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独自開発のディスクリートDACを搭載

マランツ「SA-10」レビュー - 音の正確さとエモーショナルな表現力を兼備した旗艦SACD

公開日 2016/10/26 11:52 山之内 正
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筆者がまず注目したのは、SACD再生時の立体的なステージ再現力である。パーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団が演奏するR.シュトラウスの管弦楽曲は、再生システムの性能が如実に音に現れる録音であり、特にステージ上に並ぶ楽器群の遠近感が装置によって大きく変化する。ディスクプレーヤーが演じる役割は重要で、そこで精度の高い空間再現ができていないと、前後の遠近感が本来よりも浅くなってしまう。

SA-10で再生すると、手前の弦楽器と最後列の金管・打楽器群の間に深々とした奥行きが感じられ、左右にも楽器群が立体的に展開する。そのパースペクティブの大きさは実際のコンサートホールの広い空間を思い出させるほどで、ステレオ音場としては最大級の広がりと言っていい。

SA-10のディスクトレイ

各楽器の音像に精密にフォーカスが合うので、『英雄の生涯』の規模の大きな管弦楽がフォルテシモでも飽和せず、細部まで見通せる演奏の緻密さが見事に浮かび上がってきた。ここまでの解像感と開放感があれば、指揮者のヤルヴィ自身が聴いても十分に納得するのではないだろうか。コントラバスとティンパニは音が俊敏に立ち上がって、連続する速い音符の動きを鮮明な粒立ちで描写、演奏の勢いの強さや奏者の集中力の高さを聴き手に強く印象付ける。

余韻など微小信号の再現性の高さにも特筆すべきものがある。タベア・ツィマーマンの無伴奏ヴィオラ作品集『Solo』(SACD)を聴くと、直接音から僅かに遅れて立ち上がる残響の感触が非常に美しく、フォルテでもピアニシモでも、けっしてぶっきら棒にならず、楽器を柔らかく包み込む。一音一音の質感と重音のハーモニーにとことんこだわるツィマーマンのうまさはもちろんのこと、録音エンジニアの耳の良さまでも実感させ、とても聴き応えがあった。録音の特徴をここまで精度高く再現できるプレーヤーは貴重な存在だが、本機はそこにとどまるのではなく、正確さとともにエモーショナルな表現力で聴き手を惹き付ける力もそなわる。

アレッサンドロ・ガラティトリオの演奏をCDで聴くと、ピアノ、ベース、ドラムの間の微妙な呼吸や空気中で溶け合う音のブレンド具合が驚くほど精妙に伝わる。一音一音はとてもソリッドだが、楽器の間を満たす空気の重さや温度感まで伝える生々しさがあり、生身のプレーヤーが高い緊張のなかで演奏している様子を思い起こさせる。演奏現場の雰囲気を伝える空気感は、DSD変換と高精度なアナログフィルターを組合せたことの効用かもしれない。

正確さを確保しつつ、モニター調とは対極のエモーショナルな表現力を備える

CD再生時には2段階のデジタルフィルターのほか、ディザ3段階、そしてノイズシェイパーとレゾネーターの組み合わせで3rd-1、3rd-0、4th-1、4th-0の4種類を切り替えて、音の違いを楽しむことができるのだが、組み合わせのパターンは計24種類にも及ぶため、最適な設定を選ぶには慣れが必要だ。まずは各設定ごとの音の違いをある程度把握したうえで、複数の組み合わせを試してみると良い。デジタルフィルターとディザは音の変化がわかりやすく、この2つをうまく組み合わせると、アコースティック感や余韻の広がりを好みの方向に近付けることができる。

本機はオリジナルDACの前段と後段の間と、USB-B入力に磁気絶縁方式のデジタル・アイソレーターを配置した「コンプリートアイソレーション・システム・デュオ」を採用している。その効果はUSB入力の再生音にも顕著に現れていて、マランツ製品のなかでも突出して鮮度の高いサウンドを引き出すことができた。

USBケーブルでPCと接続したところ

ディスク再生時と同様、3次元的な音場の広がりが得られることに加え、楽器や声の実在感が高く、音像が目に見えるようなリアルなイメージが浮かぶ。付帯音や強調で音が太らず、マスターをそのまま聴いているようなダイレクト感があるのだが、ドライな痩せた音にはならず、ダイナミックな動きや力感を漏らさず再現する。

正確さを確保しつつ、無味乾燥なモニター調の音とは対極のエモーショナルな表現力がそなわること。それが、SA-10の再生音に共通する資質であることは疑いようがない。DACの性能を追い込むことで、ディスクプレーヤーにまだ進化の余地が残っていたことを実証した好例である。

(山之内正)

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