DGPイメージングアワード2024受賞:パナソニック 津村敏行氏
【インタビュー】LUMIXは常にチャレンジャー。「S9」の購入層はスマホからのステップアップが実に約3割、新たな価値を連打する
DGPイメージングアワード2024
受賞インタビュー:パナソニック
スマホからカメラへのステップアップ需要に着目し開発した「LUMIX DC-S9」。購入層の実に約3割を新規層が占め、市場創造へ確かな手ごたえを掴んだ。ビデオグラファーからの圧倒的な支持を獲得し、独自のポジションを確立するGシリーズも健在だ。「こんなに楽しい業界はそうそうありません」と腕を鳴らす津村敏行氏に、さらなるイメージング市場活性化へ向けた意気込みを聞く。
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社
副社長 執行役員
イメージングソリューション事業部長
津村敏行氏
プロフィール/1968年11月12日生まれ、神奈川県出身。1991年4月 松下電器産業(株)入社。ポケットベル、携帯電話、スマートフォンなどの通信機器の設計開発・商品企画に携わり、2014年発売の「LUMIX CM1」の開発を機にイメージング事業に深く関わり現在に至る。好きな言葉は「日に新た」。趣味は写真/動画撮影、映画鑑賞、ランニングなど。
―― 「DGPイメージングアワード2024」におかれまして、御社「LUMIX DC-GH7」が総合金賞、「LUMIX DC-S9」が審査委員特別賞を受賞されました。おめでとうございます。審査会ではいずれも非常に高い得票を獲得。「ルミックスはやはり色がいい」「動画も静止画も撮って出しで使える」といった声や、モデルの高価格化が指摘されるなか、リーズナブルな価格設定にも高い評価の声が集まりました。
津村 ダブル受賞ということでとても光栄ですし、また、これまでこだわり頑張ってきたところを認めていただけたことは本当にうれしいです。
―― まずは「GH7」につきまして、商品に込められた思いをお聞かせください。
津村 私達が大切に育ててきた「GH」というシリーズは、いわゆるビデオグラファースタイルとして、ディレクションから撮影、編集まで全部一人でこなして作品化していくお客様をメインターゲットに、画質や機能だけでなく、トータルのワークフローとしての利便性を高めていく拘りを貫き、数々の革新を重ねてきました。
ルミックスのマイクロフォーサーズならではのポータビリティ性や熱を気にすることなく撮り続けられる耐久性に加え、「GH7」では、少し離れた場所にいる人に協力してもらいながら仕上げていく編集環境において、よりスムーズな制作プロセスを実現するAdobe社「Frame.io Camera to Cloud」の接続に対応しました。さらに、ARRI社さんとの初めてのコラボにより、シネマ領域での自由度が向上する「ARRI LogC3」というLog撮影にも対応しています。今までやりたくてもできなかった撮影シーンへの対応をさらに強化しました。
一番の革新とも言えるのが、これまで外部レコーダーで記録可能だった「Apple ProRes RAW HQ/Apple ProRes RAW」を、CFexpress Type Bカードを使用してカメラ本体へ内部記録することを可能にしたことです。様々な撮影スタイルに対し、どのワークフローを選ぶのか、選択肢は多いほど使い易くなると考えています。色々なスタイルのビデオグラファーの方が、どんなシーンでもこれ一つですべてできるという究極を目指しています。
さらに、別売のXLRマイクロホンアダプター「DMW-XLR2」の使用で、32bit Float録音にも対応しました。大きな音でも音割れのない記録が可能であったり、撮影現場でオーディオレベルを意識することなく、撮影後に音声レベル調整も可能です。映像面のみならず音声面でもGH7は大きく向上しました。
―― 2024年7月の発売からおよそ6ヶ月、市場からの反響はいかがですか。
津村 想定した台数通り堅調に推移しています。世の中ではフルサイズのミラーレスが主流となっていますが、マイクロフォーサーズのプロフェッショナル向けという独自のポジションが受け入れられています。
