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公開日 2023/02/22 06:30
【特別企画】PC-Triple C導体を活用

ケーブル技術の最先端を切り開く。サエクのフラグシップ「STRATOSPHERE」RCA/スピーカーケーブルを聴く

山之内 正
PC-Triple Cを採用したケーブルをいち早く製品化した老舗ブランドSAEC(サエク)。そのフラグシップモデルが「STRATOSPHERE」(ストラトスフィア)シリーズである。線径の異なる導体で中心部と外周部を構成し、外周部の導体にもそれぞれ絶縁を施したスーパーストラタム構造を採用しているのが大きな特徴。山之内 正氏が、自宅システムで「STRATOSPHERE」の実力を検証する。

SAEC RCAインターコネクトケーブル「STRATOSPHERE SL-1」(左・286,000円/1.2mペア/税込)。スピーカーケーブル「STRATOSPHERE SP-1」(右・374,000円/2.0mペア/税込) photo by 田代法生

サエクのフラグシップケーブルで、最新の導体コントロールによる音質をチェック



学生時代に物理の実習でアルミの単結晶を作ったことがある。溶かしたアルミが再結晶化する際に振動の影響を受けぬよう地中深い位置でじっくり結晶を形成させ、数cmの棒状の単結晶アルミを手に入れた。電気特性は測定していないが、表面がキラキラと輝く美しい感触はいまもよく覚えている。

オーディオケーブルの資料を読んでいると、そのときの体験を思い出す。ミクロンオーダーの結晶がランダムに並んでいると信号ロスが発生することがなんとなく思い浮かぶのだ。

電気信号をロスなく伝送するために結晶のサイズや結晶粒界をコントロールする製法はいつのまにか著しい進化を遂げた。単結晶や巨大結晶でケーブル素材を作るだけでなく、信号の帯域ごとに導体の種類や径を変えて組み合わせたり、複数の素材を多層構造にして思い通りの特性を得ることもできる。

いまはスマホとフルワイヤレスイヤホンでケーブルを使わず音楽を聴く時代だが、昔ながらのシステムでじっくり音楽を聴きたいオーディオファンは、進化したオーディオケーブルの恩恵にあずかるチャンスに恵まれているのだ。

進化の大きさを実感するにはグレードの高いケーブルの方が分かりやすいだろう。そこでサエクの最上位シリーズ「STRATOSPHERE」に白羽の矢を立て、ラインケーブルの「SL-1」とスピーカーケーブル「SP-1」を自宅のシステムで試すことにした。

前者は1.2mで28万6000円、後者は2.0mで37万4000円と高価なケーブルなので、どんなコンポーネントで試すか悩んだのだが、普段聴いているシステムでそのまま聴いてみることにした。ケーブルの価格はアンプまたはスピーカーの10分の1程度に相当する。

RCAケーブルは自然な発音と繊細な表情実演を体験



SL-1の導体は複雑な構造だ。PC-Triple Cと銀の2層構造の導体(PC-Triple C/EX)を単線のPC-Triple Cの周囲に配置する構造が基本で、それぞれ径が異なる導体を組み合わせている。外周部の導体に1本ずつ絶縁処理を施していることも特徴だ。

RCAインターコネクトケーブル「STRATOSPHERE SL-1」

表皮効果を利用して信号の帯域ごとに導体を最適化する手法を徹底させたもので、製造に手間はかかるが、理屈通りに信号が流れれば特性上はオーディオ帯域で理想的な信号伝送が実現する可能性がある。

リファレンスシステムのSACDプレーヤーとプリアンプ間の接続をSL-1に代え、古楽オーケストラ伴奏を伴うソプラノ独唱を聴く。マイクの存在を忘れさせるほど自然な発音と繊細な表情が浮かび、ホールか劇場で実演を体験しているような錯覚に陥る。もちろん実演ではここまで近づけないが、少なくとも指揮者の位置で聴いているような自然な距離感を確保している。他の聴衆は不在で、一人の聴き手のために目の前で歌ってくれているような感覚。優れた録音だけで味わえる醍醐味だ。

ジャズのピアノトリオはさらに距離が近づく。とはいっても物理的な距離ではなく、間に余分なものが存在せず演奏をそのまま聴いているような近さという意味だ。近くなるほどピアニストの指の動きやベーシストの手首が上下する様子など、実際に身体を動かして音楽を作っていく様子がまざまざと浮かんでくる。

スピーカーケーブルは柔らかく潤いのある感触を引き出す



続いてSP-1をメインシステムで聴く。導体の構成と位置関係はSL-1とほぼ共通で、PC-Triple C/EXは11本用いている。Yラグ端子とバナナ端子を選べるが、今回は後者を試した。

スピーカーケーブル「STRATOSPHERE SP-1」。バナナプラグ付きまたはYラグ付きを選択可能

オルガンが独奏を受け持つシンフォニアを聴くと、低音から高音までそれぞれの楽器の音色を正確に描き分けながら、独奏の旋律や低音部の音形など重要な要素がごく自然にかつ確実に耳に届くバランスを確保していることに気づく。当たり前のことのようだが、どこかの音域や楽器に強調や偏りがあると、旋律がつながらなかったり、リズムの音形が曖昧になったり、いろいろな問題が起こるのだ。スピーカーケーブルを交換したときもしばしば体験するので悩ましいのだが、SP-1はそうした心配を払拭してくれる。

ビッグバンドを従えたジャズヴォーカルを聴くと、SL-1と同様、声の自然な発音はそのままに中高音域の柔らかく潤いのある感触を期待通りに引き出していることが分かる。ホーン楽器やリズム楽器は粒立ち鮮やかなアタックだが声はとても滑らかで柔らかい。

かなり音を追い込んだ筆者の常用システムでここまでの進化を確認できたのは予想外だった。現代のケーブル技術の最先端を切り開く存在ならではの結果だと確信する。


本記事は『季刊・オーディオアクセサリー185号』からの転載です。

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