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<山本敦のAV進化論 第211回>

深まる放送とネットの融合。LiveParkがつくる「地方創生エンターテインメント」の可能性

公開日 2023/03/03 06:40 山本 敦
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インターネットによるコンテンツ配信プラットフォームが人々の生活に根を下ろすなか、全国各地のテレビ局がいま、放送と配信を組み合わせた独自の地方創生エンターテインメントの制作に力を注いでいる。その一例は全国8社のテレビ局が楽天市場と連携して、去る年末年始に開催した第3回目の「ご当地アナウンサーが発見! 地元の魅力聞き上手グランプリ」だ。本イベントに制作・運営のノウハウとオンラインプラットフォーム「LIVEPARK(ライブパーク)」を提供した株式会社LiveParkの代表取締役である安藤聖泰氏に、インターネット時代に放送コンテンツが模索する新しい進化の形を聞いた。

LivePark 代表取締役の安藤聖泰氏にインタビューした

■全国の地方テレビ局と楽天市場が組んだ「地方創生エンターテインメント」



LiveParkは東京に拠点を置くクリエイティブカンパニーだ。今回のレポートで取り上げる「聞き上手グランプリ」が実施された「LIVEPARK」は、同社が開発・運営するライブ配信やインタラクティブサイトを実現するイベントプラットフォームである。

安藤氏が率いるLiveParkはテレビ局のほか、大手EC企業のライブ配信やライブコマース、大きなスポーツイベントと連携するモバイルアプリなど幅広く手がけてきた。ライブ配信に関わる技術やソリューションだけでなく、イベントの企画制作やコンサルティングにも広く関わっている。

第3回目の「聞き上手グランプリ」は、2022年11月29日から2023年1月30日まで楽天グループが運営する「楽天市場」で開催されたオンラインイベントだ。全国テレビ局8社の “ご当地アナウンサー” が、それぞれの地元に暮らす人々にインタビューしながら、観光名所や魅力あふれる食べ物に関する情報を集める。インタビューの動画は楽天市場の特設サイトに公開され、視聴者が一番の「聞き上手」なアナウンサーに票を投じてグランプリを決める。

楽天市場で開催された第3回目の「聞き上手グランプリ」。全国テレビ局8社の “ご当地アナウンサー” がインタビュー取材の腕を競い合った

イベントの特設サイトは楽天市場に掲載されている各地域の名物・特産品や旅の情報にもリンクしている。イベントの開催期間中は、楽天市場の対象ショップで使える限定クーポン券も配布された。地方の経済活性化を呼び込むことも、参加各社が「聞き上手グランプリ」を開催する理由のひとつだ。

今回は全国北から南まで、青森放送株式会社、株式会社テレビ岩手、日本海テレビジョン放送株式会社、南海放送株式会社、株式会社サガテレビ、株式会社テレビ大分、株式会社テレビ宮崎、沖縄テレビ放送株式会社が参加した。1月27日にはLIVEPARKが結果発表のイベントを配信。グランプリには青森放送の筋野裕子アナウンサーが輝いた。イベントの特設サイトに公開されているアーカイブ動画をぜひご覧いただきたい。

■地方局の「圧倒的なブランド力」を活かして、地域の魅力を全国に配信する



従来、全国の地方局は放送ネットワーク系列の中心となる在京キー局が作ったテレビ番組を受けて放送していた。ところが昨今はキー局の番組が「TVer」のような見逃し無料配信動画サービス、または各キー局のWebやアプリを通じた配信プラットフォームを使って、視聴者が全国どこからでも見られるようになった。全国の地方局はインターネットの特徴を取り込んだ「独自のコンテンツ」を制作して、多くの視聴者に見てもらうための新たな道をシビアに模索しているのだ。

全国の地方局とLiveParkのパートナーシップが始まった経緯を安藤氏に聞いた。

「従来の地上波放送の仕組みでは、地方局が主体となって全国に地域の魅力を発信することが困難でした。インターネット配信を使えばそれができます。当社はこれまでネット時代のコンテンツ制作で培ってきたノウハウにより、地方局を支援したいと考えました」(安藤氏)

もちろん全国の地方局にもそれぞれに高い番組制作のスキルがある。安藤氏はそのうえ「地方局に圧倒的なブランド力があり、それを活かせば各地域の魅力的なコンテンツに広く深くリーチできることが強み」なのだという。

「聞き上手グランプリでは、地域局の看板アナウンサーがインタビュアーになって地元の魅力を掘り起こします。地方局とアナウンサーの両方に高いブランド力があるので、取材を受けてくれる方が熱心に協力してくださいます。また、普段は入れない場所にもカメラが許可を得て入れることがあります。地方局の人気アナウンサーが集まって番組を作ることで、さらに大きな力が生まれることも狙っています」(安藤氏)

