2010年05月31日
用意する機器と繋ぎ方も解説

第5回:ネットワークプレーヤーを活用する! 山之内 正

ネットワークにつながるオーディオ機器が登場したのは数年前のことで、比較的新しいジャンルの製品だ。その頃はインターネット経由でアルバムや曲の情報を入手することが主な目的だったが、その後、音楽信号そのものを家庭内ネットワーク(LAN)経由で読み出すプレーヤーが誕生し、新しいカテゴリーに成長し始めた。

今回は、その新しいネットワークプレーヤーが主役だ。ネットワーク技術を利用してデジタル信号(デジタルストリーム)を読み出すのでストリームプレーヤーと呼ぶこともあるが、ここでは同様な機能を持つプレーヤーを既存のディスクプレーヤーと区別するために、ネットワークプレーヤーと呼ぶことにしよう。

ネットワークを介して音楽データを保存場所(HDDなどの大容量ストレージ)から読み出し、ディスクプレーヤーと同様、アナログ信号に変換してアンプに出力するというのが動作の基本。ソースがディスクからストレージに変わるだけなので、手持ちのオーディオシステムにそのまま組み込んで使える。これは面倒な設定や接続を省きたい音楽ファンにとって、大きなメリットだ。

ネットワークオーディオでは、CD収納ラックに代わる存在として大容量のストレージを使うが、ネットワークに複数のプレーヤーをつなげば、どのプレーヤーからも、1台のストレージに保存したデータをネットワーク経由で自在に読み出すことができる。これまでは、複数の部屋で音楽を聴くためにはディスクを移動するしか方法がなかったが、ネットワークを導入すれば、数百枚、数千枚のCDを各部屋で好きなときに楽しむことができる。音楽データは1ヶ所に集中して保存し、再生プレーヤーとオーディオシステムだけを追加する。これが、ネットワークオーディオが可能にした新しいスタイルなのだ。

新しいスタイルで音楽を楽しむネットワークプレーヤーは、外部のストレージに保存したデータをLAN経由で読み出すことに共通点があるが、それ以外の機能を実現した多機能な製品もある。いくつか代表的な製品を紹介しておこう。

■ネットワークプレーヤーの代表格・リン DSシリーズ

ネットワークプレーヤーのジャンルを切り開き、いまもこのジャンルを代表するのがリンのDSだ(DSはデジタルストリームの略)。文字通りストリーム信号をストレージから読み出すことが主な役割で、読み出したデジタル信号のデコードとD/A変換機能を内蔵している。一方、本体にはディスクを読み取るためのピックアップやディスクドライブは内蔵しておらず、シンプルな設計に徹している。ディスクドライブなどに含まれるモーターやメカニズムは振動やノイズの原因になることがあり、それを一切排したシンプルな設計は、音を良くするための切り札なのだ。

DSは第一号機の登場からすでに2年以上経ち、幅広い価格帯に複数の製品を揃えている。ハードウェアそのものはどの機種も発売からずっと継続して販売されているが、本体を動かすソフトウェアを頻繁に更新することによって次々に新しい機能を実現し、これまでに何度も生まれ変わっている(最新モデルではインターネットラジオ機能を充実させた)。ネットワークを利用して中身のアップデートができるので、手持ちの製品が旧モデルになってしまうことがないのだ。これは他のネットワークプレーヤーにも共通するメリットの一つだが、既存のオーディオ機器にはまだそれほど浸透していない。

■CD再生とネットワークプレーヤー機能を兼ね備える
PS AUDIO Perfect Waveシリーズ


リンのDSとは対照的な多機能モデルとしては、PSオーディオのPerfect Wave Transport(PWT)、Perfect Wave DAC(PWD)がユニークな存在だ。CDトランスポートとD/Aコンバーターというセパレート構成の高級プレーヤーシステムが基本だが、オプションの「ネットワークブリッジ」をPWD側に内蔵することにより、DSと同様なストリーム再生機能が利用できるようになる。PWT側のディスク読み取り機構も通常のデジタルプレーヤーとは異なっていて、先行して読み取ったデータをいったんバッファと呼ばれるメモリに保存し、そのメモリから正確なクロックで信号を読み出すという手法を選んでいる。この再生方法は伝送時のエラーを減らす効果があり、ディスク再生時の音質改善が期待できるのだ。CD再生とネットワークオーディオ機能の両立を狙ったユニークな製品として注目に値する。

