中島幸男氏

今の日本市場には、成長する力がある
価値提案が届けられれば商品は必ず売れる
パナソニック株式会社 常務役員
アプライアンス社 上席副社長
コンシューマーマーケティング ジャパン本部 本部長
中島幸男
Yukio Nakashima

2018年に創業100周年を迎え、さらに次の100年に向け新たな準備を進めるパナソニック。日本市場での需要創造を力強く推進、確かな実績を上げる同社の2016年の取り組みを、中島幸男氏に聞く。

家電も住宅も、電材も建材もあるパナソニック
住空間の提案が大きな差別化の要素となる

テレビの存在は固定されたものではない
新たなライフスタイルの提案を行っていく

3つの取り組みで
需要を拡大する

── 2016年を、どのようにご覧になりますか。

中島2015年度の着地は悪くない見通しで、業界では前年比数%アップし、パナソニックもそれ以上の成果を挙げられていると思っています。2016年4月以降は1%の緩やかな成長を見込んでいますが、 2017年4月の消費税増税前の駆け込み需要が幾らかありますので、 年間では3〜4%程度の成長を見込んでいます。

そのような中で、パナソニックでは2015年度から3つの取り組みに着手しています。まずひとつは、「地域創生」。地域がそれぞれアイデアを出して、しっかりと成長していこうというもの。2つ目は、「顧客開拓」。新たなお客様に対しての商品施策を展開するということ。そして3つ目は、「需要創造」。既存の価値を高め商品単価のアップを図るだけではなく、新たな需要を創るということです。

── 具体的な取り組みをご紹介ください。

中島「地域創生」はもともと、北海道から沖縄まである私どもの重要なパートナーのパナソニックショップ様を意識して打ち出した施策です。全国各地の我々の販売会社を通じて、力強く推進しています。例えば、食器洗い乾燥機。ある程度の普及段階で伸びが停滞しています。都道府県別の保有率では、関西圏が非常に高くて50%近く、東日本では全般に低く青森や秋田あたりでは十数%と西高東低です。

するとそれぞれの地域で訴求が変わりますね。ほとんど普及してない東北では、まず食器洗い乾燥機の良さを知らしめるのが第一。手洗いより食器の汚れもきれいに落ちて節水もできる、生活がこう変わると明確に打ち出す。関西方面では買い替えの促進。10 年、15年前の機種と比べて静音、省エネであるとか、汚れ落ちもよくなったと進化をアピールする。そしてチラシや店頭ディスプレイもこれに応じ、地域によって変えていくわけです。

それからエアコン。これも北海道、東北のような寒い地域で普及率が低い。エアコンはクーラーのイメージが強く、寒い冬に暖房機として十分に使えないとの先入観があります。そこで寒冷地の冬場でも暖房器具としてお使いいただける仕様のエアコンを企画し、暖房器具として打ち出していく。これも都道府県別にそれぞれキャッチコピーを変え、地域のニーズに則した訴求をしたところ、商品の良さの認知度が一気に高まり、エアコンが今一番の成長商品になっているのです。

またご存じのとおり薄型テレビのビエラでは、2014年から「ビューティフルジャパン」プロジェクトを展開しています。2020年東京オリンピックの開催まで、都道府県ごとに、オリンピックを目指す小・中学生の活動を現地の美しい風景とともに収録し、プロモーション映像としていくもの。非常に大きな手応えを感じております。

アンバサダーに綾瀬はるかさんを起用し、福島県、静岡県から現在では12県の映像を収録しています。NHKさんや現地の放送局も収録の現場を取材してくださり、注目されました。何より地元の子供さんたちの目を輝かせている様子がすばらしく、そんな映像は地元の方々にとっても誇らしいものでしょう。パナソニックのビエラの認知率が各地で一気に上がっています。

また年末から始まった「プライベート・ビエラ」のプロモーションでは、綾瀬はるかさんとともに47都道府県のゆるキャラも出演しています。彼ら自身もツイートで宣伝してくれますし、それぞれの県の量販店様の店頭で、ゆるキャラのポスターやビデオを展開する取り組みをしています。これも高い効果を上げていますね。ご販売店様も非常に喜んでくださっています。

世代に着目した
新たな提案の発信

── お客様ひとりひとりに向き合ったマーケティング活動が大切になってきますね。

中島こういう取り組みでは皆がひとつになり、遊び心も加えながらたくさんのアイデアが出てきます。そして商品部や宣伝関係の人間も、アイデアを地域の販売会社に早め早めに発信する。情報開示も早くなり、現場でさらに工夫も生まれる。ただ個々の部署で考えたデスクワークだけのプロモーションよりも、半年や4ヵ月前から現場と一緒になった取り組みは、大きな力になります。やはり現場が一番大事、お客様との接点のところでプロモーションをどう実現するかが鍵なのです。

