八木昭治氏

パイオニアの原点である音≠中心に
新しい価値とお客様の創造へ全力を注ぐ
パイオニアホームエレクトロニクス株式会社
代表取締役社長
八木昭治氏
Akiharu Yagi

パイオニアのホームAV部門が、コンシューマー商品の国内販売を手がけていたパイオニアマーケティングに統合、この7月1日に新会社として設立されたパイオニアホームエレクトロニクス。AV市場を創造し、活性化していく新たな役割を担っていく同社。新社長に就任した八木氏にその意気込みを聞く。

 

一人一人のライフスタイルや指向を見極め
しっかりとニーズにお応えしていく

一気通貫の強みを生かせる
ホームAV事業の新体制

── パイオニアホームエレクトロニクスについて、設立の経緯と事業内容をご紹介ください。

八木 当社の母体であるパイオニアは、ここ数年来取り組んできた構造改革の一環としてホームエレクトロニクス事業の構造改革を進めていましたが、今回のグループ組織の改変は、重複機能の解消を図り、組織をスリム化して事業を黒字体質に転換するためのものです。

カーエレクトロニクス事業、その他事業とともにパイオニアの3つの大きな事業のひとつであるホームエレクトロニクス事業に位置するホームAVが切り出され、販売会社であったパイオニアマーケティングに統合されました。それがこの7月1日、新会社として設立したパイオニアホームエレクトロニクスです。AVレシーバーやDVD、BDプレーヤー、ホームシアターシステム、2chピュアオーディオ、マイクロコンポなどが事業の範疇となります。またこれ以外にホームエレクトロニクス事業部で取り組んでいたDJ、光ディスクの事業については従来どおりパイオニアに残るかたちとなり、電話機などを扱う子会社であるパイオニアコミュニケーションズは、10月1日付けで私どもに吸収合併されることになります。

これまでホームAVは商品企画から設計、生産までパイオニアのAV機器事業部が行い、販売はパイオニアマーケティングが行っておりました。パイオニアホームエレクトロニクスではこれらを一貫して企画から販売まで行うことになります。またパイオニアコミュニケーションズが手がける電話機や、デジタルフォトフレームも10月1日以降は同様に手がけることとなります。

そしてヘッドホンやマイクなどのAVアクセサリーやハイエンドオーディオのTAD、補聴器、DJ機器、カー製品などについては、私どもで国内販売のみを継続して行っていくことになります。

── 新会社で、パイオニアの原点である音に関連する事業を一手に担うわけですね。八木社長ご自身のご経歴をお聞かせください。

八木 私は1978年にパイオニアに入社し、主に技術を担当してきました。カセットテープデッキを7年、DATを4年手がけてから民生用のLDチェンジャーの開発に携わり、LDプレーヤー商品の設計、業務用のLDチェンジャーの開発設計を行いました。そしてプロSV事業部でDJ機器の開発設計を13年間行い、事業部長となった後にホームAV事業部へ移りました。こうした経験が今につながっております。

── ホームAVの主力事業は商品の企画から販売まで御社で一貫しての展開となりますが、今後、どのような分野に注力されるのでしょうか。

八木 AVレシーバーは私どもにとって比重の高いカテゴリーで今後も注力して参りますが、特に中・高級機には重点を置いています。そして2chのピュアオーディオも注力カテゴリーですが、ここではネットワークオーディオなど新たな価値のご提案ができる分野に特に重点を置きたいと考えます。

さらにマイクロコンポも注力カテゴリーです。80年代の全盛時代にはパイオニアもミニコンポを大きく展開していましたが、その後テレビとレコーダーの分野に比重を置いてきたパイオニアの戦略の中ではどうしても手薄にならざるを得ませんでした。しかしここでもういちどミニコンポ、今はマイクロコンポとしてのカテゴリーをしっかりとやっていこうと方向性を打ち出し、パイオニアとしてここ1年ほど注力してきました。おかげさまで手応えも掴んでおりますので、これをパイオニアホームエレクトロニクスとして引き続きやっていきたいと思います。またサウンドバーについても、上向きの勢いを継続させていきます。

新会社では、ホームAVの根幹となる商品を一手に担うことになります。そこで商品まわりのマーケティングについても強化していきます。これまでマーケティングの組織はパイオニアマーケティングの中に存在して、どちらかというと商品ができた後のマーケティング展開を司っていましたが、新たな組織では事業企画部の中にマーケティング部をおいて、企画段階からマーケティング戦略をきっちりと展開して参ります。

さらに営業部は海外と国内をひとつに束ねた組織として、グローバルなマーケティング、グローバルな営業戦略を展開して参ります。地域戦略は非常に重要であり、日本は独自の戦略を必要とします。基本的にはグローバルに、そして個々の地域に合わせたマーケティングや営業を行っていきます。

