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スペシャルインタビュー

目指したのは“まったく新しいヘッドホン・サウンド” − ULTRASONE開発者に訊く「edition10の魅力」

公開日 2010/11/04 11:50 インタビュー/Phile-web編集部
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(株)タイムロードが取り扱うドイツのヘッドホンブランド、“ULTRASONE”から最新のフラグシップモデル「edition10」が発売された。シリーズ初の開放型モデルとして「これまでの“edition”にもない、まったく新しいサウンドを実現した」と語る、ULTRASONEのCEO ミヒャエル・ウィルバーグ氏、COO ミヒャエル・ジルケル氏に本機の魅力を訊ねた。


ULTRASONE CEO ミヒャエル・ウィルバーグ氏(写真左側)/COO ミヒャエル・ジルケル氏(写真右側)

━━ まずはULTRASONEのブランドについて教えて下さい。

ミヒャエル・ウィルバーグ氏(以下:ウィルバーグ氏):当社は1991年の創立時より、HiFiオーディオリスニング向けに、そしてDJやスタジオミュージシャンといったプロユーザー向けにオーバーヘッドタイプのヘッドホンを展開してきました。現在は7名のコアメンバーが社員として在籍しており、ヘッドホン製品の開発は主に3名の技術者が担当しています。


━━ 現行のラインナップを教えて下さい。

ミヒャエル・ジルケル氏(以下:ジルケル氏):"HFI"シリーズ、"PRO"シリーズ、"DJ"シリーズ、そしてエントリーモデルの"ZINO"シリーズに、HiFiオーディオリスニング向けに開発された最上位モデルとなる"edition"シリーズがあります。HFI、PRO、DJ、ZINOシリーズの生産は海外の工場で行っており、editionシリーズだけはドイツ国内の工場で、一台一台をハンドメイドしています。また、製品に使用されるアルミやレザーなどの素材については、各パーツの専業メーカーとパートナーを組み、ベストなものを取り入れています。


━━ これまでブランドはどのように発展してきたのでしょうか。

ウィルバーグ氏:まず最初にHFIシリーズから「HFI-100」を発売しました。やがて世界中のユーザーから、「オプションの交換用パーツが欲しい」「キャリングバックが欲しい」といった様々な声が寄せられるようになりました。それら多様なユーザーのニーズをくみ取りながら、その後の製品を展開してきました。

HFI-100

ジルケル氏:2001年〜2004年に「HFI-650」をリファレンス機としてマーケットへ投入後、世界中の様々なユーザーからフィードバックをいただきました。例えばケーブル1つを取っても、ストレート型とカール型をそれぞれ希望する意見や、断線した場合に交換が可能なよう着脱式にして欲しいという希望など、実に様々な意見が寄せられました。


━━ 多くのユーザーの声を受けて、具体的にどのようなかたちで製品に反映させてきたのでしょうか。

ウィルバーグ氏:例えば、ユーザーがヘッドホンを装着したまま前傾姿勢になった際、ケーブルが前の方にぶらついてきて邪魔にならないようにして欲しいという声がありました。こちらに対しては、ケーブルが肩から体のラインに沿って垂れ下がるよう、コネクタの形状を長めにしたことで、好評をいただきました。またあるスタジオで、常設のヘッドホンにULTRASONEを採用いただいたのですが、何ぶん高価なヘッドホンですのでエンジニアの数だけ何本も導入することは難しいということだったので、それならばイヤーパッドが交換できて、エンジニアの方々それぞれにイヤーパッドを持参することで1台のヘッドホンを共有できるよう、「スピードスイッチ・イヤパッド」を開発、採用しました。


