加藤修一氏

経営の根本は
「どうしたらお客様のためになるか」
それだけを考え続け、
一度も赤字になっていません
(株)ケーズホールディングス
代表取締役会長兼CEO
加藤修一氏
Syuichi Kato

地デジ移行、消費税増税など数々のトピックスが家電販売に影響を及ぼす中、地に足のついた経営を貫いてきたケーズホールディングス。新中期経営計画も掲げ、さらなる成長のフェーズへ。新年の幕開けに臨み、加藤会長の意気込みを聞く。

 

需要は横ばい。しかしケーズデンキにとっては
サービスを提供できる人口が5割増える感覚です。

やるべきことをきちんとやっていれば、
それ以上のことはできないのです。

4Kテレビを弾みに
家電市場は復活する

── ここ数年、毎年お話を伺っています。前回の取材は昨年の消費税増税前のタイミングでしたが、その後の手応えはいかがでしたでしょうか。

加藤消費税増税の影響は昨年4月以降3ヵ月ほどで終わったと見ていますが、その後、夏季の気候の影響で季節商品、特にエアコンの伸びがもう一歩でした。ただ売れ行きのいい年とよくない年が交互に来ますから、特に問題視してはいません。。

住宅関連の駆込み需要に関連して家電商品も2013年10月頃から尻上がりに伸びてきたこともあり、2014年の10月から12月は前年比が想定以下となりました。これらの需要は通常に戻っていくでしょうから問題ないと思います。以上のような動きがありました。

── 昨今はテレビの動向に明るい兆しが見られます。どうご覧になりますか。

加藤テレビは4Kの登場で単価が上がっていますし、地デジ移行後の販売台数の減も底を打った形ですから、これからは期待できると思います。もともとメーカーの国内出荷台数が年間800万台から900万台だったものが、地デジ移行によってピークで2500万台と言われるほどの山ができてしまい、その反動で現状の出荷台数は500万台から600万台になってしまっていますが、この状況にもそろそろ終わりが来ます。

テレビ販売は2011年でピークをつくりましたが、アナログからの買い替えが始まったのはそれ以前から。その時期にお客様が購入された商品の買い替えがすでに始まっており、2020年の東京オリンピックに向け新たなピークもできるかもしれません。非常に将来性が感じられます。また需要増の反動でテレビが不振となったことで、今家電業界は本来の8掛けか9掛けの水準で動いている状況です。テレビが今後本来の台数で売れるようになれば、業界全体もいい状態になると期待できます。

ただ経営の観点からは、山や谷はなるべくない方がいいのです。この5年ほどはエコポイントや消費税増税など、山や谷をつくる要素が相次ぎました。当社でも今年度は消費税増税の影響が想定以上に大きく出て、決算の見通しも下方修正させていただきました。しかし落ち込みもこの辺で底をつくだろうと見ています。

出店240、売上げ1兆円
新5ヵ年計画をスタート

加藤氏── 今後の見通しはいかがでしょう。

加藤ここからはある程度読みやすくなるでしょう。当社も新たに中期経営計画を立て、昨年11月に発表しました。2015年3月期から2019年3月期までの5ヵ年計画です。売上高は15年3月期予想の6700億円から最終年3月期で1兆円、営業利益は213億円から430億円、経常利益は288億円から520億円を目指します。そのために5ヵ年で240店以上の出店を計画しています。

── 今後は需要増が見込まれるでしょうか。

加藤いいえ、需要は増えずだいたい横ばいだと見ています。そこで店を増やすのです。 当社では広告のできているエリアが日本全国でまだ60%くらいですから、あとの40%を埋めるための出店です。埋め尽くすには20年ほどかかると考えていますが、とりあえず5年の間にやるべきことをまとめたのが中期経営計画の内容です。

── 今年度の出店予定が33店ですから、1年平均で48店の出店をするとなると思い切った内容ですね。

加藤実はそれほどでもないのです。これまで当社では、毎年40から50の出店を目指しながら、物件を精査していくと30数店にとどまってきた。ここでそもそもの計画どおりに出店しようと意を新たにしたということです。売り場面積が毎年10%増える程度の拡大を安定的に行っていこうと考えています。そうすると毎年の増に伴って分母も増加しますから、出店数も年々増えていかなくてはなりません。中期経営計画の初年度は40店の増なら、最終年度は60店の増とする必要があります。

