オーディオ 商品レビュー

次へ

オーディオ 関連インタビュー

次へ

【A&Vフェスタ】高音質SACD制作の秘密 − 藤田恵美さん「Camomile Best Audio」イベントレポート

2008年02月25日
「A&Vフェスタ2008」2日目となる2月24日、セミナーブースにてオーディオアクセサリー/analog編集部が企画した『Camomile Best Audioを藤田恵美さんが語る!歌う!』が催された。

昨年11月に発売され、5万枚以上の売り上げを記録したという話題のSACD『Camomile Best Audio(以下、Best Audio)』について、藤田恵美さんご本人と、オーディオマニアからも支持されているAVアンプ開発技術者であり、本作でサウンド・クオリティ・アドバイザーを務めた金井隆氏、そして本プロジェクトのきっかけを作ったオーディオ評論家の林正儀氏による制作陣を交え、作品にまつわるトークや解説つきの作品試聴が行われた。

藤田恵美さん

左から藤田恵美さん、林正儀氏、金井隆氏

さらに後半は藤田さんと本作にも参加しているギタリストである、小松原俊さんによるミニライブも味わえるというプレミアムなセミナー。開場前に配布された整理券もすぐになくなり、セミナールームは立ち見で観覧する来場者も多数見受けられ、まさに“満員御礼"、イベントは大盛況だった。

会場内は立ち見も多数出るほどの大盛況

■金井氏ならではのシステムでK2 S9800を鳴らした


スピーカーは「Project K2 S9800 SE」、SACDプレーヤーはソニー「SCD-XA9000ES」、AVアンプも同じくソニー「TA-DA5300ES」を使用
このイベントのために用意されたサラウンドシステムは、フロント、センター、リアにJBLの「Project K2 S9800 SE」を計5本、サブウーファーにJBL「HB5000」。そしてSA-CDプレーヤーはソニー「SCD-XA9000ES」、AVアンプにソニー「TA-DA5300ES」という金井氏ならではのシステムだ。

SACDプレーヤー、AVアンプについては改造などされてはいない通常の量産品とのことだが、「エージングだけはしっかり行っています」と金井氏。フロントの2チャンネルはバイアンプ接続、サラウンド2チャンネルとセンターはバイワイヤー接続としていたが、「AVアンプでもきちんと作りこんだ本格的なものであれば、こういったハイエンドなスピーカーでもしっかり駆動させることができます。しかしこのJBLは音が良いね!」と満足げに金井氏は付け加えた。林氏から『Best Audio』の制作経緯の説明とそのサウンドの魅力、海外での藤田さんの活躍ぶりの紹介が行われたところで、藤田さんご本人が登場。会場からも大きな拍手が沸き起こった。

本作の製作現場の雰囲気について、藤田さんは「金井さんからケーブルのこととか技術的な説明もたくさん聞いたのだけれど、最後まで全ては理解できませんでした(一同・笑)。だけど、録音から携わっているエンジニアの阿部さんと金井さんが一緒になって作ってくれたミックスは本当に自然で、『カモミール』シリーズの目指しているところの“子守唄のようにスッと眠りを誘うような"サウンドに仕上がっていると思います」と満足そうに語った。林氏も「はじめ、金井さんと阿部さんは同じ会社組織の関係かと思ったほど、呼吸もそろっていましたよね」と当時を振り返った。

試聴曲の解説や選曲した理由、録音時のエピソードなどを詳細に藤田さんが説明してくださったが、本レポートではサラウンド制作における金井氏の取り組みについてのコメントに着目してみたいと思う。『Best Audio』をお持ちの方ならばご存知のことと思うが、SA-CDの中のライナーノーツや藤田さんのホームページには藤田さんによる各曲の解説コメントが掲載されている。そちらもぜひご確認いただきたい。

■ボーカルのレベルを0.1〜0.05dB単位で調整

「阿部さんが手がけていた録音のテープは非常に良い録音だったんです。収録の段階から音質には非常にこだわっていたようで、デジタル全盛期なのにアナログの24chマルチトラックテープによるマスターを使っていました。今回のミックスではこのアナログ・マスター素材を、最新の8コアCPUを積んだMacに流し込み、音楽編集ソフトである“デジタル・パフォーマー"で作業を進めました。上方向へ自然に広がるサラウンド感を追求して、阿部さんとともにプラグイン・ソフトを調整して独自のパラメーターを開発したんですよ」と金井氏は製作時のエピソードを語った。

また金井氏は「藤田さんのボーカルは0.1〜0.05dB単位で調整し、他の楽器と調和するようにミックスを進めた」と、繊細な藤田さんのボーカルのニュアンスさを消さないミックスの秘訣についても付け加えた。

