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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第104回】地味にもほどがある企画!高橋敦が解説する “ボリューム” 大全

公開日 2014/10/31 12:03 高橋敦
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■ボリュームの操作感とは?

ここまでは音量調整の方式というか仕組み、かっこよく言えば「動作原理」みたいな話と、それが音質に与える影響とかについて説明してきた。しかしボリュームについて考えるときにはもうひとつ、もしかしたらそういった理屈よりも大切な話がある。それは一言で言えば「操作感」だ。

まずは「ボリューム操作の手応え手触り」みたいなところはわかりやすいだろう。特にノブ式(つまみを回すタイプ)だと、その回転に適度な重み(トルク感)や滑らかさがあった方が、狙った音量に気持ちよく合わせやすいと感じる方も多いのではないだろうか。

その適度な重みや滑らかさを実現するには、例えばアナログ方式の場合、ポテンショメーター自体の回転の重みや滑らかさというのがまずポイントになる。ここは当然だろう。しかしポテンショメーターというのは多くの場合、オーディオメーカーが独自に開発生産するものではない。汎用品から選択して採用するのだ。なのでここでは、コスト設定とも相談しながらの「目利き」が必要とされる。

しかし設計者の腕というかセンスの見せ所はさらにここから。仮に同じ回し心地のポテンショメーターを使っていても、ボリュームノブの回し心地は製品ごとに異なる。なぜか?

例えばユーザーがボリュームを操作する際に直接つまむ、そのノブの直径によって回転の重みは大きく変化する。基本的には直径が大きい方がユーザーが感じる重みは軽くなる。つまりノブの大きさを調整することでトルク感を調整できるのだ。またノブの形状や表面仕上げもポイントになる。指先にフィットするカーブや滑りにくくグリップしやすい形状、そして表面の仕上げであれば、安定した滑らかな調整を行いやすいだろう。

ただし、上記のような視点からだけでボリューム周りを設計するというのも、それはそれでまずい。例えばボリュームノブというのは、オーディオ機器の「デザイン要素」としても大きなものだ。大きさにせよ形状にせよ、製品全体のデザインとの整合性への配慮も必要になる。また「滑りにくくグリップしやすい」だけを重視して設計したノブが「だけど凸凹ざらざらで持ち触り心地はよくない」なんてことになっていてもこまる。

…というように、「ボリューム操作の手応え手触り」みたいな要素はなかなか奥深いものだ。

デジタル方式のボリュームだと、特に設置スペースに余裕のないポータブル機器では、ノブではなく+とーのボタンでのボリューム操作を採用する場合も多い。もちろん、こちらもなかなか奥深い。

例えばボタンの大きさや形状、そして配置をどうするか。ポータブルプレーヤーだったらそれを左手で持って操作するユーザーもいれば右手で持って操作するユーザーもいるだろう。どちらかを想定した配置にするのか、どちらでも使いやすいような配置を考え抜くのか。ボタンの押し心地にしても、すっと静かに押せるタイプとカチッとしたクリック感のあるタイプと、どちらにするのか。考えなくてはならない要素は数多い。

ちなみにポータブルプレーヤーのボリュームとしては個人的には、Astell & Kern「AK」シリーズが採用している「あえてのダイヤル方式」には感心している。操作感としてもデザイン要素としても見事に思える。

Astell & Kern「AK120II」のボリュームダイヤル

さて最後に少し異なる話だが、「音量変化の滑らかさ」についても触れておきたい。ボリュームの増減の曲線の自然さは確保されているか、微妙なボリューム操作を思い通りにできるかといったところだ。例えば具体的に言うと、「ある地点を境に音量がドカンと急に上がったりガクンと急に下がったりする」「あともうちょっとだけ小さく(大きく)と思って操作しているのに音量が大幅に変化してしまう」というようなボリュームは使いにくい。そうならないようにするには、まずはボリューム回路自体の設計においてそうならないように調整することが必要だろう。

デジタル制御の場合だと「ステップ数」ということで、その増減調整の細かさを表してある場合も多い。例えば96ステップなら1/96刻みの細かさでボリュームの大小を調整できるわけだ。またアナログの場合は先ほど挙げたボリュームノブの直径も、その調整によって「直径が大きいほどより微細な回転をさせやすい」という効果を期待できる。

■終わりに

というわけで今回は地味にもほどがある企画「ボリューム大全」をお届けさせていただいた。ボリュームはそれが搭載されているオーディオ製品全般において、最優先にはならないだろうが、見落としておろそかにしてはいけない大切な要素だ。この地味な記事がそのことを意識するきっかけになってくれればと思う。


高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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