全自動ディーガのプロモーションでも、地域の方言を使ってそれぞれにキャッチの言葉を変えました。オリジナルバージョンは「なにもしなくてイイんです!」ですが、九州地区は「なんもせんでよかっ!」、広島地区は「なんもせんでええよ!」、関西地区は「なんもせんでええねん!」、愛知地区は「なんもせんでええがね!」、そして宮城地区は「なんもしなくてイイっちゃ!」と。夏に九州から、順次各地区で放映していきました。またテレビコマーシャル放映と同時に、主要ターミナル駅での交通広告を展開しましたが、その時期は各地域の量販店様の販売状況が格段に高まりました。地域の販売会社の担当者がターミナル駅から大型量販店様へ、また店の入口から売り場へと導線に沿った宣伝に工夫を凝らしたのも、大変奏功しました。

そんなアイデアがたくさん出てきて、量販店様も驚くほどの数字を上げられる。量販店様も我々も、お互いに達成感がある。そういう取り組みを今各地で次々に行い、ディーガは一気に10%ほどもシェアを上げました。こういう動きがあらゆるカテゴリーで出ていますから、結果的に単価が上がり、売上げが上がり、増益になっているのです。

また「顧客開拓」では、新規顧客のひとつがインバウンド。2015年はこの需要が大きく成長をけん引しましたし、2020年の東京オリンピックまで、海外からのお客様は着実に増えていくと思われます。あとはそこに的確な商品をぶつけ、マーケティングをしていこうと考えます。

もうひとつは、日本の人口1億2000万人の個々のデモグラフィックから考える顧客開拓。今後の需要をけん引する年齢が高い層に向け、50代・60代を中心とした目利き世代の方をターゲットに「Jコンセプト」の商品群を展開しており、2014年の開始から一定の評価をいただいています。

さらに30代・40代の方に向け、「ふだんプレミアム」を昨年秋から展開しています。少し尖ったデザインで、普段の生活の中のプレミアムというマーケティングを行っています。20代の若い層には、「Panasonic Beauty」。ここ数年間で若い女性をターゲットに成果を上げてきましたが、さらに若い男性に向けた商品提案とマーケティングもし始めたところです。

50代・60代を中心としたシニア層、それから30代・40代の子育て層、そして20代の若い層という形で切れ目なくずっと、いつもそばにパナソニックの商品を置いていただけるような取り組みを行って、新たなお客様を獲得していくのです。

「需要創造」では、昨年は新しいジャンルの商品も出しています。例えば「ひざトレーナー」は、歩くのに少し負担があるご高齢者をサポートするもの。14万8000円の価格で出していますが、地域専門店様で非常に積極的にご販売いただいています。また一昨年から再び展開しているハイファイオーディオのTechnicsでは、もう一度音楽ファンの皆様の需要を掘り起こしていこうと取り組んでいます。

── 高度経済成長期や、つい数年前のテレビのデジタル化では、努力しなくても商品が売れる状況でした。しかし今のように需要が落ちている時はそうはいきません。そこでここまでの手応えをもった展開ができるのはすばらしいですね。

中島日本は高齢化が世界で一番進んで人口も少しずつ減っている。成熟した市場でそんなに大きな成長は望めないというのが定説です。しかし私は、今の日本には充分に成長の力があると思っているのです。1億2000万という人口の塊があり、世帯数は5000万も存在している。そしてこんなに小さな面積の中に北海道から沖縄まで47の都道府県があって、それぞれにきちんと経済活動を行っている。そこに価値をしっかりとお届けできれば、買っていただけるはずなのです。

中島幸男氏原点に返り
日本市場を見直す

── あらためて日本はいい市場だという考えに至ったのは、どうしてでしょうか。

中島家電の販売が落ち込めば、何かアイデアを出さなければなりません。高い目標をもってモチベーションを上げなければと。たとえば今の日本の市場は人口が減るから売上げも微減になる、ならば固定費を減らして利益を出そうという考え方は、皆が縮こまるだけ。そこで新たに、日本の市場のよさを見つける努力が必要だと考えました。

世界の国々の国民全体の平均年齢が報道されましたが、日本は45歳で一番高い。つまり日本は、世界の最先端を行っているわけです。そこに新しいマーケティングや商品政策を展開できるチャンスがあると考えます。少子高齢化社会を悲観するのでなく、それを逆手にとって、どこにターゲットを定め、どういうマーケティングを行えばお客様に届くかを追求する。そうして需要を切り開くのです。