今回、「DC-GH6」の発売(2022年3月25日)から2年余りと少し短めのインターバルでの導入となった背景には、GHシリーズでは初めての採用となる「像面位相差AF」に対する市場からの非常に強い要望がありました。
プロフェッショナルなビデオグラファーは、マニュアルフォーカスが主流ですが、最近は低予算で数多くの様々なシーンで動画をつくるため、進化するAF(オートフォーカス)システムのニーズが高まりを見せています。GH6ではコントラストAFのDFDを採用しましたが、方式上どうしても苦手なシーンがあり、要望の高かった像面位相差AFをGH7では新たに採用し、同時にDFDも進化させています。通常の環境から暗所にいたるまで、両方式の得意領域を活かしたAFシステムを実現し、高い評価をいただいています。
これからも、色再現やスーパースローなどクリエイティブな方向性での進化もまだまだありますし、いかに間違いなく楽に作品を仕上げていくかという方向性の進化もあります。ユーザーの強いこだわりに応え、表現力の向上とワークフローの効率化の2つの軸から尽きることなく進化させていきます。
―― 続いて2024年6月に発売となりました「S9」についてお話しいただけますか。
津村 デジタルスチルカメラが一人一台とも言われたコンデジから趣味層のデバイスへと置き換わり、需要は減少して平均単価が上がり、特定の人が楽しむためのもののように思われています。しかし、私自身も過去にスマートフォンの設計を手掛けていたのですが、デジタルカメラの開発に携わったときに、「こんなに美しい写真や映像が撮れるのか」とカメラが大好きになったのですが、そうした感動体験をされていない方が大勢いらっしゃると思っています。
実際に調査してみると、スマホのカメラでしか撮影経験がない方の間にも、クオリティにこだわる方が確実に増えています。ミラーレスカメラにも関心は抱いているのですが、「これは!」と手にできるカメラがないのです。
そこで、スマホからステップアップして新たにカメラを使っていただけるお客様を思い切ってターゲットに据え、フルサイズの美しいボケ味と撮影体験が楽しめ、デザインにも徹底してこだわることをコンセプトに練り上げたのが、この「S9」なのです。
「メカシャッターはなぜないの?」「ファインダーはあった方がいいのに」など、写真撮影のお客様にはネガティブな面は確かにあります。しかし、撮影は縦横フリー、画面を見ながらフォーカスも合わせて撮るのが当たり前というスマホからステップアップされるお客様からは、高い支持をいただくことができました。
しかも、“撮る”で終わりではなく、撮ったら加工して少し手を加え、すぐにシェアする一連の体験が非常に重要ですから、Z世代に近い若手チームが企画・開発を手掛けた「LUMIX Lab」というスマホ用アプリを同時に開発しました。
リアルタイムLUTも使えばとても楽しいことがわかりますが、自分でLUTをつくるとなるとハードルが高い。それならば、スマホのアプリとして提供できれば、写真家やクリエイターのLUTも簡単にカメラにインストールして使うことができます。撮って出しのクオリティが高い評価を得るルミックスの特長も存分に生かせます。「LUMIX Lab」は今回「技術/企画賞」をいただき、開発に携わったメンバーも大変喜んでいます。
―― 実際にどのような方が手にしているのか。市場での状況が気になります。
津村 「S9」発売時に厚み約18oのパンケーキレンズ「LUMIX S 26mm F8」を同時に発売しました。スマホユーザーにマニュアルの楽しさを体験いただきたいとの想いのもと、デザインもフィットした小型レンズで、カメラを手にするライフスタイルを提案しました。
「S9」を購入いただいたお客様全員を対象に、この単焦点パンケーキレンズとLUMIX オリジナルストラップ、購入者限定の「S9」講座動画視聴チケットをプレゼントする企画も実施しましたが、カメラ愛好家のお客様が多いという結果になりました。
これ1本あれば、風景などの広角撮影からスナップ撮影、望遠を活かしたポートレートまで幅広いシーンの撮影ができる高倍率ズームレンズ「LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.」を同梱したHキットも評判がよかったのですが、こちらも買い替えのお客様が中心となりました。
