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「つくづくアニメは面白い」

4K化で報われた − 押井守監督が語るUHD BD版『GHOST IN THE SHELL』『イノセンス』の “新体験”

公開日 2018/06/15 17:00 編集部:押野 由宇
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ただ明るいのではない、色彩設計を壊さないHDR化

ここまでを一気に語った押井監督。それだけ作品とメディアコンバートへの考えが確固たるものがあるということだろう。今回のUHD BD化にあたっては、4Kリマスターが行われている。そこでの作業については、キュー・テックの今塚氏より解説が行われた。

今塚 誠氏

基本的な作業フローとしては、HDリマスターと変わらないという。「まずは35mmのマスターポジフィルムを5K/16itでスキャンしています。それから粒子軽減と画像修復を経て、SDRとHDRのカラーグレーディングをそれぞれ別に行いマスターを作成しています。4KはHDの4倍の面積・情報量なので、時間をかけて専門技師がリマスター作業を進めてきました」。

また5K/16bitのスキャンについては、アーカイブとしての意味があることにも触れつつ「5Kスキャンは、我々が所有しているスキャナーの最大サイズになります。加えて、階調表現を豊かにするために16bitを選んでいます」とコメント。

さらに「SDRとHDRでは、見え方が変わります。SDRで見えない部分がHDRだと見えてくるので、ノイズを逆に強調してしまったり、明るい部分と暗い部分で粒子補正のかかり方も違ったりもします。そのため最終的にHDRグレーディングでは過剰な輝度調整による映像の破綻を起こさぬよう注意し、輝度の高い部分に出やすい粒子成分は現場の専門技師と念入りな相談を繰り返しテストをしながら進めました」と、繊細な作業が行われたことを説明した。

また粒子補正で使った機材は、キュー・テックが開発した「FORS」という技術が使われているという。この技術は高音質・高画質を追求する同社独自のノウハウによって生まれたもので、数多くのパッケージメディアに採用され、その品質の高さに寄与しているものとなる。

HDR化の観点においては、「色彩設計を壊さない」ことを念頭においたという。「HDRのレンジに置き換えた時に、比較的光の少ないドラマのシーンなどはSDRとほぼ同じような見え方をするべきと考えています。アニメーションでは、光を表現する方法として、色の明暗で表現をするものと透過光で表現するものがあり、前者はあくまでも色であって光ではないので、輝度を抽出することは難しいが、透過光の場合はフィルムに100%以上の光の情報が記録されているので、SDRでは100%以上の光は切られていた光が、HDRでは100%以上の光を残すことができます。このように色彩設計を壊さずに光をより強く表現できるような方法を採用しました」。

「HDRですと暗部の階調が良くなると言われますが、すでに色彩設計が決まっているものに対して暗部がこれだけ見えるよ、と強調するのは、逆にここは見えてはいけないという部分まで見えるようになってしまうことになります。そこは既存のマスターを参考にしながら仕上げました」(今塚氏)。


これを受けて、押井監督もコメント。「僕はハイトーンの部分より、暗部にこだわってきたつもりなんですよ。『天使のたまご』の時もそうでしたが、どこまで沈められるか。濡れたような暗部。この暗部が浮いてしまうことを最も恐れていたんです。暗部の表現に関して、初期のデジタル化ではどうしても浮きを抑えられなかった、辛い記憶がある。今回は暗部が十分に沈んでいます。もとの考え方を再現して、見せすぎていない」。

その一方で、「暗部をなんでも見せることが良い画だとは思っていないけれど、見えるか見えないか、ギリギリのところは見えて欲しいという微妙な立ち位置です」という。「例えば『イノセンス』のオープニングの、ミクロよりもっと細かいナノパーツが肌に吸着するシーンとか、苦労して作った記憶がある。光ファイバーが玉虫色に、色が変化しながら揺れているところなんかも、DVDではまったく見えない。スクリーンでようやく見えた。そういったせめぎあいなんです。今回のUHD BDの映像を見て、暗部に関して僕は安心しました」。

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