校條 亮治

展示会にメスを入れ、新たな顧客接点をつくる
市場創造、顧客創造のスタンスを貫いていく
一般社団法人日本オーディオ協会
会長
校條 亮治
Ryoji Menjo

日本オーディオ協会最大のイベントが「OTOTEN」となり、有楽町の東京国際フォーラムでの5月の開催を控えている。徹底して見直された展示のあり方と、市場創造に向けた取り組みへの意気込みを、協会会長の校條氏が語る。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集長  写真/柴田のりよし

新たな取り組みの
OTOTENを発信

── 日本オーディオ協会最大のイベントが新たに「OTOTEN」の名称となって、有楽町の東京国際フォーラムにおける5月の開催を控えています。

校條先日、それについての発表会もさせていただきました。昨今では販売店さんの主催など、いろいろなオーディオイベントが各地で開催されており、それぞれ好評を博しておられます。そうした状況の中で、日本オーディオ協会はどんな立ち位置で、どんな内容をお見せするべきなのか。販売店さんのイベントと同じことをしても意味がありません。良い音を追求してさまざまな技術の進化を図り、その最先端の状況をお見せしていくこともミッションであります。 我々はそういう観点から展示会にメスを入れ、新しい「OTOTEN」として顧客接点をつくっていく。市場創造、顧客創造のスタンスを貫きます。

日本オーディオ協会による展示会は1952年から開催されてきました。オーディオの草創期は、技術的な新提案もたくさんあり、それが結果的に顧客創造につながってもきました。しかしオーディオを取り巻く状況はだんだん変化していき、市場は現在成熟の状態となりました。このようにステージが変わった今、これまでと同じ見せ方をしては当然立ち行かない。

先日の発表会では、従来の展示会からの4つの変更点を説明させていただきました。時期の変更として、従来秋だった開催を、春の5月としています。オーディオの市場は2008年頃まで春と秋に存在しましたが、大手メーカーさんの存在が希薄になってから春の市場がほとんどなくなり、市場全体もボリュームダウンしてしまいました。そこでもういちど、春の市場創造を考え直すという思いです。

場所の変更として、今回から有楽町の東京国際フォーラムを会場とします。オーディオの音を体験する観点では必ずしも満点でないかもしれませんが、お客様が集まりやすい場に設けられるのは大きなメリットです。場所については我々も色々と模索してきましたが、日本で展示に相応しい場所を探すのは非常に困難です。ものがない時代はどこであろうと珍しいもの見たさで人は集まってきましたが、今はものから享受できるベネフィットが見えなければ新しいライフスタイルは提案できません。そういう成熟した社会になって、そこでの市場創造提案に相応しい場所はあってしかるべきだと思いますが、効率ばかり追いかけてきた日本の現状では、新たなステージに見合うハコがまだ付いて来ていないということですね。そういう中で今は、精一杯の選択だと思っています。

そしてターゲットの変更。これまでのオーディオ好き、ハード好きな方に加えて、音楽好きな方に大いにアピールします。そして当然、展示内容そのものも変わらなくてはいけません。

── ストリーミング配信サービス各社が参加されますね。

校條今回は、ストリーミングやハイレゾダウンロード、音源側の多数の事業者様にご参加いただきます。こうしたコンテンツプロバイダーの方々と一緒に機器との融合を提案する展示はこれまで日本にはほとんどなかったと思いますが、これがエンドユーザーに直に接する貴重な機会になると思います。スポティファイの玉木社長の基調講演、またレコチョク、AWA、LINEミュージックの方々のパネルディスカッションも行います。ストリーミング配信について、そして各社が目指す方向性について多くの方に知っていただけると思います。

昨年9月にスポティファイが日本に上陸し、今年はストリーミング配信サービスの本格的な浸透が期待されています。コンテンツに関する新しいこととオーディオ機器が結びついた化学反応で何が起こるか、それを我々は提案したいのです。機器もいろいろなバリエーションをお見せします。リスニングジャーニーに出かけ、様々なシーンの中でご自分に合った音楽の聴き方をお客様に見つけていただきたいと思います。

音楽ファンに向け
徹底的にアピール

校條 亮治
起こることはすべて、人のせいではなく自分のせい
お客様の役に立つことこそ、自分のやるべきこと

── 先日の発表会では、展示の詳細はあまり明らかにされていませんでしたね。

校條今回お話できることがいくつかあります。東京国際フォーラムのB1Fをメインフロアとし、そこに音楽ファン、ハード嗜好ではない方々にも足をとめていただける内容を徹底的に提案します。そこはフリースペースとして、通って行かれる方が自由に出入りし見て体験していけるようにします。今までにないスタイルですね。4階以上の試聴フロアへは受付を通していただきますが、皆様のリスニングジャーニーにつながるコンシェルジュも設けます。

メインフロアに並ぶのは配信コンテンツ各社の出展ブースと、関連の深いスマートフォン、ポータブルプレーヤー、ヘッドホンアンプやDAC。ヘッドホンやイヤホンでストリーミングコンテンツもハイレゾコンテンツも体験、体感していただく場です。ディスプレイも用意し、楽曲の豊富さや機能の使い勝手などを視認できるようにします。

また、カーオーディオを搭載したデモカーを8台投入します。ハイレゾカーオーディオが元年と言われていますが、関連各社の最新の機器をアピールし、進化する技術を見せていきます。そして、OTOTEN大使のアーティストの方々に関連した動画も見せていきます。ディスプレイは有機EL。会員になられたLGジャパンさんの77インチディスプレイや、関連各社さんのディスプレイを複数台並べ、プロモーションビデオを再生します。