しかし、6月の発売当初こそスマホからステップアップした新規ユーザーが占める割合は約1割でしたが、2024年10月25日に「LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3」を同梱したNキットを追加し、新色キャメルオレンジの導入後、一気に約3割まで拡大しました。新規購入者の中での30代以下の割合は、約3割から約6割に倍増しています。
スマホからステップアップするお客様にとって、広角を基準にし、そこからズームで合わせていくというスタイルから、この18−40mmのレンズが非常に響いたようで、現在ではS9の販売構成比の約8割をNキットが占めています。
―― 「S9」では撮るだけではなく、所有することへの喜びを見いだす提案にも力を入れていらっしゃいます。
津村 「撮る喜び」「持つ喜び」という観点からライフスタイル提案に力を入れ、ヨセミテストラップ(Yosemite Strap)さんとコラボした限定のジャケット、ストラップ、ハンドストラップを、LUMIX BASE TOKYOと弊社公式通販サイトの「Panasonic Store Plus」で2024年11月から販売しています。SmallRigさんとはグリップやリグ、NEUTRALWORKS.さんとはカメラバッグなど、日頃「S9」を持ち歩いていただくことを重視したライフスタイル系のコラボレーション商品を数多く取り揃えました。
好評をいただいているエクステリアの張り替えサービスも、クリムゾンレッド、ナイトブルー、ダークオリーブ、キャメルオレンジ、ターコイズブルー、スモーキーホワイト、ジェットブラックのカラーバリエーションを用意しています。
―― 商品の導入や紹介にも従来と異なる手法を採られているのですか。
津村 S9の新製品発表会では、ライフスタイル・ファッション系のメディアの方も出席いただき、そこに紐づいたインフルエンサー系の若い人たちにも発表会場で撮影を体験していただきました。さらに、発表会ではモデルの高山都さんにトークセッションで登壇いただきました。S9で撮影された写真やS9とファッションをスタイリングされたご自身の写真など、ライフスタイルの中でのS9を紹介いただいたことで、憧れと共に身近なものに感じていただけたと思います。
6月の発売後は、カメラ愛好家の方を中心に好評で、リアルタイムLUTを楽しまれるSNS投稿も多く見受けられました。デザインもマッチするオールドレンズを着けて楽しまれている方も非常に多かったです。数ヶ月すると、メインターゲットのスマホからのステップアップのお客様が広がっており、市場創造にも貢献できていると自負しています。
だからこそ、今後も丁寧にマーケティング活動をしてさらに浸透させていきたい。カメラ業界が停滞・縮小しているといったニュースを耳にしますが、国内市場においては間違いなく活性化の兆しがあり、新しい世代の方が来ている大きな手応えを感じでいます。
―― LUMIX S9とLUMIX S 26mm F8の発売を記念して、2024年7月1日〜2024年10月24日まで、「26mmで切り取るあなたの世界」をテーマに「LUMIX S9フォトコンテスト」も開催されました。
津村 大変好評で、こうした体験価値は変わらず大切であることを改めて実感しました。若い世代も多く応募くださいました。クリエイティブへの熱量と徹底したこだわりが伝わってきました。
今回のフォトコンでは審査委員は写真家だけでなく、各界を代表するトップクリエイターや建築デザイナーにも加わっていただき、よりクリエイティブな視点から写真を見てもらいました。憧れのクリエイターが審査員なので応募したという方もおり、ここでも新たなLUMIXユーザー獲得ができたのではと思っています。
―― 現在のカメラ市場についてはどのようにご覧になられていますか。
津村 昨今旅行を楽しむ方が増え、リアルイベントもだいぶ復活してきました。貴重なシーンを動画や写真に収めようと、男女・年齢を問わず純粋に写真を楽しむカメラ需要が回復してきています。訪日外客数が過去最多となったインバウンドの影響もありますが、日本のお客様だけで見ても前年比で十分プラスに転じています。