今パナソニック全体では、Bto Bや車載の事業を伸ばそうとしています。そしてコンシューマー事業ではアジアなどの戦略地域を重視しています。そこでは日本の昭和30年代のようにほとんどの方がまだ家電を所有しておらず、洗濯機や冷蔵庫、テレビが飛ぶように売れます。しかし日本はそういう時代を既に経験して、今はほとんどの方が家電を所有している。そうなってから次はどうしていくかと考えた時に、先ほどの3つのアイデアが出た。そしてそれが着実にお客様の反応を導いてきたのですね。日本のおかれている状況を悲観せずに逆にとらえ、商品の特長を出していく。この取り組みは2016年以降も積極的に推進します。

── お客様をよく知ること、言わば原点に立ち返った取り組みですね。

中島私はもともと事業部におりまして、そこからマーケットを見てきました。そして2001年に初めて設置されたマーケティング本部に行くことになった時は、そこであらためてマーケットを見て、事業部長にも言いたいことを言ってきました。良かろう、高かろうの商品ではマーケットに受け入れられません。そういう思いでマーケティング本部で価値と価格を追求してきて、パナソニックのシェアは上がり出したのですね。そこでお客様にどう訴求していくかは、相当ブラッシュアップしました。

さらにその後の大きなエポックは、社名とブランドの統一です。当時当社は松下電器産業という社名の会社で、ナショナルブランド、パナソニックブランドを展開していました。たとえば野球やバスケットなどのスポーツ部が活躍すると、「松下電器優勝」と報道される。一方でテレビはパナソニック、白物はナショナルと、イメージが分散していたわけですね。

それが社名もブランドもすべてパナソニックで統一しようということになり、その際にもう一度訴求の仕方やブランディングを考えることになりました。私もプロジェクトに入っていろいろとやっていましたが、統一によってすべてをワン・パナソニックで語れるようになり、非常に喜びに感じました。

その時私は白物の担当でしたが、それまでナショナルで訴求していた炊飯器、冷蔵庫、電子レンジが、パナソニックのブランドとなってどう変っていけるか、これをチャンスと捉えました。国民1億2000万人の一人一人のデモグラフィックに焦点を当て、何歳のどんな方に売るのか、前後の世代と併せてそこに向かってしっかり訴求するということをずっとやってきたのです。そのベースがあって、日本でも評価されてシェアが上がり、今厳しい時代の中で次の時代に向けた取り組みへと進化している、といった感じでしょうか。

次の100年に向け
総合力を発揮する

── 2020年のオリンピックに向け、さらに取り組みが広がりそうですね。

中島当社で言えば、2018年に創業100周年を迎え、2016年度からの新中期計画の着地点がそこに当たります。100周年でパナソニックは何ができるかということを、今、プロジェクトを組んでやっており、それを日本のお客様に還元したいと思っています。さらにその2年後に東京オリンピックが来るというストーリーです。

今から3年バージョン、5年バージョンで、しっかりと構えてやっていこうとしています。特に基本の考え方に入れたいのは、B to BやB to Cの考え方。コンシューマーの家電事業はB to Cですが、実際の販売における顧客接点はB to B to Cなのです。お得意先との関係があって、その先にお店とお客様との関係がある。だから店頭での取り組みとして、お客様にどう価値を伝えるかと考える。お得意先とのB to Bの活動の中で、一緒になってエンドユーザー様に価値を伝えていく。量販店様も地域専門店様も我々にとっては大事なパートナーであって、まずその取り組みをしっかりやっていくということです。

それぞれのお得意先によって、その先のお客様が少し違ってきます。それぞれに合わせた商品提案やプロモーションをやっていかなくてはなりません。そしてお客様に対してもしっかりと、パナソニックを身近に置いてもらえる取り組みに注力して参ります。

── 地域によってもお客様の指向は違うということで、ひとりひとりのお客様に向けた取り組みを広げているということですね。

中島少子高齢化がますます進んでいく中で、住空間をどう提案するかといったことも、パナソニックが差別化できる要素になると思います。家電も、住宅も、電材も、建材もあるパナソニックが、どういう暮らしを提案できるか。それはまさに、街のでんきやさんである地域専門店様が得意とするところ。お客様の家の間取りから家族構成まで把握しておられる。1000万世帯のお客様に対応して、その暮らしがすべてわかっている。家に上がることもできる。そういうお店はリフォームや住空間の提案も、間違いなく強いはずです。

