河野 弘氏

付加価値訴求の鍵はお客様が納得できること
上質なライフスタイルを新しい発想で創造していく
ソニーマーケティング株式会社
代表取締役 執行役員社長
河野 弘氏
Hiroshi Kawano

「4K」「ハイレゾ」へのシフトを鮮明に打ち出し、ユニークな商品群で市場活性化を牽引するソニー。新時代到来を背景にした付加価値′[発へ、各社マーケティング活動の力量が問われている。市場創造へいかに臨むのか。ソニーマーケティング・河野弘社長に話を聞く。

テレビのパラダイムシフト
変化するビジネスモデル

── HDRに対応した4Kプロジェクターの新商品「VPL-VW515」がVGP2016総合金賞となりました。

河野4Kの製品群が増え、定着していく中で、ネイティブ4Kの圧倒的な高画質を常にきちんと示していくことは重要な使命だと考えています。今回の受賞はまさに、ソニーのすべての4Kプロダクツに息づく画づくりの技術への評価の象徴と言えるもので、エンジニアにとっても大きな励みになります。

── 4Kテレビを多くの人が体験し楽しむというステージを迎え、テレビの楽しみ方が大きく変わろうとしています。

河野ソニーは業界を率先して2Kから4Kへのシフトを明確に打ち出し進めてきました。4Kテレビの認知度が確実に高まっていく中で、これから注意すべきは4Kを決してコモディティ化させないことです。その意味でも新しく投入したブラビア「X9000C」シリーズでは、世界最薄4.9mmを実現し、日本ではまだ馴染みが薄い“壁掛けスタイル”を提案しました。そして、今提案しているのは、新しいテレビの楽しみ方。TV放送を受ける受像機という役割だけでなく、お客様の好奇心に応えてコンテンツを取りにいくTVです。アプリケーションも豊富で、例えば、4Kブラビアにはレシピ検索で1の「クックパッド」の公式アプリを搭載しました。これが女性から大好評です。大きな画面で料理のレシピを見ながら、動画でお肉の“焼き加減”も確認できます。このような簡単でおいしいおすすめ料理の動画が毎日テレビに配信されます。お子様向けには親子で楽しめる絵本やクイズ形式の知育教材アプリなどを搭載しており、店頭での訴求時に大きな効果を発揮しています。

テレビの楽しみ方のパラダイムシフトに呼応してビジネスモデルも当然変化しています。お客様に対して、「何インチでいくら」という金額だけの訴求ではなく、製品の価値を理解し納得いただいたうえでご購入いただくことが大切です。

テレビは毎日楽しむものですからより有意義に4Kブラビアを使っていただくための提案が大切です。そこにエンジニアが意気に感じてさらに高い次元で応えていく。ものづくりへチャレンジできる上質なライフスタイルをマーケティング含めた新しい発想で創造していかなければなりません。

河野 弘氏ハイレゾで音質へ開眼
若年層への広がりに手応え

── オーディオ市場に目を移すと、「CAS-1」がデスクトップオーディオ大賞を受賞するなど、ハイレゾ≠キーワードに需要喚起をリードされています。

河野CAS-1は大変面白い製品で、コンパクトなボディにも関わらず、完成度の高い高音質を実現しました。LDACに対応しており、ブルートゥースのワイヤレス再生では既存技術の約3倍もの情報伝送が可能です。小音量の再生でも高音質で楽しめるなど、随所に設計者の思いが詰まっています。秋に開催した特約店様を対象とした商品内覧会では「この音は凄い」と驚きの声を皆さんにいただきました。このモデルは、『今の生活スタイルに大変適ったコンセプトで、音を楽しむ』ことが原点ですので、そのための機会や楽しみ方を提案することがますます重要です。

