ケースイの次世代AV NAVI番外編

「torne」の先にSCEの野望が見えた! − PS3専用地デジチューナーキットの魅力をケースイが分析

鈴木桂水
2010年01月25日
既報のとおりSCEからPlayStation3(PS3)用の地デジレコーダキット“torne”「CECH-ZD1J」の発表があった。PS3に接続するだけで、地デジのテレビ放送を視聴・録画できるという録画ファンの物欲をくすぐるアイテムだ。


torneの地デジチューナボックス
発売日は2010年3月頃の予定だが、発売に先駆けて東京・池袋のヤマダ電機LABI1池袋モバイルドリーム館6階、大阪・日本橋 上新電機ディスクピア日本橋店1階に体験コーナーが用意されている。すでに多くの人々が操作を体験して、その感想がネットなどにアップしており、驚異的な速さで動作するEPGなどのユーザーインタフェースを高く評価する声が多く見受けられる。筆者もプレス向けの体験会に参加して、いろいろと驚かされた1人だ。


■ゲーム機一体型レコーダー「PSX」が、「torne」に遺したものとは


“torne”のパッケージ一式

PS3とはUSBケーブルで接続する
torneについて、筆者の第一印象は「素晴らしい録画機能を備えているが、レコーダーの代用品ではない」というものだ。ソニーは以前、PlayStation2とHDD&DVDレコーダーの機能を兼ね備えた「PSXシリーズ」(関連ニュース)を発売していた。本機のビジネス的な成功はさておき、当時としてはかなり画期的な製品だったことは確かだし、今でも愛用しているユーザーは少なくないはずだ。筆者も1台持っていたが、優れたGUIには惚れ惚れとしたものだ。今では手放してしまったことを後悔している。ただ後継機が発売されなかったことを考えると、PSXのコンセプトは多くのユーザーに受け入れられなかったのだろう。

そもそもゲームとテレビ録画は相反している娯楽のように思う。ゲームが楽しければテレビを見るよりも、寸暇を惜しんで攻略したいはずだ。そうなるとHDD内に視聴する機会のない録画番組は増え続け、結局録画機は使わないことになる。


2005年に発売された“PSX”「DESR-7700」(250GB HDD内蔵)
またテレビ録画を優先する場合は1台のPSXを家族で共有すると、誰かがゲームをしてしまうと、録画した番組が見られないという不便がでる。それならゲーム機とレコーダーは別々に購入したほうがいい、という結論になってしまう。このようにゲーム機とレコーダーは仲が悪いので、PSX以後に一体機の発売は難しいと筆者は考えていた。

しかしtorneはちょっとしたトリックを使ってゲーム機と録画機の“マリアージュ”を成功させそうだ。ゲーム機とレコーダーの共存というよりも、PS3が備えるCELLのパワーとネットワーク機能を使うことで、新しいテレビの楽しみを提案できる“基礎”を構築したと筆者は見ている。

チューナーが地デジのみということに物足りなさを感じる人もいるだろうが、ここに不満が出ることは開発陣も承知しているはずだ。録画機はツイン3波(地デジ/BS/CS)チューナー搭載で、録り逃しが激減するW-AVC録画対応なら文句なしだ。せめて地デジだけでもダブルにして欲しいと感じたが、それをしなかったのはtorneが従来の録画機ユーザーのニーズと違うところで、この製品を育てようとしているからだろう。

torneではPS3の内蔵HDD、およびPS3に接続したUSB HDDへの地デジ録画が行える


■「torne」のEPGをはじめとする高速・快適操作が新しいテレビの楽しみ方をつくる

まずレコーダー史上初めてストレスを感じさせないEPGをtorneは搭載した。番組検索も驚くほど速く、パソコンの検索サイトよりも素早く結果が表示されるのには驚いた。デジタル放送が開始されてからというもの、多くの人々がEPGと接するようになったが、あの“もっさり”とした操作感を当たり前のように感じていたはずだ。しかしtorneは違う。まるで“加速装置を使ったサイボーグ009”もしくは、“クロックアップした仮面ライダーカブト”のごとき素早さで、番組表がひゅんひゅん動く。人生の何百分の一に相当する時間を、もっさりした電子番組表に消費されている筆者からすると、全ての録画機がこの速度で動けば、毎日の睡眠時間を30分はプラスできるかもしれない。

この番組表の速さには意味があると考える。torneは世の中のテレビ番組をデーターベースとして使いたいのだ。そのためにパソコンの検索サイトで次々と情報を引き出すように快適な操作性が必要だった。いわばその先にある“野望”のために、しつらえのよいファザード(入り口)として高速番組表を用意したのだ。


高速で快適な操作感を実現したtorneのEPG
次に注目すべきは「チャート」機能だ。こちらはユーザーがにtorneで見た放送局やジャンルを集計して表示する機能。トータルの視聴時間も表示される。この視聴時間はテレビ視聴と録画コンテンツにまで分けられて表示されるのでかなり細かい。筆者はこの画面を見たとき「この情報がSCEのサーバーに転送されるのか!torneの実体はマーケティング用の情報収集マシンだったのかっ(汗)」と焦ったのだが、SCE広報に確認したところそんなことはなく、チャートの情報はPS3内で利用できるだけで、サーバーへのアップロードは行っていないそうだ。

では「ケースイはMXテレビばかり見ている。ジャンルは深夜アニメが多い」というような、情報を何のために使うのか?それはPS3のゲームでも使われる「トロフィー機能」として使われるそうだ。例えば「バラエティをトータルで何時時間見ると、バラエティー好きのトロフィーがもらえる」といった用途に使われることが今後検討されているそうだ。アニメばかり見ていたらアニメ好きのトロフィーがもらえるのかもしれない。


