香田 進氏

ハイレゾ再生の考え方で一貫したモノ作り
オールインワンでの展開を強みとする
ラディウス株式会社
代表取締役社長
香田 進氏
Susumu Kouda

アップル社からスピンアウトし、マッキントッシュパソコンのアプリケーションソフトや周辺機器を手がけてきたラディウスは、1996年に日本法人を買収した香田氏により大きく方向変換し、オーディオ製品の領域を拡大している。音に対する強いこだわりで感性に訴える商品作りを推進、オーディオ市場に存在感を示す同社の展開を香田氏が語る。

自然の音、ナチュラルな音は素晴らしい
そこにいかに到達できるかを目指したい

最先端のデジタル技術を磨き
感性の領域へ方向転換

── 御社の歩みと、香田社長のご経歴をお聞かせください。

香田私はラディウスという会社に関わる以前、ソフトウェアの開発や、新聞社のDTPシステムの開発を行って、大手新聞社の制作システムのサポートにも携わりました。また「Shade」という3Dのアプリケーションの普及と販売に関わる仕事をしていましたが、その頃アメリカの会社であったラディウスが手がける「Supermac」というMacの互換機があって、そこに3Dのアクセラレーターを実装すると、Shadeが3Dのポリゴンゲームとして動く。それで私はShadeの拡販のためにと、96年3月にラディウスの日本部門を買い取ったのです。

ラディウスでは3Dのアプリケーションとハードウェア、20インチのディスプレイをメインに販売していたのですが、1999年までの間にSupermacを4万台ほど市場に導入していました。そんな中で突然、97年にアップル側から互換機のライセンスを2年後に止めるという方針が出てしまった。他にも3Dのグラフィックボードや、2D、DTP用のグラフィックボードなども出していたのでそれを残しましたが、コンピューター本体がなくなればグラフィックボードも3Dのアクセラレーターも作れなくなります。

それで1999年にラディウスは、大きく方向転換しました。その際、デジタルオーディオ製品群と感性音響製品群、そして情報製品群という商品構成の3つの柱を打ち立てたわけです。ラディウスの社是である「自由な発想」を活かして、思い切っての事業転換ですね。その3つの柱で現在に至っています。

その頃作ったのは「EditDV」という編集用のアプリケーション。それに関連してIEEE1394やUSBの基板も作りました。またディスクドライブの基板も自前で作っていましたが、そういうノウハウがデジタルオーディオに上手く転用できたかと思います。ディスクメディアも手がけて、最盛期は月間100万枚ぐらいDVDメディアを販売しましたが、オーディオとビデオのキーワードは外さないところでビジネスをやってきたわけです。

当初からハイレゾを指向し
高い意識で製品を開発

香田 進氏── オーディオ機器はどのような形で手がけられたのですか。

香田3つの柱を定めた時、まず真空管アンプをつくりました。それからイヤホンの「ドブルベ」。我々独自のドライバー方式を採用したものを6年前に投入し、今に至ります。 昨年日本オーディオ協会がハイレゾの規格を決めた時、私どもがその時作った真空管アンプを測定したところ、規格をクリアしていました。当時からハイレゾの音が再現できていたのですね。私どもは当初からCDの音を超える、本来のアナログの音を目指していましたが、今こうしてハイレゾが世の中に浸透してくると、その方向性は間違っていなかったとあらためて認識しています。

昨今では我々は、ハイレゾ再生のアプリケーションソフトとDAC内蔵アンプも手がけています。そしてイヤホンに至るまで、ハイレゾ再生の考え方で一貫した商品作りをしています。こうしてオールインワンで商品を提供できるのが、我々の強みです。アプリケーション開発にあたって市場調査を行った際の2013年当時、ポータブルの専用プレーヤーが2年間で79万台の出荷でした。そこにiPhoneとiPodを入れると一気に1000万台の規模になる。そこで我々は後者にフォーカスしてきたわけです。

昨年から今年にかけての市場は、金額ベースで2.3倍、出荷ベースで2.4倍伸長しています。私どももハイレゾの商品はそういうペースで出荷が増えていくと予想し、ハイレゾのHP-NHR21/11というイヤホンを出しました。出荷台数が順調に伸長しており、このカテゴリーはさらに拡大していくと思います。

ハイレゾ再生のソフトウェア「NePLAYER」は、Android用を昨年12月、iOS用を今年4月にリリースしましたが、iOS版は1日でミュージックカテゴリーでのダウンロード数がトップになりました。プレーヤーにどんな周波数の音源が入っているのかがビジュアルで見えるような機能を持っていて、特許の申請をしています。

たとえばハイレゾ対応のプレーヤーで聴いているとしても、実際再生している音源は何kHz/何bitなのかわからないですね。それをNePLAYERは、ビジュアルで分かるようにしたのです。3.5mmのジャックにする時は48kHzで出ている、DACを入れると192kHzで出ているというように、全部見えます。

私どももこのほどオーディオ協会の会員になり、ソフトウェアのハイレゾ規格の決定に参加しました。NePLAYERはそこで、世界で初めてハイレゾのマークがついた商品になったのです。ケータイでハイレゾが聴ける時代になりました。すると一般のお客様はハイレゾケータイで聴けばハイレゾだと思われます。ハイレゾイヤホンを挿せば、ハイレゾが聴けるようになると思われます。そこは問題ですね。ハイレゾで聴いているかどうかが、お客様に実感を持って伝わるようなことを我々は目指したいと思います。

