巻頭言

本質とは何か

和田光征
WADA KOHSEI

本欄でたびたび小社の歩みについてお話をさせていただいております。「業界の建設的発展に寄与する」「生まれる価値のあるものは育てよう」という考え方を創業者の岩間正次前社長から叩き込まれ、私はこれを当社の社是、理念として一寸の狂いなく厳守し、今日まで歩んできました。小誌の前身である「オーディオ専科」の創刊時を振り返ってみます。

1968年入社の私が、私自身の中で現実味をもってこの理念を確信したのは、松下幸之助氏の著作集に触れた時でした。中でも「商売心得帳」は特に感銘を受けたもので、何度も精読して己の魂となりました。「他業界が羨むような業界でなければならない」の一節は、私が1971年に創刊した「オーディオ専科」のまさに核心となっています。

私は編集責任者として、オーディオ業界の発展に寄与する一心でそれを具現化していくことを雑誌の編集基本方針としました。まず「業界」の認識として、これを形成する要素にメーカー、販売店、さらにユーザーの存在を加えました。ほかの業界誌は、あくまでもメーカーと販売店だけを業界の要素としており、ユーザーは現象的なものという認識だったと思います。しかし私は、ユーザーこそメーカーや販売店以上に重要な存在と認識することが肝心と考え、まずユーザーが存在し、メーカーがあり、販売店があると理解しておりました。この認識は今日までの私の思想の根源となっています。

 ユーザー=市場創造商品を希求する
 メーカー=市場創造商品を生産する
 販売店=市場創造商品をユーザーに届ける

従って、販売店とお客様(ユーザー)の関係は極めて重要です。販売店は商圏のお客様にとっての文化基地、それを店主自身が認識し、地域とお客様に貢献すべきであると私は考えます。販売店は、言うなればお客様からの信託で存在するもの。そして店舗という舞台で主役である商品を輝かせるのが、コンダクターである店主です。

当時の私の理屈は原理的でしたから、脈々と続くオーナー企業の専門店から私の記事にクレームがつくこともありました。しかし私は自らの考えを業界発展に寄与するもの、販売店の繁栄をもたらすものと信じて貫き、やがて多くの賛同を頂くこととなりました。「オーディオ専科」を通じて、オーディオ専門店の育成が具現化した思いでした。

当時2年ほど一緒に仕事をしたラジオ・テレビ業界誌の編集長に教わった統計学をベースにして、私が1972年に企画編集した「郡山市のマーケットとオーディオ専門店」という記事があります。郡山市の人口と耐久消費財の普及状況からオーディオの市場規模を割り出したデータ、そして郡山市のオーディオ店への取材記事とで構成したもので、地域のオーディオビジネスの可能性を示唆し好評を博しました。以来これを連載とし、全国の都道府県を対象としていきます。「売れ筋商品ベスト10 」記事とともにこれがオーディオ専科誌の二大企画となり、ほかにも新製品情報や市場創造商品のマーケティング記事が業界のインフラ的な役割を果たしたのでした。

ものごとを捉えるには、まず本質を認識することが重要です。現象は一過性のものに過ぎず、そこからの認識は本質であるかのように見えてもやがて崩壊します。ただ、一過性の認識を繰り返すのは人間の性であり、企業も同様です。しかし、本質は動きません。永遠に人間が存在するからです。故に本質をおさえた企業しか生き残れません。

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