進化が進んだハイエンド機が今後、買い替えサイクル鈍化でやや停滞を見せても、「S9」で新規のお客様の構成比が約3割を占めたように、いままでカメラを使っていなかった方に使っていただくことで市場はもっと活性化できるはずです。アクションカメラやドローンやVlog専用カメラなど、新たな撮影需要も増えてきています。
スマホライクに自由な撮影を楽しめる「S9」の提案は、ライフスタイルとしてカメラを所有する新しい価値観を、インフルエンサーをはじめとしたいろいろな方のライフスタイルとともにお届けすることで、「それって自分でもできるよね」と“自分事”として受け止めていただくことができました。日本のカメラ需要が新たなフェーズを迎え、成長に転じてくれるという気持ちのもと、新しい訴求や伝え方にも力を入れて取り組んでいきます。
―― 多様な使い方や楽しみ方に対応していかなくてはならない。そのためには伝え方も進化させていく必要があるわけですね。
津村 2024年4月にパナソニックコネクト株式会社に所属していたプロフェッショナルAVカテゴリーの部隊を、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社に統合する機構改革を行いました。DEIを推進し、様々な価値観を融合した活動を展開していくなか、いろいろなアイデアが生まれてきます。
イメージングを堅調に成長させていく側面においては新しい世代の発想はとても大事で、「LUMIX Lab」アプリを開発したリーダーも20代です。本人曰く「週末フォトグラファー」というカメラ好きで、ズバリ自分が欲しいものをつくるような感覚で取り組んでいました。
メーカーは作り手の発想ではもはや通用しません。ですから、ファンミーティングなどの交流をとても大事にしています。そうした企画に積極的に手を挙げてくれるメンバーが増えてきていることも心強い限りです。
そのような中、「DGPイメージングアワード」の受賞は社内でも大いに盛り上がります。企画の際にご意見を聞かせていただいたフォトグラファーやビデオグラファーの方から「いいものができたね」とおっしゃっていただけるのもとてもうれしくて、そうしたことをモチベーションに日々頑張っています。
―― 今年も2月27日(木)から4日間にわたり「CP+2025」が開催されます。若い来場者も増え、新規層獲得にも期待も高まります。
津村 来場されるお客様の一番の関心はやはりコンシューマー向けのデジタルイメージングですから、商品やファームウェアのアップデートの体験価値など、リアルだからこそ体験できる価値をご提案してまいります。
まだまだルミックスを使ってもらう機会が少ないのではと思っています。「使ったらいいカメラ」とよく言われるのですが(笑)、皆さんに使っていただく“ファーストルミックス”の絶好の機会にもなります。触っていただくだけではなく、どういう価値観や印象を持ってもらいたいかを考えながら取り組んでいきたいと思います。
―― 市場創造への意気込みをお願いします。
津村 製品ラインナップでは、動画も写真もしっかりと楽しんでいただけるハイブリットユースにとことん拘り、マイクロフォーサーズのGシリーズ、フルサイズのSシリーズを揃え、さらに、新しいお客様をターゲットとした「S9」の提案も行いました。商品にとどまらず、体験価値を提供できる場もどんどん増やしていきます。そうした場を通じ、継続的に使っていただける方が増えることで、新しい交換レンズなども積極的にお使いいただけるサイクルを創出していきたい。
プロフェッショナルAVの部隊と統合した新しい体制は、ビデオグラファーの方の世界観からももう少し高いレベルの価値を提供できると考えています。パートナーであるライカ様やアライアンスを組む皆様との協力関係をさらに活かして、ルミックスは常にチャレンジャーとして、いままでにない価値をどんどん提案していくスタンスを崩すことなく前進して参ります。こんなに楽しい世界、業界はそうそうありません。「ルミックスすげえぞ!」と。ミラーレスカメラを初めて世に出したメーカーとして常に新たな挑戦を続け、カメラ業界の発展に貢献していきたいと思います。
受賞インタビュー:パナソニック
