山本 善政氏

日本全国4000万人のシニア層を主役に据え
オーディオ・ビジネスに新たな風を吹き込む
株式会社ハードオフコーポレーション
代表取締役会長 兼 社長
山本 善政氏
Yoshimasa Yamamoto

ハードオフ業態の原点“オーディオ”を深化させた新業態「ハードオフオーディオサロン 新潟紫竹山店」。オーディオ潜在層を喚起し、若年層からの関心も集める注目ショップだ。出店したのはオーディオ専門店に再度挑む山本善政社長。そこに込められた思いとは。

 

お客様はこういう店を待っていた。
だから数字もついてくるのだと思います。

オーディオ専門店へリベンジ
深化したハードオフ

── 5月1日に、ハードオフをオーディオに特化し、深化させた新業態「オーディオサロン」がオープンとなりました。初月から売上目標の1000万円をクリアするなど、オーディオ市場活性化に対する新たなアプローチとして大きな注目を集めています。

山本お陰様で6月、7月と引き続き順調な滑り出しをみせています。新潟はハードオフ発祥の地でもあり、店舗の数も多く、歴史もあるのですが、オーディオサロンのオープンによって、これまで眠っていたオーディオファンが振り向いてくれた。新しいオーディオの層を掘り起こせた手応えを強く感じています。オーディオ機器の買い取りにしても、既存のハードオフに持ち込めばよいのではないかと思いますが、オーディオサロンだからこそ買い取りをお願いしたい、そうしたお客様が後を絶たないのです。

── 山本社長がオーディオサロンへ込めたオーディオに対する強い思い。それが、思いを同じくするお客様に響いているのではないでしょうか。

山本当社は7月31日現在で769店舗、うちハードオフ業態でも300店を超えました。平成5年に1号店を出店以来20年の節目を超え、“大人のハードオフ”として現在、ハードオフ業態のリノベーションを重点項目として掲げ、ハードオフ業態の「進化」「新化」「深化」に力を入れています。

“新化”の面からは、インターネット通販の「ハードオフ ネットモール」を立ち上げました。ハードオフにはレアな商品が多いですから、例えば、九州の人がずっと探していたオーディオ商品を、北海道のハードオフの店舗で探し当てるような新しい出会いが可能になります。新潟では休みの日になると“ハードオフ巡り”をされるお客様が結構いらっしゃいます。さすがに全国に足を運ぶことはできませんから、そうしたハードオフのファンにとって、非常に有意義なサービスになると確信しています。

一方、“深化”するとどうなるか。ハードオフが扱うのは、オーディオ、楽器、カメラなどの黒モノ家電です。その中からピュアオーディオに絞り込み、深化したハードオフが「オーディオサロン新潟紫竹山店」になります。

元々は「サウンド北越」というオーディオ専門店として24歳の時に起業したのが始まりでした。その後、リユース品を仕入れ販売する現在の「ハードオフ」に業態変更するわけですが、オーディオ専門店を止めたくて止めたわけではありません。ですからどこかでもう一度、チャンスがあれば再びオーディオ専門店を起こしたい、リベンジしたいという思いを持ち続けていました。それが今、こうして実現できた。できることであれば、私が自ら店長もやりたいというのが本音でした。ハードオフの新たな1ページにするのであれば、やはり1号店であるこの紫竹山の店が相応しいと考えていました。

山本氏もてなす側もシニア
経験が生み出す魅惑の空間

── オーディオサロン新潟紫竹山店はハイエンドのオーディオリユースショップという、これまでにはない新しいビジネスモデルになります。

山本ビジネスですから当然、ビジネスモデルとしてきちんと成り立つものでなければなりません。そのためにどうするか。考えた末に導き出したのが、シニア層をターゲット顧客とすることでした。今のシニアは皆さんが思う以上に若々しい。まだまだ現役ですし、アクティブです。自分自身もシニアと呼ばれる年齢になったことで、いろいろなことが見えてきます。

── 店内は数多くの銘機に囲まれ、昔からオーディオを知っているシニア層にとっては居心地のいい、時間が経つのを忘れてしまう空間です。

山本ハードオフの業態で、直営だけでもかなりの店舗数になります。それぞれの店舗にパラパラとあるものを、オーディオサロンに相応しいというものを厳選し、半分くらいはそこから時間をかけて集めてきました。

── JBLのパラゴンも展示があるのですね。

山本さすがにすぐに予約が入ったのですが、淋しくなるから当分の間は持って帰らないでほしいとお客様には伝えてあります(笑)。

展示してあるすべての製品は、しっかりとしたメンテナンスを行っているのも特長のひとつになります。壊れた・壊れていないというレベルではなく、オーバーホールですね。3人の元メーカーエンジニアのサービスマンは、本当に「えっ!」と声をあげてしまうくらいに、何でもできてしまうので驚きます。

