2010年03月17日
山之内正のデジタルオーディオ最前線

第3回:音質への影響力大! PCと組み合わせる外付けスピーカーを使いこなす 山之内 正

前回は立体感豊かなステレオイメージを再現するためにUSB-DACを活用する方法を紹介したが、今回はオーディオ機器のなかでも音質に与える影響が特に大きいスピーカーに焦点を合わせ、機種による音の違いや使いこなしを探っていく。

スピーカーの話題に入る前に、前回に続いて「いい音とは何か」という話を少しだけしておこう。前回は「立体的なサウンドと自然なボーカル音像」に挑戦したが、今回は「量と質が両立した低音再生」がテーマだ。

低音は音楽の基本。ハーモニーとリズムはもちろんのこと、旋律を支える役割もきわめて重要だ。ベースなど低音楽器だけでなく、ピアノやギターなど音域の広い楽器の低音パートも同じように重要な役割を担っている。

低音再生の課題は「量と質を両立させる」ことに尽きる。量感が不足すると低音と高音のバランスがくずれて音楽が成り立たなくなるし、質感の低い低音は音楽のスピード感やサウンドの透明感を損なう元凶だ。

量感はわかりやすいと思うが、低音の質感を聴き分けるにはある程度の経験が必要かもしれない。低音には前回紹介したようなチェック項目とは別の聴きどころがあり、最初はその良否がわかりにくいことがあるためだ。まず、低音は高音に比べて音源の位置を特定しにくいため、ピンポイントの音像定位を求めるのは難しい。だが、優れた再生装置で聴くと、ベースやバスドラムがクリアな音像で再現されることに気付くはず。明確な音像は低音にも当てはまるのだ。

リズムやテンポを左右する要素として、音の立ち上がりの速さと、音が消えるときの切れの良さはとても重要なポイントだ。また、音程と音色についても低音楽器特有の聴きどころがあるのだが、これは実際の楽器の音やライヴのサウンドに接して慣れるのが一番の早道だろう。オーディオシステムでいい音を出すためのお手本は、生の音楽、実演のサウンドに見出すことができる。

■パソコンに外部スピーカーをつなげてみる

パソコンにスピーカーをつなぐ最もシンプルな方法は、アンプ内蔵モデル(アクティブ型スピーカー)を用意してパソコンのライン出力やヘッドホン出力につなぐことだが、前回提案したようにパソコンとスピーカーの間にUSB-DACを追加することで音質は飛躍的に向上する。今回用意したアクティブ型スピーカーはいずれもその方法で音を確認した。

一方、アンプを内蔵しないスピーカーは、外部のアンプで駆動するという意味でパッシブ型と呼ぶことも可能だが、あまり一般的な呼び方ではないので、ここでは普通にスピーカーと呼ぶことにしよう。

アンプ非内蔵のスピーカーをパソコンにつなぐ場合はUSB-DACとは別にアンプを用意する必要があるが、それによって音質はアクティブ型スピーカーよりもさらにグレードが上がり、本格的なサウンドが期待できる。今回の試聴では筆者が自宅のオーディオシステムで使っているアンプをUSB-DACの出力につなぎ、各スピーカーの音を聴き比べている。また、参考としてパソコンとの組み合わせに最適なUSB-DAC内蔵アンプ(nuforce icon)と組み合わせた場合のサウンドも確認した。なお、アンプの選び方や使いこなしの詳細は次回紹介する予定だ。

スピーカーは他の機器に比べてセッティングによる音の変化が大きいことに注意したい。接続の注意点はLとR、プラスとマイナスを間違えないようにする程度だが、設置については押さえておくべきポイントがいくつかある。

■正しいセッティングも大切

まず置き場所だが、左右の高さを揃えること、床に直置きしないこと(フロア型と呼ばれる床置きタイプは除く)はぜひ押さえておきたい。左右の高さや設置条件が極端に異なるとステレオイメージの再現が難しく、アンバランスな音場になってしまう。床への直置きは低音が床に反射して曖昧なサウンドになったり、床が共振するなど、いいことはまったくない。どちらもぜひ避けるべきセッティングである。

可能であればスピーカー背面と壁の間は20〜30cm前後離すことをお薦めする。特に背面にバスレフポートと呼ばれる穴が空いているスピーカーの場合は、壁に密着させると低音の量感を得るのが難しくなってしまう。また、小型スピーカーの場合、棚の上に設置するのはお薦めできるが、コンパクトだからといってラックのなかに設置するのはあまりいい方法とは言えない。


【手頃な価格で高音質!注目製品レポート】

<アンプ内蔵スピーカー>
BOSE Computer MusicMonitor(M2)
BOSE Computer MusicMonitor(M2) ¥39,480(税込)
製品データベース)(メーカーの製品情報
手の平に載るほどコンパクトなスピーカーだが、強度の高いアルミ製キャビネットと独自のユニット技術によって、サイズからは想像できないスケール感豊かなサウンドを再生する。パソコン用スピーカーへの先入観を捨てて、まず音を聴いてみるといい。

デスクトップの狭い空間でも広々とした音場が広がり、そのなかにフワリとボーカルが浮かぶ。この自然な音場感がM2の最大の魅力だ。キャビネットの存在を感じさせないので、音を出していると空間そのものが鳴っているように感じる。 