ナチュラルな音を目指し
マイスターが音作り

── そういった音に対するこだわりは、オーディオを手がける当初からあったのですか。

香田私自身オーディオに興味があって、学生時代に秋葉原で真空管を手に入れてアンプを作ったりしたものです。私はナチュラルな、ピュアな音が好きで、CDの音には馴染めないんですね。その指向がハイレゾにつながったのだと思います。最初の真空管アンプの音決めも私がしましたが、やはりCDの領域を超えるところで開発しようという思いでしたから。NePLAYERも、開発は2年半前から行っていました。ハイレゾという言葉がほとんど取り上げられていない頃です。当初からそうした思いで製品開発を行ってきたわけですね。

私は、できるだけマイクを通さない生の音が好きです。趣味で歌舞伎を毎月見ますが、マイクが通っていない音が直に聴こえます。三味線の音も、声楽も台詞も。そういう自然の音、ナチュラルな音は素晴らしい。私としては、いかにそこに到達できるかを目指したいです。ただそれとは別に市場のニーズというものがありますから、当然そこに則した音作りの商品は必要ですし、そういう商品展開をしています。

音作りについては、社内のサウンドマイスターが監修しています。海外、国内のトップブランドの真空管やアンプ類を長年手がけてきたサウンドテクニシアンが中心となり、世界クラスの“ラディウスサウンド”の完成を目指しております。具体的な商品展開としては、ハイレゾ時代を意識したスピーカーなども計画にあり、真空管アンプとのベストマッチも課題にしております。

── それは楽しみですね。お話しを伺って、御社の音に対するこだわりを強く感じました。再生ソフトでハイレゾを数値で確認できる仕組みをつくって、最終的にはスピーカーで空気の振動にまで関わっていくとなると、お客様にとってハイレゾの世界がどんどん身近になりそうですね。

香田お客様にとって身近なポータブルプレーヤーとして、専用機があり、スマートフォンがあります。我々は、スマートフォンに入れるハイレゾ再生ソフトをつくり、さらにアンプを通してハイレゾを聴く環境をつくりました。さらにはハイレゾの音をWi-Fiで飛ばして聴くこともできます。他社さんのアンプでそれができますが、自社の真空管アンプを通してスピーカーで聴けるところも実現させたいと思っています。

イヤホンだけでなく、空間を通して体で音を聴く。体で音を聴いて、耳でそれを解釈をして、音は伝達されると思っています。私たちが持つ先端技術と、主張する感性がしっかり音となって具現化する、それが、世界クラス“ラディウスサウンド”の完成と信じ、全社挙げて邁進しております。

香田 進氏お客様との接点を増やし
幅広くアピールする

── ターゲット層はどのように考えますか。

香田ハイレゾの入口は、やはりシニア世代からでしょうか。しかし、貴社の発行する特別増刊誌「アニソンオーディオ」が、号を重ねる好評を得ているように、ハイレゾで発売される音楽ジャンルが急速に広がってくるのと同期して、若い人の支持がこれからはハイレゾ市場の核となるでしょう。なんと言っても、一度高音質で聴いた聴感は、後に戻れませんから。

そういう方々が手軽に、見ただけでも直感的に操作ができるよう、アプリケーションを使ってAirDropでiPhoneに落とすということを、ワイヤレスで行えるようにしたい。さしあたってどこにケーブルをつなぐか分からないお客様に対して、できるだけ丁寧に説明できるよう、WEBでの解説の方法も強化します。

── 御社の中でそういった感性音響製品は、どのくらいの割合を占めるのでしょうか。またオーディオブランドとしてのラディウスの認知度を高めるために、どうお考えでしょうか。

香田感性音響製品の割合は現状15%ぐらいですが、2015年中に20%には行けると思います。ドブルベの新シリーズで11月にはお客様のご要望に応えてハイレゾの製品を出します。 ブランドのアピールでは、「new ear」を意味する「Ne」という新しいロゴを使って、ピュアな音作りの製品はこのロゴマークを使って展開していきます。ヘッドホンアンプやイヤホンにNeのロゴを使ってラディウスらしい、マイスターが作った音を訴求しています。これを全国のイベントを通じ実際にお客様に聴いていただき、大変ご好評をいただきました。

また私どものWebサイトでも、「ハイレゾとは」といったことをわかりやすく発信する環境づくりも進めています。パソコンとスマートフォンとで連動したものが、10月中にはできる予定です。そこでもNeのハイレゾとラディウスをしっかりアピールしたいと思っています。

イヤホンやヘッドホンアンプの市場は競合も数多く、しっかりと存在感を示さなくてはなりません。それにはやはり、最終的に音を聴いていただくことが大事です。そこで私どもでも、ハイレゾのアンプやイヤホンは各お店に対する展示機をすべて用意して、音を聴いていただける環境を用意しています。またご販売店主催のイベントや、オーディオ協会のイベントにも参加させていただき、お客様との接点を積極的に増やしているところです。

── 今後のさらなるご活躍を期待しています。

◆PROFILE◆

香田 進氏 Susumu Kouda
1948年生まれ、福岡県出身。(株)東芝、(株)インテグレなどを経て、1994年 起業、1996年 米国radius,Inc.日本法人を買収しラディウス(株)を設立、代表取締役社長に就任、現在に至る。趣味は、音楽・歌舞伎鑑賞、座右の銘は、「乾坤一擲」。

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