── 実際に修理している光景は、オープンになっているので見ることもできますし、また、2階のソフトコーナーは在庫2万枚以上とこれまた圧巻です。

山本ハードとソフトは一体ですからね。レコードは5000枚以上あり、普通ではありえないことですが、アナログとCDの売上金額がほぼ同じくらいなんです。この他にも、本格的な焙煎したコーヒーを無料で楽しめるカフェ・コーナーも設けていますし、ゆったりとした、音楽をじっくり堪能できる空間を目指しました。お客様はこうした店を待っていた。だから数字もついてくるのだと思います。

── 店に並んでいる製品も、修理をしているスタッフの姿もとても生き生きとしていますね。

山本シニア層のお客様に対し、スタッフは、メーカーや販売店などで長年にわたり磨いてきたスキルやノウハウ、経験を、オーディオサロンという場で再び活かしてほしいと呼び掛け、集まってくれた、こちらもシニアのメンバーになります。

先ほどのサービスマンは、メーカーの立場の修理ですと、故障や不具合に対して謝ってばかりだったと言います。それがここでは、メーカーに頼んでも部品がない、直せる人もいないという悩みを持ったお客様から、修理したときの笑顔や「ありがとう」の言葉に元気をもらっていると言います。本当に表情が生き生きとしていますよ。

また、彼らには時給で働いてもらっています。一旦リタイアし、退職金も十分に得ている。給料は正直、大きな問題ではないのですね。日本には数多くのオーディオメーカーがあって、相当数のリタイアした人たちがいますが、働く場と言っても、駐車場の整理などがいいところで、それでは経験やノウハウがまったく生かせません。自分の得意なことでもう一度花咲かせて欲しいのです。

ですから、これだけ手間をかければ本来なら相当の金額になるサービスを、身近に提供することができる。ハードオフとシニアのスタッフ、双方にとってのWIN-WINの関係となっているわけです。

店内にはスタッフの勤務表を経歴と顔写真も入れて掲示しています。せっかく混雑している病院まで行ったのに、掛かり付けの医者が休みだったという経験をされた方も少なくないと思います。オーディオもやはり、相談や話をしたい目当てのスタッフがいます。それがいつ店に出ているのかがわかるようにしてあります。

── まさに診療所の担当医のようですね(笑)。

さらなる展開へ確かな手応え
全国30店舗は成立する

── これまでオーディオ業界ではリタイアする団塊マネーをうまく掴めずにいました。居心地のよい空間づくりやシニア・スタッフの力量を活かしたビジネスモデルなど、オーディオサロンにおける新たな着眼点が、この課題に対する突破口になるように思います。

山本自分もシニアになりわかるのですが、まだまだ元気いっぱいだし、誰かの役に立ちたい・ためになりたいという気持ちは非常に強いですね。50歳以上75歳未満のシニア人口は、新潟市では約80万人、新潟県で230万人、日本全国では約4000万人存在します。

── 新業態のオーディオサロンは今後、全国の主要都市へ展開していく計画ですか。

山本新潟でこうやって成り立つことが確認できましたので、少なくとも全国で30店舗くらいはできると見ています。人口の集まっている東京などには、早い段階で出店していきたいですね。ハードオフのフランチャイジーには、元々オーディオ専門店をやっていらっしゃったところも少なくありません。すでに、「すぐにでもオーディオサロンをやらしてほしい」という要望もいただいています。これから数ヵ月、新潟紫竹山店での検証や修正を行った上で、進めていきます。

── 趣味も多様化し、可処分時間の奪い合いとなる中で、現在のオーディオのマーケットについてはどのようにご覧になられていますか。

山本あれだけ昔は、多くの人が夢を抱いていたオーディオの世界が、映像の世界が入ってきたり、デジタル化したりする中で、淋しい思いをしているように感じます。しかし、音楽は永遠になくなることはないし、いい音で聴きたい要求は常にあるはずです。問題は、われわれがそこへ、どのようにして、お客様に提供できるかではないかと思います。

今回、オーディオサロン新潟紫竹山店として店づくりを行い、出店してみて、狙い通りにシニアのお客様に喜んでいただくことができました。と同時に、実は、意外と若いお客様が足を運ばれているのもひとつの見逃せないポイントです。これは、未来に向けても非常にうれしいことで、これからのオーディオ・ビジネスに対するヒントを、いろいろと見つけ出していくことができる思いを強くしています。皆さんと一緒に、オーディオをもっと元気にしていきたい。是非、ご期待ください。

◆PROFILE◆

山本 善政氏 Yoshimasa Yamamoto
1948年4月1日、新潟県生まれ。1972年に(株)サウンド北越を創業。1995年に現社名のハードオフコーポレーションに社名変更。日本フランチャイズチェーン協会会長、日本リユース業協会会長も務める。座右の銘は「小事は大事を成す」。

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