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次世代に向けてサウンドファンが描く

「聞こえやすい環境を普及させたい」- 難聴者向けに開発されたミライスピーカーの展望

編集部:伊藤 麻衣
2017年03月02日
難聴者向けのスピーカー「ミライスピーカー」の開発・製造を行っている(株)サウンドファンが、新製品発表会を都内で開催した。

発表会は立ち見が出るほど反響を得ていた

サウンドファンは、平均年齢56歳、70代のベテラン経営陣も活躍する下町シニアベンチャー企業。日本人の約9人に1人が毎日の暮らしの中で“聞こえにくい”という問題を抱えている。そんな難聴者から健聴者まで、次世代へ多くの人に今よりも聞こえやすい環境を提供する“音のバリアフリー”を実現するという「ミライスピーカー」(関連ニュース)の開発に心血を注いでいる。

そんな同社から、ミライスピーカーの最新モデル「ミライスピーカー・カーヴィー」が登場する。発売日は、“耳の日”とも言われる3月3日。価格はオープンだが、3月3日からオープンする専用ECサイトでは220,000円(税抜・1台)で販売される。

ミライスピーカー・カーヴィー

本製品には、ミライスピーカーの最大の特徴である、同社が開発した世界初の特許技術「曲面サウンド」を採用する。「曲面サウンド」は、後天性難聴者の「普通のステレオスピーカーだと聞こえないけど、蓄音機の音は聞こえる」という言葉をきっかけに開発をスタートした技術。湾曲させた振動板を振動させることで音を出すという。

発表会では、まず株式会社サウンドファン代表取締役 佐藤和則氏が、「曲面サウンド」についてオルゴールと下敷きを使ってのデモンストレーションを行った。片側にオルゴールをあてた下敷きを曲げると、オルゴールの音が大きくなった。下敷きは特別な物ではなく、紙で代用しても同じ現象が起きるという。

オルゴールと下敷きを使って「曲面サウンド」のデモンストレーションをする株式会社サウンドファン代表取締役 佐藤和則氏

その詳細について、サウンドファン取締役兼開発本部長の宮原信弘氏は「世の中の色々な電気製品は、テレビであればブラウン管から有機ELに代わった。アナログレコードもCDへ代わり、今や半導体メモリーへと移り変わっている。スピーカーだけが取り残されて100年が経った。技術の流れの中で、もう一歩、スピーカーの技術を進めるチャンスが来た、と思っている。幾つかのテクノロジーの中で一番分かりやすいのが『曲面サウンド』です」と述べる。

同技術について「従来のスピーカーは、じょうご型の振動板をピストンさせることで空気を圧縮させ、音を発生させているが、音源がピストン部分の一点となるため、スピーカーから距離が離れると音が拡散し、聞こえにくくなってしまう」「しかし、『曲面サウンド』は湾曲させた振動板全体から音を発生させる。ピストン運動はあまりさせいないが、じょうご型の幅のある駆動系に比べ、1枚の板を使っているため疎密波が濃く、音の拡散も少ないため、密度が濃く耳に届く」と説明。

これにより、大きな音を出さずに遠くまで情報を伝えることができ、スピーカーの近くにいてもうるさくなく、遠くにいてもテレビの音声など情報がはっきりと聞こえるとする。さらに、難聴者も聞こえやすい音も実現したという。

宮原氏は湾曲振動板の素材について「最初はプラスチックを使っていたが音が良くない。竹を使うと音は良くなるが、量産性には向いていなかった」と試行錯誤したと語った。その結果、カーヴィーの振動板には、音質・強度・加工のしやすさといった点から、カーボン素材を採用している。

入力端子には、ライン、AUX(3.5mm)、マイクを各1系統ずつ装備。本体前面の下部にあるボタンで入力先を切り替え可能となっている。

「ミライスピーカー・カーヴィー」の背面端子部

大きいノブがボリューム。隣の小さいボタンが入力切替となる

外形寸法は138W×250H×250Dmmで、質量は3.2kg(本体のみ)。本体カラーはブラック/ホワイトの2色を用意する。

名前の通り、本体前面は曲面で構成されている

本製品は、家庭はもちろん、公共施設・企業など様々なシーンでの使用を想定しており、人ぞれぞれで違う“聞こえ”の程度の差に対するソリューションとして活用することで「障害者差別解消法」対策のひとつとしても有効とアピールする。