━━ ULTRASONEを代表するテクノロジーに「S-Logic」と「ULE」がありますが、改めてそれぞれの特徴を教えてください。

ウィルバーグ氏:「S-Logic」については、ブランドの創業者であるフロリアン・ケーニッヒのアイデアから生まれた音響技術で、1989年に特許を取得しています。ヘッドホンを装着時に、人の外耳とドライバー部の距離間隔がもたらす関係から生じる、音の違和感を解消するべく、ドライバーユニットを中心から微妙に“ずらす”構造を採用しました。これにより、頭の中の音像低位を固定させず、自然な広がりが感じられるサウンドが楽しめるという技術です。ケーニッヒはミュージシャンであり、電磁波や頭部伝達関数の研究に関するスペシャリストでもあったことから着想された技術です。「S-Logic」は開発当初から現在まで、幾度ものブラッシュアップを経て進化してきました。現在は最新の「S-Logic Plus」がニューモデルに採用されていますが、基本的には1989年に生まれた技術のコンセプトは変わることなく継承されています。また、「S-Logic」をベースに、当社では数々の音響技術を開発し、これまでに60ほどの特許を取得してきました。

独自技術「S-Logic」を採用するモデルにはロゴを配置している

「ULE(Ultra Low Emission)」は、頭部に直接装着するヘッドホンの、ドライバーから放出される電磁波を低減させるための技術で、1997年にアイデアが生まれました。「μ(ミュー)メタル」というドイツの潜水艦にも使用されている特殊金属を用いている点がポイントです。μメタルは電磁波の伝導性がとても高い金属であるため、ドライバーの出力部をシールドすることで、電磁波の進行方向を屈曲させて、頭部に直接放射されないような機構が実現できます。引いては快適なリスニング、高音質を実現するための取り組みでもありますが、元々は電磁波がヘッドホンリスニングの際、ユーザーの体におよぼす影響を無くしたいというコンセプトから生まれた技術です。ULTRASONEのヘッドホンは、ULEの技術が誕生する以前から電磁波の影響を60%回避できる性能を実現していましたが、ULEの搭載によって、その性能は電磁波を98%まで低減できるレベルに高められました。


━━ ULEがULTRASONEの製品に搭載され始めたのはいつ頃からですか。

ウィルバーグ氏:2002年にリリースした「HFI-2000」「HFI-15」に、当時オプション対応のスペックとしてULE搭載したことが始まりでした。その後、2004年のPROシリーズへの投入を皮切りに、ULEが当社製品のスタンダードとなって、現在では現行のほとんどのモデルに採用しています。


━━ ちょうどULEのスタンダード化が始まった2004年に、いよいよフラグシップモデル“edition”シリーズが生まれるわけですね。

ウィルバーグ氏:そうですね。editionシリーズの開発は、「製造コスト度外視で、今あるULTRASONEの技術で一番凄いヘッドホンを作ろう」というコンセプトから出発しました。最初のモデルとなる「edition7」を製品化するまでには、アイデアから2年の歳月を費やしました。当初はヘッドホンに使用するパーツに、ベストなサプライヤーを見つけることが大変でした。当時はまだヘッドホン市場に“ハイエンド”とよべる製品が多くなく、ヘッドホンの高級モデルという感覚も一般的ではありませんでした。私たちが掲げる理想のヘッドホンを机上で説明しても、パーツメーカーの方々にはなかなかイメージを持っていただくことが難しい状況でした。確かにゼロからのスタートは苦しくもありましたが、試行錯誤の上に完成された「edition7」がもたらしてくれた成果は思い通りのものでした。

ジルケル氏:ちなみにeditionシリーズのパーツは、メルセデスやロールスロイスなど高級車のパーツを生産する専業メーカーから、最高級のものを仕入れています。もちろん自動車の生産台数と比較すれば、ヘッドホンの生産規模など僅かではありますが、パーツメーカーの方々はULTRASONEとのパートナーシップを歓迎していただき、できあがった製品も高く評価してくれました。彼らの中には「当社のパーツが素晴らしいヘッドホンに採用されている」と、会社のショールームに展示して下さる方もいるほどです。

2004年発売、999本限定の「edition7」

2006年発売、1,111本限定の「edition9」


━━ ULTRASONEのヘッドホンと高級車の間には深い縁があるようですね。editionシリーズのイヤーパッド部に使用されている“エチオピアン・シープスキン・レザー”も、高級車のパーツから着想を得た素材なのでしょうか。

