大島 康広

お客様を笑顔にする新チャレンジ
「ファースト ラボ」
進化するプリントビジネスの可能性を
最大限に訴える
株式会社プラザクリエイト
代表取締役社長
大島 康広
Yasuhiro Ohshima

世界初、セルフで手軽に高画質の写真印画紙プリントができる「ファースト ラボ」を発表したプラザクリエイト。ソフトバンクショップに同機を導入した写真セルフプリントコーナー「スマホプリントステーション」が登場し、大きな反響を集めている。写真プリント市場の課題として長らく指摘されてきた潜在需要喚起へ挑む大島社長に話を聞く。
インタビュアー/竹内 純 Senka21編集部長  写真/柴田のりよし

大切な写真と出会える
とても素敵な時間

── スマートフォン世代へのアプローチなど各社より様々な提案が行われていますが、写真プリント市場の現状を大島社長はどのように捉えていますか。

大島私は“写メ”と“写真”とを明確に分けて考えていますが、写メは文字通りメモですから、プリントするための映像レベルにはありません。しかし、iPhoneで言えば2014年に発売されたiPhone6から、我々写真を扱っているものから見ても、写真を撮るデバイスとしてきれいな画像処理、色づくりがスマホの中でできるようになりました。スマホユーザーも以前は、旅行にはコンパクトデジタルカメラを携帯していましたが、今では写真を撮るのもスマホで十分。私たちもプリントビジネスの入口として、焦点をスマホに絞り込みました。 その移行期に、撮った後のサービスについて本来ならもっとやれるべきことがあったのだと思いますが、それが出来なかった。そのため、この3、4年は特にプリントをしていない人が山ほどいます。数千枚の写真が山のようにとどまり、写メも本当に人生を変えるような思い出の写真も一緒くたにされ、見返すこともできずに埋もれています。

大島 康広
「ファースト ラボ」が広がるスピード感は、 お客様を幸せにしたいという志ですべて決まってくる。

── そうした状況に風穴を開けるのが「ファースト ラボ」。2月1日から同機を導入した写真セルフプリントコーナー「スマホプリントステーション」としてソフトバンクショップで開設が進んでいます。

大島ケーブルをスマートフォンにつないで画面に触れると画像の読み込みが始まり、スマホの小さな画面ではなく、21インチの画面に1,000枚、2,000枚と古いものから順に写真が表示されていきます。それを見たお客様が思わず感慨にふける、そんな光景を実に多く目にします。出会えなかった写真を目にすることができた。とても素敵な時間だと思います。

例えば、親が亡くなる前に一緒に撮った大切な写真とメモ代わりの写真が混在しています。スマホの機種変更の際などに、ファースト ラボにスマホをつないで、ぜひ一度思い出を振り返ってほしいですね。1時間いてプリントが3枚というお客様もいらっしゃいますよ(笑)。

── ファースト ラボがどのようにして実現に至ったのか。その経緯をお聞かせいただけますか。

大島最初に絵を描いたのは2010年8月です。業務用ミニラボの上にカバーをかぶせて受注端末を置き、注文した写真プリントが下から出てくるイメージでした。高い価格では売れないし、写真印画紙のプリントだけではビジネスとしてつまらない。ひとつひとつ課題をクリアしながら、気が付けば7年越しです。実は、最初に描いた絵をずっとデスクに置いていました。デスクを整理するなど何かある度に目に触れるんですね。データでパソコンの中に保存していたとしたら、たどりつけなかったかもしれません。“紙の価値”をいろいろな面から見直したいですね。

あたたかさややさしさが
お客様との距離も近づける

── ソフトバンクショップからスタートされたことも注目を集めています。その経緯をお聞かせください。

大島当初は家電量販店さんでの展開をイメージしました。スマホとデジタルカメラの両方の売り場があり、われわれのプリントサービスを持ち込むのはとても理に適っています。ところが昨年5月、ファースト ラボの構想をソフトバンクの宮内社長に披露する機会があり、説明が終わるや否や「写真印画紙のきれいなプリントがセルフでできる。これを待っていたんだ!」というわけです。キャリアショップも転換期にありますが「お客様の満足度を上げないとダメ。これを入れたらお客様が喜んでくれる」と断言されました。

