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ソニー・ヨーロッパはどう変わったのか

TV売上が3年で3倍に。ソニー・ヨーロッパ玉川社長に聞く、ソニーが欧州で好調な理由

公開日 2015/09/18 17:57 山本 敦
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一方、玉川氏のWOWの意味は、これをひも解けば「Way Of Working(働き方・仕事の方針)」となる。玉川氏本人も認めるほど、内容は平井氏のそれとは違ってもっと“泥臭い”。ただその内容を知るほど、玉川氏がこれまでに築き上げてきた成功の数々が、玉川氏の地道でひたむきな努力の成果に裏付けられているものであることがよく見えてくる。

玉川氏のWOWは「基本8箇条」と呼ばれるステートメントに細分化される。どれもが非常にシンプルな言葉であり、それぞれを貫く共通のスピリットは、玉川氏が繰り返し述べている「当たり前のことを、当たり前のように実現していくこと」であったり、「基本動作の徹底」だ。だからここでは一つずつの解釈は不要だと思うので、敢えて基本8箇条をそのまま紹介する。

・ポジショニングを理解して戦略を立てる。
・それを実行する上で必要なデータを活かして事業計画に活かす。
・単純・透明なプロセスを“見える化”する。
・何が問題なのか根本まで掘り下げて解決を導き出す。
・自らの付加価値を自覚し、最大化する。
・組織の中で上位の者が実践してやってみせる。
・あきらめない、言い訳しない。
・サラリーマン的に働くのではなく、自分ごととして仕事する。

玉川氏は会社のカルチャーそのものを変えることに尽力してきた。そのため社員には羅針盤となるツールを与えなければならない。いまソニーにとって重要なツールは、きちんとしたプランニングを立てて、それが実行できているかをチェックすること。「基本だが、とても大切なこと」と玉川氏は強調する。

一例として、玉川氏がソニー・ヨーロッパの社長に着任して以降、2013年から毎月1回定期的に行っていることがある。それは各国のセールスマーネジャーを英国の本社に招集し、3日間をかけて前月のレビュー、および今後のプランニングを膝を突き合わせて交わし合うという濃厚なディスカッションだ。カジュアルでオープンな雰囲気の中、玉川氏も加わりながら徹底して議論が酌み交わされる。

「これを実行することで、私と社員の間で共通の理解が得られるようになっている。さらにここから重要なことは、彼らの下部のレイヤーである販売の現場まで議論の内容がしっかり伝わっているかということ。そこで、各国のマネージャーには帰国後、彼らの部下たちと同じような定例会議を持たせてることで、同じテンプレートでのディスカッションを徹底させている。これにより私流の“WOW”が末端まで浸透していくと考えている」(玉川氏)

ビジネスのコンセプトを一気通貫で全社員に伝えていくことで、会社の現状把握から目標設定、実行から成果のレビューまで、自らのソニーの中における役割が明確に見えてくる。その成果として、ソニー・ヨーロッパの本丸であるソニーUKが一皮剥け、一歩先に行っていると玉川氏は評価している。この成功例をドイツ、フランス、ベネルクスなど先進国を皮切りに水平展開していくことが、2015年目下の課題であるという。

■国ごとに文化は違ってもビジネスの本質は共通している

ソニー・ヨーロッパが展開する40カ国は、それぞれに違う言語や文化を持っている国々だが、「ビジネスの本質」は共通していると玉川氏は語る。そしてそのビジネスの本質を極めるためには、何より「基本動作をしっかりすること」が大事だという。

「上の者が頭ごなしにやれといっても浸透しないものだが、愚直に実行していくうちに成果が現れることに皆気がつき始める。成果がでることがわかると、仕事が楽しくなってくるものだ。その体験を上の者が下の者たちに伝えていけば、やがて理想は社員全員が、あたかも個人事業主のように自らがソニーを背負って立つオーナーであるかのごとく、自立心をもって仕事ができるようになる。私がソニー・ヨーロッパに関わっていられる時間は有限だが、私が伝えたい“企業カルチャー”はソニー・ヨーロッパに残していくことができるはず。どちらも大変な試みだが、今年と来年までの短期的な黒字化のミッションをクリアしながら、中期的に一番大事なミッションとしてこれに取り組んでいきたい」と語る玉川氏の挑戦は徐々に実を結びつつある。

2012年にインタビューに応えていただいて以来、玉川氏からソニー・ヨーロッパの経営戦略に関するまとまった話をうかがえた機会は筆者にとっても丸3年振りとなった。2012年のインタビュー時は7月の就任から余りにインターバルがなかったこともあり、ソニー・ヨーロッパでの航海はまだこれからといった雰囲気だったが、いまやすっかり“玉川流”の経営がソニー・ヨーロッパに根付き、社員のDNAに組み込まれているようだ。

直接関係ないことなのかもしれないが、ここ数年以来、IFAに出展するソニーのブースがますます活況を呈しているところにも、ヨーロッパにおけるソニーの好調ぶりを感じる次第だ。ヨーロッパの経済環境はドイツなど一部の安定している地域を除けばいまも不調に喘いでいるが、ソニー・ヨーロッパがこれからも苦境の中で勝ち続けていくためには、玉川氏が言うところの「基本動作」を身に着けて、足腰を徹底的に強くしていくことが肝要だ。これからがいよいよ、ソニーの底力が試される時だ。

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