スマホからカメラへのステップアップ需要に着目し開発した「LUMIX DC-S9」。購入層の実に約3割を新規層が占め、市場創造へ確かな手ごたえを掴んだ。ビデオグラファーからの圧倒的な支持を獲得し、独自のポジションを確立するGシリーズも健在だ。「こんなに楽しい業界はそうそうありません」と腕を鳴らす津村敏行氏に、さらなるイメージング市場活性化へ向けた意気込みを聞く。
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社
副社長 執行役員
イメージングソリューション事業部長
津村敏行氏
プロフィール/1968年11月12日生まれ、神奈川県出身。1991年4月 松下電器産業(株)入社。ポケットベル、携帯電話、スマートフォンなどの通信機器の設計開発・商品企画に携わり、2014年発売の「LUMIX CM1」の開発を機にイメージング事業に深く関わり現在に至る。好きな言葉は「日に新た」。趣味は写真/動画撮影、映画鑑賞、ランニングなど。
■ビデオグラファーがどんなシーンもこれひとつですべてできる究極を目指す
―― 「DGPイメージングアワード2024」におかれまして、御社「LUMIX DC-GH7」が総合金賞、「LUMIX DC-S9」が審査委員特別賞を受賞されました。おめでとうございます。審査会ではいずれも非常に高い得票を獲得。「ルミックスはやはり色がいい」「動画も静止画も撮って出しで使える」といった声や、モデルの高価格化が指摘されるなか、リーズナブルな価格設定にも高い評価の声が集まりました。
津村 ダブル受賞ということでとても光栄ですし、また、これまでこだわり頑張ってきたところを認めていただけたことは本当にうれしいです。
―― まずは「GH7」につきまして、商品に込められた思いをお聞かせください。
津村 私達が大切に育ててきた「GH」というシリーズは、いわゆるビデオグラファースタイルとして、ディレクションから撮影、編集まで全部一人でこなして作品化していくお客様をメインターゲットに、画質や機能だけでなく、トータルのワークフローとしての利便性を高めていく拘りを貫き、数々の革新を重ねてきました。
ルミックスのマイクロフォーサーズならではのポータビリティ性や熱を気にすることなく撮り続けられる耐久性に加え、「GH7」では、少し離れた場所にいる人に協力してもらいながら仕上げていく編集環境において、よりスムーズな制作プロセスを実現するAdobe社「Frame.io Camera to Cloud」の接続に対応しました。さらに、ARRI社さんとの初めてのコラボにより、シネマ領域での自由度が向上する「ARRI LogC3」というLog撮影にも対応しています。今までやりたくてもできなかった撮影シーンへの対応をさらに強化しました。
一番の革新とも言えるのが、これまで外部レコーダーで記録可能だった「Apple ProRes RAW HQ/Apple ProRes RAW」を、CFexpress Type Bカードを使用してカメラ本体へ内部記録することを可能にしたことです。様々な撮影スタイルに対し、どのワークフローを選ぶのか、選択肢は多いほど使い易くなると考えています。色々なスタイルのビデオグラファーの方が、どんなシーンでもこれ一つですべてできるという究極を目指しています。
さらに、別売のXLRマイクロホンアダプター「DMW-XLR2」の使用で、32bit Float録音にも対応しました。大きな音でも音割れのない記録が可能であったり、撮影現場でオーディオレベルを意識することなく、撮影後に音声レベル調整も可能です。映像面のみならず音声面でもGH7は大きく向上しました。
―― 2024年7月の発売からおよそ6ヶ月、市場からの反響はいかがですか。
津村 想定した台数通り堅調に推移しています。世の中ではフルサイズのミラーレスが主流となっていますが、マイクロフォーサーズのプロフェッショナル向けという独自のポジションが受け入れられています。
今回、「DC-GH6」の発売(2022年3月25日)から2年余りと少し短めのインターバルでの導入となった背景には、GHシリーズでは初めての採用となる「像面位相差AF」に対する市場からの非常に強い要望がありました。