── いろいろなアーティストの皆さんが参加されますね。

校條OTOTEN大使の称号授与も行います。来年の開催まで1年間にわたって活躍していただくつもりです。皆さんにはぜひ自らの言葉で、自分たちの音楽をどう聴いて、わかっていただきたいかを語って欲しいと思います。そしてOTOTEN大使のライブをD5ホールで開催します。閲覧は無料。これはまだ計画の話ですが、その映像をメインフロアの有機ELディスプレイで中継してお見せする計画です。映像はNHKさん、伝送はNTTさんと調整させていただいていますが、4K・ハイレゾの再生ができたらと思っています。日本オーディオ協会ならではの取り組みですね。

オーディオはつくられた音楽を再生する装置で、ライブパフォーマンスとの親和性を疑問視する会員さんもいらっしゃいました。しかし今回はコンテンツ側からのアプローチも重視し、ライブパフォーマンスもコンテンツのひとつとして音楽を好きな方に楽しんでいただく。さらにライブパフォーマンスを中継し、高画質、高音質の映像で見せることもオーディオビジュアルの最先端技術です。展示を通じてお客様が最先端に触れ、これがスマートフォンでも体験できるとか、広がる可能性も含めて楽しさを知っていただきたいと思います。

── 上階は、本格的な試聴ルームの展開ですね。

校條4階から上の階では、専業メーカーさんが試聴ブースを設けて、ピュアオーディオやホームシアターを体験できる内容を準備しています。OTOTEN大使のライブ映像を再生するのもいいですね。ホームシアターの訴求では委員会も結成し様々に取り組んでいますが、映画だけでなく、音楽のコンテンツもライブと同等のクオリティで家庭内で楽しめる、そんな訴求が具体的にお見せできると思います。

校條 亮治

求められるものを探り
市場創造につなげる

── 大きな変化ですね。

校條 まず我々自身が考え方を大きく変えました。オーディオのあり方、音楽の聴き方のあり方をもう一度捉え直す。展示会の大掛かりな変更はそのひとつの表れです。日本では誕生してから35年経つCDが今も結構なウェイトを持っており、アナログレコードの人気も再燃して、パッケージコンテンツのウェイトが存在感を持っています。その一方で、ストリーミングのコンテンツ配信がいよいよ立ち上がろうとしている。また映像が4Kに、音がハイレゾになりさまざまな進化が表れています。そういったことが、消費者にとってどういう価値のあるものなのかを見せなくてはいけません。

協会としては、どこまでも良い音を追求し、市場の創造を図る、それは絶対に外せないミッションと考えます。しかし技術は舞台裏のことであって、難しい内容は理解していただかなくてもいい。一般のお客様には技術によって生まれる新しいライフスタイル、つまり表舞台を知っていただきたい。それを、日本オーディオ協会でなければできない方法でお見せしたいのです。

お客様が求めているものが何か、その視点は外せません。「顧客インサイト」というマーケティング用語がありますが、お客様が本当に必要なもの、欲しているものを深掘りすることが重要です。たとえば家庭の中に大きいスピーカーを何本も置くような提案には無理がないか、本当に「顧客インサイト」としての訴求かどうか、我々はあくまでも技術の舞台裏を意識させることなく、新しいことを提案していきたいと思います。

これまで「音展」に来てくださっていた方にとっては、戸惑うような内容になるかもしれません。けれどもある意味これは、我々にとっての戦略なのです。新しい顧客創造を意図する時に、従来の顧客層をメインに据えて企画してもうまくはいきません。今回お客様がどのように反応してくださるか、未知数ではありますが、次につながるものにしたいと思います。

そしてオーディオファンやマニアの方々に向けた内容は、秋に開催する音のサロンやカンファレンスでしっかりと発信して参ります。昨年秋に行った音のサロンとカンファレンスでは、想定以上の1300人を超える方々に来ていただき、大きな手応えでした。引き続きこうした取り組みをブラッシュアップして参ります。また全国で販売店さんが行っておられる展示会に対しても、協会として協賛のかたちでバックアップさせていただき、オーディオファンのご期待にお応えしたいと思います。

お客様の役に立つ
それこそが行動の指針

── お取り組みは、いつも全力ですね。

校條私は常に、起こることはすべて人のせいではなく自分のせいと思っています。そしてやるべきことは、人のお役に立つ、お客様の役に立つことがすべてです。自分のためだけにやるというのは、私の人生哲学に合いません。責任は自分にありますが、自分に何ができてどう役に立てるかというスタンスです。そうでない限り、何であっても責任者になるべきではないと考えます。自分のためだけにというならやるべきではない。そういう思いで会長職を担ってきたつもりです。新しいOTOTENで、新たな市場づくりを目指す。これをはっきりと示します。お客様の方を向いて、しっかりと取り組んで参ります。

── OTOTENでは、当社のファイルウェブでも大きく告知し集客に貢献して参ります。開催が楽しみですね。

◆PROFILE◆

校條 亮治氏 Ryoji Menjo
1947年11月22日生まれ。岐阜県出身。1966年 パイオニア(株)入社後、パイオニア労働組合中央執行委員長。パイオニア(株)CS経営推進室長を経て04年6月 パイオニア(株)執行役員CS経営推進室室長に。05年7月 パイオニアマーケティング(株)代表取締役社長に就任。2007年(社)日本オーディオ協会副会長を経て、2008年6月11日 現職に就任。2011年4月1日 日本オーディオ協会は一般社団法人となり現在に至る。

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