宮内社長から「そうだよな、スマホってカメラだよね」という言葉を聞きびっくりしましたね。「俺のスマホにも1万枚ある」と(笑)。それから2週間に1回のペースでミーティングを重ねました。ソフトバンクと言えば、IT、デジタル、ペッパーなどの先進的イメージを持つブランドで、ファースト ラボがどのような受け止め方をされるのかと思いましたが、宮内社長の中にはあたたかさややさしさがしっかりあり、「スマホってカメラになって家族の思い出がいっぱい入っている」、そんな言葉を随所に聞き、本当に感動しました。

── 導入前のテストマーケティングも行われました。

大島 想定を大きく上回る結果が出ました。ドコモやauのユーザーがはたしてプリントをしに来てくれるのかという心配も杞憂にすぎませんでした。反対に「いつかはプリントをしたい」という潜在ニーズが物凄く大きなことを改めて確信しました。導入から1ヵ月が経ちましたが、一人当たりのプリント枚数がパレットプラザなどと比べても多いことに驚きます。1枚18円のディスカウントキャンペーン等の影響もありますが、200枚、300枚という方も珍しくありません。人が介在しないセルフの効果も現れていると見ています。また、プリントのスピードが速い。家電量販店さんに設置されているキオスクプリントマシンに遅くてストレスを感じることがあると思いますが、ファースト ラボは5分あれば80枚、1時間あれば1、000枚出力でき、スピード感が段違いです。そして、何と言っても写真印画紙の紙が発色する品質の美しさ。何物にも負けない価値を提供できていると自負しています。

機種変更前にもバックアップの意味を含め、全部の写真を呼び出してその中から3枚、無料体験いただく。そんなサービスも行われています。「こんな簡単にできるの!」「こんなにきれいにできるの!」と感じていただければ勝負ありです。まず、ファースト ラボの前に座っていただくこと。そして、スマホをつないで1枚でも2枚でも写真プリントを体験していただくこと。そこが起点となります。

── お客様との関係も変わってきますね。

大島 注目されるは、お薦めしたお店の方に「ありがとう」とお客様が声を掛けてくださること。キャリアショップはセールス一本槍のような面も見受けられましたが、「旅行に行って来たのよ」「うちの孫がね」とお客様との会話が膨らんでコミュニケーションが高まり、お客様との間に、あたたかく、やさしい空気感が醸し出されるようになったという声もお聞きします。

── キャリアショップでも新しい価値提案にいろいろチャレンジをされています。

大島 アプリや動画などをお客様にお薦めするのと大きく異なる点は形あるモノを提供できること。しかも、お客様が納得できる、喜んでもらえるものをお薦めできます。それこそがリテールビジネスの本質です。例えばキャリアショップに置かれたファースト ラボの今後のメニューには、数千枚も貯まってしまったカメラロールの中の写真を少年漫画誌のような300頁くらいの軽い1冊の本にまとめてしまうフォトブックやiPhone7など高画質のカメラで撮られたものをポスターサイズに大伸ばしにするプリントを用意しています。家電量販店、ライフスタイルグッズを販売する雑貨店、空港ラウンジなど、それぞれどんなメニューを揃えられるか、楽しみにしてもらいたいですね。

── 今後、導入される業種の広がりが注目されますね。

大島 現在は写真印画紙Lサイズから6切りプリントだけですが、7月からはマグカップやTシャツ、フォトブックなどの新しいサービスの提供が始まります。私たちは「アザーメニュー」と呼んでいます。DPE業界が衰退し、支持をされなくなった要因のひとつは、お客様がプリントしたくなるような商品・サービスの提案ができなかったから。スマホの中の写真をギフトにして誰かに贈りたいときにどのようなアイテムを提供できるかが重要です。

「こういうプリントが欲しかった!」と喜んでいただけるメニューを導入していただくパートナーさんと一緒にアイデアを出していきたい。極端なことを言えば、クッキーの上にチョコレートでお客様の伝えたいメッセージを描いてもいい。“プリント”という言葉から一般の人は紙を想像しますが、プラザクリエイトが考えるプリントにはそうした制約はなく、むしろ紙ではないものの方がこれからは多くなります。ポロシャツに刺繍を入れるのもプリント、3Dで何か立体物をつくるのもプリントです。

