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「ひこうき雲」から「深海の街」まで

ユーミンのハイレゾ解禁。荒井由実時代を含む全423曲、松任谷正隆×GOH HOTODA対談インタビュー

公開日 2019/09/18 10:04 ファイルウェブ編集部
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オンキヨー、レーベルゲートの2社は、それぞれが運営するハイレゾ音源配信サイトe-onkyo musicおよびmoraにて、松任谷由実の楽曲のハイレゾ配信を、本日9月18日より開始する。

荒井由実時代を含む松任谷由実の楽曲全423曲がハイレゾ配信

配信が決定したのは、最新曲「深海の街」(テレビ東京系『WBS(ワールドビジネスサテライト)』エンディングテーマ曲)と荒井由実時代含む、松任谷由実の全423曲。

この配信を記念し、2社合同による「松任谷正隆×エンジニア GOH HOTODA対談インタビュー」が実施された。以下に、発表されたインタビューの模様を掲載する。


ハイレゾが日常化してきた昨今であるが、いまだに全曲がハイレゾ化されていない人気アーティストもいた。そのひとり松任谷由実のハイレゾがついに配信された。まさに今年最大の音楽ニュースであるし、ハイレゾの歴史上でもエポック的な出来事だろう。

ハイレゾ化されるのは荒井由実時代の『ひこうき雲』から最新作の『深海の街』まで。全シングル・アルバムが一挙にハイレゾ配信される。45年以上にわたって第一線で活躍していたユーミンだけに、ハイレゾ配信はまさに往年のファンから若い世代までが心待ちにしていたものだ。と同時に日本の音楽シーンの歴史を伝えるハイレゾでもある。

そこで今回は〈ユーミン全曲ハイレゾ配信開始〉を記念して、荒井由実/松任谷由実のアルバムをプロデュースしてきた松任谷正隆氏と、今回のハイレゾ全曲のマスタリングを担当した音楽エンジニアのGOH HOTODA(ゴウ・ホトダ)氏のスペシャル対談をお届けする。実際に製作に関わったお二人に、ハイレゾ化に際しての話、ハイレゾでの聴きどころなど貴重な話を伺った。
インタビュー:祐成秀信(e-onkyo music)、蔦壁健二郎(mora)
テキスト:牧野良幸


松任谷正隆氏(左)、GOH HOTODA(右) PHOTO:山本佳代子

■お二人をお迎えして

――本日はよろしくお願いします。今日はハイレゾ音源も揃えてありますので、のちほどこちらのオーディオで実際に聴いていただこうと思います。

(お二人、リスニングルームにあるオーディオ・システムを見て)

GOH スピーカーはB&Wですね。うちにあるのと同じですよ、高いやつ(笑)

松任谷 これ、いくらくらいかな?

GOH 180万ぐらいしますか、ペアで400万ぐらいかもしれないし……。ハイが凄くでるんです。(800D3)

松任谷 これで音を作ると大変なことになるよね(笑)

GOH ちょっと厳しいですね(笑)。キックドラムとか、ソロで聞けません。全て一遍に聞くようにできています。2ミックスしか再生できないスピーカーです。

■内包されている魅力を今の時代に反映するマスタリング

――ではお聞きします。まず、今回マスタリングはどちらのスタジオで?

GOH 僕の自宅のスタジオですね。

――アナログからデジタルまで、いろいろなフォーマットがあったと思うんですけど、それはGOHさんの方でデジタル化したのですか?

GOH まずはユニバーサルのスタジオで96kHzで取り組んでもらいました。48kHzの音源に関してはもう1回プラグインで96kHzに全部伸ばして、それらのデータを僕の所にもらって、そこから作業を始めました。

――その時代によって音が違う音源を、今回の〈2019リマスタリング〉で一つの統一感というか、そういうようなことをされたと思うんですけど、今回のリマスタリングのテーマや、意識された音作りというのは?

GOH やはり内包されている魅力を今の時代に反映するというか、今の時代の耳で聞いて、今の音で聴かせたいということですね。どういうことかというと、ある程度エッジが効いていたりとか。あと最近の流行入りというわけじゃないんですけれども、ちょっと歪ませるんですよね。でも歪むっていうのは、オーバーリミットするんではなくて、ちょっとしたサチュレーションやエキサイターで。それが今の音楽で大事なわけです。ちょっとざらっとした質感っていうんですかね。昔のアナログテープには、やっぱりそういう音は狙って作ってないので含まれていない。本当にスパイスみたいなもんなんですけどね、そういうのをちょっと加えることによって、他の音楽と同じトレンド感が伝わるように工夫をするんです。

