改めて注目を集める理由とは

なぜ、いま「アナログレコード」なのか? “古くて新しい”スタイルが人を惹きつける

山之内 正

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2016年04月15日


なぜ、いま「アナログレコード」なのか?

音楽を聴く手段は山ほどあるが、どうやらそのなかでレコードは特別な価値を獲得したように見える。ディスクメディアの主役をCDに明け渡したと思われていたのに、忘却の彼方に消えるどころか、予想に反して息を吹き返しているからだ。


レコード人気の再燃は、アメリカ、イギリス、ドイツなどで数年前から始まり、日本でも2014年に前年比80%アップの売上げを記録するなど、復活のペースは驚くほど速い。ディスク全体の市場規模が年々縮小していることを考えると、レコードの売上げが右肩上がりで増え続ける状況は予想外だが、その動きはたんなるブームでは終わりそうにない。音楽市場全体に占める割合は3%前後とまだ小さいものの、いまのペースで伸び続ければ、比率の上でも無視できないレベルに拡大する可能性が高い。

消滅寸前だったレコードが蘇ったのはなぜだろう。その理由を知るには、「誰がレコードを買っているのか」に注目するのが早道だ。

これまでCD時代にあえてレコードを買っていたのは、ジャズやクラシックの熱心なファンが中心。CDでは手に入らない音源や稀少盤が主な対象だから、売れる枚数はそもそも多くない。

レコードの音質をとことん追い込むオーディオファンは、CDやSACDが入手できる音源でも、あえてレコードを買うことがある。レコードはCDなどのデジタルメディアよりも再生装置による音の違いが大きく、再生環境に投資してたっぷり手間をかければ、思いがけず良い音で鳴ってくれるからだ。そんなオーディオファンの期待に応えるかたちで、最新録音のレコードが高音質仕様で登場する例も増えてきたが、それでも絶対数は限られている。


若い世代の音楽ファンも注目

既存のレコードファンだけで最近のレコード人気を説明するのは難しい。そこでレコードの新しい購入層として注目されているのが、意外にもこれまでデジタルメディアしか聴いたことがない若い世代の音楽ファンである。CDが登場したのが1983年だから、その後に生まれた世代が音楽を聴くようになる頃はCDが当たり前で、家にレコードプレーヤーがない人も珍しくないはず。いまはCDすら買わず、YouTubeがメイン音源という人も多いと思うが、そんな若い世代のなかに、アナログレコードを買う音楽ファンが姿を現し始めたのだ。


東京・渋谷に昨年HMVがレコード専門店をオープンし、話題を集めた。東急ハンズに近いこのエリアはかつて中古レコードショップ、スタジオ、楽器店などが軒を連ね、新しい潮流に敏感な音楽ファンが自然に集まっていた。そんな場所に再びレコード店がオープンしたのは、けっして偶然ではない。渋谷はいまも音楽カルチャーの重要な拠点のひとつで、この地で誕生したインディーズ・レーベルもたくさんある。その文化のなかでアナログレコードが再び注目され、若い音楽ファンが集まっていると聞いて、私はロンドンやニューヨークの光景を思い出した。

ロンドンやニューヨークはかつて複数の大型CDショップが人気を競っていたが、2000年代なかば頃から大半の店が姿を消し、需要の様変わりを象徴する現象として話題に上った。一方、ベルリンは少数ながらいまも大型CDショップが残っていて、それなりの販売実績を上げている。

その3つの都市に共通する最新トレンドが、レコード専門店の出現だ。東京の渋谷に相当するエリアにいつのまにかレコードショップが出店し、予想外の賑わいを見せている。ベルリンでは市内のレコード専門店に加え、大型CDショップの1階にも広大な”Vinyl”エリアが出現し、レコードを探す音楽ファンの姿が絶えない。以前は小さな”コーナー”に過ぎなかったのだが、行くたびにスベースが広がっていまは専用ルームに格上げされ、在庫も確実に増えた。以前の同コーナーは年配の音楽ファンが中心だったが、いまは世代と性別を問わず、幅広いレコードファンが集まっている。既存のレコードファンと新しい音楽ファンが同じスペースでアナログ盤を探している光景はどこか懐かしさを感じるが、懐古趣味でレコードを探しているようには見えない。いま一番聴きたい音楽を聴くために、陳列棚に腕を伸ばしているのだ。

幅広い音楽ファンを惹きつける、アナログレコードの魅力とは?

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