原田 慎也氏

ブランドの歴史を継承する
「レガシー」とともに
「デジタライゼーション」で新時代を築く
株式会社ディーアンドエムホールディングス
国内営業本部 本部長
原田 慎也氏
Shinya Harada

ディーアンドエムホールディングスが、デノンブランドのフラグシップアンプPMA-SX1など強力な新製品群を投入、新カテゴリーも拡充し新規顧客層へのアプローチも強化する。国内営業本部長に新たに就任した原田氏に、大いなる意気込みを聞く。

 

「製販一体」の営業活動で価値を伝える
販売店とともに市場創造と拡大を図る

脈々と継承した技術を礎に
2本柱で市場を創造、拡大

── この6月から国内営業本部長に就任されました。

原田あらためて全国のご販売店様に挨拶に伺いましたところ、今後のオーディオ市場をどう見るか、既存のお客様の次の世代をどう取り込むかディーアンドエムの考え方を問われ、中長期的なビジネスに対する強い問題意識をひしひしと感じました。反面、ハイレゾやポータブル系の需要を取り込むため、固定概念に囚われずチャレンジしたいというお声を数多く頂戴でき、私自身元気づけていただいた思いです。

8月から9月にかけて、デノンの久しぶりのフラグシップ、新製品のプリメインアンプPMA-SX1を抱えてご販売店様を回りました。まずはデノンのファンの方々にご提案し、休眠されているお客様を掘り起こしたい。昨年のCDプレーヤーDCD-SX1とのマッチングや、アナログを切り口にしての体感を広げて参ります。これを私自身の言葉でお伝えしてきました。

── 今年度後半に投入される新商品群は、非常に興味深い内容です。

原田市場の継承と育成に関わる商品と言えます。オーディオ市場の縮小傾向に歯止めをかけ、そして成長させる。既存のお客様とともに新しいお客様を誘い込むのです。とはいえ新規顧客導入は簡単ではありません。ヘッドホンカテゴリーからピュアオーディオへの誘導は長年のテーマですが、お客様層がまったく違う。しかしヘッドホン市場では高級モデルが次々に投入され、ケーブルやポータブルヘッドホンアンプを替えると音が変わると言われ、これらが注目されています。ピュアオーディオと同様のこだわりで、ここに大きなビジネスチャンスがあると思います。

そこで、ヘッドホンのカテゴリーとピュアオーディオとをつないでいく製品を投入しました。これらをデジタライゼーションシリーズと名付け、2月に発売したデノンのヘッドホンアンプ内蔵USB-DAC、DA-300USBを皮切りに、このたび発表したUSB-DAC内蔵ポータブルヘッドホンアンプDA-10、マランツのUSB−DAC/ヘッドホンアンプHD-DAC1といったラインナップを展開しています。

それに対してPMA-SX1など従来からのピュアオーディオの伝統を受け継ぐ製品群や、このたびドルビーアトモスに対応した新製品AVR-X4100Wも投入したAVアンプなどをレガシーシリーズとしています。我々にとって基本であり、コアの位置づけです。

デノンが100年、マランツが60年の間ブランドと製品を維持してきましたが、それは我々のものづくりの拠点である白河工場で、設計部隊が意欲をもって技術を継承してきたからこそ。我々はこのレガシーとデジタライゼーションとを2本柱として、商品戦略を展開しているのです。

デジタライゼーションはその名のとおり、デジタル技術を駆使した製品群で、デスクトップハイファイオーディオのカテゴリーとなります。小型サイズですが、これまでのハイファイのテクノロジーを使って、ミニコンポとは一線を画した本格的なもの。新しいライフスタイルのお客様にご提案できるものと考え、製品も拡充して参ります。

なぜレガシーを受け継ぐデノンとマランツでデジタライゼーションを展開するか。我々はエントリーからハイエンドまで、さまざまなカテゴリーを過去からずっと展開してきました。一昨年からヘッドホンも本格展開しております。しかし従来のラインナップでは、ヘッドホンの次のステップでこだわりを追求すると、フルサイズコンポになります。ここをスムーズにつなぐ、それがデジタライゼーションの狙いです。そしてデノン、マランツのハイファイ設計陣がこれを手がけていることに意味があるのです。

HD-DAC1の発表会の際、商品企画サイドからマランツのサウンドマネージャーである澤田が自ら登壇し、サウンドポリシーをアンプのフィロソフィーから語りました。9月の初旬には秋から導入する新製品群を一堂に揃え、川崎の本社に全国のご販売店様をお招きしてのプレゼンテーションを行いましたが、ここでも澤田と、DENONのサウンドマネージャーである米田も加わって解説をし、それぞれの専用試聴室でのデモも行いました。

製品づくりの考え方を深いところからお伝えすることが大事で、これがご販売店様を通じてお客様に伝わるという我々の戦略なのです。デジタライゼーションシリーズでヘッドホンからのユーザーを誘導するとともに、ハイファイのお客様がデノン、マランツならばとPCオーディオに触れてくださればという思いです。

販売店の悩みを共有し
解決策を次々に提案していく

原田氏── 新商品群は既存の市場だけでなく、今後の中長期的な視点で創造していく市場に対する提案となりますね。

原田そのとおりです。しかし新しい市場を創るためには、モノを出さなくては始まらないのです。今回我々がご提案する新製品群は、カテゴリーが多岐にわたります。まずは世に送り出し、市場の反応を受け止める。その反応によって我々の商品が成長しますし、それは市場の成長にもつながります。

