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デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER 受賞インタビュー

富士フイルムIS藤林氏が語る「価値を共感できるカメラから多彩なプリントサービスまで、“withフォト”で日々の生活をより豊かに」

2021/06/04 PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純
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圧倒的な描写力を誇るラージフォーマットの世界をより身近な存在に引き寄せた富士フイルムのラージフォーマット ミラーレスカメラ「GFX100S」がデジタルカメラグランプリ2021 SUMMER「審査委員特別賞」を受賞した。カメラの趣味性をハイコストパフォーマンスのお手頃価格で実現した「X-S10」など数々の商品が賞を獲得。多彩なプリントサービスを擁し、“撮る”“残す”“飾る”“贈る”で写真がある心豊かな生活を提案する富士フイルムイメージングシステムズの取り組みを藤林氏、柳生氏に聞く。
デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER受賞一覧はこちら(※PDF)


富士フイルム イメージングシステムズ株式会社
執行役員 営業推進本部次長 兼 デジタルカメラ事業部長
藤林貞裕
(写真右)

ふじばやしさだひろ Sadahiro Fujibayashi
プロフィール/1969年3月17日生まれ、大阪府高槻市出身。1991年4月 富士写真フイルム株式会社入社 大阪支社販売第一部 配属。2000年10月 富士写真フイルム株式会社 光機部、富士写真光機株式会社 カメラ事業部、2005年4月 富士フイルムイメージング株式会社(※富士フイルムイメージングシステムズ株式会社の前身)大阪支社 営業G、2017年4月 富士フイルムイメージングシステムズ株式会社 広域量販営業部長、2021年4月 現職。座右の銘は「一期一会」。趣味はテニス、映画鑑賞。

富士フイルム イメージングシステムズ株式会社
コンシューマー営業本部長(兼)広域量販営業部長
柳生 匠
(写真左)

やぎゅうたくみ Takumi Yagyu
1967年2月28日生まれ、兵庫県神戸市出身。1990年4月 富士写真フイルム株式会社入社 大阪支社販売第一部 配属。1998年4月 プロフェッショナル写真部、2005年4月 富士フイルムイメージング株式会社(※富士フイルムイメージングシステムズ株式会社の前身) 量販営業部、2017年4月 富士フイルム株式会社 経営企画部、2019年4月 富士フイルムイメージングシステムズ株式会社 デジタルカメラ事業部長、2021年4月 現職。

■ラージフォーマットの魅力をぐんと身近に

―― CP+もオンラインでの単独開催となりましたが、コロナ禍における近況のカメラ市場をどのように見ていらっしゃいますか。

柳生 20年度の国内ミラーレス市場は新型コロナで相当大きな影響を受け、台数ベースでは対前年比でおよそ4割減となりました。一方、金額ベースで見ると、各社からの新製品がハイエンドモデルを中心に堅調だったこともあり、同1割減程度の落ち込みに抑えられています。価格帯別では、イベントなどの撮影機会がめっきり減ってしまった10万円以下のファミリー向けカメラの苦戦が目に付きます。

しかし、ハイエンドクラス以上のカメラに絞ると、10万円の特別給付金の好影響もあり、金額ベースでは前年度を上回っています。写真撮影やカメラを趣味とする底堅い需要に支えられており、21年度もこの傾向は大きく変わらないと見ています。10万円以下のエントリークラスについても回復傾向に向かうと思われます。

―― 活躍が目についたハイエンドクラスのカメラのひとつが、御社の中判ミラーレスカメラ「GFX100S」です。今回のデジタルカメラグランプリ2021 SUMMER では「審査委員特別賞」を受賞するとともに、中判カメラをより身近な存在にした数々の技術に対して「技術賞」が贈られました。

柳生 われわれが「GFX100S」に託した想いは、機能ではない価値をお客様にどこまで提供できるかです。カメラは成熟したビジネスですから、機能競争に陥ると、お客様の層を広げることはできません。2019年に1億画素を超えたシンボリックなラージフォーマットミラーレス「GFX100」を発売しましたが、「GFX100S」ではコストダウンはもちろん、それ以上に小型化や軽量化、使いやすさに徹底してこだわり開発を行いました。圧倒的な描写力を誇る最高峰のラージフォーマットの世界が、決して“特別なものではない”ことがしっかりとお客様に伝えられたと自負しています。


デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER で「審査委員特別賞」を受賞した「GFX100S」。
中判カメラの飛び抜けた画質が広く認知されていた20年以上前のアナログ時代のように、デジタルでもその感動はお届けできるはずだと考えていました。そうでなければラージフォーマットの意味がありませんからね。“1億画素”という数字だけが独り歩きすることなく、“空気感”や“立体感”とも言うべきラージフォーマットだからこそ提供できる感性の世界を「GFX100S」がより身近にしました。

―― 中判カメラを購入されるお客様層にも広がりが感じられますか。

柳生 確実に広がっています。ラージフォーマットの大きな画像ということから、公文書や美術館のアーカイブとしても非常に高い関心をいただいています。かつてはスタジオで集合写真と言えば必ず中判フィルムで撮影していましたが、そうした点から見直されて需要が拡大しています。スタジオを構える企業からの問い合わせも多いですね。価格の上からも、「GFX100」の120万円に対し、「GFX100S」は70万円ですから、手が届くお客様は圧倒的に増えており、写真を趣味にするハイアマチュアが「これなら自分にも」と購入に至るケースも増えています。また、相乗効果で5000万画素の「GFX 50S」「GFX 50R」の関心も高まり、実売が伸びています。


「ラージフォーマットだからこそ提供できる感性の世界を、GFX100Sがより身近にしました」(柳生氏)。
藤林 WEBやSNS、写真家の先生によるコンテンツなど、情報の発信の仕方にも工夫を凝らしていますが、触っていただけるタッチポイントがまだ十分にできていないことが当面の大きな課題のひとつ。コロナ禍で一筋縄にはいきませんが、全国津々浦々に環境を整え、WEBとリアルの両輪でアピールして参ります。

■求められるのは共感できる価値

―― 市場ではフルサイズミラーレスに注目が集まりますが、高止まりする価格を心配する声も聞かれます。そのような状況下、審査会では「X-S10」に高い評価が集まりました。シャッターのフィーリング、グリップの握り心地、EVFの見え方など感性的な魅力に優れており、とても10万円台のカメラとは思えない、スペック値に現れない趣味性の高さが注目されています。

柳生 個性的なデザイン、こだわり抜いた操作感や視認性、俊敏性など開発者の熱い想いが凝縮したXシリーズの登場から10年が経ちました。熱心なXファンに支えられる一方で、例えば「ダイヤルが3つもあって難しそう」など、気持ちが傾きながら、あと一歩がどうしても踏み出せないお客様も数多くいらっしゃいます。そこで、そうしたお客様の声にもお応えしていこうと投入したのが、Xシリーズの新しいラインとなる「X-S10」です。


カメラの趣味性をハイコストパフォーマンスのお手頃価格で実現した「X-S10」。
お求めやすい価格を実現しながら、ボディ内手振れ5軸・最大6.0段、こだわりのフィルムシミュレーション、ダイヤル操作もわかりやすいユーザーフレンドリーな操作感を実現することで、年配男性を中心とした従来のXファンだけでなく、若い男性や女性からも注目を集めています。新しいお客様に使っていただけることは、われわれにとって大きな励みになります。

―― 新しい層を取り込んでいくことは、カメラ業界の大きなテーマのひとつでもありますね。

柳生 機能競争ではなく、お客様が共感できる価値をいかに幅広く提供できるかが求められています。今、いろいろな市場でのものの動きを見ていても、その大切さを実感します。

―― その点において御社では、チェキや多彩なプリントサービスなど、撮るだけにとどまらない、ソリューションで価値を訴えかけることができます。

藤林 ショット数そのものはフィルム時代と比べ年代層も広がり飛躍的に伸びている、と言われながら、ほとんどがスマホに保存された状態で終わってしまっているのは残念でなりません。お客様にアンケートやインタビューをしてみると、別に放っておきたいわけではなく、いろいろな形にしてみたい気持ちをお持ちです。しかし、どこでどうすればいいのか。また、ショット数があまりにも膨大過ぎて途方に暮れているのが実情です。

