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名機“Grande Utopia”の設計思想を継承

FOCAL「Utopia III Evo/SOPRA」を聴く ー ハイエンドスピーカーの“到達点”

公開日 2018/03/22 08:00 山之内 正
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Maestro/Scara Utopia Evoを聴く ー スケール感と繊細な描写を高次元で両立

Maestro Utopia Evoで聴くオーケストラは、大量の空気を一気に動かす瞬発力の強さを身体全体で実感できる。インバル指揮・都響のショスタコーヴィチ第8番第3楽章、低弦が刻むリズムは重いものが高速で動くときの凄みを伝えるが、裏拍で鳴る他の楽器を低音が一切マスクしないのでテンポ感が緩まず、推進力と切迫感の強さが半端ではない。

原音の動きの速さをそのまま再現し、速くて重い低音までも忠実に再生する

ムジカヌーダのベースは、重く太い弦の抵抗を感じさせる芯の強い低音を繰り出し、8分音符や16分音符は芯の強さと切れの良さが見事に両立。緩く重い低音はそうでもないが、速くて重い低音を忠実に再現するのはスピーカーにとってかなり難しい課題だ。本機の低音は原音の動きの速さをそのまま再現し、ツインウーファーとは思えないほど反応が良い。ベースが過剰な響きを残さないのでヴォーカルは自然に前に出て、イタリア語の発音はカラッと明るい。

エアボリュームがそれほど大きくない部屋には、シングルウーファーのScara Utopia Evoがお薦めだ。本格派のフロア型としてはサイズ感は手頃で、低めの椅子やソファーに座ってもトゥイーターがほぼ耳の高さになり、ピンポイントに定まる高精度な音像定位など、本機の長所がストレートに伝わる。

山田和樹指揮スイス・ロマンド管の演奏で聴いたルーセルの作品は、ステージから広がる余韻が演奏会場のヴィクトリアホールの空間を彷彿とさせ、格別な臨場感がある。この録音は再生システムと環境によってはティンパニと大太鼓の低音が回り込みやすいのだが、Scara Utopia Evoは低域から中低域にかけて適度なダンピングが効いていて、音符通り自然に減衰する。

曖昧になりがちな音域も、強弱や音色の微妙な違いなどディテールまで聞き取れる

ガラッティのピアノトリオは一音一音の浸透力の強さと質感の高さが格別で、シンバルやスネアのフォーカスの良いクリアな打音や、ピアノの鮮烈なタッチを生々しく再現し、実在感と勢いを聴き手に強く印象付ける。ピアノの最低音やシンバルの金属的な打撃音など、音色が曖昧になりがちな音域も、本機で聴くと強弱や音色の微妙な違いがわかりやすく、ベースのE線も音程をはっきり聴き取れる。そうした細部の描写が演奏に込められた表情やテンションの再現を左右することが多いので、本機の再生音を聴く機会があったら全体だけでなくディテールも確認していただきたい。

ハイエンドながら導入しやすいサイズ感と価格帯を両立する「SOPRA」

SOPRAシリーズは、FOCALの上位機種の中ではエントリーに位置付けられる。環境を選ばず導入できるサイズ感や、上位クラスとしては手頃な価格など、UtopiaやUtopia Evoに比べて一段と身近なスピーカー群である。フロア型の「SOPRA N゜2」はツインウーファーだが口径が18cmにとどまるため、キャビネットはスリムで設置しやすいし、ブックシェルフ型の「SOPRA N゜1」は16.5cmのミッドウーファー1発とトゥイーターを組み合わせたシンプルな2ウェイでさらに設置のハードルが低い。

「SOPRA N゜2」希望小売価格¥1,560,000(税別・ペア)

「SOPRA N゜1」希望小売価格¥960,000(税別・ペア)

サイズはコンパクトだが、投入された技術は上位シリーズ同様に洗練度が高く、ミッドレンジのNICとTMDなど基幹技術は共通である。トゥイーターの振動板にベリリウムを採用している点も同じだが、SOPRAシリーズの2機種は専用キャビネット背面の金属製グリルが目を引く。これはトゥイーターの背圧を吸収するホーン状のIHLシステムのカバーで、音質面での寄与はもちろんのこと、キャビネットの優美なデザインにアクセントを与えている点も見逃せない。シリーズ最上位の「SOPRA N゜3」も含め仕上げ色は6色用意され、Utopia Evoにはないオレンジやレッドを選ぶこともできる。

「N゜2/N゜1」を試聴。ラックスマンのプリメイン「L-509X」とも組み合わせ

SOPRA N゜2の最大の長所は、再生する音楽ジャンルを選ばないことだ。管弦楽やピアノなど音域の広いクラシックの音源ではレンジの広さと壮大なスケール感を引き出し、ヴォーカルを聴くと中高音域のなめらかな感触とエモーショナルな表現力に惹かれる。現代のジャズ録音からはスピードの速さと質感豊かな音色が浮き彫りになるという具合に、アルバムごとの個性をリアルな筆致で描き分けるのだ。

音楽ジャンルを問わず、サイズ以上にスケールの大きなサウンドを鳴らす

最初に聴いたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番はブニアティシヴィリの独奏で、ピアニシモからフォルテシモまで一音一音の音色を吟味し尽くした演奏だけに、再生装置に求める表現力もきわめてレベルが高い。第1楽章冒頭のピアノの和音とそれに続く弦の旋律を聴いただけでも、SOPRA N゜2のダイナミックレンジの余裕は明らかで、想像していたよりも一段階力強いフォルテを再現し、弱音は静謐でニュアンスに富む。

第3楽章はリズムの切れの良さと低音のリアルな空気感が聴きどころで、ここでもサイズから想像する以上にスケールの大きなサウンドを味わうことができた。ルドルフィヌムならではの柔らかいホールトーンは、広々とした開放感も感じさせ、その中で弦と木管が溶け合う美しさに息を呑む。

次ページラックスマンのプリメイン「L-509X」と組み合わせ試聴

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