――なるほど。

もちろんオリジナルの雰囲気は失われないようにしています。ただ僕の考えではリマスタリングというのは単に修復ではないのです。ノイズをとって綺麗にするのは当たり前のことで、それ以上のことを自分の耳を通してやってみたいなと思ってました。その辺のことを松任谷さんに――3週間に1回とか月に1回ぐらい――聴いてみていただいて、こういうアプローチにしてみよう、と。あとは今自分が取り組んでいる現状を、すでに発売されているCDと常に常に聞き比べながらやりました。皆さんが思っている印象は大事ですから。

あんまり変えてしまうと、全然違うものになりうることもあるので。でも分からない程度に「新しい」っていう感じになるというか。冷凍されたものではなくて、“今、録れたての音”っていうのがあると思うんですよね。音というのは新しければ新しいほど新鮮に聞こえるものなんですよね。おもしろいことに。

――マスタリングの方向性は、お二人ですり合わせをされていたんですか?

松任谷 僕は聴いて音さえよければ、それでOKです(笑)

GOH でも新しい発見とかあるから、面白かったですよね。

松任谷 プロデューサーとエンジニアの関係が変わってきたと思うんですよね。昔はエンジニアというともうちょっと技術屋さん寄りだったんだけど、今は作曲家と編曲家の関係がプロデューサーとエンジニア。だから、ここからはアレンジしてくださいっていう感じで。それが好きか嫌いかだけ。

――お二人のお仕事はいつ頃からでしょうか?

GOH 『宇宙図書館』(2016年)からですね。

松任谷 なんかずいぶん長くやってるような気がするけど、実はそんなに長くないんですね。ただやっぱりそういう感覚でやってくれる編曲家的な、音を料理してくれるようなエンジニアとなかなか出会えなかったんですね。

GOH 本当に光栄です。

■マスタリングで発見できた魅力

――それにしても松任谷由実さんのアルバムというと、凄い数だと思うんですけれども、ハイレゾ化にはかなりの時間はかかりましたか?

GOH 正直ね、かかりました(笑)

――今回マスタリングしたことによって発見できた、松任谷由実さんの楽曲の魅力はどんなところでしょうか?

GOH そうですね、まず由実さんの歌詞の世界があります。それから日本の音楽シーンの最先端を開拓されてきたサウンド。それらが非常によく分かりましたね。あと何よりもまず僕は松任谷さんと由実さんのファンだから、ファンとしての発見もありました。

――正隆さんのご感想は?

松任谷 アナログの時代も、CDの時代も、マスタリングは(レトルトにするみたいで)拷問だったから、ハイレゾになってようやくそれから解放されていく感じ、でしょうか

――これまで、いろいろ苦労されたと。

松任谷 フォーマットも色々あったからねぇ(笑)

GOH その時代の中で当時のマスタリングをされてきてるわけなので、今ここで全ての時代を経て一つの全集を作るに当たって、やっぱりその時代のことも考えながら取り組んでいかなくてはいけませんでした。アナログの時代からデジタルに変わった時期、録音スタジオ、機材のこともいろいろあったわけで。その辺のトランジションがなかなか難しいところはありますね。

松任谷 僕は大きく分けると4つの時代がありましたね。最初はアナログテープを使った“アナログ・レコーディングの時代”。次が“デジタルへの端境期の時代”。それから“シンクラヴィアを使い始めた時代”そして“いろいろなものがミックスした時代”。それも大きく分けると2つとか3つに分けられるんだけど。それらの、いろいろな時代のものを、今のGOHさんの耳で解釈して、本当にいいところに着地させてくれた。大変だったと思いますよ。

GOH やっぱり歌の聞こえ方はもちろん基本中の基本なんですけれども、サウンドの聞こえ方っていうのもあると思うんですよ。今の人たちは古いものを、知らないっていうわけじゃないんですけれども、新しいものを聴いているので、エッジが立ってるっていうんですかね、シャキッとした音に反応される方が多いんじゃないですか。そうなるとやっぱり70年代のものはアナログだから音が丸くて、それはそれでいいんですけれども、エッジを立たせるというか、シャキッとしたハイを効かせるというのは、やはり一つのテーマでありましたよね。レンジの広さっていうんですかね。10〜20年ぐらい前のマスタリング技術は、今みたいにまだ進んでなかったので。

――なるほど。

GOH 例えば昔のマスタリングは平均値を出すというか、ラジオでかかる音楽やテレビで流れる音楽は、ボリュームが大きければ大きいほどいい、という時代がありました。結果、録音やミックスされたものから失われたところがあったと思うんですよね。そういう失われたものをハイレゾで引き出したことで、由実さんの歌詞や歌の魅力とか。松任谷さんがアレンジされた、その当時の音楽のファッションっていうんですかね、そういうものがよりクリアに伝わるというのがハイレゾの一番の魅力じゃないかなと思うんですよね。

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