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インタビュー

<山本敦のAV進化論 第140回>

ソニーのレコード生産、復活の裏側。デジタル+匠の技術で「最新のアナログ」

山本 敦

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2017年08月03日
去る6月末に、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)が、2017年度中にアナログレコード作品の本格生産、製造受注を開始するというニュースが伝えられた。ちまたで今、アナログレコードがブームであるとは聞いていたが、SMEの場合はアナログレコードのプレス機やマスター盤をつくるためのカッティングマシンまで導入してしまったという。

アナログレコード用プレス機全景

SME率いるソニーミュージックグループはなぜアナログレコードの自社生産を再開したのか、これからどんな作品を揃えていくのか? 3名のキーパーソンにお話をうかがった。

今回は、ソニーミュージックグループ全体を代表して(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレートSVPの古川愛一郎氏、プレス機を導入したソニーの光ディスク生産の基幹であるソニーDADCジャパンの営業窓口となる(株)ソニー・ミュージックコミュニケーションズ 執行役員 パッケージメディアカンパニー代表の榊原光広氏、ならびに制作サイドであるソニー・ミュージックスタジオの代表として、(株)ソニー・ミュージックコミュニケーションズ スタジオカンパニー スタジオオフィス次長の宮田信吾氏より、インタビューに参加していただいた。

写真左から、宮田信吾氏、古川愛一郎氏、榊原光広氏

なぜいまソニーミュージックのアナログレコードが復活するのか

ソニーミュージックグループではアナログレコードの自社生産を29年前に完了している。以後もアーティストやタイトルによってはアナログレコード作品の販売を続けてきたが、すべて外部パートナーへの委託によって製造されたものだった。

今回話題になっているのは、ソニーミュージックグループが自らアナログレコードの一貫生産に再参入してビジネスを「復活」させる方針を示したことである。なぜこのような決断に至ったのだろうか。

「プロジェクトは今から2〜3年前にスタートしました。世界的な潮流として数年前からアナログレコードの人気が伸びているという状況があり、日本でもアナログレコードが再び注目されるようになってきました。中古盤が売れているだけでなく、新作や輸入盤も売れているのが特筆すべきところです。ソニーミュージックグループとしても、現在展開しているCDなどのパッケージ作品、サブスクリプションやダウンロードの音楽配信に加えてアナログレコードを手がけることによって、ファンの皆様に音楽リスニングの多様な楽しみ方を提供するべきと考えました」(古川氏)

国内・海外ともにアナログレコードが脚光を浴びることで、「音楽を聴く」こと自体への関心が高まっている。ならばソニーミュージックグループとして、いまは採算度外視でも自社での生産環境を整えることに先行投資して、音楽市場全体の発展に寄与すべきと考えたことが決断の理由だと古川氏が説いている。

「でも、私たちが(アナログレコードの自社生産を開始する)ニュースを発表したことが、これほど多くの反響をいただいたことには正直驚いています」。古川氏たちは少し戸惑いながらも、ファンからの強い期待を受けて、心地よい緊張感に気を引き締めている様子だった。

古川氏も、アナログレコード生産開始のニュースに対する反響に驚いているという

ソニーミュージックグループでは、実際にいまアナログレコードを購入している音楽ファンの属性をどのように把握しているのだろうか。古川氏は、市場調査やアンケートを行ったわけではないので、あくまで個人の手応えであると前置きしながら、次のように見解を語ってくれた。

「まずは長年アナログレコードを楽しむ年配のファン、オーディオマニアの方々がいらっしゃいます。加えて新しい傾向としては、CDを中心とするデジタル音源を中心に聴かれてきたであろう若い年代の方々が、トレンドを敏感に察知してアナログレコードに関心を寄せているようです。スタイリッシュな雑貨店でアナログレコードに出会って、その存在感に魅了されてオブジェとして購入される方もいると聞きます。あとはアニソン系の作品が人気です。アニソンファンの方々は、応援されているアーティストや作品への顧客ロイヤリティがとても高く、フォーマット毎の聴き比べを楽しむなど、あらゆるフォーマットを買い揃える方が多くいらっしゃるのが特徴です」(古川氏)

アナログレコード作品を購入するファン層は徐々に多様化が進んでいるようだ。一方で、アーティスト側は自身の作品がアナログレコードでリリースされることをどう受け止めているのだろうか。

良質な作品を安定してつくれる環境が揃った

古川氏は、まず自身がアナログ世代であるアーティストたちが中心になって「復刻盤」をリリースする動きが起点になり、現在は若手アーティストの中にもアナログレコードにこだわって作品を発表する傾向が広がりつつあると述べる。

かつて競合他社で活躍したエンジニアも支援

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