ACアダプターはかなり大型だが、左右をつなぐケーブルは長さに余裕があり、使い勝手がいい。シンプルなリモコンが付属する。

ピアノやベースの低音に押し出しの強さはないが、箱が共振しているような余分な成分がないので、響きそのものはとても良質だ。ボリュームを落として聴いても音楽のバランスが変化しにくい点にも感心した。良質なデスクトップオーディオ、テーブルトップオーディオを狙うにはうってつけのスピーカーといえる。

AUDIO-TECHNICA AT-SPE7DB
AUDIO-TECHNICA AT-SPE7DB ¥18,900(税込)
製品データベース)(メーカーの製品情報
キャビネットの構造に工夫を凝らしたダブルバスレフ方式を採用することによって、低音の量感アップを狙ったアンプ内蔵型スピーカーである。前面だけでなく背面にもダクトの開口部があり、それによって低音の特性をコントロールしているので、背面を壁などでふさがないように注意したい。入力が2系統あるので、パソコンとポータブルオーディオプレーヤーを同時につなぐことも可能だ。

歯切れがよくスピード感のあるサウンドで、パーカッションなどリズム楽器の存在が際立つ。ボーカルは発音がクリアで、声が積極的に前に出てくる印象。柔らかく包み込む雰囲気よりも、それぞれの楽器や声の明瞭さを引き出す傾向が強い。低音はダンピングが聴いて歯切れが良く、アクティブな印象の中高域とバランスがとれている。ただし、ベースの音域はもう少し量感が欲しいと感じた。

ONKYO GX-500HD
ONKYO GX-500HD ¥OPEN(直販サイト価格49,800円)
製品データベース)(メーカーの製品情報
アンプ内蔵型としてはかなり大型で、内蔵するデジタルアンプの出力にも余裕がある。アナログ入力に加えて光デジタル入力を装備しているため、接続する機器のバリエーションはかなり広がり、USBではなく光ケーブルでパソコンとつなぐスタイルにも対応する。サブウーファー出力、ヘッドホン出力など、豊富なインターフェースも本機ならではの装備だ。

サウンドはメリハリのある音調に特徴があり、低音から高音まで再生レンジの広さを印象付ける。アンプ内蔵スピーカーは本機に限らず左右の重さに差があるのが普通だが、それによって左右の音色が変化することもなく、ボーカルは自然なイメージが左右中央に浮かび上がってきた。パソコンとの組み合わせを意識したアンプ内蔵型スピーカーのなかでは本格的なハイファイサウンドを狙いやすい製品で、大きめの音量で聴きたい人にもお薦めできる。

<アンプ非内蔵スピーカー>
PIONEER S-71B-LR
PIONEER S-71B-LR ¥94,000(ペア・税込)
製品データベース)(メーカーの製品情報
パイオニアのハイファイスピーカーの新しい主力となる「シリーズ7」のなかの小型モデルで、シリーズに共通する13cm同軸ユニットの採用が注目ポイントだ。高域用ユニットと低域用ユニットを同軸構造に配置することで、各音域の音源が一致し、優れた音像定位を実現することができる。背面に向かって側面をなめらかに絞り込んだラウンド形状は音の純度を高める効果が大きい。

声のなめらかさやピアノの柔らかい音色など、アンプ内蔵スピーカーとは一線を画す本格派の音調が素晴らしい。音の良いスピーカーは鮮度の高い音と同時に柔らかい音色を忠実に再現する能力が高いものだが、本機のサウンドのなめらかさや柔らかさは、まさにその代表といっていいだろう。特に声やアコースティック楽器の質感の高さが際立っていて、チェロやベースの音色の豊かさも聴きどころの一つだ。ジャズやポップスだけでなく、クラシックの編成の大きい曲を聴いてもスケール感に余裕があるので、クラシックファンにもお薦めできる。

FOSTEX GX102
FOSTEX GX102 ¥157,500(ペア・税込)
製品データベース)(メーカーの製品情報
本来は本格的なオーディオシステムのなかに組み込む製品なのでサイズも大きく、しっかりしたスタンドと組み合わせて楽しむ用途に向く。背面にバスレフポートがあるので、壁との距離を離すなど、設置にも本格モデルならではの注意が必要だが、条件を追い込めば素晴らしいサウンドを引き出すことができる。

サウンドは低音から高音までどの音域にも誇張がなく、それぞれの楽器の音色を忠実に再現する。ギターはギターらしく、フルートはいかにもフルートの音がする。当たり前のことのようだが、スピーカーによってはそれぞれの楽器の音色の違いをここまで細かく鳴らし分けるのが難しい製品もあるのだ。

ピアノやオーケストラはサウンドの重心が低く、大きめの音量で聴いても音像に揺らぎがない。ボーカルは音の輪郭が明瞭で、他の楽器とのセパレーションが非常に高い。このスピーカーを導入するならアンプのクオリティにもこだわりたいと思わせる本格派のサウンドだ。

【まとめ】
冒頭に書いた通り、スピーカーは製品による音の違いがとても大きく、選択するスピーカーによってオーディオシステム全体の音の方向性が決まるので、他のコンポーネント以上に慎重に選びたい。

今回の試聴であらためて確認することができたが、パソコンを音源に使う場合でも、音の良いUSB-DACやアンプ、スピーカーを組み合わせると、高級なピュアオーディオ顔負けの本格サウンドを狙える。特に、独立したアンプを用意して良質なスピーカーを駆動すると、音場のスケール感や音像のリアリティが格段に向上するので、ぜひチャレンジしてみよう。