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脳を活性化するウルトラディープ処理の詳細とは

“肌で聴く”ハイパーハイレゾとは?「交響組曲 AKIRA 2016」の音の秘密を山城祥二氏に訊く

公開日 2016/07/16 00:06 インタビュー:岩井 喬/構成:ファイル・ウェブ編集部
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通常音源に超高周波を付与する
「ハイパーソニック・ウルトラディープ・エンリッチメント」


仁科:「ハイパーソニック・ウルトラディープ・エンリッチメント」、略して「ハイパーソニック・ウルトラディープ処理」は、「交響組曲 AKIRA 2016」のために大橋先生が開発した技術です。この作品では、DVDオーディオ用のマスター(96kHz/24bit)と一部CDマスター(48kHz/24bit)を使用しているので、最大48kHzまでの帯域の信号しか元の音源に入っていません。これに、熱帯雨林で録音してきた環境音の、人の耳には聴こえない超高周波をミックスするんです。

フラクタル構造の超高周波成分として、大橋氏がこれまで録音してきた熱帯雨林の環境音をミックスする

―― なぜ、熱帯雨林の音なのでしょうか?

大橋:熱帯雨林には多くの種類の昆虫が棲息しています。昆虫は種類によりそれぞれ固有の振動を持っていて、それがフラクタルな周波数を生むんです。だから手つかずの熱帯雨林の音がいいんですね。同じ熱帯雨林でも、アマゾンはその点で実は大したことないんです。わざわざ行って、本当にもう徒労でした…(笑)アフリカとか、東南アジアの環境音がその点では優れています。ボルネオなんかは、アフリカよりも古いと言われる熱帯雨林もあるんですよ。


―― そこで録ってきた音が、今回の「交響組曲 AKIRA 2016」にもミックスされていると?

大橋:そうです。5.6MHzDSDで、200kHzまでフラットに録れる特別なレコーダーを作って、マイクも特別なものを使って、ここ10年くらいかけて録ったものです。

―― どのようにミックスを行うのでしょうか。

仁科:主にDVDオーディオ用のマスター(96kHz/24bit)と、そこに入っていないSEを復活させたり音の強さを出すためにCDマスター(48kHz/24bit)をもとにして、音楽信号とリンクするようVCA(Voltage controlled amplifire)回路で制御した熱帯雨林環境音の超高周波(5.6MHz DSD 2ch)を加えて、NEVEの特注コンソール「AMEK 9098i」でミックスしています。それを、大橋先生が独自開発した11.2MHz 8chレコーダーで録音しています。

ウルトラディープ処理を行うために今回用いたシステム構成

―― 高周波成分はVCA回路でコントロールしつつということですが、どういう部分にシグナルをひっかけているのですか?

仁科:実に鋭いご質問ですが、それは企業秘密です(笑)

―― なるほど(笑)それと「ハイパーソニック・ウルトラディープ・エンリッチメント」をかける際、追加した高周波成分が楽器自体の持つ複雑な周波数と食い合ったりはしないのでしょうか?

大橋:そういうことはありません。VCA回路によって、音楽のレベルに対応して超高周波成分のゲートを開閉するので。追加した超高周波はうんとミクロな、msecオーダーの独自のゆらぎを持っているので、食い合うというより効果が倍増するんですね。なのでちょうどその楽器の倍音のように色々なスペクトルを作れて、理想的な倍音になるんです。

ウルトラディープ処理では音楽のレベルに合わせて高周波成分を付与。理想的な倍音を作れるのだという

―― 実際、「ハイパーソニック・ウルトラディープ処理」を施した音源を聴いてみて、CD音源との音の違いに驚きました。たとえば「回想」は、舞台が横一列に並んでいますよね。CDだと綺麗にまとまってはいるんだけど、ちょっと音を重ねた感じがしていた。でも今回のものは空気感が一体化しているというか……作り込まれた世界なんだけど、生の空間が感じられるようになって面白かったです。

大橋:おっしゃるとおりです。音にリアリティが出てくるんですね。その場で実際に生楽器から出ているかのような。ノイズ感が低くなって、透明度が高くなるんです。だから生々しく、定位もハッキリして解像力が高くなります。


高田:「回想」は、ハイパーハイレゾ化でいちばん雰囲気が変わった曲だと思います。ビクタースタジオのいちばん広い部屋で一発録りしたものでした。音が研ぎ澄まされると、演奏者の「気」を感じられるようになりますね。


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