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【特別企画】山之内正がレビュー

Vienna Acousticsの最新スピーカー「Beethoven Concert Grand Symphony Edition」を聴く

2015/10/28 山之内 正
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大幅な改良を施したシリーズ最上位モデル
音楽史上の最重要人物の名にふさわしい音楽性



Vienna Acoustics「Beethoven Concert Grand Symphony Edition」(¥600,000・税抜/1台)
1989年にウィーンで創業したVienna Acoustics(ウィーン アコースティクス)。ラインアップの中でもとりわけ重要なモデルには、音楽の都に本拠を置く同社らしく歴史的な音楽家達への敬意を込めて、その名を冠してきた。この度、同社のスピーカーの中核を担うコンサートグランドシリーズ最高機Beethoven Concert Grandが、さらに磨き上げられた上で「Symphony Edition」として登場する。同社の代名詞的存在である独自の高機能樹脂X3Pを採用したユニット群や、新採用のネオジムマグネットによるシルクドームトゥイーター、そして徹底的な見直しを図ったクロスオーバーネットワーク。美しい仕上げを施したエンクロージャーに、これら同社の最新世代技術をふんだんに投入し、より高い音楽性を誇るスピーカーへと進化を遂げた。

本機の背景を知る
人気を博した最上位機の本質をリファインした「SE」

作曲家の名を冠したウィーンアコースティクスの製品名は、作品の規模ともある程度対応しているため、特にクラシックファンは製品の規模やグレードを連想しやすい。例えば、音楽史上の最重要人物に因んで命名されたベートーヴェン・シリーズは、ブランドの要となる重要なスピーカー群で、スケールの大きなサウンドを狙っているという具合だ。

そして、同シリーズの最上位には、今回の主役「ベートーヴェン・コンサート・グランド・シンフォニー・エディション(BEETH CG SE)」が君臨する。SEのつかない前作も人気があったが、本質的リファインを果たした本機は一層期待が高まる。

一見すると外観に大きな変更はないものの、その内部は実に多くの改良が施されている。カラーは全部で4色が用意され、写真のピアノブラックとピアノホワイトは受注生産となる(価格は同一)

本機の概要を知る
ユニット構成はそのままに素材を見直し大幅に強化

外見の違いは内側に移動したアルミダイキャスト製ベースぐらいで、本体キャビネットのサイズとユニット構成に変更はない。ただし、トゥイーターの磁気回路はLISZTと同一のネオジム仕様に変更され、磁性流体を封入するなど大幅に強化されている。ミッドレンジとウーファーは、リブで補強した透明なスパイダーコーンを引き続き採用。今回はウーファーも剛性を高めたX3P振動板を採用しており、低域から中低域にかけてのレスポンス向上を狙っている。ミッドレンジが受け持つ帯域を前作より50Hzほど下に拡張し、音色の一貫性を狙ったことにも注目しておきたい。

長年にわたりスキャンスピーク社と共同開発を行なっているのウィーン アコースティクスの特徴。本機に採用されたシルクドームトゥイーターは、新たにネオジムマグネットを採用するなど大幅な強化を実施。さらに磁気回路には磁性流体を注入し、より繊細なチューニングを施している

ウーファーにも独自の高性能樹脂X3Pを新たに採用。クモの巣状のリブで振動板を補強する「スパイダーコーン」も採用し、より剛性の優れたウーファーユニットへと進化している

一新されたネットワーク回路 精度を高めて誤差をミニマム化

最低音域をカバーする3個のウーファーはシンプルにパラレル駆動されるが、キャビネット内部に上1個と下2個という配分で分割構造を導入し、相互干渉や共振を巧みに抑えたことがポイントだ。ネットワーク回路は各パーツの精度を高めて誤差をミニマムに抑えるなど、内容を一新。シリーズ最上位機種にふさわしい妥協のない設計を貫いている。製品ごとの偏差を最小に抑えることは、ウィーンアコースティクスが歴代モデルでこだわり続けてきた重要テーマのひとつで、パーツの精度向上にもその思想が反映されている。

スピーカーターミナルはこれまでの同社ラインアップと同様、シングルワイヤリングを採用。これはシンプルな信号伝送とすることで、クロスオーバーへの影響を最小限に抑えるという設計思想に基づくものだ

今回、フルリニューアルとなったクロスオーバーネットワーク。各パーツの誤差を徹底的に抑えるべく、幾度にもわたってリスニングテストを繰り返しながら開発された。前モデうから、ミッドレンジが受け持つ帯域を50Hzほどローエンドへ拡大させている点にも注目だ

キャビネット下部のベースは構造が従来よりもシンプルになったが、本体の重量をダイレクトに支えるアンカーとして、本機でも重要な役割を担う。標準で付属するスパイクは長さに余裕があるので、微妙な水平調整に加えて、床面との間隔を変え、低音の量感を微調整できる利点もある。

