次に、本機について筆者が最も期待していたその音を試聴してみた。まずロック系から、サンボマスターの『歌声よおこれ』を聴いてみた。トリオ編成のバンドだがレコーディングではギターを中心にダビングが行われており、この曲も音の密度は高い。i-deckはその高密度の音の集まりをひと固まりにしてしまうことなく、分離して聴かせてくれた。歪んだエレキギターの各弦の音が分離するとまではいかないが、各楽器それぞれの演奏に存在感があり、演奏の妙を楽しむことができる。
同じくロック系だが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの『ByThe Way』は装飾のないシンプルな編曲が特徴だ。それだけに、各楽器の音色や楽器間の微妙なバランスなど細部に耳が行く。全体的に良好だったが、特に感心させられたのはベースラインの描き出し方だ。音量的に押し出されているのではなく、輪郭がしっかりとあるため「他の楽器に埋もれずに聴こえる」のである。個人的な好みに非常に合致する描き出し方であり、にんまりとさせられた。
ポップスからはビョークの『Pagan Poetry』を聴いてみた。圧倒的な表現力のボーカルやエフェクティブな背景音など、描写の難しい要素が満載されている曲だが、i-deckの力不足を感じるような場面はなかった。全体が音楽的にバランスよくまとまっている
インストゥルメンタルからはジェフ・ベックの『Scatterbrain』を聴いたが、これは文句の付けようがなかった。中音域中心の暖かみのある音源とi-deckの音質が見事にマッチしたという感じだ。こういった良質なアナログ録音作品を素直に聴かせることができるというのは、基本的なバランスの良さ、自然な表現力を持っている証拠ではないだろうか。