―― これからカバーするべきエリアは首都圏が中心になるでしょうか。

加藤大規模店舗を首都圏に集中的に出すということではありません。当社はベッドタウン、つまりお客様の家の近くの便利なところ、駐車場のスペースがとれるところを基本に出店を考えています。そういう意味で東京都内でもベッドタウンにはすでに店舗をつくっています。全国的には、まだカバーしなければならない地域がいくつもあります。また店があっても面積も小さく古い場合は閉めて、大きな店を新たにつくります。この5年間で、全国に240店以上つくって50店以上閉めるといったイメージです。

また日本の場合、都心への集中が進む一方で、地方が見直される流れもあります。必要以上に人が集中するとますます都心が住みにくくなる。地方にだんだん個性が出てくれば、そちらに住みたいと思う若い人も出てくるでしょう。1店の売り場面積が150坪であった時代には、地方でも家電店が多く存在し競争になりましたが、今では3社ほどに減りました。人口が少ない東北や北海道は、さらに減って2社くらいになる。そうして競争が減って商売は成り立つと思います。これが東京や大阪ですと企業数が5、6社はありますから、競争は厳しいです。

日本は人口がこれから増える見通しはなく、需要は横ばいと見ます。しかしカバーできていないエリアが40%あるということは、当社にとってサービスをご提供できる人口がこれから5割程度増える感覚で商売ができるということです。そこにしっかりと対応するべく、ただ着実にやっていくだけです。

―― 以前、景気の悪い時は低コストで出店できるので積極的に行う、好景気の時はあまり出店しないとお聞きしました。今後2020年に向け緩やかに景気が上向いていくとすると、どう対応されるでしょうか。

加藤景気が本当に良くなって既存店の売上げが5%や10%伸長するようになれば、業務に支障が出ないよう出店計画をセーブすることになるでしょうね。既存店でそれだけ増えていれば出店を減らしても成長することはできますが、今のところはそれも見込めず、やはり出店を増やさなくてはならないでしょう。

昨今建築費が多少上がってきています。しかし当分下がりそうになく、下がらないならば今の値段は高いわけではない、だからこそ出店を進めるのです。全体のことを考えれば躊躇する必要はありません。ここ20年間ずっとデフレで建築費等は下がり気味で来ましたから、それが通常に戻るだけです。

儲けることでなく
お客様のためを考えて

―― ほかの家電量販店さんが出店されているエリアに出るとき、お客様にケーズデンキを選んでいただく方策は。

加藤今迄やってきたように、お客様に気に入っていただく、好きになっていただくことしかありません。そのための会社の考え方としては、これまで言ってきましたとおり、お客様の立場に立ちお声を聞いて、それに応えていくということです。

世の中では、どうやって売上げや利益を上げるか、どうすると儲かるかといった発想からものを見ている会社は多いと思います。当社はそうではなく、お客様のためになることをしていれば存在を認めていただけるようになる、お客様のためになってつぶれる会社はないという考え方で経営してきました。

経営の根本は、どうやって儲けようかではなく、どうしたらお客様のためになるか。それだけを考え続けてきて、一度も赤字にならないですし、売上げもだいたいいつも成長しています。だから、それ以上のことは考える必要はないということなのですね。このようにスタンスが決まっていますと、仕事はとても単純です。社員にもそれが浸透していれば、何も指示しなくても会社は動きます。

―― 前回はネット通販に対する考え方も伺いました。昨今でもネット通販はなお家電業界の大きな話題となっています。

加藤家電の販売でもテレビやカタログ、誌上ショッピングというかたちで店舗をもたない商売は昔からありましたし、インターネットショッピングもその手段のひとつですね。お客様がものを買う方法がひとつ増えただけのこと。当社でもネットでの販売はしていますし、さらに電話注文も受け付けます。

お客様は店舗に行かれたりネットで買ったり、その時々で選択できるということです。ただ日本は国土が狭く店舗網も細かく構築されていて、お客様の近くに店が存在しますから、場合によっては店に行かれた方が早いかもしれません。お客様にとってもご近所のお店で買った方が、修理や返品したい場合などでも手間がかからなくて済むのではないでしょうか。

