと語る山之内氏

「edition10」の音には、ディスクやネットオーディオそれぞれのメリットを引き出す柔軟性がある。基本性能の余裕が、その柔軟性を生んでいるのであろう。開放型でここまでの性能を獲得したヘッドホンは希少な存在である。


試聴・レビュー 山之内 正
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。


【edition10/プロフィール】
“edition”シリーズ初の開放型モデルとなる「edition10」は2010年の発売を記念して、全世界「2010セット限定」で展開されるリミテッド・モデルだ。その仕様は限定モデルならではとも言える、オーナーシップをとことん満足させる贅沢な仕様が随所に盛り込まれている。ドライバーは他のeditionシリーズと同じく40mmチタンプレーテッド・マイラー・ドライバーを搭載。ヘッドパッド、およびイヤーパッドにはドイツの高級車「MYBACH(マイバッハ)」のシートなどにも使われている高級マテリアルである“エチオピアン・シープスキンレザー”が用いられ、心地良い装着感を実現している。ケーブルは左右ハウジングからの両出しタイプとなっており、全長は3m。コネクターは金メッキ処理を施した6.3mm標準プラグを基本仕様としているが、国内では取り扱い代理店のタイムロードより、オーダーメイドでのバランス仕様変更を受け付けている。ケーブル線材には銀コート・OFC(無酸素銅)を用いていることも、本機の上質なサウンドにつながっている。導線の外部はアラミドファイバーでシールドすることで、絡みにくく取り回しの良いケーブルとしたほか、音声信号の損失も大きく抑制されている。自然な音の響きと定位感を実現するナチュラル・サラウンド・サウンド・システム「S-Logic Plus」や、低周波電磁波低減技術「ULE」など、ULTRASONEが誇るヘッドホンのための独自技術は本機においても真価を発揮している。

【edition10/スペック】
●型式:開放型 ●インピーダンス:32Ω ●ドライバー:40mmチタニウム ●マグネット:NdFeB ●再生周波数帯域:5Hz〜45kHz ●SPL:99dB ●質量:282g(ケーブル含まず) ●ケーブル長:3.0m ●プラグ:6.3mmゴールドプレーテッド・プラグ


【写真で見るedition10】

シリーズ初の開放型モデルとして誕生した「edition10」

正円形のハウジングはマットコートの希少金属素材ルテニウムが基本マテリアルとなる。カーブ形状のスリットが音道として設けられており、本機の開放感豊かなサウンドを生み出している


インレイ部にはアフリカ製の木材である「Zebrano(ゼブラーノ)」を2層のマットコートで仕上げたパーツを配置。ヒンジ部にはULTRASONEのブランドロゴをレーザーカットで刻印している

自然界のデザインからインスピレーションを受け、“蝶の羽の文様”をイメージしたという、イヤーカップ部の独自のデザインも魅力的だ


ヘッドバンドの内側にはシリアル番号が設けられている。なお本機は世界で2010台のみ販売される限定モデルだ

ヘッドバンドは長さ調節も自在


イヤーパッドにはeditionシリーズが継承する“エチオピアン・シープスキンレザー”を採用。開放型モデルならではのサウンドを実現するため、レザー生地に細かな孔が設けられている

ナチュラル・サラウンド・サウンド・システム「S-Logic Plus」は本機にも採用されるULTRASONEの独自技術だ


ケーブルは両出しの構造を採用している

左右ケーブルの分岐部にはULTRASONEのロゴを配したメタルパーツを採用している


金メッキ処理6.3mm標準プラグを採用。国内ではオーダーメイドでバランス化にも対応する

新開発のケーブルが採用された。フレキシブルな素材を用いているので、リスニング時の取りまわしも簡単に行える


edition10の専用ウッドケース

箱の表側にはULTRASONEのブランドエンブレムが光る


専用ケースはオーナーシップを満足させる贅沢なつくり

インレイ部にも用いられている木材「Zebrano」を用いたヘッドホンスタンドも標準付属する

【edition10/問い合わせ先】
(株)タイムロード
TEL/03-5758-6070

関連記事