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制作と再生の両軸で発展

<NHK技研公開>「フルスペック8K」ディスプレイやプロジェクター、制作システムが “2020年” に向け大幅進化

公開日 2017/05/23 20:26 編集部:押野 由宇
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NHK放送技術研究所が8Kスーパーハイビジョンやスマートプロダクション、インターネット活用技術など各種研究成果を一般に披露する「技研公開2017」が、5月25日(木)から5月28日(日)の4日間にわたり開催される。本日一般公開に先立ち、プレス向け見学会が行われた。本稿では「フルスペック8K」の制作環境や再生機器に関する情報をレポートしたい。

「技研公開2017」

2020年を目指した「フルスペック8K」の再生環境の促進

今年の技研公開は「2020年へ、その先へ、広がる放送技術」をテーマとしており、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックで活用するための開発目標を掲げる展示が多かった。

フルスペック8Kとは、高解像度(8K)、広域色(BT.2020)、ハイダイナミックレンジ(HDR)、多階調(12bit)、高フレームレート(120Hz)を兼ね備えた映像であるとし、昨年実施された技研公開2016でも同キーワードを提唱した展示が行われていた(関連記事)。

フルスペック8Kの項目

今年の技研公開では、そのフルスペック8Kへの対応が制作環境、再生環境ともに進化しており、それぞれのブースで最新状況の説明とデモンストレーションを実施された。

8Kの家庭用ディスプレイとして昨年発表された、有機ELを用いた薄型・軽量のシート型ディスプレイは、120Hzへの対応を実現。また全体ではなく一部の最高値として750cd/m2の高輝度を獲得しており、これは前年の5割増しであるという。

有機ELによる130インチの8Kシートディスプレイ

有機ELは大型化が難しく、ブースでは4Kパネルを4枚貼り合わせることで8Kの130インチディスプレイとして展示された。フルスペック8Kに向けては、HDRへの対応も推進していくが、まずは1枚のシートで8K解像度を表示可能なディスプレイの開発を目指すとしている。

シートディスプレイの厚さは2mm。写真はボールペンとの比較

また、フルスペック8K映像を450インチの大画面に投写できるレーザープロジェクターは、従来比約2倍の明るさを持つ高輝度レーザー光源を用いるとともに、レーザー光がスクリーン面で干渉することで生じる色ムラを約半分に低減。HLG方式のHDR映像にも対応した。

写真右がレーザープロジェクターのヘッド部、左が信号処理装置

JVCケンウッドと共同開発されたこのプロジェクターは、レンズを搭載するヘッド部、信号処理装置、レーザー光源ユニットの3つで構成されており、設置に必要なスペースはコンシューマー向けプロジェクターからイメージされる外観とは比較にならないほど大きい。また現在は特注品となる1機があるのみで、コストも相当掛かるという。

レーザー光源ユニットは巨大なラックに収納されていた

2020年には東京オリンピック・パラリンピックでの大画面パブリックビューイングに活用できるよう、性能の改善や小型化、生産量の増加などからのコストダウンを図る予定とした。

PCにソフトウェアを導入することで、8K映像と22.2ch音響を再生できるシステムも昨年に引き続き展示された。Spin Digitalと共同開発されたというこのソフトは、48kHz/24bitの放送規格を超えたハイレゾ再生や、ヘッドマウントディスプレイへの出力にも対応。

ソフトウェアにより8K映像と22.2ch出力を実現。全てHDMIにて出力されている

担当者によると「PCベースであることを活かした幅広い活用を目指すとしており、技術としては完成しているため、メーカーからの製品化についてはコンテンツなどの動向を見据えながらになるのではないか」とのこと。

ライブでフルスペック8K放送するための技術が進化

制作システムでは、世界初となるライブでのフルスペック8K制作環境が展示された。2016年の公開では、8KやBT.2020、12bit、HDR/60Hzのライブ制作環境、また120HzだがダイナミックレンジがSDRの技術展示が行われていた。

デモ用に設置された制作環境

今回はHDRと120Hzをともに満たしたフルスペック8Kを実現。そのために144Gbpsの高速インターフェース、ワイプや映像を徐々に合成して切り替えるディゾルブも可能なライブスイッチャー、文字合成装置、異なる映像信号の位相を揃えるフレームシンクロナイザーを新開発。さらにフル解像度8K単板カメラを120Hzに対応させるとともに、記録メディアの小型化を実現した。