状況を打破するためにはわれわれが責任を持って提案してあげないと。こうすれば簡単に画像を選べる、プリントができるという機能的な進化と、写真がキレイだからいいというだけではなく、心に響けばいいのだという情緒的なところ。その両面からお客様にしっかりとメッセージをお届けし、ご提案する商品やサービスの体験を通じて、写真の価値に対する共感を創造していかなければなりません。

―― 「イヤーアルバム」では富士フイルムの「Image Organizer」をはじめとする技術で、写真を自動で選び、色の補正からレイアウトまで行ってくれます。つくる手間が大幅に省けますが、果たしてそうした進化を知っている人がどれくらいいるのでしょうか。

藤林 フォトブックも認知が上がったと私たちは勝手に思い込んでいますが、意外とご存じないお客様が多いんですね。チェキも年代別の認知率では、驚いたことに50%に届いていない年代もありました。もっときちんと情報をお届けしていかなければなりません。

■withフォトで毎日の生活をもっと豊かに

―― いま、プリントサービスではどのような商品が注目を集めていますか。

藤林 今、大変人気があるのが、壁に飾れる「WALL DECOR(ウォールデコ)」です。高級感あるクオリティの「クリスタル」、まるで絵画のようなキャンバスに印刷する「キャンバス」などデザインもまたサイズにも幅広い選択肢があり、本当に選ぶところからお客様に楽しんでいただけます。リモート会議で部屋が映ったりするケースも増えましたが、ウォールデコが飾ってあるだけで、豊かな生活が見えてきます。しっかりと認知できれば、もっと広まると思います。


とっておきの写真を壁に飾れる「WALL DÉCOR(ウォールデコ)」。

立てかけるだけでもおしゃれに見える。
2月に発売した新製品が、「プリントはL判」という世の中の常識に対し、トレーディングカードなどと同じ手のひらサイズを提案した「ハーフサイズプリント」です。スマホに使い慣れた若い世代には、L版ですら大き過ぎるとの声があることから誕生した商品です。小さくしたことで、「自分の楽しかったことをひとつにまとめて持っていられる」「思い返して見ることができるので幸せ」など、若いお客様を中心に新しいプリント需要が生まれています。時代にあったサービス、商品、ソリューションをつくって提供し、それをSNSなど心に響く場所からしっかりとプロモーションを行っていかないと、新しい文化は生まれてきません。


若い人のプリントニーズを掘り起こした「ハーフサイズプリント」。
―― チェキも人気がありますね。さまざまなタイプが登場しています。

藤林 若い世代にとってはチェキが新鮮に映っています。スマホで撮影した画像をアプリで盛るとか加工することが当たり前の時代に、それに飽きて、ありのままにしか撮れない、加工ができないことがひとつに価値になっています。今はプリクラではなく、証明写真ボックスで撮ることも流行っているそうです。思いもよらぬところが琴線に触れるわけですが、「写ルンです」ではフィルムの巻き方がわからず、シャッターを何回も押していたのに写っていなかったという問い合わせもいただいたりしたそうです(笑)。年配の私たちには当たり前のことですが、中に何が入っているか、フィルムが何かがご存じないんですね。

チェキでは女性や小中学生をターゲットにした従来のポップデザインとは異なる、クラシック調の「mini40」を4月21日に発売しました。若い男性から人気が出ています。一昨年に発売した「チェキプリンター(INSTAX mini Link)」では、任天堂さんと連携したアプリで、コンテンツにあったゲームの画像を出力することができる新サービス「キャラチェキ」の提案も行っています。

写真を主役としたいままでのサービスだけでなく、withコロナの世の中に、withフォトでお客様の生活がより豊かな気持ちになるような商品やサービスを積極的に提案していきます。

柳生 ハーフサイズプリントにしてもチェキにしても、そうした声をどれだけ拾い集められるかですね。お客様がいいねと思えるサービスに仕立てられるかどうかが勝負所。写真の潜在パワーはもっともっと大きなはずです。