スピーカーベースはアルミダイキャスト製のものを新規に採用。前モデルと比べてシンプルな構造となっている。このスパイクの高さを設置環境に合わせて微調整することで、低域をコントロールすることが可能だ

再生機器の音色と空間再現力の向上は
現実感と臨場感を一気に向上させる
ここまでの次元のスピーカーはそう多くない


本機の音に触れる
明らかに新世代の音に生まれ変わっている

SEへの変更は一見するとマイナーチェンジだが、実際に音を聴いてみると、明らかに新世代の音に生まれ変わっていることに気づく。まず感心したのは、低音域の分解能の高さと切れの良さが著しく向上していること。ムジカ・ヌーダのベースはピチカートのアタックが鋭く、前後する音符の間が団子状につながらない。一音一音の粒立ちが良いので、弾むようなリズムで前に進む。その動きは3個のウーファーを積むフロア型スピーカーとは思えぬほど軽快で、前作に比べても反応が速くなった。広い音域のなかで上下するピチカートの音圧と音色が凸凹にならないのは、ウーファーからミッドレンジへのつながりの良さを意味する。低域の動特性を改善すると響きの透明度が上がり、声や旋律楽器が鮮明に浮かび上がる効果もある。

大編成では動きの良い低音が見通しの良い音場を引き出す

ショスタコーヴィチやマーラーなど、編成の大きなオーケストラ作品では、動きの良い低音が見通しの良い音場を引き出し、各楽器の関係を鮮やかに描写する。低音の量感は壁との距離など設置条件でかなり変化するので、慎重な位置決めと適切な高さ調整は必須だろう。筆者宅ではスパイクの高さを低めにした状態でローエンドまで深い響きを引き出したが、オーディオ・アクセサリー誌試聴室では逆にやや高めのポジションで低域の解像感を確保。定在波の影響を抑える方向での位置調整が効果を発揮した。

エソテリックのリマスターSACDで聴いた『ブルー・トレイン』は、サックス、トロンボーン、トランペットそれぞれの特徴を確実に鳴らし分け、実在感の高い描写に舌を巻く。オリジナルマスターのセパレーションの高さを忠実に引き出しつつ、温度感の高さも失っていない。ベースがもたつかず軽快に動くのは期待通りだ。今回のリマスター盤では過剰なエコーが減り、音像のにじみが改善されたことで、丁々発止のやり取りやテンションの高さがかえって生々しく聴き取れる。本機はそのメリットを漏らさず伝え、見事だ。

フラッグシップから受け継ぐアコースティック楽器の表現力

アコースティック楽器の質感と鮮度の高さは、THE MUSICやLISZTから受け継いだ重要な資質のひとつだ。エイヴィソンアンサンブルが演奏したコレッリをハイレゾ音源で聴き、その資質を本機の音からも実感することができた。ひとことで言えば、まさに目の前で演奏しているようなリアリティの高い音で、録音を介し、再生装置を通して聴いていることを忘れさせるような生々しさがある。コレッリの室内楽曲に代表されるリンレコーズの鮮度の高い録音は、再生機器の音色と空間の再現力が上がると、現実感と臨場感が一気に向上する。そこまで次元の高い表現ができるスピーカーは、本機の価格帯でもそう多くはない。試聴の機会があるなら、ぜひ音源を持参して、本機が引き出すリアリティと質感の高さを実感していただきたい。



<試聴音源>
【SACD】『マーラー:交響曲第9番/イヴァン・フィッシャー指揮ブダペスト祝祭管弦楽団』Channel Classics CCSSA36115
【SACD】『6 GREAT JAZZ/V.A.』ESB-90122/27(6枚組) エソテリック ※今回は『ブルー・トレイン/ジョン・コルトレーン』を使用
【ハイレゾ(192kHz/24bit)】『コレッリ:室内楽のためのソナタ集 Op.2&4/エイヴィソンアンサンブル』LINN Records

『マーラー:交響曲第9番/イヴァン・フィッシャー指揮ブダペスト祝祭管弦楽団』

『6 GREAT JAZZ/V.A.』

『コレッリ:室内楽のためのソナタ集 Op.2&4/エイヴィソンアンサンブル』


<SPEC>
●型式:3ウェイ5スピーカー ●ユニット:2.8cmスキャンスピーク製ハンドコーデット・ネオジムシルクドームトゥイーター、15.2cm X3Pミッドウーファー、17.8cmX3Pスパイダーコーンウーファー×3 ●周波数特性:28Hz~22kHz ●クロスオーバー:100Hz/2.6kHz(6dB/oct) ●感度:91.0dB ●インピーダンス:4Ω ●推奨アンプ出力:50~300W ●サイズ:300W×1140H×400Dmm(スパイクスタンド含む) ●質量:32.5kg(1台) ●取り扱い:ナスペック


Photo by 田代法生

本記事は、『オーディオアクセサリー 158号』からの転載です。オーディオアクセサリー誌の詳細はこちら

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