試聴で再生されたのは「First of May」「Beneath a Rowan Tree」「Best of My Love」「Tears in Heaven」「What a Wonderful World」の5曲。後方に音源を持っていかず、アンビエント成分を中心にまとめた立体的な音場形成に努めたという。確かに、録音の場を感じる“エア"感を非常に大事にしたサウンドで、心地良い広がりが前後左右、そして天井方向に伸びていた。JBLの大型スピーカーを鳴らしこむアンプの性能にも驚かされたが、とても滑らかでレンジ感の良いサウンドに魅了された。

特に金井氏が気に入っているのは「Best of My Love」とのこと。この曲の収録はミュージシャンたちが「“せ−の"で一発録り」したテイクがそのまま生かされているとのことだが、パーカッションを担当した三沢またろうさんが「もう少し加えたい音色がある」ということで一回だけオーバーダビングを行ったという。金井氏のサラウンドではその“一回だけ行った"テイクのキラキラした、パーカッション類をサラウンド空間にちりばめ、まるで星空に瞬く星のように天井方向から聴こえるように配置したそうである。デモ再生でも音場がきちんと再現され、来場者も満足げに、優しいサラウンドの音に聞き入っていた。

さらに興味深い比較試聴ソースとして、一般的に一番音質が良いとされている、レーベル印刷が施される前の“プルーフ"盤が用意されていた。このプルーフ盤はディスク製造工程の途中で抜き出されたものだが、製品版はソニーの高音質DVD-Rと同じ、緑のレーベル処理が施された“音匠"仕様となっている。

金井氏は「プルーフ盤よりも、“音匠"仕様の製品版の方が、より制作時の音に近い」とのこと。実際に“音匠"の音質効果についてを確認してみるという試みだ。会場の中からは「音質の差なんて分かるかしら?」といった声もちらほら聞こえてきたが、何度か同じ箇所をプレイするたびに、伸び伸びとした粒立ちの良いサウンドに気がつき、来場者の多くがその差を体感できたようだった。金井氏によれば、「ピックアップレンズのRFサーボの読み出しにおいて、この“緑色"がディスク振動によって発生するレーザーの散乱光を吸収し、音質に対し効果を発揮する」とのこと。その音を体感した直後なだけに、会場内の多くの方が頷いていた。

「本当に音楽製作という経験は初めてで、当初はうまく行くか心配な場面もいくつかあったが、藤田さんから“実際に曲を収録した時と同じ雰囲気、こんな感じになるように歌っていた"という話をもらって、“ああ、これはうまく行くぞ"と実感できた」と金井氏は打ち明けた。また「金井さんはまるで少年のように輝いていた」という藤田さんのコメントに照れくさそうにしている金井氏の姿も印象的だった。最後に、「今回用意されたサラウンドシステムでクラシックサウンドを一曲だけ披露したい」という金井氏の提案に、会場からも大きな拍手が沸きあがった。

■“手話付き"のミニライブも行われた

ここでトークショーが終わり、センター用スピーカーが外されてミニライブの準備が始まる。サラウンドシステムも含め、前日の夜にPA用システムもセッティングされたのだが、金井氏はサラウンドシステムのサウンドだけでなく、このライブ用のスピーカーのセットアップについても微調整を行ったという。なるほど、PA特有の前に出る鮮烈な音質ではなく、非常に聴きやすい、品位のあるPAサウンドになっていた。

藤田さんとギターの小松原さんによるミニライブは3曲披露され、美しい小松原さんのギターのサウンドと、透き通った藤田さんの歌声が会場を魅了した。最後にはル・クプル時代の大ヒット曲「ひだまりの詩」を、藤田さんの“手話"つきで披露してくださった。ライブにも良く足を運ぶという金井氏も一緒に手話をしながらミニライブに参加し、非常に温かい雰囲気を感じられたひとときであった。

ミニライブの様子。藤田さんの優しい歌声に会場中が魅了された

大ヒット曲「ひだまりの詩」は手話付きで披露

筆者も昨年『オーディオアクセサリー』誌の生録企画で藤田さんの弾き語りを収録させていただく機会を得たが、非常に優しい歌声に聞き入ってしまう瞬間が何度かあり、その魅力を実感していたので、一個人としても今回の『Best Audio』が多くのリスナーに評価されたこと、イベントでその魅力を多くの方に体感いただけたことを大変嬉しく思う。

イベント終了後にはソフト販売も行われ長い行列ができた

ソフト購入者にはサインや握手も行われた

会期中、ムーンライダースのフロントマンである鈴木慶一氏のSA-CD発売に合わせたイベントも別室で行われていたのだが、こちらはSA-CDというフォーマットを余すことなく、“楽曲表現のために"使ったサウンドを提示していた。それに対し、藤田さんや金井氏が取り組んでいたのは、SACDで“楽曲の良さをオーディオファイルにも心地良い音で届ける"という別ベクトルで作られた作品である。時を同じくして面白い対比を味わえることになったが、今後とも藤田さんの活動、金井氏の音楽製作、そしてSA-CDの展開から目が離せない。

(岩井喬)

関連記事