── ハイレゾ市場はさらに広がりを見せています。

河野お客様の“いい音で聴きたい”という気持ちに対し、どこまで応えていけるのか。新製品の発売に合わせ、ヘッドホンh.earシリーズとウォークマンA20シリーズを組み合わせた「h.ear×WALKMAN」というコンセプトで、ファッショナブルな若者世代にハイレゾを提案しています。新製品はカラーバリエーションが豊富で、想定通り、オーディオファンではない音楽ファンの若い世代に広がる手応えを感じています。もっとハイレゾの裾野を広げていきたいですね。

お客様は純粋に好きな音楽をいい音で聴きたいと思っています。そのための技術としてフィーチャーされたのがハイレゾです。今では「もうハイレゾで聴いた?」というように、よりレベルの高い音楽体験を語るひとつのキーワードになっています。4Kについても同じことが言えるでしょう。「もっといい音で聴きたい」「もっと美しい映像が見たい」。沸き立つトレンドをより高みへ導くためには、実際にハイレゾの音を聴いて、4Kの映像を見てもらうために、もっとお店に足を運んでいただかなければなりません。ハイレゾを気軽に体験できる『ハイレゾテイスティングスポット』は、全国約700店の売り場にまで拡大することができました。目指すベクトルはコモディティではなく、お客様に楽しんでいただくエンターテインメントです。

この年末商戦は、店頭でも「いいものを提供しよう」という気概の高まりを強く感じます。私たちもものづくりに対するエンジニアのモチベーションを高め続けていけるマーケティング活動にさらに注力したいと思います。

── 来年4月にソニーストア福岡天神をオープンされます。

河野2012年の社長就任以来、“ソニーファンの創造”に取り組んできました。販売会社の大きな役割として、特約店様と一丸となった販売活動はもちろん重要ですが、さらに重要なのはお客様にきちんと製品に込められたメッセージを届け、関心を持っていただき、お店に足を運んでいただくこと。これは、カスタマーマーケティング活動が土台としてあればこそです。お客様が製品を試せる、新製品の詳しい情報が手に入る、使いこなしのためのセミナーやアフターサービスなどのサポートを受けられる、その重要な接点としての役割を担うのがソニーストアです。地域におけるソニーのエクスプロージョンを上げることがそのエリアでのソニーのブランドイメージのアップとともに、販売にも大きく貢献することは東京・大阪・名古屋でも実証されています。

また、福岡では新しいトライアルとして、ソニーストアが入るビルに九州支社を移転させ同居します。例えば営業会議でも、製品に囲まれて行えば見方が違ってくるはずです。特約店の社員研修なども開催するエリアマーケティングの拠点となります。

── 市場創造への意気込みをお願いします。

河野「4K」「ハイレゾ」、そしてデジタルカメラの「α」が3つの柱。ここをさらに強化します。心強いのは、これらは我々ソニーの高い技術力を活かして勝負できる分野であること。ユニークな製品群で業界へ刺激を与え、新しい流れを吹き込んでいきます。日本の人口が減少していくなか、市場における“数”のスケールが飛躍的に伸びない状況であれば、単価を上げることが必要です。技術に裏付けされた高い付加価値を、お客様にいかに分かりやすくお伝えし、納得していただけるかが鍵です。まさに、マーケティング会社としての腕が試されます。日本のマーケット全体で付加価値商品を追求していくトレンドを力強く創造していきたい。ソニーの生きる道もそこにしかありません。

◆PROFILE◆

河野 弘氏 Hiroshi Kawano
1962年6月11日生まれ。1985年4月 ソニー(株)入社。03年4月 ソニー・エレクトロニクス・インク(米国)Consumer Sales Company担当SVP、05年5月 Sony Style 担当SVP、09年4月 Home Division 担当SVP、10年4月(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン(SCEJ)プレジデント、12年4月 ソニーマーケティング(株)代表取締役 執行役員社長(現職)、12年6月 ソニー(株)グループ役員(現職)、12年6月 (株)ソニー・コンピュータエンタテインメント取締役

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