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HQM高音質配信は「大きな喜び」 − ウィーンの音楽家“モーツァルティステン”特別インタビュー

公開日 2010/06/09 17:08 ファイル・ウェブ編集部
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ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーを中心に構成されているフィルハーモニック・アンサンブル・ウィーン“モーツァルティステン”。クリプトンが運営するDRMフリーの音楽配信サービス「KRIPTON HQM STORE」では2作品が24bit/96kHzで高音質配信されている。

今回コンサートのため来日したモーツァルティステンの音楽監督 兼 指揮者 ハンス・ペーター・オクセンホファー氏とチェロ・ソロを務めるウィーン・フィル 首席チェリスト ローベルト・ノージュ氏がクリプトンのスタジオに表敬訪問した。世界的に活躍する音楽家は、HQMで配信される自身の作品をどう感じるのか。コンサートの意気込みを含め、お話を伺った。


(左から)ローベルト・ノージュ氏、ハンス・ペーター・オクセンホファー氏

■高音質音楽配信は「我々音楽家にとっても大きな喜び」

現在HQMで配信されているモーツァルティステンの作品は、『ハイドン:交響曲第83番「めんどり」他』(HQMD-10001、2008年12月10日〜13日録音)と『シューベルト:交響曲第5番,他』(HQMD-10007、2009年5月&6月録音)。いずれもレーベルはカメラータ・トウキョウでCDアルバムでもリリースされている。

クリプトンの試聴室で24bit/96kHz音源を試聴した両氏に率直な感想を伺った。



音楽監督 兼 指揮者 ハンス・ペーター・オクセンホファー氏
ハンス・ペーター・オクセンホファー氏(以下、オクセンホファー氏):まるでオーケストラの中にいるような感覚でした。MP3など音を圧縮するのではなくハイクオリティな音源を配信するこのようなシステムで音楽を楽しめるのは技術的な進歩であり、我々音楽家にとっても大きな喜びです。

ーーCDの音源とCD以上のクオリティを備えた音楽配信での音源ではどのような違いを感じますか。

オクセンホファー氏:コンサートホールでの環境が私にとっては“生の場所”ですが、たとえばホールで人が深呼吸している音まできこえる状態が100%だとすると、今回のシステムではその状態を95%再現できていて、CDではそれが40〜50%程度になるというような感覚です。だからといってCDを悪く言うつもりは全くありません。CDは我々音楽家にとっても重要ですし、手頃な価格で気軽に音楽を楽しめるメディアとして貴重な存在です。

ーーご自宅ではどのような環境で音楽を試聴されているのでしょうか。

ローベルト・ノージュ氏(以下、ノージュ氏):実は私はオーディオにそれほどこだわりがなく、自宅では20歳になる息子がいじっているオーディオシステムで音楽を聴いています(笑)。ただ今回このようなシステムで聴かせていただき、自分が演奏しているときの感覚に近いものが体験できたことに驚きました。同等のシステムを自宅に用意するのは難しいかもしれませんが、息子にもこのようなシステムの存在を話し、自分自身も関心を持って我が家のオーディオ環境をより良いものにしていきたいと思います。


■伝統の“ウィーン訛り”を伝えたい

モーツァルティステンはオクセンホファー氏を中心として2005年に結成。当初は1回のみのコンサートで解散する予定だったが、コンサートの評判が良かったことからアンサンブルとして定期的な活動をしていくことになったという。レパートリーは室内楽における伝統的なクラシックから現代曲まで幅広く、ウィーンの音楽芸術の伝統を守り、独特の“ウィーン訛り”の継承を目的として活動している。

両氏ともこれまで日本には何度も来日しているがモーツァルティステンとして来日するのは今回が初めて。6月5日の京都コンサートホールを皮切りに東京、神奈川、三重、岐阜など全国各地で公演を行う。

ソリストやウィーン・フィルのメンバーとしても活躍するお二人が、モーツァルティステンの活動を通して伝えたいものとは一体何なのだろうか。



オクセンホファー氏:今回の公演ではモーツァルティステンが最も得意とするモーツァルト、シューベルト、ハイドンを演奏します。私たちは作曲家がその当時生きてきたウィーンという街で今生活していて、彼らと同じ空気の中で生きてきました。このような環境の中で、培ってきた伝統的な演奏法、そして音楽的な“訛り”という自分たちでしか表現できないものを日本のみなさんにお伝えしたいです。

ーー大編成のオーケストラとモーツァルティステンのような小編成のアンサンブルでの演奏はどのような違いがありますか。


チェロ・ソロを務めるローベルト・ノージュ氏
ノージュ氏:編成の大小と音楽の善し悪しは関係ありませんが、やはりそれぞれの違いは明らかにあって、小編成だとメンバー同士のコミュニケーションがとりやすくなり、観客とのやりとりも身近になります。また音楽面ではより細やかな感情表現などが可能になります。今回はこのような小編成ならではのおもしろさを体験することができました。