フルスペック8Kに向けた制作機器は新開発されたもの

8Kでの多彩な番組制作を目指し、8K映像を4倍速(毎秒240枚)で撮影し記録することが可能な8K高速度カメラと、8K映像をSDメモリーカードに記録できる8Kカムコーダー、8Kスローモーションシステムも試作展示。スポーツなどの速い動きをより鮮明に撮影できることに加え、プレイバックをリアルタイムでスロー再生できるようになるという。

8Kスロー再生機器の試作機。現在はモノクロだが、今年中のカラー対応を目指すという

8Kカムコーダーの試作機。SDカードは市販のものを使用できる

すでに8K/60Hz/HDRでの試験放送は行われており、東京オリンピック・パラリンピックでのフルスペック8Kライブ制作実験として、パブリックビューイングの実施を目指して研究および開発が進められるとしている。

フルスペック8K対応のカメラにより撮影された映像が即座にモニターに表示されていた

HDR撮影についても、1台のカメラでHDRと従来のSDR信号を同時に出力可能なHDR/SDR一体化制作カメラが開発された。明暗差の大きな被写体や色鮮やかな被写体に対して2種類の自然な映像を出力できるとして、機材や要員の効率化が図れるという。

HDR/SDR一体化制作カメラのデモ

写真左がHDR、右がSDRでの映像

また、彩度の高い被写体においては色の階調が失われることがあった問題に対し、RGB信号レベルに応じて彩度を抑え、演算コストの低い色補正手法も開発。これにより、HDRからSDRに変換した映像の色再現が改善されることになる。

色再現改善技術の解説図

8K映像の生中継のための無線伝送システムについても開発が進められており、マイクロ波帯およびミリ波帯の伝送に用いる可搬型伝送装置「FPU」を大容量化。8K/4Kに適した映像圧縮符号化方式である「HEVC/H.265」による8K映像のリアルタイム符号化・復号化を実現する素材伝送用エンコーダー/デコーダーが開発された。これにより、撮影された8K映像を高効率にエンコード、伝送、デコードすることで8K生中継が行えるとし、今後はさらなる設備の小型化を目指すという。

無線伝送システムのイメージ

加えて、地上放送の高度化を目指した次世代地上波放送システムについても紹介された。スーパーハイビジョン衛星放送でも採用されたメディア伝送方式「MMT」技術を応用した仕組みを導入。移動端末向けのサービスとして、放送の電波が届かないところでは通信による同時配信を受信して、映像・音声の途切れを防ぐことが可能となったとのこと。

8Kスーパーハイビジョンに合わせた音響再生も強化

8Kスーパーハイビジョンではステレオ、5.1chとともに22.2chの音響信号が配信されるが、こうした音周りのデバイスも展示。ワンポイントで22.2chを収録するためのマイクは、スピーカー位置を指向する主マイクと指向特性を改善する補助マイクによる32本で構成されており、スピーカー配置に応じた方向ごとの収音を実現。制作現場に導入され活用できるよう、小型化などの改善を目指していくとした。

22.2chをワンポイントで録音するために32本のマイクで構成

家庭での22.2ch再生環境の研究として、ラインアレイスピーカーとトランスオーラル再生法によるデモンストレーションも行われた。シャープとの共同で進められている研究で、9chのユニットを搭載したラインアレイスピーカーをディスプレイの上下に1本ずつ設置、左から出た音を右耳でも聴いてしまうクロストークをフィルタ処理により解決するというトランスオーラル再生法を用いることで3次元音響を実現しているという。

デモではラインアレイスピーカーをディスプレイの上下に設置

富士フィルムと共同で研究が進められている薄型スピーカーも試聴展示された。かける電圧によって伸縮・変形する高分子な粘弾性圧電コンポジットフィルムを用いたスピーカーで、このフィルムの変形によって音を出す仕組みのため、ユニットを搭載するスピーカーより成形の自由度が高いことが特徴となる。

薄型スピーカーはサイズや形状など設計自由度が高いのが特徴

富士フィルムと共同で研究された粘弾性圧電コンポジットフィルム

ブースの担当者は「すでに音を鳴らすことはできるため、実用化に向けてはどのような形にするのか、テレビなどに搭載するのか単独の機器とするのか、音質の追求といった課題もあるが、いずれ製品として技術が活かされたらと期待している」とコメントした。

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