リアルかネットか片方で
ローコスト経営はできない

── 御社では、ネットとリアル店舗での在庫の管理はどのようにしておられますか。

加藤ネットだけの会社では物流倉庫をつくって在庫を置き、配送、設置、修理を業者などに委託する必要があり、そこで膨大な費用がかかります。またマーチャンダイジングをよくしようとするなら、商品部をもたなければなりません。しかし本部コストが増大すれば、その費用だけで売上げの何割もかかります。つまりローコストビジネスはできないのです。店舗がないから商品を安く売れるなどというのは、絵に描いた餅。商売を分かっていない人が言っている話ですね。

以前にも言ったように、リアル店舗とネットを両方もっている会社でないとローコスト経営はできません。そのどちらかだけで利益を出すのは難しくなっているのではないでしょうか。当社は商品部をもち専任の社員を配置して商品政策を策定し、豊富な在庫がある大型店舗をもっています。店舗費用も郊外ですから低く押さえられ、倉庫と変わらないようなローコストで運営できます。そこには在庫が常にあるわけですから、来店されたお客様自身が商品を持ち帰っていただけますし、またネットでの注文にもそこから商品を出すことができます。ネット販売の場合、ご注文されたお客様の住所に近い店に、在庫を確認した上で自動的に伝票が出ます。在庫も店舗にあり、わざわざネット販売用に用意することはありません。あとはお客様のところに商品をお届けするだけ。配送は店舗での商売の物流に乗せます。ネットでの注文品と店舗で売られた商品とが同じトラックに乗ってそれぞれお客様のところに届けられるのです。

当社ではこのように、店舗運営のコストで、ネットでの販売がプラスαとしてできるということです。まずリアル店舗ありきで商売をし、自信をもっていい店づくりをしているわけですから、来られる方にはぜひお店に来て欲しい。また実際、店舗での販売数の6割くらいがお客様の手で商品が持ち帰られています。配送費用はかからない。これこそリアルな店舗の強さですね。

商品はネットで購入した方が安いような認識もあるようですが、それは間違いですね。たまたま安いものが出ている場合もありますが、いつでも継続的にその値段で買えるわけではありません。まずネットの商売では全ての商品を配達しなくてはならない。ネットで買われるのはプリンターインクや日用品などの消耗品が多く、値段にして1000円や2000円の単位ですが、この配送費は売上げの1割くらいを占めるのです。

また、もしも返品の必要がある場合はさらに手間や送料がかかります。店側にとっても宅配便の手配、品物をひきとった後は一度開けられたパッケージの再生もある。相当なコストがかかりますよ。本やCDなど価格が一定のもの、買うものが決まっている日用品などはネットで買うと出掛ける必要もなく便利でしょう。しかし安いという理由でネットを選ぶのには、どこかで終わりが来ると思いますよ。店をもたずに商売すると店舗費用がかからない、コストが安くすむという認識は間違い。経営したことのない人の考えですね。

── リアル店舗もネットで掲示される安い価格に影響されて価格を下げざるを得ず、結果としてお店もメーカーも泣くことになります。どう対処したらいいとお考えですか。

加藤メーカーさんは商品を必要な分だけつくっていくこと、そして販売では誰もが正しく仕入れて商売をする環境をつくることでしょうね。恒常的に仕入れないで商売をする人が出て来るからおかしなことになるのです。リアル店舗でも開店セールなどではお客様にご来店いただけるように、多少利益を圧縮して安値で目玉商品を設定することがあります。しかしネット上で損をしてまで売っても仕方がありません。だからいずれ、ネットの価格も適正になるでしょう。

幸いにして日本では、家電商品のネット販売がどんどん増え続けているという雰囲気でもありません。アメリカでは、国土が広く店から離れて住んでいる人もいて、もともと通販での購買の需要は多かった。それがネットに置き換えられたからネットの需要があるのです。中国も国土が広いので同様です。またヨーロッパでは店舗の品揃えがよくないこともあって、ネットの需要がある。日本は、特に家電業界は世界一競争が激しいですから、リアル店舗もいい品揃えになっていると思いますし、ネットの方が品揃えがいいというものでもないと思います。

