春口 篤氏

スポーツ界最大の祭典を
最新のテレビ技術でお届け
スーパーハイビジョン時代の到来
日本放送協会
技術局長・副技師長
春口 篤 氏
Atsushi Haruguchi

4K・8K試験放送が8月1日、いよいよスタートを切る。2018年からの開始が予定される実用放送へ向け、さまざまな技術検証が進められる。理解・普及促進の観点から、弾みをつける契機となるリオデジャネイロ五輪を中心にパブリックビューイングを展開。新しいテレビ放送の到来を牽引する日本放送協会・春口篤技術局長・副技師長に話を聞く。

4K・8Kが真価を発揮できる環境は
さまざまな技術の進化により
加速度的に整っていく

リオ五輪を弾みに
待望の試験放送

── 8月1日からいよいよ、BSによる4K・8K試験放送を開始されます。送出・送信設備、また、運用方法についてお聞かせください。

春口4K・8Kの試験放送“NHKスーパーハイビジョン”は、8Kで1波または4Kでは2波で行います。新しい圧縮方式が採用され、ビットレートは8Kが85Mbps、4Kが25Mbps程度です。午前10時から午後5時まで、多岐のジャンルにわたる番組を放送していく予定です。4Kまたは8Kで制作した番組を8Kで放送することを基本としますが、9月からは最終週の16時台に4K制作の番組を4Kのまま放送します。また、オリンピックの期間は、現地からの生中継に合わせて放送時間を拡大して放送します。詳しい放送内容、スケジュールはNHKのホームページでご案内しています。(http://www.nhk.or.jp/shv/

音声は、22.2chのマルチチャンネル、5.1chサラウンドの他にもステレオ放送はもちろん、最大32chまでの対応が可能です。また、ハイブリッドキャスト、字幕、EPGなど、現行のハイビジョンで行っているサービスは、ほぼすべて提供できるように送出設備の準備を進めています。

── 先日開催された「NHK技研公開2016」には、シャープから世界初となる専用チューナーが展示され、注目を集めました。

春口今後の普及に向け、まず何より、8Kの超高精細映像を実際に体験していただくことが大切です。流通、メーカー、放送事業者など関係者の方と一体となって取り組んでいくことが重要です。その第一歩が8月1日からスタートする試験放送です。まだ、ご家庭で見られる環境は整っていませんが、東京を含む全国のNHKの放送局54局には試験放送を受信できる環境を用意しました。ぜひ、圧倒的な超高精細映像と臨場感をもたらす立体音響を直接ご体感いただきたいと思います。

── その立ち上がりを加速するのが、日本時間の8月6日から17日間にわたって開催されるリオデジャネイロオリンピックとなります。東京と大阪の計6会場ではパブリックビューイングも実施されます。

春口8Kに皆さんの関心を引き寄せる大きなきっかけにしたいですね。開会式、閉会式、および、柔道、競泳、陸上、バスケットボール、サッカーの5競技を放送し、開会式、閉会式と競泳、陸上の一部の競技はライブになります。とりわけ開会式と閉会式は、感動的な映像がお届けできるのではないかと、私も今から大変ワクワクしています。

革新的な進化への
課題を一つ一つ解決

春口 篤氏── 総務省から発表された「4K・8Kロードマップ」では、2018年からは、4K・8K実用放送が開始される計画です。今から2年後となりますが、サービスを受ける視聴者の環境はどのように進展していると展望されますか。

春口現在、4Kテレビの普及が加速し、大型化が進んでいます。ハイビジョンでは画面サイズが50V型を超えてくると、どうしても粗さが見えてきますが、4Kテレビなら、大きなサイズでもキレイに見ることができます。「あまりサイズが大きくなると家に入れられない」といった話もよく聞かれますが、非常に薄く、曲げることもできるシート型テレビの実現も、遠い未来の話ではありません。設置が容易になるなど、さまざまなハードルが引き下げられ、4K・8Kが真価を発揮できる環境はさまざまな技術の進化により加速度的に整っていくと考えています。

── 画質においては広色域やHDR(ハイダイナミックレンジ)により色や明るさの表現がさらに進化しています。今後、フレーム周波数においても120Hzが実現されてくると、スポーツ中継などにもまた革新が起こりますね。

春口フレーム周波数120Hzの8Kカメラは、すでにイベントや展示会でもご覧いただいています。「2014FIFAワールドカップ ブラジル」では、FIFAと共同で120Hzの超小型8Kカメラで撮影しました。従来のフレーム周波数60Hzでは、スポーツ競技など動きが激しい被写体を撮影すると、動きがぼやけてしまうケースが見受けられましたが、120Hzで撮影したときは、ピッチでの動きやシュートシーンなども鮮明で滑らかな映像をご覧いただくことができました。これからも、120Hz、HDR、広色域などをさらに追求し、最高品質の映像をご家庭にお届けできればと思います。