Tシャツは昨年8月の1ヵ月で2万枚を販売しました。オーダーを受けてからつくりますので在庫がなく、リスクがありません。デジタルプリンティング技術の進化が今後、プリントビジネスをさらに広げていくと確信しています。

大島 康広

融合して生まれてくる
新たな価値空間の意義

── 御社ではデータ変換サービスにも注力されています。

大島 1本980円で8ミリフィルムやマイクロカセットなどすべてのアナログメディアをDVDにデータ変換する「なんでもダビングサービス」をヤマダ電機さんやエディオンさんとも一緒に展開しています。5年目になりますが毎月約1万人の方にご利用いただき大変好評で、ひとりのお客様では最高本数1,102本という例もありました。実はファースト ラボとは「見られなくなったものを見られるようにする」という共通項があります。

先日、アルバムを段ボール23箱、そこから自分史を整理したいというお客様がありました。亡くなった時、息子たちは捨てられないだろうから、生きているうちに自分でまとめておきたいというのです。そうしたニーズにパッケージ化してお応えするのはなかなか高いハードルですが、高齢化が進み、そうした意向を持つ方も増えています。

── デジタルカメラ市場についてはどのようにご覧になられていますか。

大島 “箱”だけつくっていても通用しない。これは、スマホもそうですし、メーカーだけでなく、販売する側にも共通のテーマです。デジタル技術のイノベーションが利便性をもたらす一方、商品の背景に込められたストーリーや人生が豊かになる楽しみ方など、アナログ的なやさしさやあたたかさがこれからはますます求められます。それをきちんと伝えられることが価値を高め、差別化につながる。我々はサービスやその商品を買われた後のケアを手掛けてきました。今後、家電量販店さんやキャリアショップさんに寄り添い、融合していくことで、まったく新しい価値をお客様との関係の中で生み出していけると感じています。

── 家電量販店やキャリアショップにはない視点やアイデアがある。

大島 そう思います。われわれにカメラを売る力はありませんが、カメラを買われた方がどうやって楽しむかという価値の提案はできます。それをカメラやスマートフォンの販売に融合することで、これまでなかった空間が創造できると思います。

── 最後に改めて市場創造への意気込みをお願いします。

大島 デジタル化で撮ることが簡単になる一方、反対に見なくなる、見られなく副作用が顕著に表れています。いろいろな業種のパートナー様と一緒にファースト ラボと新しいお客様との接点を広げていきます。そこで肝要なのは、単に導入すればビジネスが生まれるのではなく、経営トップを筆頭に会社全体が「お客様を幸せにしたい」「このビジネスを育てていきたい」という志を持つこと。今後どのように広がっていくかというスピード感はまさにそこですべて決まってくると思います。

ファースト ラボは、プラザクリエイト社のこれからの新しいチャレンジです。世界市場を視野に入れ、美しいプリントがその場ですぐできる体験を提案していきます。プリントビジネスはデジタル技術の進化で、いろいろなものにオリジナルプリントができる時代に突入しました。プリントしたものを誰かに贈ったり、家の中に飾ったり、一人一人を幸せにするものにしていきたいと願って止みません。

◆PROFILE◆

大島 康広氏 Yasuhiro Ohshima
1963年、愛知県名古屋市生まれ。大学在学中に、(株)プラザクリエイトの前身となる(株)中部写真を起業。1986年、スピードプリント時代の先駆けとなる新たな写真プリントショップ「パレットプラザ」をオープン、1988年 (株)プラザクリエイトを設立。以降、日本全国にショップチェーンを拡大し、1996年に株式を上場。2006年、株式会社55ステーションを子会社化。2008年、通信事業に参入。現在は600店舗を超えるショップを展開中。現在、写真プリントの次の新たな商品開発にたゆまぬ挑戦を続けている。趣味は旅行、写真。座右の銘は「一忍成百事一怒失万事」。

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