■リッピングから再生までコレ一台 Olive Olive 4HD

リンとPSオーディオの製品は音質最優先のハイエンドプレーヤーに位置付けられるが、音質と同様に使い勝手にも気を配ったネットワークプレーヤーの代表がOliveのOlive 4HDである。スロットローディング式のディスクドライブと2TBのハードディスクを内蔵し、CDの再生とリッピング機能、さらに大容量ストレージまで、すべてを1台の筐体に内蔵した一体型の構成に特徴がある。ネットワークに接続した外部のNASから信号を読み出す機能を実現しているので、リンのDSやPSオーディオのネットワークブリッジと同様な使い方ができるのだが、ネットワークオーディオならではの使い勝手をオールインワンシステムで実現したことに、この製品のユニークさがある。ハードディスクの遮音やファンレス構造にこだわり、音楽再生専用機として設計している点にも注目したい。


最後に、ネットワークオーディオを楽しむために必要な機器と接続方法を確認しておこう。

まずは音源を保存するストレージ。ここにはパソコンのハードディスクをそのまま使うこともできるが、LANにつながるネットワーク接続ストレージ(NAS)を利用する方法がお薦めだ。

NASにはいろいろなメリットがあるが、音楽を聴くときにパソコンを起動する必要がないこともその一つだ。パソコンは様々なノイズをまき散らす元凶になることがあるし、静かに音楽を楽しむ環境にはなじみにくい。

NASにはいろいろなタイプの製品があり、容量のバリエーションも充実しているが、音楽用として利用するので、ファンレスの静音タイプを選ぶとよい。リンはDSとの組み合わせに適したNASをリンジャパンのホームページで推奨しているので、参考にするといいだろう。

音楽データをNASに取り込むときにはパソコンを利用するのが便利だが、そのためだけにパソコンを使いたくないという場合は、CDのリッピング機能を内蔵したRipNASという製品がお薦めだ。インターネットに接続して曲情報を取得する機能まで内蔵しており、その情報は、ストレージに保存した大量の音楽データを検索するときに役に立つ。

NASとネットワークプレーヤーにそれぞれ独立したIPアドレスを割り当てるために、両者を接続するルーターも用意する必要がある。ルーター機能を内蔵した市販の無線LANアクセスポイントを使用すると、この後で紹介するコントローラー端末がワイヤレスで利用でき、使い勝手は飛躍的に向上する。

ネットワークプレーヤーは、一般的なリモコンではなく、曲を指定するプレイリストの作成や曲検索用のコントローラーソフトが用意されていて、それを使って操作することが基本だ。

プレイリストをプレイリスト本体に登録した後は本体や通常のリモコンでも操作できるが、使い勝手の面で最も優れているのはiPhone、iPod touch、iPadで動作するUPnP対応コントローラーソフトである。DS用としてはPlug PlayerやSongBookが有名だが、最近、使い勝手の良い無料ソフトとしてChorusDSが登場し、人気を呼んでいる。Olive社もアップル製端末用に無料の専用ソフトを開発し、AppStoreに登録している。

接続ダイアグラムからわかるように、ルーターとNAS、パソコン、ネットワークプレーヤー間はLANケーブル、コントローラー端末はワイヤレスで接続するが、それ以外の配線は従来のステレオと同様、アナログでの接続でよく、オーディオシステムの基本構成はほとんど変える必要がない。また、図に示したパソコンはCDから音楽データを取り込むときだけ必要だが、再生時は取り外すこともできるし、リッピング機能を内蔵したNASを利用すれば、パソコンを持っていなくてもネットワークオーディオを楽しむことができる。

LANと聞いただけで接続や設定が難しいと感じる人が少なくないようだが、実際の接続や設定は意外なほど簡単で、動作も安定している。仮に多少の苦労があったとしても、そのあとで得られる快適な操作環境と圧倒的高音質に比べれば、取るに足らないほどの苦労でしかない。