プロフェッショナルなビデオグラファーは、マニュアルフォーカスが主流ですが、最近は低予算で数多くの様々なシーンで動画をつくるため、進化するAF(オートフォーカス)システムのニーズが高まりを見せています。GH6ではコントラストAFのDFDを採用しましたが、方式上どうしても苦手なシーンがあり、要望の高かった像面位相差AFをGH7では新たに採用し、同時にDFDも進化させています。通常の環境から暗所にいたるまで、両方式の得意領域を活かしたAFシステムを実現し、高い評価をいただいています。
これからも、色再現やスーパースローなどクリエイティブな方向性での進化もまだまだありますし、いかに間違いなく楽に作品を仕上げていくかという方向性の進化もあります。ユーザーの強いこだわりに応え、表現力の向上とワークフローの効率化の2つの軸から尽きることなく進化させていきます。
■スマホからステップアップする新規購入者が約3割を占める「S9」
―― 続いて2024年6月に発売となりました「S9」についてお話しいただけますか。
津村 デジタルスチルカメラが一人一台とも言われたコンデジから趣味層のデバイスへと置き換わり、需要は減少して平均単価が上がり、特定の人が楽しむためのもののように思われています。しかし、私自身も過去にスマートフォンの設計を手掛けていたのですが、デジタルカメラの開発に携わったときに、「こんなに美しい写真や映像が撮れるのか」とカメラが大好きになったのですが、そうした感動体験をされていない方が大勢いらっしゃると思っています。
実際に調査してみると、スマホのカメラでしか撮影経験がない方の間にも、クオリティにこだわる方が確実に増えています。ミラーレスカメラにも関心は抱いているのですが、「これは!」と手にできるカメラがないのです。
そこで、スマホからステップアップして新たにカメラを使っていただけるお客様を思い切ってターゲットに据え、フルサイズの美しいボケ味と撮影体験が楽しめ、デザインにも徹底してこだわることをコンセプトに練り上げたのが、この「S9」なのです。
「メカシャッターはなぜないの?」「ファインダーはあった方がいいのに」など、写真撮影のお客様にはネガティブな面は確かにあります。しかし、撮影は縦横フリー、画面を見ながらフォーカスも合わせて撮るのが当たり前というスマホからステップアップされるお客様からは、高い支持をいただくことができました。
しかも、“撮る”で終わりではなく、撮ったら加工して少し手を加え、すぐにシェアする一連の体験が非常に重要ですから、Z世代に近い若手チームが企画・開発を手掛けた「LUMIX Lab」というスマホ用アプリを同時に開発しました。
リアルタイムLUTも使えばとても楽しいことがわかりますが、自分でLUTをつくるとなるとハードルが高い。それならば、スマホのアプリとして提供できれば、写真家やクリエイターのLUTも簡単にカメラにインストールして使うことができます。撮って出しのクオリティが高い評価を得るルミックスの特長も存分に生かせます。「LUMIX Lab」は今回「技術/企画賞」をいただき、開発に携わったメンバーも大変喜んでいます。
―― 実際にどのような方が手にしているのか。市場での状況が気になります。
津村 「S9」発売時に厚み約18oのパンケーキレンズ「LUMIX S 26mm F8」を同時に発売しました。スマホユーザーにマニュアルの楽しさを体験いただきたいとの想いのもと、デザインもフィットした小型レンズで、カメラを手にするライフスタイルを提案しました。
「S9」を購入いただいたお客様全員を対象に、この単焦点パンケーキレンズとLUMIX オリジナルストラップ、購入者限定の「S9」講座動画視聴チケットをプレゼントする企画も実施しましたが、カメラ愛好家のお客様が多いという結果になりました。
これ1本あれば、風景などの広角撮影からスナップ撮影、望遠を活かしたポートレートまで幅広いシーンの撮影ができる高倍率ズームレンズ「LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.」を同梱したHキットも評判がよかったのですが、こちらも買い替えのお客様が中心となりました。