そして我々は、そこにしっかりと提案できる商品を提供する。今クロスバリューの商品と言っていますが、それを提供していければ、一番の強みを発揮できると思っています。

── 電力の小売り自由化も始まり、HEMSの取り組みなどにも関心が高まりそうです。

中島太陽光発電システムも大事な商材で、ここ4〜5年は地域専門店様を中心に成長戦略として取り組んできました。ただそこはご存じのように国の政策に影響されるところが大きく、今は少し踊り場に来ています。その中で、電気を制御するAiSEGを合わせた蓄電池は、HEMSの分野で間違いなくご評価いただけると思っていますし、それを総合力でやれるのがパナソニックだと思っています。ここにまさに力を入れてやっていかなくてはなりません。

加えてさらに家の中のリフォームも連携しながら、住空間の提案をいかにわかりやすく展開していけるか。そこは3年間の中期計画の中でも一番大きな要素になってくると思います。

テレビは家庭の主役
新たな提案も生まれる

中島幸男氏── テレビの展開はどうお考えになりますか。

中島テレビはこれからも間違いなく家庭の中心であり続けると思っています。足もとでは2Kから4Kにシフトし、金額はしっかりと前年を超える状態になってきました。しかし4Kの展開も、過去の経験に学ばずに価格競争になってしまっては意味がありません。

パナソニックは、4Kの中でもしっかりと松竹梅のカテゴリーをつくりながら、ビューティフルジャパンのプロモーションとともに価値を伝えていく活動をする。映像や音といったテレビの基本のフィーチャーを追求しながら、加えて感性に訴えるためのデザイン、テレビのあり方そのものも、しっかりと工夫して提案していきたい。

さらにプライベート・ビエラ。従来のようにリビングに鎮座する大型テレビや、個室に置かれる中小型テレビと違って、お風呂の中も、キッチンも、ベッドの中も、家の中を自由に移動する存在です。4年ほど前から新規商品として取り組んで来ましたが、今や凄い台数を重ねており、台数、金額ともに一定のジャンルを形成してきました。そういう見方をすると、テレビという存在も固定されたものではない。また新しい使い方、ライフスタイルの提案を行っていかなくてはいけません。

地デジ化の時、従来の売れ筋だった32インチのテレビがもの凄く安くなりました。しかしプライベート・ビエラは小型モデルでありながら、「山椒は小粒でもピリリと辛い」、価値があれば小型であってもそこそこの価格でお客様は買ってくださるのです。テレビは画面が小さいものが安くて、大きいものが高いというのではない。使い方やライフスタイル提案によって価値を持つのだと再認識しています。

復活のテクニクスに
新たなファンを呼び込む

── テクニクスの取り組みも本格的に広がってきました。

中島私も中学生、高校生の時に自分でステレオシステムを組んで、いろいろと楽しんだものです。松下電器に入ったときも、ステレオ事業部を希望してかなわず、配属された者をうらやましく思っていました。ただオーディオのいろいろなトレンドがあって、テクニクスはあれだけいい事業であったのに終息していました。それを今回、当社の小川役員が指揮をとって非常に精力的に取り組んでいます。

市場は日本とヨーロッパ。そこでしっかりと売っていくために、我々も東京と大阪のショウルームに試聴室を設けましたところ、お客様がひっきりなしに来てくださっています。パナソニックショップ様も量販店様も、試聴ルームがあるお店を中心にやっていただいています。

テクニクスの復活でかつてのオールドファンが来て、日本がヨーロッパよりも成功している状況です。ただひとつ課題と思うのは、新しいファンを増やさなくてはならないこと。そこでこの1月にC500という新商品を出します。ここでいかに新しい層、女性や若い人達にアプローチできるかが鍵ですね。新しいテクニクスファンを開拓するために、またいろいろと工夫してやっていきたいと思います。テクニクスの展開が始まって、私自身も嬉しいですし、集まっている技術者も本当に深い思いを持ってやっています。

これも販売店様にしっかりと商品説明しながら、新しいお客様にアプローチするためのプロモーションをしていきたいと思います。またオーディオ専門店様に対しても、ようやくテクニクスの本気の取り組みを理解していただけると思っています。しっかりとご説明しながら一緒にやらせていただきたいと思います。

── 今後の取り組みもますます楽しみですね。

中島やらなくてはならないことはたくさんありますが、前向きに、強い気持ちで取り組みたいと思います。2016年は絶対に、明るい年になるでしょう。

◆PROFILE◆

中島幸男氏 Yukio Nakashima
1978年、松下電器産業(株)(現パナソニック(株))入社。電子レンジ事業部配属。その後、松下コンシューマーエレクトロニクス(株)へ出向。マーケティング本部 商品グループのグループマネージャーを経て、2010年4月より、役員。アプライアンス・ウェルネスマーケティング本部 本部長に就任。2014年4月よりコンシューマーマーケティング ジャパン本部本部長を務める。

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