高田真治氏

原点にあるのは
お茶の間で楽しむ大画面・高画質
そこから何をプラスしていけるかです
スカパーJSAT株式会社
代表取締役
執行役員社長
高田真治氏
Shinji Takada

これまでのテレビの殻を打ち破った新しいテレビ文化の創造が求められる中で、魅力溢れるJリーグのコンテンツを活かしたマルチデバイスの提案や、4Kへの積極的な取り組みを展開するスカパーJSAT。有料多チャンネル放送「スカパー!」では昨秋、大胆な改革を断行。お客様により身近な魅力溢れるサービスへと生まれ変わった。テレビ復権へ強い思いを掛けるスカパーJSAT・高田社長に話を聞く。

 

高画質は日本のお家芸
4Kで海外勢に負けるわけにはいきません

 

一千万潜在ユーザーへ
魅力をもっと身近に訴える

── 昨年秋に、伝送路別になっていたサービスやカスタマー対応を大胆に見直され、ロゴも一新して新生「スカパー!」を始動されました。

高田 いつのまにか、われわれ送り手サイドの仕組みやルールが前面に出て、お客様にとっては入口が非常に複雑になっていました。「スカパー!という名前は聞いたことがあるけど、どんなものだかよくわからない」「加入しようと思ったけど、わかりにくくて途中で挫折した」。そんな声も聞かれる中で、未加入のお客様のニーズやスカパー!に対してどのような要望があるのかを、約5000名を対象にして大々的に調査を行いました。

その結果、懸念していた「わかりにくさ」「複雑さ」といった課題もより鮮明になる一方で、スカパー!のサービス内容をご存じない方も少なくなく、「こんな放送があるのなら加入を検討してみたい」という声や、例えば、いつでもどこでもスポーツが外でも見られるといった付加価値が付くのであれば加入してみたいといった声が本当に数多くありました。きちんとした対応ができれば、1000万を超える潜在的なお客様がいらっしゃることが確認できるのです。

もちろん、宿題はいっぱいあります。サプライヤー目線ではなく、お客様目線でどれだけ満足できるサービスを提供できるかが鍵を握っています。そこで、昨秋に手掛けた大改革では、誰にでもわかりやすい「スカパー!」の総称でワンブランド化を行い、カスタマーセンターの対応も一本化しました。また、サービスの本質は、加入したお客様にご満足いただくことですから、そのためにまず、「スカパー!」を見ていただくこと。そしてそこで、感動いただけるコンテンツを提供していくことが何より大切になります。TVCMでは俳優の堺雅人さんを起用して、デジタルテレビの楽しみ方やスカパー!の魅力について、大変印象的なメッセージを発信させていただきました。同時にそれは、われわれ自身が変わらなくてはいけないというメッセージでもありました。

── ここまで半年の取り組みへの手応えはいかがですか。

高田 昨年10月と今年2月に「10日間無料放送キャンペーン」を開催したところ、これまでにない無料放送体験の申し込みをいただき、いままでスカパー!に触れたことのない数多くのお客様に、われわれの多チャンネルサービスを見る機会を提供できました。かつては、テレビを購入した直後に加入されるケースが圧倒的でしたが、今はチューナーがテレビに内蔵されたこともあり、無料体験で見たいチャンネルの放送内容をしっかりと確認されるなど、テレビを購入後、しばらくしてから加入されるケースが増えてきました。

地上波の場合は広告収入で成り立っていますから、スポンサーのニーズにあったターゲットを獲得することがビジネスの基本です。ところが、多くの人に見てもらって世帯視聴率をとりたい、ターゲットユーザーも狙いたいとなると、コンテンツが均一化してしまう恐れがある。旬のタレントさんばかり起用される、どこかで成功した番組と似たような番組がどんどん増える、といった現象です。

テレビは放送文化の観点から、多様なコンテンツをお客様に届けていく責務があります。かつて、伝送路が地上波に限られていた時代ならともかく、今はBSもあれば、100chを超える多チャンネルもある。特に有料放送は視聴率とは関係ありませんから、ひとりひとりのお客様の満足度を高めていくことを重視しています。そこに存在感があると確信しています。

有料放送の優位性が活きる
マルチデバイスサービス

── 若者のテレビ離れも指摘されていますが、スマートフォンが台頭する中で、若年層の獲得も期待されるマルチデバイスの提案に力を入れています。

高田 コンテンツを届ける立場からは、いつでもどこでも見ていただけるようにしたい。しかし、広告収入で成り立つ地上波のビジネスモデルでは視聴が分散してしまうことになり、大変やりにくいわけです。しかし、スカパー!は有料放送ですから、そこに何ら問題はありません。現在、VODサービスの中でももっとも先進的な商品が、若い人からも人気が高い「Jリーグ」です。今期からは、J1・J2の全試合をライブ配信しています。これは、われわれが放送する権利も、インターネットで配信する権利も持ち、委託先を含めて自らコンテンツを制作しているからこそ実現できます。

Jリーグセットに加入されているお客様は、家でテレビで見るだけでなく、いつでもどこでも、スマホ、タブレット、PCなど好きなデバイスで、無料でJリーグの試合を見ることができるのです。専門性はもちろんですが、いつでもどこでも見られるという点においてはわれわれのビジネスモデルは優れており、今後も積極的にVODのサービスは拡張していきたいですね。

これからマルチデバイス化の進展が予想されています。様々なデバイスであらゆるコンテンツを楽しむためには、ある一定の共通ルールが必要です。その上で、メーカーの商品企画力や販売力、コンテンツ側の制作力やプロモーション力をお互いに切磋琢磨していくことで、よりよいビジネスモデルが提案できると思います。