しかし、6月の発売当初こそスマホからステップアップした新規ユーザーが占める割合は約1割でしたが、2024年10月25日に「LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3」を同梱したNキットを追加し、新色キャメルオレンジの導入後、一気に約3割まで拡大しました。新規購入者の中での30代以下の割合は、約3割から約6割に倍増しています。
スマホからステップアップするお客様にとって、広角を基準にし、そこからズームで合わせていくというスタイルから、この18−40mmのレンズが非常に響いたようで、現在ではS9の販売構成比の約8割をNキットが占めています。
■カメラをライフスタイルに溶け込んだ“憧れ”のひとつに
―― 「S9」では撮るだけではなく、所有することへの喜びを見いだす提案にも力を入れていらっしゃいます。
津村 「撮る喜び」「持つ喜び」という観点からライフスタイル提案に力を入れ、ヨセミテストラップ(Yosemite Strap)さんとコラボした限定のジャケット、ストラップ、ハンドストラップを、LUMIX BASE TOKYOと弊社公式通販サイトの「Panasonic Store Plus」で2024年11月から販売しています。SmallRigさんとはグリップやリグ、NEUTRALWORKS.さんとはカメラバッグなど、日頃「S9」を持ち歩いていただくことを重視したライフスタイル系のコラボレーション商品を数多く取り揃えました。
好評をいただいているエクステリアの張り替えサービスも、クリムゾンレッド、ナイトブルー、ダークオリーブ、キャメルオレンジ、ターコイズブルー、スモーキーホワイト、ジェットブラックのカラーバリエーションを用意しています。
―― 商品の導入や紹介にも従来と異なる手法を採られているのですか。
津村 S9の新製品発表会では、ライフスタイル・ファッション系のメディアの方も出席いただき、そこに紐づいたインフルエンサー系の若い人たちにも発表会場で撮影を体験していただきました。さらに、発表会ではモデルの高山都さんにトークセッションで登壇いただきました。S9で撮影された写真やS9とファッションをスタイリングされたご自身の写真など、ライフスタイルの中でのS9を紹介いただいたことで、憧れと共に身近なものに感じていただけたと思います。
6月の発売後は、カメラ愛好家の方を中心に好評で、リアルタイムLUTを楽しまれるSNS投稿も多く見受けられました。デザインもマッチするオールドレンズを着けて楽しまれている方も非常に多かったです。数ヶ月すると、メインターゲットのスマホからのステップアップのお客様が広がっており、市場創造にも貢献できていると自負しています。
だからこそ、今後も丁寧にマーケティング活動をしてさらに浸透させていきたい。カメラ業界が停滞・縮小しているといったニュースを耳にしますが、国内市場においては間違いなく活性化の兆しがあり、新しい世代の方が来ている大きな手応えを感じでいます。
―― LUMIX S9とLUMIX S 26mm F8の発売を記念して、2024年7月1日〜2024年10月24日まで、「26mmで切り取るあなたの世界」をテーマに「LUMIX S9フォトコンテスト」も開催されました。
津村 大変好評で、こうした体験価値は変わらず大切であることを改めて実感しました。若い世代も多く応募くださいました。クリエイティブへの熱量と徹底したこだわりが伝わってきました。
今回のフォトコンでは審査委員は写真家だけでなく、各界を代表するトップクリエイターや建築デザイナーにも加わっていただき、よりクリエイティブな視点から写真を見てもらいました。憧れのクリエイターが審査員なので応募したという方もおり、ここでも新たなLUMIXユーザー獲得ができたのではと思っています。
■新たなフェーズを迎えた国内カメラ市場。新規層を取り込み成長軌道へ
―― 現在のカメラ市場についてはどのようにご覧になられていますか。
津村 昨今旅行を楽しむ方が増え、リアルイベントもだいぶ復活してきました。貴重なシーンを動画や写真に収めようと、男女・年齢を問わず純粋に写真を楽しむカメラ需要が回復してきています。訪日外客数が過去最多となったインバウンドの影響もありますが、日本のお客様だけで見ても前年比で十分プラスに転じています。