ジルケル氏:そうです。これは高級車・マイバッハのシートなどにも使われているレザー素材です。とても柔らかく肌触りの心地よい素材であり、装着時に汗をかいたときにも、他の素材のようにゴワゴワしてしまうことがなく、いつまでも快適な装着性を保つことができます。そして何より遮音性に優れていますので、オーディオリスニングにとってもメリットの高い素材です。私たちはeditionシリーズには必ずこの“エチオピアン・シープスキン・レザー”を使うことを原則としています。


━━ 素材へのこだわりは、今夏発売された「edition 8 Limited」からもうかがえます。本製品には7層ラッカー仕上を施した、アメリカン・ナットのインレイがイヤーカップに装着されていますよね。

ウィルバーグ氏:木材がサウンドに及ぼす影響や、金属ハウジングから浮き上あがってしまうのを防止するため、このウッドパーツには繊細なクラフトワークが活かされています。パーツの製作は家具の装飾を専門に制作するマイスターに依頼し、本製品に付きっきりで開発していただきながら、完成までに8ヶ月を要しました。木材は大まかな形までなら機械で形を取ることができるのですが、いざ金属のハウジングにインレイとして埋め込むための成形は、実に繊細な手作業が求められます。木材は生き物ですので、気候条件による微妙な形状変化や、金属パーツにはめ込む際の接着材料の影響も加味しながら、一つ一つのパーツを成形していきます。木目の美しさを損なわないことや、左右のヘッドホンの音質的なペアマッチを図ることも重要です。

「edition8 Limited」はインレイ部に7層のラッカーコーティングを施したアメリカンナットウッドを採用

また、ヘッドバンドのスライダー部分も、削り出された3つのアルミパーツを、シームレスなヘッドバンドの形状になるよう手作業で成形しています。3つのパーツが合わさったときの最終的な完成形を象ってから、やすりがけを丁寧に行いながら完成させるのです。

ヘッドバンドのスライダー部分も3点のアルミ削り出しパーツを最終的に凹凸のないシームレスな形状へ仕上げていく


━━ なるほど。まさに入魂の制作工程を経て、つくりあげられるeditionシリーズですが、一方で「edition8 Ruthenium」「edition8 Palladium」は、こまで数量限定で展開されていたシリーズとして、初めて数量を限定しない通常販売のモデルとして登場したことも話題を呼びました。

ウィルバーグ氏:「edition8」は元々ポータブルリスニングをメインコンセプトとしたヘッドホンでしたので、これまでのeditionシリーズで培われた技術をスタンダードなものとして、多くのヘッドホンファンの方たちに味わってもらいたいということもあって、数量を限定せずに発売しました。その結果は予想通り、editionシリーズのオーナーとなる方たちを増やし、ULTRASONEブランドをよりいっそう広める起爆剤ともなりました。また、edition8を通常販売モデルとしたことで、私たちがこれほどハイレベルなヘッドホンを商品として、安定した生産体制のもと供給できるブランドであることを示すこともできたと思います。

edition8 Ruthenium

edition8 Palladium

ジルケル氏:edition8は、ULTRASONEのフラグシップにとって1つのスタンダードになるモデルにしたいという思いがありました。「8」という数字は、横に倒すと「∞(インフィニティ:無限)」という意味になります。editionシリーズの可能性は、本機を足がかりにして、これからも無限に広げていくことのできるものだと考えています。限定モデルの“Limited”も、edition8の可能性が持つひとつのバリエーションです。ULTRASONEのファンの方々に、コレクターズアイテムとなり得るedition8をお届けしたいという思いもありました。


━━ edition8の最初のモデルが発表されてから約2年を経て、今年の夏に発表された「edition10」ですが、こちらはシリーズで初めての開放型フラグシップとして話題を呼んでいます。本機はULTRASONEのラインナップにとってどんなモデルなのでしょうか。


