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キーマンに訊く「ベルリン・フィル・レコーディングス」− 自主レーベルの詳細と今後の展望

2014/06/30 インタビュー:山之内 正/構成:編集部 小澤麻実
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ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が立ち上げた自主レーベル「ベルリン・フィル・レコーディングス」から、ラトル指揮「シューマン 交響曲全集」が6月下旬より発売されている。


既にお伝えしているとおり(関連ニュース)、販売は、CD(2枚組)、BD(5.0ch DTS-HD MA音声+1080/60i映像のBDビデオ/2.0ch 96kHz/24bitPCMのBDオーディオのハイブリッド構成)、192kHz/24bitおよび96kHz/24bit音源のダウンロードコード、デジタルコンサートホールの7日間視聴チケットがパッケージングされたかたちで行われる(ハイレゾ版音源の試聴レビューはこちら)。8月には同一音源のLPも発売を予定しているとのことだ。

今回、オーディオ評論家の山之内 正氏が、オラフ・マニンガー氏(ソロ・チェリスト兼メディア代表)とローベルト・ツィンマーマン氏(ベルリン・フィル・メディア取締役)に特別インタビューを敢行。リリースタイトルのセレクトについてや、今後の提供形態などについてお話しをうかがった。

ローベルト・ツィンマーマン氏(写真左)、オラフ・マニンガー氏(写真右)


−−「ベルリン・フィル・レコーディングス」立ち上げの経緯をうかがいましたが、とても共感するところが多いです。自主レーベル立ち上げ後、ベルリンフィルは他レーベルとのレコーディングは行っていくのでしょうか。

マニンガー氏:今後も他レーベルとのレコーディングは行っていきます。自主レーベル運営は、アーティストやリスナーにとってもwin-winになるようなかたちにしなければうまくいきません。たとえば、既にデジタルコンサートホールで配信したアンネ=ゾフィー・ムターの演奏会。これは我々の録音を提供し、グラモフォンからCDとして発売されています。

我々はムターにデジタルコンサートホールに出演してもらえるし、視聴者もそれを観られる。そしてグラモフォンはパッケージ制作のコストを抑えられる。まさにwin-win状態ですよね。一緒に何をすればいちばんうまくいくかというのを考えるのが大事だと思っています。

オラフ・マニンガー氏

−−まずは交響曲のツィクルスを中心にリリースされていくそうですね。リリースするタイトルはどのような基準で決められるのでしょうか。

マニンガー氏:ベルリンフィルの年間演奏会はほぼ全てデジタルコンサートホールで配信しています。ということは、CDなどパッケージメディアでリリースするときは、購入したくなるような「理由」がなければいけません。その「理由」のひとつが「ツィクルス」です。そしてツィクルス以外の演目を選ぶときは「そこにストーリーがあるか」を基準にしています。たとえば作曲家のアニバーサリーイヤーにあわせたりというのも考えられると思います。

また、名演が生まれたコンサートは、多くの方に体験していただきたいですよね。どの演奏会が素晴らしい内容になるかというのは実際にやってみないと分からないものですから、難しい部分もありますが…。ただその点についても、録音・収録・制作全てをインハウスで行える体制を整えているという点が強みになると思います。

たとえば「マタイ受難曲」。非常に素晴らしい名演になり、演奏会が終わったときに「これはパッケージで出さなければ」とみんなが思ったんですね。また、「ベルリンフィルと子供たち」は、当初映画化の予定など全くありませんでしたが、それが生成していくプロセスのなかで、これは是非パッケージにしたいということになりました。

左からマニンガー氏、ツィンマーマン氏、山之内正氏。インタビューは和やかなムードで行われた

−−「マタイ受難曲」は本当に映像から伝わる力と音楽の力、両方の感動が相乗効果を生んでいました。デジタルコンサートホールで観たときも良かったですが、パッケージ化することで良さが一層伝わったと思います。今後はオペラなど映像作品のリリースも予定されていたりするのでしょうか。

マニンガー氏:はい。映像作品を出す可能性はあります。というのはデジタルコンサートホール用に収録した素材はあるわけで、それをパッケージにして発売しようと思えばすぐできるわけですから。

−−録音は常に192kHz/24bitで行っているのでしょうか。

ツィンマーマン氏:どの演奏会でも原則的には96khz/24bitで録音しています。デジタルコンサートホールの配信もこのレゾリューションです。最初からパッケージ化が決まっているものについては192kHz/24bitで録音しています。今回のシューマンについては、192kHz/24bitで録音しました。ラインナップにある96kHz/24bitの音源は、そちらをもとにダウンスケーリングしたものです。

ローベルト・ツィンマーマン氏

−−DSD録音は行わないのでしょうか?