「聞き上手グランプリ」では地域密着型のテレビ局と看板アナウンサーの人気により、地元の奥深い魅力を引き出すことを狙ったという

クライアントの要望に応じて細部をカスタマイズをしながら、インタラクティブなコンテンツ制作ができることもLiveParkの強みだ。「聞き上手グランプリ」では人気投票、楽天ECプラットフォームとつないだりど、LiveParkが全体のフレームワークづくりを支援している。

「聞き上手グランプリ」のようなオリジナルの動画コンテンツを、自社のプラットフォームに加えられることについては楽天からの期待も高いのだと安藤氏は話す。実際に「聞き上手グランプリ」の開催中は特設サイトのページビューが上がるだけでなく、ECの動きが勢い付くのだという。

「各局が制作した動画をご覧いただくと、その地域に思い入れが深まって、名産品を味わってみたり、旅行に出かけたくなるものです。楽天にはとてもスムーズにアイテムを購入できる仕組みが整っていたり、各地域に寄り添った情報発信ができる土台があります。映像を片方向から配信するだけでは難しい地域経済活性化の仕組みを、関係各社と連携しながら実現することに腐心してきました」(安藤氏)

各地方局が制作した動画を視聴、応援したいアナウンサーに一票を投じられる仕掛けも用意した

■次回の「聞き上手グランプリ」はどうなる?



筆者も第2回目のイベントから「聞き上手グランプリ」に注目してきたが、第3回目のイベントに公開された各地方局の動画コンテンツはいずれも見どころ満載で、視聴後の投票も含めてとても楽しく視聴した。

参加する地方局の数が第2回の開催から倍に増えているが、各地方局とLiveParkの制作スタッフの連携も密度が高まっている。「コンテンツの数を増やしながらクオリティも高められた」と安藤氏が胸を張る。

1月27日にグランプリを決定する結果発表ライブを配信。アーカイブ視聴も楽しめる

各地域に暮らす人々が「聞き上手グランプリ」に注ぐ視線も、開催を重ねるごとに熱くなっている。第3回目の「聞き上手グランプリ」を獲得した青森放送の筋野氏も、配信番組の中で「インターネットに不慣れな視聴者の方が、放送局にまで足を運んで投票の仕方を訊ねにきてくれた」と感慨深げに話してた。

地方自治体もまた、放送と配信を組み合わせた新しいエンターテインメントの形に注目し、応援してくれている実感があると安藤氏が語る。「聞き上手グランプリ」は全国地域を巻き込む名物コンテンツになりつつある。「次回はぜひ参加したい」という放送局が早々と名乗りを挙げているそうだ。安藤氏は「今後も全国から多くの放送局に参加していただけるように、現在の仕組みをより洗練させて大きなメディアに成長させたいと思っています。楽天グループとも一緒に、さらに良い形をつくりたい」と意気込みを語った。

LIVEPARKのプラットフォームにより配信された結果発表ライブをモバイルから視聴。ライブ配信中にメッセージを送ることができた

■LiveParkが提供するマルチなコンテンツ制作ソリューション



「聞き上手グランプリ」のような成功事例を目にして、LiveParkには全国の自治体や店舗からの引き合いが多く寄せられているという。LiveParkでは自社が所有するスタジオや機材、あるいは配信プラットフォームのツールのみ、コンテンツ制作の経験豊富な制作会社に貸し出す場合もあれば、コンテンツの企画制作から、インターネットコンテンツのデータ解析、コンサルタントまでパッケージとして仕事を請け負うこともできる。ライブ配信イベントについては、その企画から台本制作、キャスティング、演出、配信進行、カメラ/音声/照明などのスタジオ技術、配信技術、各種オペレーションまでノウハウを持つことが同社の強みだ。

2020年に新型コロナウイルス感染症による影響が全国に拡大した直後は、同社にエンターテインメント系のコンテンツに関する問い合わせが多く寄せられたが、昨今は特にインタラクティブ型のライブコマースをやりたいという声が増えている。安藤氏は「ただライブコマースの仕組みだけを作っても、商品が自動的に売れるわけではありません。そこに視聴者が楽しめる仕掛けを作り込むことが大切だと考えています」と話す。

2月26日18時からBS日テレが放送する番組「同窓会〜優しくて残酷な彼を偲んで〜」に合わせて、番組を観ながら視聴者どうしが物語を考察し合うチャットルームが開設される。コンテンツに関連したECサイトへのリンクも用意され、参加者がショッピングを楽しめる仕掛けも盛りこまれる

動画視聴のデバイスがテレビからスマホにも広がり、コンテンツはますます多様化している。今後はVRヘッドセットを装着して、メタバースの世界で「聞き上手グランプリ」に参加する未来もやってくるのだろうか。安藤氏は従来のテレビ番組は “ながら見” を楽しむスタイルが中心だったが、インターネット配信の要素が加わることでインタラクティブ性が豊かになったことから、「視聴者が参加して楽しめるコンテンツ自体もひとつのメタバースの在り方」ではないか持論を説いている。今後もLiveParkの挑戦に期待したい。

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