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インタビュー

「機能価値」から「感性価値」へ

ソニー新オーディオ戦略は「楽しいハイレゾ」。新ウォークマンや「h.ear」投入のねらいを聞く

折原一也
2015年09月07日
”楽しいハイレゾ”を掲げるソニーのオーディオ戦略を商品企画部 統括部長に聞く

IFA 2015のソニーブースでは、今年もハイレゾに関連したオーディオ製品が注目を集めた。中でも特に印象的だったのは、ウォークマン「Aシリーズ」と並んで大々的なスペースを割いたヘッドホン「h.ear」シリーズのブース展開だった。

今年も”ハイレゾ”で賑わったソニーブース

ウォークマン「Aシリーズ」とカラーを揃えた「h.ear on」を吊り下げた展示の効果もあり、ソニーブースのオーディオコーナーは「h.ear」がまさに主役。一方で、ウォークマンの新たなハイエンドモデル「ZX100」、またデスクトップオーディオの新提案である「CAS-1」などもやはり注目を集めていた。

IFA 2015で見せたハイレゾの新機軸は、今後どのように展開していくのか。その狙いをソニー株式会社 ビデオ&サウンド事業本部 V&S商品企画部統括部長の北島行啓氏に尋ねた。

ソニー株式会社 ビデオ&サウンド事業本部 V&S商品企画部 統括部長 北島行啓氏

「楽しいハイレゾをやろう」というコンセプトから生まれたヘッドホン「h.ear」


IFA 2015で発表されたウォークマンの新Aシリーズ
−− 今年のIFAにおいて、ソニーのオーディオ関連の展示では、デザインも重視したヘッドホン「h.ear」とウォークマンが特に印象的でした。今回の出展内容のコンセプトを教えてください。

北島氏 今年のIFAで提案したかったのは「ハイレゾをいかに楽しんでいただくか」ということです。高音質を追求した製品では、従来のオーディオファンをユーザーとして想定していることもあり、デザインはやはりオーディオ機器然としたものでした。カラーもシルバーやブラックがメインですよね。

こうした製品における“機能価値”と言うべきものを、“感性価値”に振って行きたい。ハイレゾの音の良さを、もっとエモーショナルに若いユーザーに提案していきたいというのが、「h.ear」のコンセプトの柱にありました。

新機軸のデザインを採用したヘッドホン「h.ear on」

−− 若い方にも身近にハイレゾを楽しんでいただきたいということですね。ところで、ソニーのオーディオ製品を購入する方の高齢化というのは進んでいるのでしょうか。

北島氏 世の中の高齢化と共に、ソニー製品の購入者の年齢もやはり上がっています。一方でウォークマン「ZX1」「ZX2」や、ヘッドホン「MDRシリーズ」などは、若い方にも人気のある製品です。それから昨年では、ウォークマンのAシリーズが特に若い購入者の割合が高かったですね。中国ではハイレゾ機器の購入者の7割が20代、というデータも興味深いところです。

しかし、やはりこうした製品はそのイメージも含めてあくまで“オーディオチック”なんですよね。それを“エモーショナル”や“ファッショナブル”という軸で提案していきたい。それを社内では「楽しいハイレゾをやろう」というキーワードにまとめて、「h.ear」シリーズを展開しています。

それからデスクトップオーディオ「CAS-1」ですが、これまで展開してきた「ES」シリーズのアンプで培ってきた技術をベースに、フルデジタルアンプを新たに開発し、搭載しました。しかもヘッドホンアンプとデジタルアンプが独立して備えています。若いユーザーに43cm幅の単品コンポーネントを無理に使ってもらう必要はなくて、CAS-1のようなコンパクトで高音質な製品で音楽を楽しんでいただければ良いと考えました。カラーもブラックとホワイトの2色展開です。

デスクトップオーディオのCAS-1も高音質で注目を集めた

−− 「h.ear」のようなコンセプトは、今後、他のソニー製ヘッドホンにも全面的に波及していくことになるのでしょうか。

北島氏 ソニーはヘッドホン、イヤホン共に非常に幅広いラインナップを持っています。例えば「MDR-Z7」に代表されるような高音質モデルを、h.earと同様にファッショナブルにするというわけにはいかないと思っています。h.earについては、お客様の意見をフィードバックしながらラインナップを展開していく予定です。

