板東 浩二

サービス、コンテンツを競い合う大競争時代到来
先手を打つ提案力で「ひかりTV」の存在感を訴える
株式会社 NTTぷらら
代表取締役社長
板東 浩二
Koji Bandou

ブロードバンドのインフラを活用した新しい時代に次々と名乗りを上げて競う新サービス。そこで、映像の高度化の鍵を握る4K化への率先した展開など、存在感を示すのが「ひかりTV」だ。市場を刺激する数々のサービスやアイデアは、ビジネスの心強い存在。2017年の市場の展望とひかりTVの取り組みを板東浩二社長に聞く。
インタビュアー/竹内 純 Senka21編集部長 写真/柴田のりよし

高度化を加速する
2つのキーワード

── 11月に行われた侍ジャパン強化試合で世界初となるHDR対応4K-IP生中継の放送を実施されるなど、4K市場の牽引役として積極的な取り組みを展開されています。提供されるサービス・コンテンツの高度化に対する2017年の取り組みをお聞かせください。

板東高度化には、映像そのものの画質をあげていくことと、ネットワークとの連携をさらに加速していくことの2つの方向性があります。前者はまさに4K・8Kになり、どうせやるのであれば一番最初にやりたいといち早くスタートを切りました。

そのきっかけは、今から2年ほど前になるでしょうか、手にしたソニーのスマートフォン「エクスペリア」に4Kビデオカメラが搭載されていて、もう誰もが手軽に4K映像を撮れる時代になったのかと驚くと同時に、その広がりは時間の問題だと直感し、2014年10月27日より、日本で最初の4K映像による商用サービスを、ビデオオンデマンドで開始しました。

4K映像作品の制作は、単独で進めていくにはまだまだ厳しい環境ですが、テレビ局や番組提供事業者、コンテンツプロバイダーの皆さんと一緒に取り組み、4K作品を共同で制作すればコストも半分で済みます。さらに、「ひかりTV」で配信すれば、エリアにとらわれず日本全国に配信できるメリットにもご理解いただき、昨年はローカル局さんと共同で、月に1、2本のペースで4K映像制作を行ってきました。4Kコンテンツをさらに拡充し、ビジネス化の流れを加速していきたいですね。

── もうひとつの方向性がネットワーク連携ですね。

板東まだこれからいろいろなアイデアが出てくるテーマですが、当社としてはまず、クラウドを利用した4Kの映像コミュニケーションサービスをスタートする予定です。今、スマホで手軽に4Kビデオの映像が撮れるようになりましたが、いざ、4Kテレビで楽しもうとすると、わざわざ専用ケーブルを買ってくるなど意外とハードルが高い。そこへ提案するのが、クラウドを利用した、4K品質での映像コミュニケーションサービス(仮称)です。

撮った4K動画や写真をクラウドにアップロードしていただくことで、離れた場所でも、ひかりTVサービスのテレビ画面上でアップロードした動画や写真が見られるという仕組みです。例えば、ひかりTVのお客様のご家族が、お孫さんを撮った4K映像をクラウドにアップすれば、ひかりTVのお客様である祖父母は、自宅のテレビ画面でお孫さんの映った4K動画や写真などを手軽に見ることも可能になります。

このサービスでは、大切な動画・写真の共有だけでなく、ビデオ通話も楽しめるようになる予定です。ユーザーインターフェースや利用方法は極力簡単に工夫を凝らしていきます。見守りサービスなどへの活用も視野に入れています。このようなネットを使ったテレビの新しい使い方をこれからも提案していきます。

── 4Kテレビ導入が単なる置き換えでなく、そこで、テレビの新しい付加価値をどれだけ伝えられるかが大切です。

板東現在ではブロードバンドのインフラがほぼ出来あがりました。これからは、アイデアや知恵を振り絞り、このブロードバンドインフラを活用しサービス・コンテンツを高度化していく時代です。

4Kについても一社単独ではなく、我々と一緒に共同制作していただけるとなれば、ハードルがぐんと引き下がります。2020年には東京オリンピックが控え、4Kの多彩なコンテンツやサービス、アプリを提供していくことが必要です。BS民放5チャンネルの再送信が昨年12月から始まりましたが、弊社も、4KでのBS再送信についても、技術的な検討を進めていきます。