── タブレットの存在についてはどのように評価されていますか。

高田 ワンセグが始まった時、携帯電話の画面では明らかに小さいし、画質も物足りないと直感していました。便利ではありますが、実際に、あまり満足度の高いサービスにはなっていません。やはり日常的にハイビジョンの高画質を見慣れていると、特にスポーツや映画のコンテンツでは、一定の画面の大きさやそれに伴う高画質が必要になる。モバイル環境においては、タブレットがまさに最適です。

── 携帯電話やPCの売り場ではよく目にするタブレットも、映像フロアではもうひとつものにできていません。スカパー!ならではと言えるようなタブレットに斬り込んだ提案にも、店頭からは大きな期待が集まっています。

高田 売り場でいろいろなデバイスを販売する時に、コンテンツ側からの強力なプロモーションがあれば、やはり大変心強いものです。先ほどお話ししたJリーグのVODサービスも大変好評ですが、より多くのお客様が思わず契約したくなるようなサービスをどんどん開発し、そのためにはこのデバイスを買わなくてはという流れを加速していきたいですね。

高田真治氏一丸となった思いが
4Kを成功へ導く

── 4Kテレビの新商品発表もあり、期待の高まる4K放送についてお伺いします。テレビと両輪になる放送コンテンツでは、「スカパー!」が重責を担われていますね。

高田 デジタル放送をいち早くはじめたのはスカパー!です。ところが、ハイビジョン化には出遅れてしまった。どこよりも早く、何が何でも頑張らなければいけなかった。その反省からも4Kには並々ならぬ意欲を持っています。テレビ販売不振の報道にも、テレビ業界を歩んできた人間として忸怩たる思いがあります。高付加価値のテレビをしっかりとした値段でお客様に満足して購入していただく。そのためのソフトの高度化に全力投球して参ります。

スカパー!では来年5月にMPEG-2が終了するため、新たな帯域が生まれます。これをチャンスに、われわれも汗をかきますので、メーカーさんには是非、トライアルの最初の入口として使っていただきたいのです。高画質は日本のお家芸ですから、4Kで海外勢に負けるわけにはいきません。

先々には8Kもありますが、いきなり8Kでは随分と先の話になってしまいますし、4Kが普及してはじめて、8Kの姿が見えてくる。ここはきちんと順序立てていかないと、メーカーも二の足を踏んでしまいます。オールジャパンで日本のテレビ産業、テレビ文化をもう一度、世界に冠たるものにするという強い思いが結集しなければだめだと思います。

── テレビ復権のチャンスですし、かつての街頭テレビのような仕掛けも重要になりますね。

高田 昨年10月20日、Jリーグのベガルタ仙台と浦和レッズの試合の中継映像を、4Kで制作してライブ伝送し、放送局、メーカーなど関係者の方に、お台場でパブリックビューイングとして披露しました。スポーツ中継する機材が揃うかどうかもわからない段階での試みでしたが、そこにいた全員が一人の疑いもなく、これまでとはレベルの異なる高精細な映像に、スポーツの見方が180度変わってしまうことを確信しました。同時に、世界に先駆けて日本がやるぞという意気込みが沸々と湧き上がってきました。

総務省の「放送サービスの高度化検討会」での議論も進む中で、今年3月にはクオリティにこだわり、実況やテロップ、スポーツ放送に欠かせないリプレーのスーパースロー映像も採り入れて2回目の4K伝送実験を行い、4Kの備える潜在能力を再確認しました。

テレビ発展のベースには、おっしゃる通り街頭テレビがあります。百聞は一見に如かず!爆発的なハードの普及を後押しし、一気にテレビ時代が到来しました。4Kでも街頭テレビのように、実際に見ていただくための仕掛けが、非常に大切になってくると思います。

── これからテレビはどこへ向かうのでしょう。

高田 スカパー!のような有料多チャンネルの積極視聴もあれば、地上波のようなパッシブな視聴もありますが、原点にあるのは、お茶の間の大きな画面で高画質を楽しむ世界であること。それをなくしてはあり得ません。そこを核に、その上で何ができるかですね。マルチデバイスで見られるのもひとつの新しい楽しみ方。放送と通信の連携もあります。大切なことは、それらが多くの人とって簡単でわかりやすくなければならないこと。そのための仕組みづくりは徹底して行っていかなければなりません。

これから出てくる放送コンテンツのいろいろなビジネスモデルや、それを楽しむための様々なデバイスも、お客様にとって扱いやすい規格づくりをまずきちんと行い、その上で、それぞれのクリエイティビティやビジネスモデルのなかにいろいろなアプリケーションをつくりあげ、提供していくことが、今後、ますます大切になってくると考えています。

◆PROFILE◆

高田真治氏 Shinji Takada
1952年6月6日生まれ。岡山県出身。1976年4月 日本テレビ放送網(株)入社、2005年6月 メディア戦略局長兼コンテンツ事業局長、2007年3月 営業局長、2008年6月 執行役員 営業局長。2010年6月(株)スカパーJSATホールディングス代表取締役副社長に就任、2010年6月 スカパーJSAT(株)代表取締役 執行役員副社長 有料多チャンネル事業部門長、2011年4月(株)スカパーJSATホールディングス 代表取締役社長(現任)、2011年4月 スカパーJSAT(株)代表取締役 執行役員社長(現任)。趣味は釣り、ゴルフ。

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