「h.ear」の展示方法も印象的。多くの来場者の注目を集めていた

−− 目下、ハイレゾ製品の売上はいかがでしょうか。

北島氏 2015年の第1四半期においては、ハイレゾ関連製品の売上は昨年比で1.5倍に増えています。ハイレゾの魅力とソニー製品ならではの価値を提案することで、今後はこの市場をさらに広げていきたいと考えています。

■海外市場にも”ウォークマン”や”ハイレゾ”を展開

−− 欧州市場と日本市場を比較したとき、最大の違いとはどのような点でしょうか。

北島氏 欧米と日本、そしてアジアを比較したとき、コンテンツを入手する経路や聴かれている楽曲に差があります。例えば欧米ではエレクトロミュージック、特により低音の効いたEDMが盛り上がっていることと、フェスやライブでそういった音楽を楽しむ土壌があることが特筆できるでしょう。サービス面では、やはり音楽ストリーミングが普及しています。

ただし、どんなジャンルの楽曲にしても、どのようなスタイルで聴かれるにしても、良い音で聴きたい。このマインドだけははどの地域のお客様であっても変わらないんですよね。

私自身が子供の頃そうでしたけれど、ウォークマンを最初に聴いた時、自分の好きな音楽を良い音で聴いたときの感動はとても大きいものがあります。欧米でも、ハイレゾオーディオへの反応は、これから変わっていくと思っています。

−− “ウォークマン”という製品形態は、特に日本市場のみで受け入れられている製品という見方もあります。欧州での市場性はどうお考えでしょうか。

北島氏 欧州市場は日本国内と比べ、ウォークマンの販売比率がかなり低いのは事実です。それでも、専用ミュージックプレーヤーに対する需要は欧州でもまだまだ大きくなると考えています。

また米国のベストバイの店舗で、実際に我々のハイレゾの商品を体感いただけるコーナーを展開するなど、ウォークマンを含めたハイレゾ製品の魅力を知っていただくための施策を、様々なかたちで行っています。

−− IFAではウォークマン「ZX100」を投入されました。主に日本国内を意識した製品かと思いますが、先行した「ZX1」「ZX2」については相当な手応えがあったのでしょうか。

北島氏 ZX1、ZX2については相当な手応えがありましたね。ZX1は、従来のポータブルミュージックプレイヤーの常識から考えるととてつもない価格(約7万円)でした。アップルのiPodに代表される価格帯が中心だった市場で、高音質を追求したウォークマンの高級機がこれだけ受け入れられたということは自信になりました。今回のZX100という新たなハイエンドモデルを実現できたのも、ZX1、ZX2の成功があってのものです。

ウォークマンの新ハイエンドモデル「ZX100」はZX1の後継機種だ

−− ハイレゾ製品の今後の拡大について、どのようにお考えでしょうか。

北島氏 A20シリーズにしても、h.earにしても、我々が想定している若いユーザーにとっては決して安くはない製品です。これまで展開してきたソニーのハイレゾ製品も同様ですが、若い方々の中にもその価値を理解して、購入してくれる方がたくさんいらっしゃいます。

東アジア、特に台湾や韓国、中国の市場を見ますと、非常に若い層がハイレゾ製品を購入しています。例えば、台湾に行くと町々にオーディオショップがあります。大学の近くにもオーディオショップやミュージックカフェが増えていて、学生がそれらの場所に用意された「ZX2」や「PHA-2」「MDR-Z7」などを聴いているのですね。

ハイレゾの新しい楽しみ方を牽引しているのは、やはり若い方です。価値転換が起こっているのですね。h.earシリーズを通じて、さらに幅広い若年層にハイレゾを楽しんでいただきたいですね。

「h.ear」シリーズを通して、さらに若い層にもハイレゾを展開したいとのこと

−− 最後に、オーディオとは異なりますが、他社はUltra HD Blu-rayの実機を展示してデモを行っています。ソニーとしてのスタンスはいかがでしょうか。

北島氏 ソニーもUHDの規格には参加していましす、非常にポジティブにとらえています。しかし具体的な商品の計画は、市場にお客様の状況を見極めてからと思っています。

ソニーもBDの新規格を提案していますが、ユーザーの間ではフィジカルなメディアを再生するよりも、ストリーミングの映像を楽しまれる動きがどんどん広がってることも事実です。UHD BDという規格がどのように評価されて、市場にどのように広まっていくか、そこをしっかりと見極めていきたいと考えています。

−− ありがとうございました。

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