ーーシューベルトとハイドンの“ウィーン訛り”というのがイメージしづらいのですが、どのような表現方法になるのでしょうか。

オクセンホファー氏:私の自宅から歩いて2分のところにはシューベルトの生家があり、5分のところにはシューベルトが初めてオルガンを弾いた教会があったりと普段の生活の中に彼らが実際に過ごした場所があります。それは決してそういう環境を知っている者でなければシューベルトを弾けないということではなく、自分が育ってきたところがたまたまそういう環境だったということ。ロンドンやアムステルダム、パリなどどの街にも独自の雰囲気があって、ウィーンにはウィーンの空気があり雰囲気があります。もちろん200年、300年前と今では違ったかもしれませんが、同じ建物を眺めたり同じ空気を吸ってきたことは確かです。そのような環境で感じてきた些細なものから、我々はシューベルトの音楽をより現実的に感じさせるヒントを得てきたのではないかと思っています。日々の生活の習慣そのものが“訛り”という形で演奏で表現されているのです。

ノージュ氏:私はハンガリー出身で20年ほど前からウィーンに住んでいるのですが、未だに忘れられないのが20年前に初めてウィーンのオペラ座で演奏したときのことです。そのとき初めて楽譜を見たのですが、一番初めに印刷した原本をずっと使っていて、歴代のメンバーの書き込みがそのまま残っていました。もちろんコピー等はされていますが、恩師、その前の恩師、さらにその前の恩師が書き込んだ演奏のポイントが長年継承されてきていて、そういったものが“訛り”の表現に繋がっているのだと感じました。このような伝統を通して私のようなウィーンの生まれではない者も独特の“訛り”を習得していくことができましたし、もう離れることはできません。ずっとウィーンで暮らしていこうと思っています。

オクセンホファー氏:たとえばウィーン出身のモーツァルトやシューベルト、ハイドンの曲を、ロシアのオーケストラが演奏した場合とウィーンのオーケストラが演奏した場合ではやはり違いがあります。ロシアのオケは真面目で縦のラインがしっかりした演奏をするでしょうし、ウィーンのオケは真面目さの中にもユーモアがあるような演奏をするでしょう。それぞれ感じる部分が違い、いろいろなスタイルがあって良いと思います。


作品に大きな影響を与えたプロデューサー井阪紘氏の存在

カメラータ・トウキョウから出ている2つのアルバムではプロデューサー井阪紘氏の存在が作品に大きな影響を与えたという。


クリプトンの試聴室でHQMのサウンドを試聴した両氏。クリプトン 代表取締役 濱田 正久氏(中央)と記念撮影
オクセンホファー氏:井阪氏との関係は音楽に大きな影響をもたらしています。井阪氏は非常に温厚な人柄で、音楽的な造詣が深く知識も豊富。また彼とは仕事だけでなくプライベートでも親交が深いので、音にも親密さが表れているのではないでしょうか。

オーケストラはメンバーのひとりひとりがプロの演奏家ですからそれぞれ考えていることがあります。ただ大編成でのレコーディングでは時間との戦いという面があり、限られた時間の中で細部まで親密に話し合うということができません。一方で小編成スタイルではそれぞれが自由に発言したりアイディアを出す時間的な余裕があります。井阪氏が各メンバーの意見をくみ取って、話し合いながら作品を作り上げていったのでそのような面でも親密さが音に表れており、他のオーケストラと違う印象の作品に仕上がったと思います。



<プロフィール>
フィルハーモニック・アンサンブル・ウィーン“モーツァルティステン”
WIENER MOZARTISTEN

2005年、指揮のハンス・ペーター・オクセンホファーをはじめ、ウィーンの芸術界をリードする人々の働きかけにより創設された。このアンサンブルの目的は、室内楽におけるクラシックのレパートリーはもちろん、現代曲のレパートリーを演奏すること。例えば、ウィーンで2005年2月12日にクルト・シュヴェルトシクの“Compagnie Masquerade”を初演した。編成は、弦楽オーケストラから木管楽器のみによるアンサンブルまで自由自在で、基本的に13人のウィーン・フィル・メンバーと、必要に応じ、ウィーンの第一線で活躍する音楽家を招いて演奏活動を行なっており、その際、ウィーンの音楽芸術の伝統を守り、「オーストリア訛り」を継承していくことを最重要課題としている。このアンサンブルの音楽監督兼指揮者は、ハンス・ペーター・オクセンホファー。自らも長年ウィーン・フィルのメンバーであり、ウィーン弦楽四重奏団のメンバーなどで室内楽の経験も豊富で、現在ウィーン大学音楽学部ヴィオラ科の教授を務めている。カメラータ・トウキョウからは『ハイドン:チェロ協奏曲 ニ長調,交響曲 第83番「めんどり」他』、『シューベルト:交響曲 第5番』がリリースされている。(カメラータ・トウキョウのHPより)

<モーツァルティステン WIENER MOZARTISTENコンサート情報>
・2010年6月9日(水)19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール
・2010年6月14日(月)14:00開演 横浜みなとみらいホール 大ホール
ほか
コンサートの詳細はこちら

【コンサートの問い合わせ先】
カメラータ・トウキョウ TEL/03-5790-5560

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