視聴者の好みを「チャンネル別集計」したところ

こちらは「ジャンル別集計」のイメージ
視聴履歴に関しては「トルミル情報表示」という機能もある。これはPS3をインターネットに接続した上でtorneを利用し、ユーザーが自分の録画・視聴情報を専用サーバーに公開してもよいと設定した場合、ユーザーが利用している地域でどんな番組が録画され、どんな番組が視聴されているかを確認できる機能だ。情報は関東圏など限られた地域で集計され、個人の情報は表示されない。


チャンネルパネルには放送されている番組の「進行度」が色分け表示される。「トルミル情報」も表示
東芝のRDシリーズにも似たような「みんなのお薦め機能」などがある。RDの機能は録画履歴を専用サーバーで集計し、同じような番組を録画している人の嗜好から、ユーザーにおすすめの番組をリストにして表示する機能だ。使ってみると、思わぬ番組の発見があって楽しい。torneのトルミル情報表示は、特定地域でどの番組が多く録画されているか、視聴されているかをランキングで表示する機能なので、RDの機能に比べると緩やかなおすすめ機能にまとまっている。


東芝のレコーダー、RDシリーズもインターネット接続を利用した機能も実現。全国のRDシリーズのユーザー情報をもとに、好みが似ているグループで分析して番組を推薦する「みんなからのおすすめ」、ユーザーごとの好みで分析して番組を推薦する「あなたのおすすめ」(学習機能)などのサービスが楽しめる
テレビや録画番組を視聴しているときに、ブラウザを使ってインターネットも楽しめる「見ながらネット」もすごい機能だ。番組情報から出演者などキーワードから関連する情報を検索して表示できる。これはグルメ番組&お取り寄せ好きの筆者には堪えられない機能だ。


「見ながらネット」もテレビの楽しみ方を変えてくれそうな便利な機能だ

テレビ画面とインターネットを並べて表示することもできる
筆者はグルメ番組などをノートパソコン片手に見ることがある。野次馬根性が旺盛なので、テレビで紹介された食材や調味料は試さずにはいられないのだ。「テレビで見て気になったら、すぐにPCでググってお取り寄せ」するのは日常茶飯事。おかげで醤油だけでも30種類近いコレクションができてしまった。「見ながらネット」を使えば、これがPS3とtorneだけでできてしまう。操作も簡単なのでキーボードはなくてもいい。衝動買いが増えそうで、いまから使うのが恐いぐらいだ。


■視聴者情報を提供することで、ユーザーの生活がもっと楽しく便利になるかもしれない

torneの機能を見ると計り知れない可能性を感じる。ここからは筆者の妄想でtorneとはまったく関係ない話に脱線させていただく。ユーザーのテレビの視聴履歴や個人の嗜好値の抽出は大きなビジネスを産む。俗な言い方をすれば“カネ”になるのだ。

例えばグルメ番組を録画して、深夜に再生するのが好きな人がいるとしよう。また、この人のテレビ視聴のスタートは「めざましテレビ」だったり「笑っていいとも!」であるとする。これだけの情報でも、このユーザーは「食べ物に興味があり、生活が不規則な人、メタボの可能性もあり」という仮説が立てられないだろうか?そんな人には「飲むだけで脂肪が燃焼できるダイエット茶」の動画CMを届けたらどうだろう。それだけではなく、CMを全部視聴すればコンビニで使える「ダイエット茶割引クーポン」が端末経由で携帯電話に届く。コンビニでクーポンが使われれば、広告の効果が確認できる。

ほかにも、特定の俳優が出演する映画を多く見ていると、最新作の予告編や動画配信の案内が届く。その端末にはアクトビラのような動画配信の再生機能も備わっていれば、視聴履歴から広告の効果を確認できる等の展開も考えられる。同じように旅行番組を見ている人には、ツアーの案内やトランクなど旅行用品の案内と割引券が、音楽番組を録画している人には視聴サイトの案内が届く、といった具合のビジネスがいとも簡単に成立する。

こんな妄想を抱える筆者からすると、torneにはテレビ録画だけに止まらない、壮大なビジネスの可能性が感じられてならない。筆者はそれが不純なことだとは思わない。個人情報を提供することで、ささやかなポイントが得られるアンケートサイトに比べれば、こちらの方がおもしろそうだ。筆者はSCEがtorneの周辺にどんなビジネスを創り出していくのか、興味津々でいる。


■torneはPS3ユーザーなら必携のアイテムだ

torneはとても興味深い製品だと素直に感じる。ゲーム開発者がデザインしたGUIは、美しくキビキビとしており、その完成度は家電機器のそれを遙かに凌駕している。画質最優先の開発もいいが、テレビやレコーダーも少しはGUIにスペックを割り振ってもらえないものかと切に願ってしまう。

地デジがスタートして以来、録画機はつまらなくなる一方だと筆者は感じている。それにはテレビ番組の魅力が薄れているのも関係しているかもしれないが…、そんな灰色の録画機市場に、torneという新しい風が久々に吹き込んできた。ネットの記事でも触れられているように、torneはゲーム使用中に録画していると、機器の状態によっては録画番組でコマ落ちなど不具合が発生することもあるとのことで、一抹の不安もあるが、発売後もバージョンアップで機能追加やその他アップデートも提供される予定とのことだ。PS3ユーザーであれば、まずは使ってみるのもいいのではないだろうか?筆者もtorneの“その先”を見たいので、迷わずに購入したいと思っている。


◆筆者プロフィール 鈴木桂水
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。