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インタビュー

歴史的価値ある音源が甦る 「N響アーカイブシリーズ」 、誕生の舞台裏に迫る

取材・構成/ファイル・ウェブ編集部

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2012年07月18日
日本を代表するオーケストラ・NHK交響楽団の貴重な過去録音を、“配信”というかたちで提供する「N響アーカイブシリーズ」が、注目を集めている。

この音源は、(株)NHKエンタープライズの協力のもと、NHKに保管されている多数の演奏録音テープの中からセレクトされた貴重な録音を、(株)音響ハウスが編集・マスタリングしたもので、ナクソス・ジャパン(株)が商品化とディストリビューションを手掛ける。若き日のカラヤンやストラヴィンスキーとの共演、日本のオーケストラとして初の海外演奏旅行での演奏など、日本のクラシック音楽史を語る上で欠かせない歴史的名演を楽しむことができる。

なかにはこれまでレコードやCDで一度も発売されたことのない録音も含まれており、歴史的価値のあるアーカイブとしての意味も持つ、大変貴重な音源と言えるだろう。

配信は、定額制ストリーミング配信サイト「ナクソス・ミュージック・ライブラリー(NML)」(AAC/128kbps)と、高品質音楽配信サイト「e-onkyo music」(192kHz/24bit、96kHz/24bitのWAV/FLAC)で行われている。

NMLでは4月、e-onkyo musicでは6月から配信がスタートしており、TwitterやFacebookをはじめ各所から大きな反響を得ている。

今回、(株)NHKエンタープライズの中村京子さん、音源のセレクトや配信を担当したナクソス・ジャパン(株)の長門裕幸さん、萩生哲郎さん、アナログテープのデータ化・マスタリング作業を行った(株)音響ハウスの尾崎紀身さん、石井 亘さんに、本プロジェクト誕生のきっかけや、アナログテープから音源を甦らせる作業の裏話などについてうかがった。

左からナクソス萩生さん、音響ハウス石井さん、NHKエンタープライズ中村さん、ナクソス長門さん

実務の中心となったお二人。音源のセレクトと配信担当の萩生さん(左)と、アナログテープデータ化とマスタリングを担当した音響ハウス石井さん

   ◇  ◇  ◇   


−−− この「N響アーカイブプロジェクト」が始まったきっかけはどんなものだったのか教えてください。

長門さん:NHKさんの方で、保有している膨大な数の古い放送音源テープを少しずつDAT化していたそうなんです。こうやって作られた貴重なアーカイブを、NHKエンタープライズさんの方でなんとかしたいということになったのですが、その際、これは単にデジタルアーカイブ化するだけではなく、きちんとリスナーに届けなければいけない、ということになったそうなんですね。

ただ、古い録音だし映像も付いていないので、どういったかたちで流通させようか…と。それで、我々ナクソスに一緒にやろうとお話をいただいたんです。

パッケージ化は念頭に置かず配信というかたちを使おうと考えていたので、まずは我々のインターネットストリーミングサービス「ナクソス・ミュージック・ライブラリー(NML)」で提供し、その次に、今考えられる一番良い状態で聴いていただけるようにもしようということで、e-onkyo musicさんでのハイレゾ配信もスタートしました。

−−− 膨大な音源のなかから、今回第一弾として配信されている作品(ナクソスでは10タイトル、e-onkyo musicでは6タイトル)はどんな基準で選ばれたのでしょうか?

中村さん:まずはNHK交響楽団の、最近のものではなく古くてもうなかなか放送されない音源のなかから選ぼうということになって。ラジオの方のアーカイブを探してピックアップし、そのなかから「これは聴きたいと思ってもらえるだろう」という音源を、ナクソスさんと相談して決めました。e-onkyo musicさんでハイレゾ配信する際には、10タイトルのなかからハイレゾに耐えうるものをピックアップしました。

萩生さん:N響の過去の音源を発掘して発売する、というのはナクソスが初めて行ったことではなく、他のレーベルからこれまでに何度かCDが発売されています。ただ、これらは有名楽曲や有名演奏家に焦点を置いたものが多く、真に歴史的な価値ある音源にはなかなかスポットが当たりづらい状況でした。私たちは、これら貴重な記録こそ復刻させる意味があると考え、NHKさんのリストに溢れている音源の数々を検証していきました。まさに伝記でしか名前を見たことのないような演奏家、あるいは公演の数々が多数保存されていることがわかり、改めて今回のシリーズの意義を実感しました。

もっとも、プロジェクトの開始当初は、高い技術レベルの演奏や録音に慣れきっている現代の我々の耳に、往年の録音がどう響くか、一抹の不安もありました。しかし、蔵出しされてくるテープを聴いてみたところ、今聴いても全く遜色がないどころか、むしろ今の時代に失われてしまったようなものが感じられる、素晴らしいものばかりだったのです。

たとえばソ連公演のチャイコフスキーの交響曲第5番。初の海外演奏旅行で、ソ連に行ってロシアの曲をやっているから面白そうだという理由だけで選んだのですが、実際に聴いてみたらとんでもない名演奏で、ロシアのオーケストラがやったと言って出しても信じてもらえそうなほどのものだったんですよ。オーケストラが日本に輸入されて40年ほどというこの時代に、これだけの演奏をしていたのかと…本当に驚きました。

何より、初めて海外の舞台を踏み「本場」での演奏を実現された、当時のプレイヤーの方達の情熱、気概、思いの丈がものすごい強度で伝わってきて、社内で音質をチェックするために聴き始めたのに、演奏の良さにみんなシーンとして聴き入ってしまったほどです。日本がともすれば元気がないといわれる今の時代に、この演奏はいろいろなことを教えてくれるような気がします。

−−− 当時この演奏旅行のために沢山練習したんだろうな…とか、色々想像がふくらんで感慨深いですよね。

長門さん:当時の状況を想像すると、ロマンがありますよね。それも込みで味わっていただければと思っています。ソ連公演のチャイコフスキーの他にも、岩城宏之さんや外山雄三さん、堤剛さんや松浦豊明さんなど、その後も一流演奏家として日本の音楽界を牽引する方達の熱演を聴けるということも、大きな魅力だと思います。

細心の注意と沢山の熱意のもと行われた、アナログテープのデジタル化

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