板東 浩二ブロードバンドのインフラを活用する時代
2017年は物凄い勢いでいろいろなものが動いていくでしょう。

── 2017年の映像コンテンツの動向では、どのような点に注視されていますか。

板東スマホでも映像を視聴できるようにLTEが進展してきているとともに、5G化の検討もされていて、普及も時間の問題です。これからは資金や人的リソースの投資も、インフラから、コンテンツやアプリケーションへと急速なシフトが進んでいきます。ソフトバンクさんの「スポナビライブ」や、ネットを活用した「Hulu」「AbemaTV」のサービスをテレビ局が提供されていますが、2017年はこうした動きが本格化していくでしょう。

コンテンツについては、移動中の駅から駅の間のわずか3分で見られるショートコンテンツといったスマホユーザーへの配信に適した新しいスタイル(短尺)のコンテンツも一気に花開いてくると思います。

最近若者のテレビ離れが指摘されますが、スマホ、タブレット、PCは“リーンフォワード(Lean Forward)”と言われ、前傾姿勢で見ます。それに対してテレビは“リーン・バック(Lean Back)”と言われ、ソファに寄りかかって見ます。視聴するデバイスによって見る距離が異なり、使い方も違ってくるのですが、ここで重要なのは、テレビだけ、スマホだけでしか見られないというようなものではなく、マルチデバイスでシームレスに見られたり、使えたりするようなアイデアをお客様へ提案できれば、テレビの価値もさらに上がっていくということです。

“テレビ”の定義は、テレビメーカー、テレビ局、お客様と立場が変わればそれぞれに違ってきますが、お客様にとっての“テレビ”とは、コンテンツを見たり、情報を取得したりするためのひとつのウインドウでしかないのだと思います。ひかりTVでも、コンテンツを別の部屋や外出先でスマホやタブレットで取り出して見られるサービスを提供しており、大変ご好評いただいています。またテレビはリモコンで操作しますが、テレビとネットが繋がり、さらに今後様々なサービスが提供されるようになることを考えれば、もっと簡単にそれらのサービスが使えるようにユーザーインターフェースを工夫する必要もあると思います。テレビメーカーの音声操作の精度も随分あがってきており、それも注目されていますね。

板東 浩二

多様化するサービスの
見極めも重要ポイント

── Shummy、ゲームアプリなどの新規事業、サービスの多様化をどんどん加速されています。

板東カメラや料理など、様々な趣味のプロフェッショナルなスキルを動画で学べる趣味学習の新サービスが「Shummy(シュミー)」といいます。ネット上でのオンライン学習だけでなく、オフラインイベント(講演会など実際のイベント)なども展開していきます。当初の予定より少し遅れているのですが、間もなくスタートします。大きな期待を込めた新規事業で、何より立ち上がりが肝心です。多くのお客様に有意義に活用いただけるよう、現在もスタートに向けて鋭意準備を進めています。

音楽配信「ひかりTVミュージック」はすでに4年目を迎え、昨年度、黒字化を実現しました。スポティファイなど新規事業者が続々と参入してくる中で、お客様に弊社のサービスを選択していただけるよう尽力し、さらなる顧客拡大を目指します。

クラウドゲーム「ひかりTVゲーム」についてですが、まず、ゲーム事業を手掛けるにあたり、ゲーム業界やユーザー像について理解を深めることが第一の目的でした。ひかりTVゲームはもう少しサービスの内容を見直していかないと今以上の普及はむずかしいと考えています。昨年発表したスマホのゲームアプリ「ルナたん」は、我々自身が企画し、市場へ投入しました。ネット上ではいろいろな意見・要望をいただいており、それらをどんどん改修して研ぎ澄ましていく段階にあります。

現在、映像配信にショッピング、クラウドゲーム、音楽配信、電子書籍、コミュニティサービス、さらにShummyのような新規のサービスに取り組んでいます。今後、それぞれのサービスについて資金と人的リソースをどのようなウエイトでかけていくのか。最適配分の見極めも非常に大切になってきます。

