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レコードに刻まれた「本当の音」を探る

DECCAが採用した「FFRR」カーブと「RIAA」の関係性を探る

2017/08/02 菅沼洋介(ENZO j-Fi LLC.)
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名だたるアーティストの作品をはじめ、現代でも第一線の水準を誇る録音で名を馳せたDECCAのクラシック部門。特にステレオ初期の1958年から1964年頃までにリリースされた、いわゆる「ED1」(Grooveあり/左上に「ORGINAL RECORDING BY DECCA」の表記)のレコードは安くても1万円弱、高いものでは30万円を超える値をつけることがある。

DECCAの盤のなかでもとりわけ高値で取引される通称「ED1」のレーベル面
  
かつては、このED1時代のレコードは1954年に策定されたRIAAカーブでカッティングされたものと見なされていた。しかし、最近になって、DECCAが以前に採用していたFFRRカーブでカッティングされているのではないか、という主張が現れてきている。また、昨今ではこうした動向を裏付けるように、いくつかのオーディオメーカーが可変イコライザーカーブの製品をリリースしていることも見逃せないだろう。今回は、DECCAが当時どのようなイコライザーカーブを採用していたのか、事実と聴感で探ってみたい。
 
まずはRIAAカーブが策定された経緯の確認をしよう。RIAAカーブはその名前の通り、全米レコード協会が1954年に策定したイコライザーカーブ。1954年以前は業界統一カーブというものは存在せず、各レーベルが独自のイコライザーカーブを使っていた。現にRIAAカーブは、RCA Victorが1953年から使い始めたNew Orthophonicカーブが元になっている。

RIAAカーブは、同年NAB、AESにも採択され、いわば全米統一イコライザーカーブとなった。アメリカ発祥の規格のため、他地域のレーベルの採用は遅れたが、それでも1958年頃までには全世界的に採用されたと言われている。DECCAがあるイギリスも同様で、国内規格であるBritish Standard(BS)は1955年にRIAAカーブを採用している。
 
BSがRIAAカーブを採択するよりも以前、DECCAはFFRRカーブと呼ばれるイコライザーカーブを使っていた。米High Fidelity誌には、1954年のRIAAカーブ策定当時、FFRRカーブについて以下のように書いている。

「おおむねRIAAカーブだが、高域のロールオフはRIAAカーブの-13.7に対して-10.5であり、聴くにはトーンコントロールでの操作が必要である」(米High Fidelity誌より)

そして、DECCAは1955年にBSに従うかたちでRIAAカーブを採用し、それまでリリースしたFFRRカーブのレコードをRIAAカーブにリマスタリングしてリリースする旨を発表した。
 
リマスタリングされているかどうかは、リードアウトに記録されているマトリックスナンバーで確認することができる。刻まれた文字は、以下のように分類される。

リードアウトに刻まれたTAXコード。MT=〜1962年末まで/KT=1963年から1968年まで /JT=1968年から1973年4月まで/記載なし=1973年4月以降

マザーナンバー


スタンパーナンバー 。B/U/C/K/I/N/G/H/A/Mに沿っており、例えば1stスタンパーはBが刻まれている

マスターナンバー
例えばARL-2407-7DRという文字が刻まれていたとすると

ARL:種別文字。ARLはモノラルを表す。ステレオだとZAL。
2407:使われたマスターテープの番号
7:マスタースタンパーの番号。更新されるごとに番号が増える。
D:カッティングしたエンジニアの識別文字
R:RIAAカーブにマスタリングされた否か


というようになる。

つまり、マスターナンバーの末尾にRがついていればRIAAカーブにリマスタリングされていることを示し、「R」がついていなければリマスタリングされていないことになる。ただし、この表記はあくまでDECCAがRIAAカーブを採用する1955年以前が初出のレコードのみに当てはまり、以降のレコードでは、最初からRIAAカーブなので「R」がついているものは存在しないと言われてきた。いままでは。

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