“高音質”をHDMIケーブルで徹底追求した先駆的モデル

文/大橋伸太郎プロフィール

製品名

VGP 2009 Summer「HDMIケーブル(3万円以上)」部門 <金賞>受賞モデルの実力

製品画像

本製品のプラグは一体成形のパーツを採用し、徹底した高音質化を図っている

ごく最近、1m当たり1万円以下から10万円に迫るものまで、HDMIケーブルの注目機を集中的に視聴する機会を得た。画質については1080pの伝送についての各社の研究が窺え、全体がレベルアップを果たしており、正直言って価格差ほどの極端な優劣はなかった。しかし、音質は違う。製品間に呆れる程の違いがあり、しかも、価格を反映して高額な製品ほど音質がいいかというと、決してそうでないから厄介である。客観的な検証ができる映像と違って、音質(特に音楽再生)はヒアリングに負う部分が大きい。音質について一定の目標とイメージを定めて品質を追い込んでいくノウハウを持っているかどうかが問われる。一般的に言って、オーディオケーブルの経験の豊かなメーカーの製品は、内外を問わず高水準に達していた。

5月に審査会が行われた「ビジュアルグランプリ2009 Summer」で、サエク初のHDMIケーブルの上位機種「SH-1010」が、「HDMIケーブル(3万円以上)」部門の金賞を受賞した。金賞は各部門で一機種のみである。サエクはアナログオーディオ時代には、トーンアームを始めとするプレーヤー関連の高音質パーツを製造、現在は高品位アナログ、デジタルケーブルで日本を代表する一社である。そのサエクが現代のAVの大動脈であるHDMIのオリジナル製品を開発するに当り、掲げたテーマが“高音質伝送”だった。高音質をHDMIでメインテーマにしたのは日本初、いや世界初だろう。

SH-1010を実際に手に取ってみると直径9.5mmと、ケーブル径が太く、ズッシリと重くしなやか。ベテランオーディオメーカーとしてのノウハウと、ケーブルメーカーの技術がここにギッシリと詰まっていることが実感される。SH-1010の導体は高品質銀メッキ高純度銅線で、メイン信号路はシールド付ツイストペア導体、サブ信号路はアンシールドツイストペア導体に樹脂を介在させている。絶縁体を見てみると、メイン信号路は発泡テフロン、サブ信号路は稠密テフロンを採用し、高速で波形の乱れの少ない伝送を実現している。メイン信号部のアルミ箔+銀メッキ高純度銅線による2重シールド構造は、導体の振動防止の役割も果たす。さらにサブ信号路を含めた導体全体をアルミ箔でシールドしている。シースには、ハロゲンフリー製で、2種の素材の組み合わせで振動を抑制する。

今回は1.0mの製品を数日自宅に預かり、「PLAYSTATION3」とソニーのサラウンドアンプ「TA-DA3200ES」間に接続し、SACDから映画BDまで視聴を行った。普段使用しているHDMIケーブルと、最初は同じソフト(CD/SACD)を聴いて比較したが、2枚ほど比較してそこからはSH-1010のみを聴き込んだ。音質が歴然と優れていたからである。

SH-1010は、伝送経路上での位相管理が従来の製品から隔絶して優れている。音質の特徴を一言で表現すると、ステレオなら音像のしっかりした鮮明な描写で音場が散漫・不安定にならない。サラウンドなら音場の自然な広がりと見通しのよさ、その中の音像描写の精密さが出色である。

小澤征爾のライブBD『チャイコフスキー・悲愴』『ベルリオーズ幻想交響曲/マーラー巨人』のフォルテッシモでの音の歪みの少なさ、分解能の高さは、HDMIの音質を軽侮していた方の認識を一変させるに違いない。音質ばかりが優れているわけではない。映画BDの新作でスティーブン・ソダーバーグがゲバラを描いた2部作『チェ28歳の革命/38歳の手紙』をSH-1010で見たが、ニュース映像風の粗いモノクロから山間地帯でのゲリラ戦のドキュメンタルな高画質映像まで光と色を描き切り、2部作の画質の幅を見事に手中に収めての余裕ある1080p伝送である。

スペック

●価格:¥36,225(0.7m)/¥39,900(1.0m)/¥42,525(1.2m)/¥49,875(1.8m)/¥64,050(3.0m) ●導体:高品質銀メッキ高純度銅 ●構造:ツイストペアダブルシールド+アルミシールド ●外形:φ9.5mm ●被覆:2種類の特殊ハロゲンフリーシース ●方向性:有り(シースに印刷表示)

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