iPodのパーフェクト・パートナー誕生

オーディオの名門ブランドから登場したiPod用スピーカーシステム「i-deck」
アップル社のデジタルオーディオプレーヤー「iPod」シリーズ。発売当初から高い評価を受けていた機能と使い勝手に、さらに磨きをかけた最新モデルは、ポータブルタイプのオーディオプレイヤーにおけるひとつの完成形と言ってもよいだろう。そのiPodをホームオーディオの主役としても活用しようとするユーザーに向けたiPod用スピーカーシステムは、パソコン周辺機器メーカーからオーディオブランドまで、各社から様々な製品が発売され、活気を呈している激戦区だ。

iPod用スピーカーシステムとして登場した新たな選択肢が、モニター・オーディオの「i-deck」である。英国のハイエンド・スピーカーブランドとして知られているモニター・オーディオがiPodというカジュアルな分野に向けた製品を投入してくるとは、正直なところ意外であったが、だからこそなおさら期待も高まる。さっそく本機の実力を細かくチェックしてみた。

英国のハイエンド・スピーカーブランド、モニター・オーディオが満を持して発売するiPod用スピーカーシステム「i-deck」
オーディオの名門ブランドから登場したiPod用スピーカーシステム「i-deck」

初めに、スピーカーシステムとしての概要を確認しておこう。この分野の製品はシステム一体型である程度のポータビリティを確保したものが多いが、i-deckは本体と左右スピーカーのセパレート型を採用した。しかもスピーカーはトゥイーターと10cmバスユニットの2ウェイだ。iPod向け製品としては異例の構成である。据え置きでの利用を想定し、ステレオ感や音質を追求するための仕様と言えるだろう。

実際に試用しながら各部を見ていくと、「i-deck」の特徴は柔軟性の高さ、応用範囲の広さにあると感じた。機能的に欠けた部分、弱い部分がないため、多様な場面や用途への対応が可能だ。例えば、i-deckには一般的な3.5mmジャックによるライン入力が用意されており、iPod以外の再生機器、DVDプレイヤーなどの接続も可能である。リビングのテレビと並べてi-deckをセッティングしておけば、iPodの音楽もDVDの映画も高音質で楽しめる。iPodとの組み合わせのみを想定して入力端子を用意していない製品では実現不可能なスタイルだ。また、Dockコネクタも搭載されており、i-deckをiPodとパソコンの接続ドックとして利用できる。Dockコネクタ非搭載でiPodとパソコンとの接続に別途ケーブルが必要になる製品と比較して、より手間のない、すっきりとしたシステムを組めるのである。

余裕のある造りのアンプ及びスピーカー部分もポイントだ。大音量時でも割れや歪みが生じず、幅広い音量で高音質をキープできるため、様々な場面・場所に対応できることだろう。あと細かな点では、赤外線でなくRF方式を採用した付属リモコンも便利。無指向性で到達距離も約10mと長いため、設置場所と操作場所の位置関係の自由度が高い。音質を重視した製品であることはたしかだが、音質追求一辺倒ではなく、機能や使い勝手の面から見ても穴がない。まさに「iPodのための」システムとして仕上げられた製品だ。

ライン入力とDockコネクタの端子が用意されており、iPod専用に止まらない接続性とiPod用としての使い勝手が両立されている
シンプルなリモコン。iPod本体の操作でプレイリスト選択、再生を開始して以降はリモコンで操作、といった使い方になるだろう
ドッキング部分。ここにベゼルを被せてiPod各機種にフィットさせる
オーディオの名門ブランドから登場したiPod用スピーカーシステム「i-deck」
次に、本機について筆者が最も期待していたその音を試聴してみた。まずロック系から、サンボマスターの『歌声よおこれ』を聴いてみた。トリオ編成のバンドだがレコーディングではギターを中心にダビングが行われており、この曲も音の密度は高い。i-deckはその高密度の音の集まりをひと固まりにしてしまうことなく、分離して聴かせてくれた。歪んだエレキギターの各弦の音が分離するとまではいかないが、各楽器それぞれの演奏に存在感があり、演奏の妙を楽しむことができる。

同じくロック系だが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの『ByThe Way』は装飾のないシンプルな編曲が特徴だ。それだけに、各楽器の音色や楽器間の微妙なバランスなど細部に耳が行く。全体的に良好だったが、特に感心させられたのはベースラインの描き出し方だ。音量的に押し出されているのではなく、輪郭がしっかりとあるため「他の楽器に埋もれずに聴こえる」のである。個人的な好みに非常に合致する描き出し方であり、にんまりとさせられた。

ポップスからはビョークの『Pagan Poetry』を聴いてみた。圧倒的な表現力のボーカルやエフェクティブな背景音など、描写の難しい要素が満載されている曲だが、i-deckの力不足を感じるような場面はなかった。全体が音楽的にバランスよくまとまっている

インストゥルメンタルからはジェフ・ベックの『Scatterbrain』を聴いたが、これは文句の付けようがなかった。中音域中心の暖かみのある音源とi-deckの音質が見事にマッチしたという感じだ。こういった良質なアナログ録音作品を素直に聴かせることができるというのは、基本的なバランスの良さ、自然な表現力を持っている証拠ではないだろうか。

オーディオの名門ブランドから登場したiPod用スピーカーシステム「i-deck」

さて、このi-deckの具体的な活用シーンはどのようなものになるだろうか。基本はもちろん、iPodユーザーが家に帰ったらiPodをi-deckにドッキングさせて自室のオーディオとして使うとパターンことだろう。しかしi-deckの機能を持ってすれば、先に述べたリビングでのDVDプレイヤー等との接続など、他にも様々な使い方が考えられる。


英国のハイエンド・スピーカーブランド、モニター・オーディオが満を持して発売するiPod用スピーカーシステム「i-deck」

例えば、i-deckを店舗のBGM再生環境として利用するというのはどうだろう。何千曲ものを音楽を収録でき、それをプレイリスト再生できるというiPodの特徴は、店舗BGM用としても活かせるはずだ。時間帯・客層に合わせたプレイリストを用意して店舗の雰囲気を作り出す、ということが簡単にできるのである。音量に余裕のあるi-deckとの組み合わせなら店舗スペースが多少広くても十分にカバーできるし、無指向性リモコンも役立つだろう。

i-deckの最大の特長はやはり、その音質だ。しかし、音が良いというのはモニター・オーディオにとっては当然のことに過ぎない。そのモニター・オーディオが今回、本気で「iPod用のパーフェクト・パートナー」の誕生に力を注いだことを示しているのは、Dockコネクター搭載などの充実した機能面からも推察できる。iPod用システムとして、希に見る高い完成度を持つi-deckは、モニター・オーディオの名をさらに幅広いユーザーに知らしめていく存在となるだろう。

埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。