進化が進んだハイエンド機が今後、買い替えサイクル鈍化でやや停滞を見せても、「S9」で新規のお客様の構成比が約3割を占めたように、いままでカメラを使っていなかった方に使っていただくことで市場はもっと活性化できるはずです。アクションカメラやドローンやVlog専用カメラなど、新たな撮影需要も増えてきています。
スマホライクに自由な撮影を楽しめる「S9」の提案は、ライフスタイルとしてカメラを所有する新しい価値観を、インフルエンサーをはじめとしたいろいろな方のライフスタイルとともにお届けすることで、「それって自分でもできるよね」と“自分事”として受け止めていただくことができました。日本のカメラ需要が新たなフェーズを迎え、成長に転じてくれるという気持ちのもと、新しい訴求や伝え方にも力を入れて取り組んでいきます。
―― 多様な使い方や楽しみ方に対応していかなくてはならない。そのためには伝え方も進化させていく必要があるわけですね。
津村 2024年4月にパナソニックコネクト株式会社に所属していたプロフェッショナルAVカテゴリーの部隊を、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社に統合する機構改革を行いました。DEIを推進し、様々な価値観を融合した活動を展開していくなか、いろいろなアイデアが生まれてきます。
イメージングを堅調に成長させていく側面においては新しい世代の発想はとても大事で、「LUMIX Lab」アプリを開発したリーダーも20代です。本人曰く「週末フォトグラファー」というカメラ好きで、ズバリ自分が欲しいものをつくるような感覚で取り組んでいました。
メーカーは作り手の発想ではもはや通用しません。ですから、ファンミーティングなどの交流をとても大事にしています。そうした企画に積極的に手を挙げてくれるメンバーが増えてきていることも心強い限りです。
そのような中、「DGPイメージングアワード」の受賞は社内でも大いに盛り上がります。企画の際にご意見を聞かせていただいたフォトグラファーやビデオグラファーの方から「いいものができたね」とおっしゃっていただけるのもとてもうれしくて、そうしたことをモチベーションに日々頑張っています。
■体験価値を提供できる場をどんどん増やしていく
―― 今年も2月27日(木)から4日間にわたり「CP+2025」が開催されます。若い来場者も増え、新規層獲得にも期待も高まります。
津村 来場されるお客様の一番の関心はやはりコンシューマー向けのデジタルイメージングですから、商品やファームウェアのアップデートの体験価値など、リアルだからこそ体験できる価値をご提案してまいります。
まだまだルミックスを使ってもらう機会が少ないのではと思っています。「使ったらいいカメラ」とよく言われるのですが(笑)、皆さんに使っていただく“ファーストルミックス”の絶好の機会にもなります。触っていただくだけではなく、どういう価値観や印象を持ってもらいたいかを考えながら取り組んでいきたいと思います。
―― 市場創造への意気込みをお願いします。
津村 製品ラインナップでは、動画も写真もしっかりと楽しんでいただけるハイブリットユースにとことん拘り、マイクロフォーサーズのGシリーズ、フルサイズのSシリーズを揃え、さらに、新しいお客様をターゲットとした「S9」の提案も行いました。商品にとどまらず、体験価値を提供できる場もどんどん増やしていきます。そうした場を通じ、継続的に使っていただける方が増えることで、新しい交換レンズなども積極的にお使いいただけるサイクルを創出していきたい。
プロフェッショナルAVの部隊と統合した新しい体制は、ビデオグラファーの方の世界観からももう少し高いレベルの価値を提供できると考えています。パートナーであるライカ様やアライアンスを組む皆様との協力関係をさらに活かして、ルミックスは常にチャレンジャーとして、いままでにない価値をどんどん提案していくスタンスを崩すことなく前進して参ります。こんなに楽しい世界、業界はそうそうありません。「ルミックスすげえぞ!」と。ミラーレスカメラを初めて世に出したメーカーとして常に新たな挑戦を続け、カメラ業界の発展に貢献していきたいと思います。