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脳を活性化するウルトラディープ処理の詳細とは

“肌で聴く”ハイパーハイレゾとは?「交響組曲 AKIRA 2016」の音の秘密を山城祥二氏に訊く

2016/07/16 インタビュー:岩井 喬/構成:ファイル・ウェブ編集部
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マンガ史に残る傑作のひとつ、大友克洋氏の「AKIRA」。1988年には同氏の監督による劇場版アニメも公開され、漫画、アニメともにいまなお世界中で多くのファンを集めている。

劇場版アニメで音楽を担当し、大友氏の描く緻密でサイバーパンクな世界をさらに深めたのは、「芸能山城組」主宰の作曲家・山城祥二氏。そんなAKIRAのサントラが、このたび11.2MHz DSD等で配信されることになった(関連ニュース)。こちらはただのDSDではなく、芸能山城組主宰の山城祥二氏が長年研究・開発してきた「ハイパーソニック・ウルトラディープ・エンリッチメント」を施した“ハイパーハイレゾ”というのが大きな特徴だ。

「ハイパーハイレゾ交響組曲 AKIRA 2016」

山城氏は音楽家であるとともに、脳科学者 大橋 力という顔を持っている。人間の可聴帯域を超える高周波を音楽に付与・補完することで、脳を活性化させ音楽の感動をより深く呼び覚ますという“ハイパーハイレゾ”。それはいったいどんなもので、効果はどれほどなのか?

今回、大橋 力(山城祥二)氏、マスタリングを担当した放送大学教授の仁科エミ氏、ミキシングを担当した高田英男氏に、岩井 喬氏がお話をうかがった。

右から仁科エミ氏、大橋 力(山城祥二)氏、高田英男氏



ハイパーハイレゾ交響組曲 AKIRA 2016
DSD 11.2MHz アルバム¥5,292(税込)/単曲¥864(税込)
DSD 5.6MHz アルバム¥4,212(税込)/単曲¥756(税込)
192kHz/24bit WAV/FLAC アルバム¥3,672(税込)/単曲¥648(税込)





そもそも「ハイパーソニック・エフェクト」とは?

―― 「交響組曲 AKIRA」は誕生のときから、その情報量を入れきれる従来メディアがないと悩んでいらっしゃったそうですね。

大橋:ええ、特にCDの音には不満を感じていたので、CD全盛期には山城組の新譜を出さなかったくらいです。なのでもう、やっと息を吹き返した感じがします(笑)

高田:もともと大橋先生の考えているAKIRAの音楽の世界が、立体なんですよ。これまでのCDやDVDオーディオでも、それをある部分は表現できていたと思うんですが、満足できなかった部分もあり……。今回11.2MHzのDSDになって、ひとつの完成形をみたと感じています。

大橋:CDは音がカッチリしますから、破壊力というか、強さを出すために敢えてそういう音づくりをしていたんです。その結果、作品はうまくAKIRAと統一されたイメージを持って世界に出て行って、作戦としては一応成功しました。けれどそれが苦肉の策であることは、私自身よく承知していたんですね。でも、他にやりようがなかった。DVDオーディオでマルチチャンネルになれば多少いいかと思っていたんですが、やっぱり私の理想には、まだ届かなかった。でも今回は、ちょっとは納得がいきました。AKIRAの深遠な世界観を何とか実現できて、喜んでいます。

大橋 力(山城祥二)氏

―― 今回リリースされたハイレゾ音源は、人間の脳を活性化する「ハイパーソニック・エフェクト」を引き出すために「ハイパーソニック・ウルトラディープ・エンリッチメント」というものを施した“ハイパーハイレゾ”というのが大きな特徴ですね。どれも多くの方にとっては耳慣れない言葉ですが、そもそも「ハイパーソニック・エフェクト」とはどんなものなのでしょうか?