シリーズ初のオープン型「edition10」
ジルケル氏:私たちはこれまでも一貫してユーザーの声を大切にしながら製品を開発してきましたが、これまでにもずっと「開放型のeditionシリーズが欲しい」という多くの声をいただいてきました。そのため、私たちが開放型のフラグシップモデルに取り組むことは、ごく自然な流れだったのです。しかし、実際に取りかかってみると、edition10を開発するに当たっては、いくつかの困難が立ちはだかりました。その一つがイヤーパッドでした。シリーズの伝統である“エチオピアン・シープスキン・レザー”をイヤーパッドに用いる際、元々密閉性に優れている素材だったため、従来の密閉型のモデルと同じように開放型のヘッドホンに用いると、どうしても音の開放感を損ねてしまうのです。例えば布系の素材やベロアなど、代案の素材についても考慮しましたが、やはり“エチオピアン・シープスキン・レザー”はシリーズのアイデンティティでもあるということで、敢えてこだわり抜きました。


━━ その課題はどのようにして解決されたのでしょうか。

ジルケル氏:開放感の豊かなサウンドを実現するため、イヤーパッドのレザーに孔を開けるというアプローチを取りました。孔の大きさや間隔をカット&トライで何通りも試しながら、結局完成の最終段階まで試行錯誤を繰り返しました。孔をどう設けるかということ以外にも、内部フォームのマテリアルや密度を調整することによっても、音は変化します。また、左右のイヤーパッドを、1台のヘッドホンとしてペアマッチングさせることも重要でした。edition10ではイヤーパッドの交換サービスを受け付けていますが、左右どちらかの交換が必要になっても、必ずペアでのご対応になる理由は、当社で完全なペアマッチングを図った上でご提供したいからです。

「蝶の羽の文様をイメージした」という、カーブ形状のスリットが音道として設けられたイヤーカップ

イヤーパッドに細かな孔を開けて、開放型ならではの音を実現した


━━ edition10のサウンドはどのように仕上げられたのでしょうか。

ジルケル氏:ダイナミック型のインパクトと、静電型の美しくクリアなサウンドを併せ持ったヘッドホンを目指しました。ドイツの『Stereoplay』誌が掲載したedition10のレビューから、言葉を借りるとすれば「他の開放型ヘッドホンとは比べることができないサウンド」であると言えるでしょう。日本で発表後も「edition10は生き生きとしたサウンドが特徴」という評価を各方からいただき、大変うれしく思います。

ウィルバーグ氏:開発のコンセプトとしては、従来機のeditionシリーズの延長線上にある製品というよりは、開放型のヘッドホンとして、まったく新しいことを実現したいという思いが強くあります。美しく澄み渡っていながら、力強くダイナミックな芯の通ったサウンドを実現したことで、従来の開放型ヘッドホンとひと味違ったヘッドホンリスニングの世界を堪能いただけるものと思います。実際に試聴いただいた方々から、装着感の良さや、本体を手にとってその軽さに驚いたという声も多くいただいています。


━━ 発売後の反響はいかがでしょうか。

ウィルバーグ氏:edition7が初めて発売された頃は、多くの方々がまずその価格に驚かれました。でも当時私たちは、本当の価値がわかる方たちには、音を聴いて、実機に触れていただければその価値があることをわかっていただけるという、自信がありました。価値と同等のクオリティを提供できるヘッドホンであれば、価格に十分見合った価値がそこにあるからです。実際にedition7の発売後は予想通りの好評を獲得し、限定数量を完売しました。それからは、他社からも同じようなハイエンドモデルが登場するようになりました。今やハイエンドヘッドホンのマーケットは確立されたと思います。このような背景があっていま、edition10が発売後、世界のULTRASONEファン、オーディオファンの方々から多くのオーダーをいただけることを大変ありがたく感じています。

ジルケル氏:edition10をご購入いただいたオーナーの方々には、とにかく本機でできるだけ長い時間、音楽を楽しんで欲しいと思います。edition10がドライバーに搭載するチタニアム・マイラーは硬質な金属ですので、エージングを重ねて音がなじんでくると、さらにその魅力が華開いてくるはずです。だいたい150〜200時間のエージングでこなれてくると思います。使えば使うほど、素晴らしいサウンドが味わえるヘッドホンです。


━━ ありがとうございました。edition10の発売後も、「ULTRASONEの次の展開」を多くのファンが期待していると思います。ちなみに、今こっそりと開発されている新しい製品もあるのでしょうか。

ウィルバーグ氏:それはひみつです(笑)。どうかこれからもULTRASONEに期待してください。

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