── 8Kスーパーハイビジョンでは22.2マルチチャンネルが大きな特長のひとつとなりますが、実際に導入できるご家庭があるのかと考えると、本当に一握りの限られた人ではないかと思われます。そうしたなかで、ディスプレイ一体型枠型スピーカーなども開発・提案されていますね。

春口最高のサービスの実現を望む方がおられる一方で、「普通に楽しむことができれば十分」という方もいらっしゃいます。どちらも大切な意見であると考えています。22.2マルチチャンネルの音響設備を導入されたお客様は、あたかもコンサートホールや劇場の特等席にいるかのような圧倒的な臨場感をお楽しみいただけます。また、大多数の2chで楽しまれるお客様にも最大限の感動をお届けしていきたいと考えています。これからどのように最適化していくかは、試験放送のなかで探っていかなければならないテーマのひとつになります。

── 多数の加入世帯を占めているケーブルテレビでは、今後、どのようにSHVの配信が進展していくとお考えですか。4Kマルチチャンネルサービスには、NHKが制作する4K・8Kコンテンツも編成されるのでしょうか。

春口ケーブルテレビでも視聴できるようになれば、高精細な映像・音声に触れていただける環境が一段と広がっていきます。一方で権利処理など、まだ解決しなければならない課題があるのも事実です。一つ一つクリアしていきたいと考えています。

── 5月に発生した熊本地震では、ライフラインなど住民に不可欠な情報を届ける手段としてラジオが注目されました。“災害放送”という側面からの役割や新たな可能性についてはどのようにお考えですか。

春口災害時の緊急放送として衛星放送を使うことは、ハイビジョンでも行っています。衛星放送は、全国同一の放送ですので、被災状況などを全国に広くお伝えすることに適したメディアです。一方、被災地の方々にきめ細やかな情報をお届けするには、ローカル放送が可能な地上波が適していると考えています。いずれも、そのメディアの特性を活かして、必要な方に必要な情報をお伝えしていくことが重要です。

一方、4K・8Kの災害情報の在り方や新しい可能性として、例えば熊本地震の際に、多くの箇所で山が崩れ、山肌の茶色い土がむき出しになりましたが、このときもNHKは空撮を行いました。被害の状況、さらには土砂が崩れ落ちそうな場所など、4K・8Kで撮影した映像では、鮮明に読み取ることが可能です。こうした利点をどう活用していけばよいのか。これまで成し得なかった伝え方や演出の仕方があると思います。

4K・8Kのコンテンツは進化しています。さらに大きな可能性を秘めていることは疑いようのない事実です。これまでは、スポーツの映像がよりきれいに見られるといった捉え方が話題の中心でしたが、この新しいメディアをどのように楽しんでいただけるか、さらに検討を深めていきたいと思います。

スマホとの融合が
化学反応を引き起こす

春口 篤氏── テレビそのものが進化していくと同時に、その一方では、急速な普及・拡大でより身近な存在となったスマートフォンやタブレットとの新しい関係が構築され、テレビの新しい価値イメージがどんどん具現化されています。テレビの未来をどのように実感されているのでしょう。

春口テレビはこれからさらに進化していく中で、その概念やスタイルは変化していくでしょう。いまや爆発的な普及を見せるスマートフォンは実に使いやすいですね。一方で、テレビのスマート化も徐々に進展を見せています。たとえば、リモコン。音声による検索などの新しい使い方も出てきています。

今は、テレビはテレビ、スマートフォンはスマートフォンとそれぞれの立ち位置にありますが、テレビは今後スマートフォンなどの通信機器との融合が進んでいくでしょう。その中でテレビはもっと使いやすくなり、引き続きみなさんの生活の一部として利用されていくと考えています。コンテンツをお届けする立場から、そこで何かできるのか、お役に立てるのかを常々考えています。

── リオデジャネイロ五輪の開催を目前に、店頭での4Kテレビの拡販にもさらに力が入っています。それでは最後に、4K・8Kの普及へ大きな役割を担う家電流通の皆さまへのメッセージをお願いします。

春口これまでにもさまざまな機会を通じて、8Kスーパーハイビジョンを皆さまに体験いただく場を提供して参りました。体験された方は、本当に目を丸くしてびっくりされ、映像の美しさ、音声の迫力を実感頂いています。現行のハイビジョンもアナログと比較すれば確かにきれいですが、スーパーハイビジョンの超高精細映像や臨場感はその比ではありません。これからも、一人でも多くの方に体感していただきたいと思っています。

テレビ市場では今、4Kテレビの販売が伸びていますが、8月1日からスタートする衛星放送による4K・8K試験放送を視聴するにはセットトップボックスが必要となります。現時点では発売されていませんので、そうした点もきちんと理解いただけるよう、正確な情報を提供していくことが大切だと考えています。NHKは、お客様との接点を持つ家電流通の皆さまと共に、理解の促進につながる活動に、より一層力を入れていきたいと思います。

◆PROFILE◆

春口 篤氏 Atsushi Haruguchi
1981年、日本放送協会入局。山形局、技術局、編成局などを経て、2014年技術局長、2016年から技術局長・副技師長。

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