ツィンマーマン氏:実はDSDとPCMの比較試聴をおこなったことがあるんです。しかし、その差は趣味の問題でありどちらがいいとは一概に言えないだろう、という結論になりました。なので編集が簡単だと言うこともあり現在はPCMで録音を行っています。

ただし、将来的に技術の進展があるのならば、新しいものにはどんどんトライしたいと考えています。我々はフラウンホーファー研究所と共同で録音システムの開発などにも取り組んでいます。映像についても同様のスタンス。これまでもソニーと4K収録をするなどの取り組みを行ってきました。

最新技術にも強い関心を持っている一方、アナログレコードにも非常に興味を持っています。シューマンは、8月にアナログレコードでも発売予定です。最新技術とアナログは、それによって新しい世界が生まれるのであれば、全然対極的なものだとは思いませんし、とても面白い試みだと思います。

   ◆   ◆   ◆   


−−今回発売されたものは、外装も非常に凝っていますね。私のような年代の人間にとっては非常に嬉しいのですが、若い音楽ファンのなかには「CDだけ欲しい」とか「ハイレゾ音源だけ欲しい」という方もいるかも知れません。

ツィンマーマン氏:音源のダウンロード販売も当然考えています。ハイレゾ音源サイトや、ベルリンフィルレコーディングスのサイトで販売する予定です。ただ、すぐには出さず、数ヶ月経ってからハイレゾダウンロードだけを提供するかたちになると思います。

インターネットでの音楽販売は、今後ダウンロード型が主流になるのか、ストリーミング型が主流になるのかまだ見えないですよね。趨勢はこの数年で決まってくるのだと思います。我々としても、この動きは非常に興味深く見守っているところです。

−−マニンガーさんに、ハイレゾについてのお考えをアーティストとしての観点からうかがいたいと思います。音質は音楽の体験にとって重要なものだと思われますか。

マニンガー氏:演奏家や指揮者にとって、自分たちがどのような音楽をやっているか伝わることは非常に大事です。ですから、それを忠実に伝えてくれる音は、言うまでもなくとても大切だと思っています。音楽は、非常に細やかな心の動きを反映しているもの。それをとらえることができる方法があるのなら、我々にとっても喜ばしいことです。なのでハイレゾは非常に意味のあることだと思います。


−−アナログレコードについては継続的に発売していく予定なのでしょうか?

マニンガー氏:そうですね。ネットオーディオの良さは、色々なフォーマットを色々なかたちで扱うなど非常に遊べるし操作も便利なこと。一方アナログは、音楽を聴くという行為をリチュアル(儀式的)なものにしてくれます。方向性は違いますが、どちらもひとつの追求した姿。どちらもあって面白いものだと思います。私も自宅ではアナログレコードとネットオーディオ両方を楽しんでいますよ。

−−マニンガーさんはチェロ奏者としての側面と、ベルリンフィルメディア代表という側面をお持ちです。全く違う役割であるふたつをどのように切り換えているのでしょうか?

マニンガー氏:確かに全く違う世界です。でも実は、テーマは同じ。「音楽が好きだから」やっているのです。ツィンマーマンは元々ビジネスマンですが、その思いは一緒です。私がこの仕事をずっとやり続けているのは、音楽が好きで、自分のオーケストラが好きだから。ベルリンフィルというオーケストラの姿勢にも非常に共感しているからです。どちらの役割も無いことは考えられないくらい私の血肉となっています。

−−貴重なお話しを有り難うございました!


(インタビュー:山之内 正/構成:Phile-web編集部・小澤麻実)

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