IP化が喫緊の課題
CATVへの提案

── CATV事業者との協業によるサービス展開をスタートされ、高岡ケーブルネットワークなど4社(昨年末現在)と連携を進められています。

板東ケーブル業界でも新技術を取り入れてIP化を推進し、ビデオオンデマンドやゲーム、音楽配信などサービスの多様化は避けられません。しかし、投資や人的な面からも一筋縄ではいきません。その課題を我々のプラットフォームを活用いただくことで解消できるのがこの協業のメリットです。JCC様と一緒になって取り組んでいます。我々にとっては、販売チャネルが広がることになります。

現段階の仕組みは、光回線をJCC様またはCATV事業者様が光コラボでお客様へ提供し、その際に合わせて我々のサービス「ひかりTV」を販売していただいています。ひかりTVのブランドでお客様に販売いただく際には、コミュニティチャンネルが一緒に配信でき、CATV事業者様ごとに画面のユーザーインターフェースもカスタイマイズして提供できることが特長となります。さらに、話題の4K映像が1000本以上見られます。4Kコンテンツ数の規模としては日本最大となります。BS民放5チャンネルの再送信も昨年提供を開始しており、お客様に対して大きなアピールポイントになると思います。

弊社からは、CATV事業者様へ販売時の手数料や毎月のサポート費(料金徴収時の課金決済手数料など)をお支払いするスキームで展開しています。今後は、各CATV事業者様の自社ブランドとしての販売や光回線の活用など、さまざまなご要望にもお応えしていきたいと検討しております。JCC様が取引しているCATV事業者様が約130局あり、もちろん一気には進みませんが、IP化への意識や関心が高い事業者様とまず成功モデルをつくることで、その価値と意義を高められると思います。

大きな鍵を握るのは
スマホキャリアとの連携

── お客様の生活を豊かにするひかりTVの進化する価値や意義をどのようにお客様へ伝えていくか。接点活動も重要になります。

板東 ネットIT企業としての強みを活かし、ネットをうまく活用して多様化するサービスを説明し、会員獲得へとつなげられるアプローチをさらに工夫・強化していきます。どうやって接触機会を上げられるかもひとつのポイントです。 新しい販売チャネルとしてドコモショップでの販売が始まりました。実際に全国のドコモショップに光回線を引き、ひかりTVがどういうサービスなのか、店舗を訪れたお客様に体験いただける環境を整えています。ご来店されるお客様が非常に多くいらっしゃいますから、待ち時間を有効に活用してひかりTVの説明をさせていただく機会を創出するなど、ヘルパーも配置し取り組みを強化しているところです。

今年はいろいろな事業者が参入して競争が激しくなり、コンテンツの調達価格もさらに上がってくることが予想されます。その中でも特にスマホキャリアには注目しています。抱える会員数や投資額からも、いかにスマホのキャリアとうまく連携できるかが一つの鍵になります。

── そういう意味からは御社はNTTグループの強みがありますね。

板東インフラを活用する時代になり、そこへ数多くの事業者が名乗りを上げ、2017年はものすごい勢いでいろいろなものが動いていきます。業界の再編も各所で進み、映像配信事業者も単独で生き残っていくのはなかなか厳しくなってくる。ケーブルテレビにおいても同様なことが言えます。激しいサービス競争、コンテンツ競争の時代に、「ひかりTV」ならではの存在感を存分に示し、市場の活性化にも大いに貢献していきます。どうぞご期待ください。

◆PROFILE◆

板東 浩二氏 Koji Bandou
1953年11月23日生まれ。徳島県出身。1977年4月 日本電信電話公社(現NTT)入社。1991年2月 九州支社 ISDN推進室長、93年3月 長距離事業本部 通信網システム部 担当部長、96年3月 マルチメディアビジネス開発部 担当部長、98年7月 (株)NTTぷらら 代表取締役社長就任。2010年7月 (株)アイキャスト 代表取締役社長就任。現在、(株)NTTぷらら 代表取締役社長、(株)アイキャスト 代表取締役社長。趣味は読書・スポーツ観戦(格闘技全般、野球、ゴルフ)・ヨガ、座右の銘は「変幻自在」。

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