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<山本敦のAV進化論 第138回>

音はワイヤレスが主流に、では映像は? 半導体メーカーに聞いた将来像

2017/07/12 山本 敦
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Wireless HDベースの技術がスマホやVRデバイスにも広がっている

Wireless HDの技術は2011年までに現行バージョンの「Gen3」まで進化を遂げ、その後は信号処理の精度やアンテナ感度を向上するためのブラッシュアップが継続的に図られてきた。2013年には、スマホやタブレットなど小型・薄型のモバイルデバイス向けに最適化した「UltraGig」という技術が発表され、これをいち早く搭載したスマートフォンも、中国のブランドであるLeEcoから「Le Max」シリーズとして発売された。UltraGigは、スマホから薄型テレビなどディスプレイ機器への出力を無線化できる技術として使われている。

最近ではHTCのVRヘッドセット「HTC Vive」に装着してワイヤレスでゲームを楽しめるようにするアダプター「TPCast」も、Wireless HDの採用を発表している。海外ではピコプロジェクターや医療用のモニター、またはドローンにカメラアクセサリーを合体させるためのワイヤレスソリューションを大手メーカーのDJIが開発していたり、Wireless HD対応の輪が徐々に大きくなりつつある。

VRやゲーム、ドローンなど様々なシーンでWireless HDが使用される

ラティスの担当者によれば、Wireless HDの技術が誕生した頃は、HDMIケーブルによる有線接続に置き換わるソリューションとして期待する向きが強くあったという。だが問題もあった。技術仕様としては、将来にはA社とB社がWireless HDの製品を発売した後に、それぞれの間で互換性が確保できるように設計されているが、実際に発売されている商品は、単独機器内で信号の送信・受信をクローズドな環境で行う仕様のものが大半で、HDMIのようにユニバーサルに使える無線インターフェースになりきれていないのが現状だ。

モバイル機器のワイヤレスコネクターに展開可能な「Snap」

今回ラティスが発表した新しいリファレンスキットを土台にした低価格なデバイスが、今後様々なカテゴリーから商品化される可能性は十分にある。また先述した通り、今回発表されたモジュール単体では4K/HDRや4K/60p(4:4:4)の映像信号を非圧縮で伝送することはできないが、例えば2つのレーンを使ってより大容量のデータが送れるセットを組んだり、VESA標準のロスレス映像圧縮技術である「DSC」を掛け合わせるなど、メーカーが独自の工夫を加えてよりパワフルな4K無線伝送対応のオーディオ・ビジュアル機器を実現することは可能だ。同様のことがVR対応デバイスへの応用にも言えるとラティスの担当者は説明している。

その可能性はオーディオ・ビジュアルのフィールドに留まらない。干渉の少ない60GHz帯による無線伝送技術の特性は、例えば次世代高速通信「5G」の技術に対応する基地局ユニットなどネットワーク設備にも応用が可能だ。基地局ユニットを無線化できれば、有線ケーブルを引き回すことによる設置スペースとコストの負担は大幅に圧縮される。

Wireless HDをベースに開発された、60GHz帯を利用するモバイル・IoT機器向け新技術「Snap」にも注目したい。2015年に発表され、その後International CESなどのイベントでも何度かプロトタイプとして紹介されてきた、ラティス独自の無線技術だ。

ラティス独自の無線技術「Snap」に至るまでの遍歴

モバイル端末のUSBケーブルによる有線接続を置き換えるソリューションとして期待が集まりつつある。Wireless HDと同じ60GHz帯の無線技術を使いながら、より短距離での無線伝送を想定しているため送受信のアンテナは1基ずつに簡略化して、チップセットをコンパクトにすることに注力した。

このSnapのワイヤレスコネクターを搭載する製品も、日本企業のエンパシから業務用決済デバイス「EM08」が発表され、6月から本格的な受注・生産がスタートした。Snapは例えば2 in1 PCのようなセパレート筐体の機器どうしを簡単に接続できるインターフェースとして効果が発揮されるだろうし、USBやLightningなどデジタルコネクターを介すことなく、スマートフォンにワンタッチで装着できる機能拡張用のアクセサリーにも活用の幅は広がりそうだ。

4K対応の映像機器、スマホにIoTデバイスなどラティスが持つワイヤレス技術が時代のニーズとマッチングを深めていくのか、これからも注目していきたい。

(山本 敦)

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