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インタビュー

ビクタースタジオ特別インタビュー

ハイレゾ専門レーベル「VICTOR STUDIO HD-Sound.」、高音質を支えるこだわりを訊く

取材・構成/ファイル・ウェブ編集部
2012年10月11日
ビクターエンタテインメント(株)が運営する「ビクタースタジオ」が、ハイレゾ音源に特化したレーベル「VICTOR STUDIO HD-Sound.」を立ち上げた(関連ニュース)。第1弾として、ジャズやクラシックなど20タイトルが、9月5日よりe-onkyo musicにて配信中だ。スタジオが運営するレーベルは国内初。音楽制作の最先端の現場だからこそ知り得る制作当時の環境、マスター音源の形態やコンディションなどを、累年の経験とノウハウにより最適に取り扱う音作りのプロによってサポートされた音源の提供を特長としており、今年度内にはさらに70タイトルまでラインナップを拡大する予定だという。

今回、ビクタースタジオを訪問し、「VICTOR STUDIO HD-Sound.」の目指すものについて、そしてe-onkyo musicで配信中の音源ができあがるまでのこだわりについて、ビクタースタジオ長の秋元秀之氏、配信音源の企画及びHDマスタリングを監修した高田英男氏とマスタリングを担当した袴田剛史氏にお話しをうかがった。

■ビクタースタジオとは

1969年の設立以来、常にベストな機材と環境を用意し、著名ミュージシャンのレコーディングなどを行い日本プロ音楽録音賞を数多く受賞しているビクタースタジオ。「K2HDマスタリング」や「netK2」といった独自技術によるパッケージや配信音源の高音質化、「ウッドコーン」シリーズやスタジオモニターヘッドホンなどの共同開発にも積極的に取り組んでいる。

2000年からは、アーカイブ事業もスタート。ビクターエンタテインメントをはじめ各社のデジタル/アナログのプロダクションマスターや素材マスターのアーカイブを行っている。


■「VICTOR STUDIO HD-Sound.」とは

−− 「VICTOR STUDIO HD-Sound.」設立の経緯を教えてください。

秋元氏:スタジオで録音した音を届けるには、これまではCDが主流でしたが、どうしても情報量を削らないといけませんでした。マスターの持っている魅力や、エンジニアのこだわりが届けられない…というのが、日頃からのストレスだったんです。そこで、それをそのまま届けられるようなレーベルを立ち上げようということになりました。プロジェクトは今年6月頃からスタートし、8月23日にレーベル設立、9月5日からe-onkyo musicで第一弾となる20タイトルの配信を開始しました。

ビクタースタジオ長 秋元秀之氏

スタジオとして運営するかたちを取ったのは、「ビクタースタジオ」が高音質を表すブランドとして国内外で確立されているため、スタジオが編成権を持って発信していくのが自然ではないかと考えたためです。また、現場を知っている側だからこそ、過去を遡って高音質のメリットを感じていただける音源を発掘・提供できるのも大きな特徴です。

96kHz/24bitやDSD 2.8MHzなどでデジタル録音されたもののほか、アナログテープ(1インチや1/2インチ、1/4インチなど)や、アナログレコードにダイレクトカッティング録音された際に同時特音されていたアナログテープ素材をマスターに使っていることも、「VICTOR STUDIO HD-Sound.」ならではと言えるでしょう。

左が1インチアナログテープ、右が1/4インチテープ。1インチテープは2.54cm幅のテープに2ch分を収録している


−− 第一弾タイトルは、鬼太鼓座「富獄百景」のような純邦楽から、リー・リトナー「ジェントル・ソウツ」のようなフュージョンまで幅広いジャンルが用意されていますね。どんな基準で選んだのでしょうか?