■イメージングの世界の可能性は無限大

―― どうしたらお客様の心に刺さるのか。これまでになかったようなチャレンジも必要になってきます。

藤林 最近、いろいろな業者とのコラボレーションに力を入れています。コラボする企業ならではのお客様の生活に寄り添った商品やサービスからの提案で、新境地を切り開いていけると考えています。一方では、日頃、頑張って写真を撮り続けているお客様の気持ちをくすぐる、披露する場を提供することも大切で、今年も60回目を迎えた「富士フイルムフォトコンテスト」を開催します。また、写真を撮る層を拡大していく上からは、腕を競い合うというよりも、普段の生活を写真というカタチに演出することを楽しんでいただける場も必要です。昨年は開催が見送られた「“PHOTO IS”想いをつなぐ。あなたが主役の写真展」の募集を6月1日から開始いたしました(募集期間:6月1日から7月31日)。写真のある生活をお客様にもっと実感していただける環境を整えていきたいですね。


「写真のある生活をお客様にもっと実感していただける環境を整えていきたい」(藤林氏)。
柳生 私たちはずっとこの業界にいますから、映像や写真の存在がごく当たり前になっていて、スマホ時代になんでプリントしないのだろうか、その“解”がわからずじまいといった状況にも陥りやすい。ところが、映像には無限の価値があり、僕ら企業の側が、それをビジネスとして置き換えることができてないだけなんです。

―― 私たちの生活を取り巻く環境は刻々と進化していますが、御社ではこの度、組織改革も行われています。

藤林 富士フイルムでは、イメージングとカメラ・レンズとに分かれていた2つの事業部を一本化しました。入力から出力まで一気通貫でシナジーを出すのが狙いです。これに呼応して富士フイルムイメージングシステムズでも、同様に事業部をひとつにまとめ、生産から販売、営業、商品企画まで、イメージング領域を一体化する方向に舵を切りました。価値ある商品やサービスを生み出していくことが一番の大きな目的となります。

柳生 これからの大きな変化のひとつとしては、5G時代が本格化してきます。すると、カメラの使い方も変わっていくかもしれません。そこでお客様がどのように画像を保存されるのか。さきほども膨大な画像データに対する課題提起がありましたが、いまはiCloud等のクラウドサービスに保存されるケースが多いと思います。しかし、私も大事な説明書や資料を大事に撮っておいたのに、いざ見たいときに探せないことがよくあります。便利なようでいて実は使い勝手が悪い。

そうした課題を解決してあげることができれば、新しい価値として提案することができます。実は富士フイルムでも「フォトバンク」というストレージ・サービスを提供しているのですが、なかなか他のサービスとの差異化が提示できず、お客様も貯めるだけにとどまるケースが少なくないのが実情です。お客様に寄り添った使いやすい形にしていくことが、今後の方向性であり、課題であると認識しています。

―― 2021年の巻き返しに向け、意気込みをお願いします。

藤林 新しい技術をしっかりと取り入れながら、商品、サービス、そしてそれらをお客様に届けるプロモーションに力を入れていきます。今の不便さを解決することが、イメージングの世界だけにとどまらず、富士フイルム自体が、トップ含めてそこに注力していくことを、企業価値として明言しています。そのためには根本が何であるかをしっかりと探求すること。目先の楽しみも当然大事ですが、長い目で見た取り組みも並行して行っていく必要があります。イメージングの世界の可能性は無限大です。富士フイルムあげて全力で取り組んで参ります。

柳生 カメラについては、どんな価値を提供できるかですね。プリントの世界もそうですが、カメラにはそのことが一層問われています。さまざまな情報やお客様の動向、ディーラーさんの想いを、私たちメーカーが価値あるものとして提供していく使命がある。「Xシリーズ」や「GFXシリーズ」では、ボディはもちろん、レンズも大切。APS-Cはソニーさんと一緒に市場を切り開いてきましたが、単に数を出せばいいのではなく、どういう理由、目的、狙いで出したものなのか、それがお客様に共感を得られなければなりません。富士フイルムのカメラ、レンズだからこんなに楽しいものが撮れるという提案を、ご販売店さまと一緒になって訴えていきます。

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