仁科:気持ちよく聞こえる音……たとえば熱帯雨林の環境音や、ガムランなどの音のなかには、超高周波を多く含むものがあるんです。人間の可聴帯域上限は20kHzですが、聴こえない超高周波を浴びていると、脳の奥にある基幹部分や前頭前野などが活性化され、心と体にポジティブな影響が生まれることが分かりました。これが「ハイパーソニック・エフェクト」の概要です。

人が心地よく感じる音には超高周波が多く含まれているという発見から、様々な測定を行った結果「ハイパーソニック・エフェクト」に辿り着いたという

この発見のきっかけは、LPからCDへの過渡期、大橋先生がスタジオでCDの音質に疑問をもったことにありました。心理実験だけではなく、脳の状態をPET(ポジトロン断層撮像法)で測定したことで、決定的な知見が得られました。もともと超高周波を含む音を「可聴帯域の音」と「それ以上の超高周波」とに分け、まず可聴帯域の音だけを聴いている時の脳の血流を調べました。すると、脳の奥の中脳(脳幹)や視床、視床下部の血流が下がるというネガティブな変化が起こりました。続いて超高周波だけを聴いてもらったところ、血流には何の変化もありませんでした。

可聴帯域内の音と超高周波を同時に聴くと脳が活性化されることが、PETによる測定で分かったという

ところが、可聴帯域の音と超高周波を同時に聴かせると、中脳や視床・視床下部、前頭前野の血流が高まり、脳が活性化されたのです。脳波のα波も増えたほか、自律神経系が活性化してストレスホルモンの減少や免疫活性の改善も計測されました。

そして、心理的な効果も生まれることが分かりました。超高周波を含んだ音を聴くと、聴いたときの感動がより大きくなるのです。映像つきなら映像がより美しく感じます。これらを総称して「ハイパーソニック・エフェクト」と呼んでいます。

ハイパーソニック・エフェクトの発見は、最も権威ある米国の基礎脳科学論文誌のひとつである「Journal of Neurophysiology」にも掲載されました。サイト上から論文を読めるようになっているのですが、2003年12月から現在までの間で45回も月間閲覧数1位を獲得しています。

仁科エミ氏

―― 非常に興味深いですね。音は空気の振動ですから、超高周波が人間に影響を与えるのも不思議ではないと思います。

仁科:そうですね。ただ、超高周波であれば何でもいいわけではないんです。たとえばホワイトノイズなど、定常的で変化のない合成高周波では効果がありませんでした。

人工的な高周波成分でなく、自然の、一種フラクタルな構造を持った高周波でないと効果は得られないという

大橋:一種のフラクタルな周波数構造が必要なんです。それは、琵琶や尺八、ガムラン、熱帯雨林の音などに多く含まれています。

仁科:それから、イヤホンで聴いた場合も効果がありません。超高周波は耳からでなく、体の表面で感じている。だから、聴こえなくても、効果があるんですね。

ハイパーソニック・エフェクトが発現するには、超高周波を体の表面に浴びる、いわば“肌で聴く”必要がある

―― 実際、どのくらいの周波数が効果があるか分かっているのでしょうか?

仁科:私たちが調べた結果では、40kHz以上、特に80〜88kHzが最も効果がある帯域です。ですから、CDに比べて超高周波成分を記録できる「ハイレゾ」規格なら、ハイパーソニック・エフェクトの恩恵を受けられる可能性があります。

ただし、市販されているハイレゾ音源のなかには、含まれている周波数がCDとそれほど変わらなかったり、SACDがもとになっている音源では1bitノイズが入っていたりするものが少なくありません。そもそも音源そのものに超高周波が含まれているかどうかが重要です。一方、CD仕様で作られたマスターのなかにも素晴らしい録音は沢山あって、それを有効なハイレゾ音源として流通させるのも私たちの使命だと考えています。

そこで効果を発揮するのが、今回の「交響組曲 AKIRA 2016」のために開発した「ハイパーソニック・ウルトラディープ・エンリッチメント」です。

―― なるほど……その詳細を教えていただけますか?

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