3大販路の特性を活かす
マルチチャネル戦略

八木昭治氏── ホームAVの分野はここ数年厳しい環境にありましたが、今後の見通しはいかがでしょうか。

八木 八木 経済全体は昨今上向きの状況にあると言われますが、AVの分野は国内のみならず海外でもまだ厳しい状況にあります。ただここ2年ほど前年割れの状況が続いていた国内の家電販売は、今年の6月時点でようやく前年を上回り、傾向としては上向きになってきました。カテゴリー別に見ますと、BDプレーヤーやサウンドバーなどのホームシアターシステムは前年比を上回る状況であり、おかげさまでパイオニアもここでシェアを取らせていただいています。他のものについてはまだまだ厳しく、特にAVアンプなどは対前年比も低い状況にあります。

── オーディオやAVの市場の活性化、拡大が期待されていますが、そこでパイオニアの存在が市場に与える影響力は相当に大きいものと考えます。

八木 パイオニアにとって、音の追求は原点であり、非常に重要です。そして今の時代は、いい音を追求するだけでなく、いろいろな角度から音に関わって価値訴求をする必要があると考えます。そういう意味で今、お客様と音楽との大きな接点となっているスマートフォンとどう関わっていくかも大変重要なテーマです。ライフスタイルをしっかりと捉えた上でのご提案ができなければ、遅れをとってしまう。それはすべてのカテゴリーにおいて重要なことだと考えます。

昨今では年配の方にもスマートフォンは広まって、便利さが享受されています。その中にある音楽を簡単に取り出していい音で楽しめる工夫など、追求する必要があります。お客様のライフスタイルに合った利便性をいい音とともにご提案することで、新たなお客様層の獲得へつながるものと考えています。

── 新会社でのチャネル対策についてお聞かせください。

八木 家電量販店様、オーディオやホームシアターの専門店様、そしてwebのルートは私どもにとって重要な3つのチャネルと認識しています。Webに関しては価格の問題もありますが、その普及度合いや影響力から決して避けては通れないものとして注視しています。私どもではマルチチャネル戦略として、この3つのルートに対してバランスを図り、展開して参りたいと考えます。専門店様は、特にAVレシーバーなどにおいて非常に重要な存在です。こうした説明の必要な商品は、専門店様のお力添えをいただきながらしっかりとやって参りたいと思っています。

── AVレシーバーのような製品は、どういったお客様に何を訴求していけばいいのか、住み分けが難しいステージにあります。もともとはサラウンド再生を司るコントロールシステムでありながら、昨今はネットワークを含めてさまざまなメディアにも対応し大きく進化してきました。従来のサラウンド再生を好まれる映画ファン、AVファンだけでなく、新たなお客様層にアピールできる魅力をもっていると思われます。多岐にわたる機能のどこを誰に向けてアピールすべきなのか。その工夫が必要とされています。現状では、従来からのAVファンのお客様に対してもネットワークなどの新たな機能を十分にお伝えできていないようです。これまでのお客様により一層の楽しみ方を提供しながら、幅広い機能で新たなお客様を獲得していきたいですね。

八木 お客様のライフスタイルや指向は多岐に渡ります。ひとりひとり、何を求めていらっしゃるかを見極めた上で、それにお応えできるものを我々が提示することが基本と考えます。そういう意味でも専門店様のお力添えが必要であり、我々もしっかりとフォローして参りたいと思います。

新たな時代を見据え
パイオニアブランドを訴求

── パイオニアブランドの展開について、どのようにお考えですか。

八木 パイオニアは、ある程度の年齢層以上の方々にとっては音のブランドとして強いインパクトをもっていますが、今の若い方々にとってはどういう会社なのかよくわからないと受け止められているようです。しかし、若い方々にパイオニアブランドが浸透していかないと、今後もパイオニア製品は購入していただけないことになります。10代、20代というようななるべく早い時点でお客様にパイオニアの存在を認識していただく必要があると思います。私どももそういう思いでマイクロコンポやダンサーオーディオ、DJ機器やヘッドホンの展開に注力しているのです。

── パイオニアブランドを浸透させるためにも、今の時代に合ったオーディオシステムの新たなジャンルが形成されることが必要と考えます。マーケティング戦略にのっとって、オーディオ関連メーカーそれぞれの商品企画や店頭戦略において、新たなジャンル形成を見据えた動きを期待したいですね。かつて大きな市場を形成したシステムコンポ、ハイコンポもそうして誕生したジャンルです。

八木 中・長期的にもしっかりと先を見据え、具体的な戦略を展開して参りたいと考えます。パイオニアにとっての原点である音の分野を中心に、お客様にご満足いただけるよう、新たな提案をして参ります。ぜひご期待ください。

◆PROFILE◆

八木昭治氏 Akiharu Yagi
1954年生まれ。1978年パイオニア(株)入社。カセットテープデッキ、DAT、LDチェンジャー、LDプレーヤー、業務用ジュークボックス、DJ用機器の開発・設計に携わった後、ホームAV事業部へ。2013年7月現職に就任。

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