またご販売店様にもチャレンジしていただきたい。プレゼンの際に営業スタッフがややもすると、このお店様はこうしたカテゴリーは得意ではないなどと一方的に判断してしまいがちです。しかしどこにどんな可能性があるかはわかりません。ご販売店様自身でもし敬遠されているカテゴリーがあるなら、むしろ我々の方から可能性を説くべきであると考えます。導入に不安があるならば、我々がどうサポートできるかをご提案する。そうした姿勢でなくてはと思います。

既存のメーカーが既存の製品を出している市場では、新製品が少し多く出た年は売上げも前年比アップするかもしれません。そしてメーカーにとってシェアを取れた年は前年比アップできますが、販売店様は前年と同じ結果です。だから市場のキャパを広げたい、それをデノンとマランツでやっていこうということなのです。

この業界には、やれることはまだまだたくさんあると思います。それに対してメーカーも販売店様も、ポジティブに市場を創る活動をしていかなくては。我々は、エントリーからハイエンドまで、ハイファイもホームシアターも持ち、新たなポータブルのカテゴリーも加わりました。いろいろなご提案をさせていただけると思っています。

── 営業活動は具体的にどのように展開されていますか。

原田昨年12月に営業体制の組織を、従来のエリア重視のものからチャネル重視のものへ変更しました。大きくは量販店様、専門店様、開発ルートの3つです。そして今日まで現場に根付いて営業兼コンサルティング活動を行い、ご販売店様とともにどうしたら売上げを上げ、落ち込みを押さえられるか、皆で取り組みました。ご販売店様のもつ悩みを共有して絶えず提案し、食わず嫌いをなくす。今回はまた新たな料理が加わり、提案力が高まりました。

営業はただ受注をとればいいのではありません。販売店様のお客様にはデノン、マランツの歴史と継承をお伝えしなくてはなりません。

営業はコンサルタント力が必要です。オーディオのことはディーアンドエムの営業が何でも答えられる、そういう人材を維持していきたい。月に1度社内の勉強会を行い、サウンドマネージャーである澤田と米田が音づくりのこだわりや再生のノウハウを伝えています。営業はこれを踏まえて現場で試聴会を行うのです。

── 現場において、コミュニケーション力を非常に重視されていると感じます。

原田それはお客様に対して、ご販売店様がフェーストゥフェースのコミュニケーションをしておられるからです。汗を流してお客様に対峙しておられるのですから、我々も汗を流してご販売店様に対峙する。モノを売る活動での努力に、我々も負けないくらいの活動をしなくてはと思います。

モノを出せば売れるという時代ではありません。お客様の目は厳しいですから、モノの質も上げて、その価値を伝えることも重要です。しかも価値が伝われば単価は上がります。単価が下がるのは、価値が伝わっていないから。価値を伝える努力をメーカーもご販売店様も、一生懸命行っています。

日頃から我々も作り手の頑張りを念頭において営業活動していますが、製品に込められた価値をしっかりとお伝えするためにも、白河工場で企画や設計などものづくりに携わる人間をできるだけ現場に出して、生の声をご販売店様やお客様に聞かせたいと思っています。製販一体の営業活動で大事に販売する。価値の伝達がしっかりできれば、オーディオカテゴリーはまだまだ伸長すると思います。

オーディオ4社連合で
共通の課題に対峙する

── 本誌前号の猿谷氏のインタビュー記事でもお聞きしましたが、ヤマハ、パイオニア、オンキヨーさんとの4社での共同プロモーションについて、進捗状況はいかがですか。

原田ユーザーを掘り起こし、市場を広げていくことは、4社共通の大テーマ。互いのブランド認知度を踏まえて、オーディオの楽しみや良さを普及させ、楽しみの場を広げるのが目的です。ポイントのひとつは、かつてオーディオで音楽を楽しまれた方に向けたアプローチ。好きだった楽曲でその時代を思い起こす、それがオーディオの楽しみです。そうしたことを通じて、さらに女性や若者などの新たなお客様を取り込みたいのです。

直近の取り組みでは、「オーディオ&ホームシアター展」に4社連合のブースを出展します。アンプはA社、プレーヤーはB社というように、単品で自由に4社のオーディオのシステムを組んで、いろいろな音楽を再生したいと考えています。

そこではまず音楽を聴いていただくことが狙い。ジャンルや時代にフォーカスをあて、D&M担当の試聴会では美空ひばりさん、60年代のポップスなどを試聴いただきます。オーディオの業界はハード指向になりがちですが、最終的にはコンテンツを聴くことが目的。いろいろな時代のコンテンツを聴くことで、タイムマシンのようにその頃の空気を味わうことができるのではと思っています。その体感を通じて、いい音で聴くよさ、スピーカーから出る音圧をお客様に味わっていただきたいですね。

4社で連合して行えば、話題性もふくらむと期待しています。それぞれメンバーが出てミーティングを重ねており、いろいろなことにチャレンジしていきたいと思います。ご販売店様の店頭での共同イベントもひとつのアイデア。ネットの時代、リアル店舗の集客が課題になっていますが、今いちどリアルな店頭の重要性にフォーカスして、実演し聴いていただくことに力を合わせていきたいと思います。

市況環境を考え、お客様のライフスタイルに則したものづくりをし、タッチアンドトライで体感できる場所をつくっていく。それに尽きると思います。市場の裾野を広げるのがメーカーの意義。元気よくやっていきたいと思っています。

◆PROFILE◆

原田 慎也氏 Shinya Harada
1985年に日本コロムビア株式会社に入社。電機事業本部に入り営業として九州に配属、1993年に販売企画部に移り、HIFIオーディオ、ゼネラルオーディオ(音聴箱)の商品企画に携わる。2011年デノン、マランツの販売部門統合後は東日本営業部を担当し、2014年6月より現職。

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