「ミライスピーカー・カーヴィー」は家庭での使用も想定。会場ではPCやテレビとの組み合わせも展示されていた

■公共施設で活用されているミライスピーカー

ミライスピーカーは、“音のバリアフリーを実現できるスピーカー”。実証実験を行ったところ、難聴者の8割の“聞こえ”が改善し「自分の耳で聞こえる」「補聴器を外しても聞こえる」というコメントもあがっている。

羽田空港のJALカウンターや、大手金融機関、病院、介護施設など公共施設への導入実績を持つ。実際に呼び出し用スピーカーとしてミライスピーカーを使用している病院や銀行などからは「お客様がよく聞こえると言って、カウンターに早く来てくれるようになった」と好評を得ているという。

会場では銀行への導入例をデモしていた

さらに、サウンドファン代表取締役 佐藤和則氏は「海外ではタイの警察病院でも導入されていて『耳鼻咽喉科に通院する難聴の患者が、これまで3、4回呼ばないと反応がなかったのに、1、2回の呼び出しで診察室へ来てくれるようになった。時間短縮ができ、コスト削減にも繋がった』と感謝状が贈られてきた」というエピソードを披露した。

佐藤氏は「今はベンチャー企業なので据え置き型のみの展開だが、来年以降は天井用のシーリングスピーカーやつり下げ型、もっと小型化することもできるのでATMの中や介護ロボットの中、病院の会計端末、駅のホーム用スピーカーとしての展開。さらに電車・バス・飛行機・船・車の中にミライスピーカーが入れば、外部の安全音も拾って入れることができるほか、自動運転のアナウンスを聞こえやすくすることで、高齢者の運転をサポートできるのではないかと考えている。これらを従来のスピーカーと併用しながら幅広くやっていきたい」とコメント。

さらに「ミライスピーカーだけで全てが事足りるとは思っていない。色々な情報ツールがある中のひとつとして、聞こえやすい環境を頑張って普及させていきたいと思っている」と述べた。

■難聴者に対する社会環境などのトークセッションも

発表会に次いで、自身も後天性難聴を抱えていると言う株式会社電通 未来創造グループ/電通ダイバーシティ・ラボチーフ・リサーチャーの阿佐見綾香さん、株式会社FOX-ONE代表取締役一般社団法人スマートサウンドデザインソサエティ理事 藤澤孝史氏、佐藤氏によるトークセッションも行われた。

左から、株式会社サウンドファン代表取締役 佐藤和則氏、取締役兼開発本部長の宮原信弘氏、株式会社電通 未来創造グループ/電通ダイバーシティ・ラボチーフ・リサーチャーの阿佐見綾香さん、株式会社FOX-ONE代表取締役一般社団法人スマートサウンドデザインソサエティ理事 藤澤孝史氏

「約9人に1人が聞こえづらさを抱えているというデータもあるが、社会の中ではどういう状況なのだろうか」という質問に、阿佐見さんは「行政も民間も対応が遅れている。世の中の実態としては、対応策が分からなかったり、その必要性に気付いていない。人とコミュニケーションを取りたい。舞台や映画を見に行ったりしたいけど、やり過ごしてしまうことが多い」と答えた。

佐藤氏は「一見普通に働いている人の中にも、片耳難聴という人が1割ぐらいいて、片耳が聞こえるから誰にも言わずになんとかやっている。難聴であることを申告すると、雇用に対してプラスになることはない。その人は会議の際には、自分が聞きやすい席を取れるように会場に早く行ったりという努力をしている。そういった人のためにも改善できればと思っている」と述べた。

また、「今後、音の環境はどのように注目され、変化していくか」という質問もされた。阿佐見さんは「最初から完璧な対応でなくて良い。できることから企業や行政が取り組んでいってくれれば良いと思っている。聞き取りやすさという視点での取り組みが増えていくと思うし、期待している」とコメントした。

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