地域店政策には着手せず
量販の役割に専念

加藤氏── 昨今地域電気店を対象として、個々の店で手を取り合って群のメリットを生み出しながら展開するといった販売店の政策が見受けられます。

加藤本来そうしたことは、メーカーさんが系列店政策としてしっかりやられる方がいいのではないかと思います。強い系列店をもっていれば、あるメーカーが他メーカーの卸の役割を担ってもいいと思います。系列店がお客様から他メーカーの商品を望まれる場合もよくありますが、問屋機能がなくなかなか要望がとおりません。あるメーカーがそれを担って、安い値段ではなくとも、どこのメーカーの商品でも供給するという姿勢をもてばいいと思うのです。

また、仕入れが安くなければ儲からないと思われがちですが、そうではなく、コストを安くして利益を出すと考えるべきです。小さい店でもやり方によって、能率をよくして利益を出す、というのが本来の考え方だと私は思います。共同仕入れで仕入れ値を安くするというのは、関心が違うところに向いているような気がします。

メーカー系列店さんならではの商売があり、量販店は量販店の商売があります。これは町医者と総合病院のようなもので、それぞれ役割が違い、両方ないと市場はうまくまわらないのです。町医者で治る患者さんが大病院にばかり行っていたら、大病院の能率が上がらなくなる。

系列店に来るお客様の中には、気心を通わせておしゃべりしながら買い物をしたいという方もいますよね。量販店も短期的にはそういう関係もつくれますが、社員の転勤もありますから、長いおつきあいは難しいかもしれません。系列店ならば、お客様にずっと寄り添うことができる。そういう役割があると思います。

ケーズデンキは地域店政策には着手せず、大型量販店としての役割に専念します。修理や配達を担っていただくのに地域店と提携はしていますが、ケーズデンキとして組織的に系列店政策をやることはありません。系列店政策については、メーカーさんにぜひしっかりやっていただきたい。販売店が儲からなければ、メーカーに対する要求がきつくなり、結果的にメーカーにツケが返ってきますよ。

夢を持って見通せる
2015年度へ

加藤日本の電機業界も歴史が長くなるに従って、だんだん昔を知らない人が増えているのかもしれません。歴史の流れを知らず、どうして今があるのかを知らないと、目先のことばかり追いかけてしまうのですね。私は幸いにして電気屋に生まれて、小学生の頃から鉱石ラジオをつくっていましたし、仕事を始めた時はメーカーの系列店になっていました。家電業界の変化を全部見てきたと自負しています。

昔の電気メーカーの創業者はすごかったですね。いろいろなことを、きちんとした考え方をもってやってこられた。それが新しい代へバトンタッチを繰り返すうちに、会社が大きくなってからのことしか知らない人が経営者になってきました。本来の意味がわからないままに経営しているのではという気がします。経営は会社を大きくするためにやるのではありません。どうやって売上げを増やすかではないのです。需要がないのに売上げを増やすことを考えると、無理がかかるわけですから、必ずその反動が生じます。

── 不景気で会社の業績が悪化した時に慌ててやり方を変える企業もありますが、御社はそうではないですね。

加藤当社にもしそんなことが起こる要素があるとしたら、普段からきちんとやっていなかったからでしょうね。やるべきことをちゃんとやっていれば、逆にそれ以上のことはできないのです。

2015年度は期待が持てると思いますよ。2013年度は消費税増税前の駆け込みで伸長し、2014年度はその反動で下がっている。この2年間を足して2で割った程度を通常の水準だとすると、2015年度は前年度より上がり、需要が多く見通せるようになる。夢が持てる1年になるのではないでしょうか。

◆PROFILE◆

加藤修一氏 Syuichi Kato
1946年4月7日生まれ。茨城県出身。69年3月東京電機大学工学部卒業。同年4月(有)加藤電機商会入社。73年9月(株)カトーデンキ代表取締役専務、82年3月よりカトーデンキ販売(株)代表取締役社長。2011年6月に(株)ケーズホールディングス代表取締役会長兼CEOに就任。"人"を尊重する企業風土と無理・無駄・ムラのない「がんばらない経営」で安定的な成長を続ける。

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