密閉型/オープン型の姉妹フラグシップ

外観は似ていても音は対照的。AKG「K872」と「K812」を比較レビュー

山之内 正

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2016年12月05日
2014年の登場以来高い評価を獲得しているAKGのオープン型フラグシップヘッドホン「K812」に、密閉型の姉妹モデル「K872」が登場した。よく似た外観を持つ両機の音の違いを、普段からK812を愛用する山之内 正が比較レビューする。


K812(左)/ K872(右)

AKGのフラグシップとして君臨するオープンエア型ヘッドホンの「K812」は、深みのある低音や広大な音場表現など、音楽を立体的に再現するパフォーマンスが高く評価され、プロフェッショナルだけでなく音楽ファンからの支持も根強い。

そのK812の基本設計を継承しながら密閉型のハウジングを採用して新たに登場したのが「K872」である。K812に限らずオープンエア型ヘッドホンは外部への音漏れが避けられないので、環境によっては密閉型しか選択肢がない場合もある。スタジオのモニター用途はその代表的な例の一つだ。

外見はハウジングに開口部がないことを除けばK812とほとんど変わらず、装着感の良さもそのまま受け継いでいる。仕様ではK812の方が2dBほど感度が高いのだが、実際に聴いてみると、その僅かなスペックの違いはまったく気にならない。それよりも2機種の音調の違いの方がずっと大きいからだ。ドライバーユニットの口径や基本構造、振動板素材が共通なので、音も似ているのではと思っていたのだが、両者は意外なほど別の方向にチューニングされている。

ハウジングに開口部がある方(左)がオープン型のK812

具体的にどう違うのか、K812を自宅で愛用している私自身も大いに気になるところなので、ラックスマンのP-700u、ソニーのTA-ZH1ESなど複数のヘッドホンアンプと組み合わせ、K812と聴き比べながら確認することにした。


外観は似ていても音は対照的な両機

K812はモニター用途を視野に入れていることもあり、再生する音楽ジャンルを問わず、解像感とスケール感のバランスがとれたサウンドを聴かせる。そして、冒頭でも触れたように空間情報を引き出す精度が高いので、特にアコースティック系の音源とは抜群に相性がいい。クラシック全般はもちろんだが、ジャズも楽器や声のイメージが立体的で、ほどよい距離感を感じさせる位置にフォーカスの良く合った音像が定位する。ステージの立体的な広がりはオープンエア型ならではの美点といえるだろう。

一方のK872は、楽器との距離が一気に聴き手に近付き、ステージに近い座席に移動したような距離の近さを実感する。耳元でダイレクトに鳴るというほど近くはないのだが、K812に比べると弦も管もアタックが一段階鋭くなり、間接音よりも直接音のレベルが強いバランスに変化した。

K872

アタックの変化は音色にも影響を及ぼすので、低音と中高音のバランスもK812の安定指向から中高域の張り出しが強いバランスにシフト。重心が低く量感豊かな低域を引き出すK812に対し、K872はスピードの乗った低音で実在感を高める方向だ。

ヘッドバンドはメッシュで蒸れにくい構造。長さは11段階に調整できる

耳の周囲と接する面の形状を保持する3Dスローリテンション技術を採用したイヤパッド

K872で《ジャズ・アット・ザ・ポーンショップ》のライヴ録音を聴くと、ベースは重さよりも速さが際立ち、演奏全体のテンポが一段階速くなったような印象を受ける。スティーリー・ダンの《バビロンシスターズ》はパーカッションの切れが鋭く、アタックの速さでリズムパート全体が一歩前に出てくる。そのアクティブなサウンドバランスを聴くと、スタジオモニターとして定番の密閉型ヘッドホンがいくつか思い浮かぶ。K812はオープンエア型ということもあり、じっくり音楽に浸る音楽ファンをターゲットにし、密閉型のK872ではあえてスタジオ用途を意識してK812とは対照的な音を狙っているのかもしれない。

実際にそんな意図があるのかどうかは設計者に直接聞いてみなければわからないが、メーカーの資料によれば、K812と同じドライバーユニットを使いながら、K872では密閉型ハウジングに最適なチューニングを行っているのだという。そうすると、この音の変化は明らかに意図したものとみなしていいだろう。さきほど感度の違いよりも音調の変化の方がはるかに大きいと紹介したが、この音色の変化はまさにその代表的な例の一つだ。音の立ち上がりにエネルギーが強めに乗るので、音量をそれほど上げなくても十分な音圧感が得られるメリットもある。

  

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