秋元氏:使用機材や音質など、現場ならではのこだわりが詰め込まれ、音源として大きな価値を持つものを様々なジャンルからピックアップしました。

高田氏:現場にいると「あれは本当に素晴らしい音/演奏だったよね」という情報が毎日飛び込んできますし、先輩方から受け継いだ素晴らしい録音も沢山保有しています。過去のエンジニアたちに話を聞くと、本当に鮮明に当時のことを覚えているんです。それだけ強い思いで作られているんですね。そういった思いも、音楽と同時に伝わっていると嬉しいなと思います。

ビクタースタジオのコミッション・サウンド・プロデューサー 高田英男氏

−− 今回配信される音源を制作するにあたって大変だったことなどあれば教えてください。

袴田氏:アナログマスターを使った音源では、まずテープをきちんと再生することが大事。そのために、レコーダーをmm単位で調整したりしました。デジタルマスターの場合でも、クロック精度やケーブル配線を最適なものに変更します。こんなほんのちょっとしたことでも、ハイレゾだと音から全部分かってしまいますから。

マスタリングエンジニア 袴田剛史氏。マスタリングの実務を担当。高田氏と二人三脚で配信用音源を制作した

でも、いちばん気を遣ったのは「いかに“マスター”の音やイメージを大切にするか」ということですね。

高田氏:「マスターの音をそのまま聴かせる」というのは難しいですよ。全く何もしないのではなくて、“いじっていないように聴こえるよう手を加える”ということですから。

たとえばリー・リトナーの「ジェントル・ソウツ」。これは、アナログレコードへのダイレクトカッティング録音と同時に録音されたアナログマスター音源から配信用音源を作りました。ただテープを再生してデジタルに起こすだけでは、この(配信用音源の)音にはならないんです。

今回の配信音源の制作作業が行われた、袴田氏のマスタリングスタジオ

袴田氏:アナログテープをデジタルに取り込んで配信用データを作ると、その過程で必ず音が変わってしまいます。その変わった分を、変わっていないように聞こえるよう手を加えるんですね。

「ジェントル・ソウツ」の場合は、アナログマスターを聴いてみたら思った以上にアナログらしい太い音がしていたので、細かいところはイコライザーで修正しましたが、基本はこれを活かしたいな、ということで作業を進めました。

アナログテープの再生に使われたスチューダー「A820」

高田氏:「“そのまま”を聴かせる」って、つまり「人の耳に優しい」ということなのかなと思います。人が聴いて心地よいポイントを外さないようにしよう、と常に心がけていました。マスターになるべく手をつけない方がいいだろうというタイトルは、できるだけ余計な機械を通さずシンプルなシステムで制作しました。逆に、音を作り込んだタイトルについては、その良さを引き立たせるような調整を行いました。「人」が聴いて作っているから、「人」が聴いて心地よい、いい音を提供できるのだと思います。

袴田氏:ちなみに、久々にアナログマスターから起こして音源化したタイトルということで、当時修復できなかった音飛びや歪みを修正しているものもあります。「あ、ここのノイズがなくなった!」と誰か気付いてくれるかなあ、と期待しています(笑)。

それと、ファイルフォーマットやサンプリング周波数も、音楽のジャンルや音づくりによって最適なものを選ぶようにしています。例えば、192kHz/24bitよりも96kHz/24bitのほうが音の芯がしっかりしているので、リズムがクッキリした曲には向いています。逆に空気感が大事なクラシックは、192kHz/24bitや、DSDという方法もありますよね。

高田氏:HDサウンドで、スペックの数字だけではなく、それを作っている「人」の姿が音として伝われば…と思っています。

−− 音源からはもちろんのこと、購入時に付いてくる、高田さん入魂の解説がついたブックレットからも、その音源に携わった「人」とその思いを感じ取れるように思います。収録当時の機材やエンジニア名、録音時の裏話や聴き所など、非常に読み応えのある内容ですよね。第2弾以降のリリースも予定されており、今年度内には70タイトルまでラインナップを拡大する予定とのことですが。

秋元氏:ハイレゾ音源の素晴らしさは、多くの方が持っているであろうオーディオコンポの小さなスピーカーでも音の違いが分かるほどです。第2弾以降は、さらに音源のジャンルラインナップを幅広くし、もっともっと多くの方に楽しんでいただきたいと思っています。

−− 今後の展開も楽しみにしています。今日は有り難うございました。