HOME > インタビュー > 平原綾香が歌う名曲の世界 − 「my Classics2」ハイレゾ版の魅力とは

マスタリングエンジニア・小泉氏特別インタビュー

平原綾香が歌う名曲の世界 − 「my Classics2」ハイレゾ版の魅力とは

公開日 2014/07/23 12:00 ファイル・ウェブ編集部:小澤麻実
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
クラシックの名曲に歌詞を乗せて歌う、平原綾香のアルバム「my Classics」シリーズ。現在CDが3作発売中で、第1弾「my Classics!」はハイレゾでも好評配信中だ。今回、同シリーズ2作目となる「my Classics 2」も、ハイレゾで登場することとなった。本作をCD/ハイレゾ版ともに手掛けたマスタリングエンジニアの小泉純二氏にお話しをうかがった。

my Classics 2/平原綾香
88.2kHz/24bit WAV/FLAC: アルバム¥3,456(税込)
http://www.e-onkyo.com/music/album/mucd1230/


ーー7月23日から「my Classics 2」のハイレゾ配信がスタートしましたね。

小泉さん:第1弾の「my Classics!」はK2HD技術が使われていますが、今回は録音時の88.2kHz/24bit WAVマスターを元にしています。ミックスの状態で完パケに近い状態であり、自然な音で仕上がっているので、あとはそれを活かしつつ作業をするという感じでした。

小泉純二 氏:東芝EMIを経て、1999年に(株)birdiehouse入社。加山雄三、森山良子、平原綾香など著名アーティスト作品のマスタリングを手掛けている。

僕にとって、ハイレゾのアルバム1枚をまるまる担当するのは今回が初めてなのですが、簡単なことではないなと思いました。ただ、ハイレゾで「my Classics 2」の空間表現がどれだけ描き出せるのかなとワクワクしながらの作業でした。

ーーマスタリングをするに当たって、CDとハイレゾで難しさが違う部分はありましたか?

小泉さん:そうですね、「my Classics 2」のCD版を手掛けたときは、マスター音源からCDフォーマットにしたときに空間の広がりや奥行きが狭まるので、いかに元の音源のように聴かせるかを工夫しました。でもそればかりにこだわっていると着地点がないままずるずる行ってしまうので、「my Classics 2」が志向していたポップス的な音色やインパクトを表現できるように心がけました。

既にCDで聴いていらっしゃる方が大半なので、ハイレゾを聴いたときに違和感を持たれないよう、CDの音量やアタックの感じを参考にしつつ、ハイレゾならではの空間表現にも気を遣いました。

ーーアタック感を出しつつ広がりも表現する…というのはなかなか両立が難しいですよね。

小泉さん:そうですね。それと、音圧感は気にしていました。CDより小さくなるのはなるべく避けたいなと。

ーーハイレゾ版で目指したサウンドはどんなものなのでしょうか?

小泉さん:CDの場合、長年やってきたこともありますし、メディアに記録するという着地点があるので、やるべきことが分かりやすいんですが、ハイレゾだとそれが見えづらい。リスナーの方は色々な環境で聴くと思うので、判断基準を定めるのが難しいので、スタジオでいちばん良く聞こえるサウンドを目指しました(笑)。

今回はミックスの段階で完パケに近いものができているので、マスタリング作業の時にそんなに激しくレベルを上げることができないため、ハイ/ミッド/ローのバランスやアタックをうまく調整して、なるべく空間を作ることを心掛けました。


ハイレゾはマスターをダウンコンバートすることなしに使えるのが魅力的だと思います。マスターをそのまま使ってもいいし、自分のテイストを加えることもできる。ただ、楽曲によってはちょっと手を加えただけで空間が乱れてしまうため、その辺りの調整加減が難解でした。

ーー 今まで諦めないといけなかった部分を入れられるのは大きいですよね。

小泉さん:はい。CD音源に比べハイレゾ音源は、より気持ちよく包んでくれるように思いますし、音の粒子がしっかり自由運動しているようにも感じます。
平原さんは独特の質感・世界感がありますが、今回のハイレゾによってそれを気持ちよく表現できると感じました。

ーー今回のマスタリングで特に気を配ったところや、大変だったところを教えていただけますか?

小泉さん:今回特に大変だったのは、トラック4の「My Love(ヘンデル / 私を泣かせてください )」など静かな曲でしょうか。オケの音数が少ない作品はすごくデリケートなので、ちょっと手を加えただけでボーカルの聞こえ方が変わってきてしまうんです。

それとトラック8の「アランフェス(ロドリーゴ / アランフェス協奏曲 第2楽章 )」は、平原さんのボーカルとボイスパーカッション、ベースのみというシンプルな編成で、ジャズのセッションのような楽曲。アタック感と空間の両立が難しかったです。

それとトラック7「ソルヴェイグの歌(グリーグ / ペール・ギュント組曲より「ソルヴェイグの歌」)」。個人的には広大な大地のうえで平原さんが歌っているようなイメージを受けたので、それが表現されるよう気を配りました。ベースやキックなどがCDだとちょっと苦しいけど、ハイレゾだと狭めていた枠が外れたというか、楽曲全体のうねりなども感じられ、素晴らしいなと思いました。

僕はエンジニアになって以来メディア(レコード、カセット、CD)に収めるということをやってきたので、メディアレスになることに切なさと抵抗を感じますが、実際今回作業しながら、レコーディング当時の目論見が全て表現できるのなら、ハイレゾというのは非常に魅力的なものだなと思いました。


ーー平原さんの声は深い響きと包容力がある、非常に独特の声だと思います。その魅力を引き出すために気をつけているところはありますか?

小泉さん:そうですね。音域がとても広く深く、多質で多色。楽曲ごとに、そのアレンジに合わせ自由自在に声質・声色を表現されているので、とても手強いです。そのひとつひとつの感情・感性を損なわず、且つ、魅力が際立つよう、施させていただきました。

ーー今回のアルバムは声の表現を追求しつくしたものであることもコンセプトのひとつ。ぜひ読者のみなさんにも、平原さんの声と楽曲の世界観をハイレゾで堪能してみていただきたいですね。ありがとうございました!



(インタビュー/構成:ファイル・ウェブ編集部:小澤麻実)

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE