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「ひこうき雲」から「深海の街」まで

ユーミンのハイレゾ解禁。荒井由実時代を含む全423曲、松任谷正隆×GOH HOTODA対談インタビュー

公開日 2019/09/18 10:04 ファイルウェブ編集部
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■ハイレゾで新しい音に

――今回はハイエンドのシステムで聴いていますが、WALKMAN(R)のようなポータブルオーディオプレイヤーに入れて、ヘッドホンやイヤホンで聴くユーザーなど、今はいろいろなリスニングスタイルが広がってきています。そういう所に対して何かマスタリングで苦労した点はありますでしょうか?

GOH そうですね。まずは新しく聴かせることが一つ。松任谷さんが今まで苦労されて44.1kHzという世界で何とか作った音楽は100%入れたい。ただそれらは、もう世の中に出てるわけですから。今回ハイレゾにする意味は、違った聴こえ方をさせるっていうことだと思うんですよね。今まで聞こえていなかった所、例えばリバーブ感だとか空気感っていうのはやっぱり当時でしかないものがあると思うんですよね、当時の独特のサウンドといいますか。そういうのをクリアに聴かせることによって、時代の影っていうか、陰影っていうのも映るようになってくると。「こんな音が入っていたんだ」とか、「こういうアレンジだったんだ」とか見いだせるように、ちょっと注意しながらやらせていただきましたね。WALKMAN(R)のようなポータブルオーディオプレイヤーでも感じてもらえるように。ヘッドホンも5万円くらい出せばいい音で聴けますから。

――松任谷さんは、リスニングスタイルがこれだけ多様化しているなかでのユーミンのハイレゾ化には思うところはあったのでしょうか?

松任谷 音を製作してると、頭の中はもうフル・ハイファイなんですね。それが録音していくにつれ、何かちょっと違うお皿に乗せている音になってくるわけです。最後のCDだとレトルト食品みたいになっちゃうわけで(笑)。いつもマスタリングが終わるたびに「あれ?」って。これだったら、もうアレンジから変えたいなっていつも思っちゃうくらい(笑)。スーパーオーディオCD(SACD)が出たときには、全部スーパーオーディオCDになってほしいと思った。だからハイレゾの環境がここまで来ても全然遅いよっていう感じなんですけど(笑)

GOH ハイレゾとはスタジオで作ってミキシングした、そのまんまの音を聴かせることができるようになったわけですね。

松任谷 僕らはアルバムが完成すると、必ずスタジオに皆を呼んで完成試聴会みたいなものをしてたんですよ。もうこの先はレトルトになっちゃうからって(笑)

GOH やはりマスタリング技術がまだ上手くいってなかった頃で、オリジナルのミックスを聴くと、CDと全然違うっていう発見もありましたね。「どうして、このまま出さなかったのか?」って言いたくなるくらい。

――他に伝えたいことはありますか?

GOH アルバムとして聴いてほしいというところがありますね。40枚近くあるんですが、アルバムを通して聴く魅力を、僕はマスタリングをやっていて凄く感じたんですよね。1曲目から始まって10曲目で終わるっていう、ちょうど45〜6分ぐらいの長さなんですよね。好きな曲を単曲だけで聴いてしまうと、緩急が分からないまま終わってしまう。あとハイレゾだと凄くクリアに聴こえるから、音に若さを感じると思うんですよ。当時ファンだった人たちも、新しい音で聴くと若さが蘇るというか、自分に反映される事もあると思うんですよ。リマスタリングされるというか(笑)。その意味でも、やっぱりアルバムを通して聴く事をお勧めします。

松任谷 まあ、アルバムを通して聴いてもらうように作ってましたから。今だにそうですよ。アルバムの単位で考えるのも最後になるのかな、といつも思うんだけれども。昔はA面、B面で考えていたし、曲を作っていく時もそういう風に考えながら作っていた。それがCDになって全部通しで聴くようになって。ただその考え方ももう古いのかなって、どこかで思いつつ、でもやっぱりアルバム単位で考える癖はずっとあります。一皿に何曲かのっていて、これで料理ですって感じですかね。

PHOTO:山本佳代子

■今後の音楽産業とハイレゾの関わり

――ハイレゾの環境が整ってきた今日、音楽を届けるにもいろいろなやり方が増えてきました。予想でしかないと思うんですけれども、今後の音楽産業はどのようになると思いますか?

松任谷 そうねえ。たった今、GOHさんから音のサンプリングのサブスクリプションってアイデアを聞いたばっかりなんだけど(笑)。音楽の作り方自体が本当に変わってきているし、これからどんどん変わる。僕らはテクニカルなものとか知識がすごい重要だったけど、今はもっと何か違う価値感で音楽を作っていくプロセスで行われているから、想像もできないような面白いものができてくる感じがします。あとやっぱり、なんだろうな、10年前にいいなと思った音と、今の音って必ずしも違うじゃないですか。変化していって。過去のものなら振り返ると「この時代はコードが良かったね」とか、「このドライなサウンドが良かったよね」とか、「あのゲートっぽいサウンドが良かったよね」とかって分かるんだけど、未来はやっぱり全くわかんないです。例えばクラップとかフィンガースナップとかがメインにきたりする時代なんて40年前には全く想像できなかった。だから想像を絶するような面白いものがでると思うんですよ。

GOH 僕は音楽を作るより聴くのが仕事なんで、もう延々と1枚のアルバムを10回、20回も繰り返しながらマスタリングしてるんですけどね。これからの時代っていうのは、1本のLANケーブルの先にはもう巨大な図書館があると思うんですよね。これはもう、いわゆるCDショップやレコードショップに行って好きなアーティストを探すということから、スマホやパソコンの中で探すということになってくると。そうすると音楽の聴き方、捉え方というのもずいぶん変わっていくと思うんです。ただ僕は思うんですけど、そんな時代だからこそ、やっぱりオーディオっていうか、音楽を聴く環境が、改めて見直されるべきかなと思うんですよね。今は何故か音楽ばっかり売れなくなったって言い方をするんですけど、ソフトとハードの連携がなくなっちゃっている感じがします。

――というと。

GOH いい音楽をいい音で聴くということに今だからこそ帰る時に来てるんじゃないかなと思うんですよね。垂れ流しで聴く、無料で聴くのと、いい音で聴くというのは全然違うことなんで。蛇口をひねれば聴きたくないものも出てきますし、しかも無料だから音が悪いんですよ。そうすると音楽本来の魅力から離れてしまうんですよね。いい機器で聴くといい音がするんだっていうところの価値とハイレゾがうまく連携すればもっと盛り上がってくると思うんですけどね。

――なるほど。

GOH そういう意味では、今回の由実さんのハイレゾ化には45年間にわたるストーリーがあるわけで、僕自身も結構入れ込んで仕事をしました。歌詞は写経のように全部頭に入ってきて、あの次に何の音が出てくる、何がこうなるかっていうのが全部分かるまで聴かないと出来上がらないんですよ。ここでこうなってああなって、こうなってこうなってくる。既に計算されて作られたものなんで、それをデフォルメしちゃうと、せっかく盛り上がるところでも盛り上がらなかったりする。そこまで解釈しながら作業を進めていかなくてはならないので凄く時間かかりましたね。音が良いとかハイレゾだからというだけでは、揚げ物屋さんが狐色な美味しそうなコロッケを作るのと同じくらい当たり前のことですから、それ以上のものが内包されていてこそ価値があると僕は思うんですよね。

■僕が本当に求めている音は“3D”

――最近、5Gがいろんなところで話題になっています。松任谷さんは5Gによって音楽の聴き方の可能性も変わるということに興味を持たれていると伺いましたが、僕らのストア側の立場で考えると、5Gによってハイレゾを聴く人は必ず増えると思います。ただ先ほどあったように、便利であるがゆえに、いいものをいいと感じなくなる可能性もありうるのではないかとも個人的には感じますね。

松任谷 いろいろな人がいるでしょうね。

GOH 音楽の作り方も変わってきてますよね。サンプル音源で制作すると携帯(スマートフォン)で聴くと意外と音がバッチリなんですよ。作り込んでいくというアナログのやり方と、デジタルでのやり方、もしかするとそれらは完全に違うものになってきているのかもしれない。「デジタルはデジタル」という作り方をすれば、それはそれで時代にあったものになっていくかもしれませんが、でも96kHzだから音が良いかというと、そうでない場合も多いんですよ。やはりスペックだけではなくて、そこに含まれている内容次第だと思うんです。内容が良くないと、例え192kHzでもいい音はしないと思います。説得力が無いというか。

――なるほど。

GOH その意味では今回のお仕事は凄く光栄なことです。だって日本の最先端でやられていた70年代、80年代のトップのミュージシャンですから。録音技術も「State of Art」と呼ばれていたくらい、どんどん進歩していった時代じゃないですか。アナログコンソールがオートメーションで自動で動くようになったり、70〜80年代のマイクロフォン、今ならヴィンテージの機材が当時は新品で使われていたわけです。

松任谷 それでも昔は日本の技術は遅れていて、僕が本当に求めていた音は“3D”だったんですけどね。その“3D”がどうしても出来上がっていくにしたがって平面的になっちゃう。「どうしたら“3D”が出来るんだ?」って、ずっとその戦いだったんです。だから「アメリカに行って録音すれば“3D”に近くなるのか?」とかね。「こういう方法で録音すればもっと“3D”になるのか?」とか。それこそ部屋とか電気とか、いろんな要素まで考えました。

GOH でも、そのあたりをトライされているのが、作品の中に全部出ているから面白いですよね。そういったところもハイレゾならではで聴き取れますよね。

松任谷 結局テレビは8Kになってきているし、映画も3D眼鏡をかけるようなものも普通になってきているし、コンサートもホログラムを使うようになってきているじゃないですか、まだまだだけど。僕は人の欲求というのは、どうしても「立体にしたい」ということだと思うんですよね。だから音も当然“3D”になっていかなきゃいけないと思います。

GOH その点では今回のハイレゾは随分立体的になりましたよね。封じ込まれていた魔法の内容物がすべて入っていたという事が素晴らしいです。

――どうもありがとうございました。

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