土井和幸氏

お客様の心を掴む本質は不変不動
魅力ある商品づくりに渾身の力を注ぐ
ラックスマン(株)
代表取締役社長
土井和幸氏
Kazuyuki Doi

オーディオ業界の課題となる新規ユーザーの獲得へ、DAC市場で他を圧倒する人気を獲得するDA-100/DA-200で大きなうねりを巻き起こしたラックスマン。一段と強化された、バランス感覚に優れたラインナップが幅広いオーディオファンの需要を喚起する。市場創造へ向けて意気込む、土井和幸社長に話を聞く。

 

携帯電話より面白いもの、自動車より
興味を持てるものを出せばいいのです

 

若いユーザーの心にも届く
ブランドのこだわりと安心感

── 最近のオーディオ市場の動向をご覧になられていかがですか。

土井 例年、ゴールデンウイーク明けはよくないのですが、昨年は例年以上の落ち込みとなり、以後、低迷した状態にあります。一昨年は、震災や原発事故で沈んだ心を振り払おうと、市場にもプラスに働いた面が見受けられましたが、その反動が出ているのではないかとの見方もされています。何より魅力ある製品をお届けしていくことが大切なことですから、そのための商品企画が、ここに来て一層問われているのではないでしょうか。

── そうした中でラックスマンは各商品が大変好調です。

土井 DACやヘッドホンアンプでは30代を中心に20?40代のお客様からの支持を獲得することができ、ラックスマンのユーザー層を拡大し、平均年齢も大きく引き下げています。売上げから見ても、プリメインアンプが30%、CDプレーヤーが25%、セパレートアンプが15%、DACとヘッドホンアンプが20?25%、残りがアクセサリーという構成比になっていて、いままでにはなかったジャンルが大きく成長していることが特徴のひとつです。

── 市場では、高級ヘッドホンで楽しんでいるユーザーを、ピュアオーディオの世界へどうにか誘導できないかと力を入れていますが、なかなか思うように行きませんね。

土井 「ヘッドホンよりもスピーカーで聴いた方がこんなに素晴らしいじゃないですか」と自信をもってお薦めするできる魅力ある商品があれば、お客様は自ずと階段を昇ってきてくれると思います。ヘッドホンでしか音楽を楽しまれていなかった方が、弊社のプリメインアンプに出会い、今ではスピーカーで音楽を楽しんでいる、そうしたユーザーの例も実際に珍しくありません。一方で、階段を昇ってきていただけないお客様に対しては、その理由をきちんと把握し、どうすればクリアしていくことができるかを考え、答えを出していくことが大切。潜在ユーザーはもっと取り込んでいくことができるはずです。

── 新しいお客様を創造するヘッドホンアンプやDACの存在意義がクローズアップされていますが、御社は着眼も早く、ヘッドホンアンプはブームになる前に市場へ投入されています。

土井 ヘッドホンアンプの「P-1」を発売したのは2002年ですから、今の大ブームになる前になりますね。そして、2010年11月にUSB DACの「DA-200」を発売し、その1年後に「DA-100」の投入となりました。

エントリーモデルとはいえ、5万円というラインを超えたDA-100の6万8000円という価格設定は、当時のDACのユーザー層からすると、相当な決断が必要になる金額です。それでも、ここまで大きな支持を獲得できたことは、市場創造の観点からも大きな意味があると思います。一方、DA-200(14万8000円)のお客様になってくると、今回の新製品「DA-06」(30万円)も視野に入ってくる価格帯となり、発表以来、市場からも大きな反響をいただいています。

── DA-100と200とではユーザー層も違ってくるわけですね。

土井 いろいろな意見もいただいています。特にデザイン面からは、DA-200は、ブラスト処理のデザインがApple社のノートブック製品と同様で、組み合わせがとてもマッチすると好評です。15インチ液晶モデルは、偶然にサイズも同じで、デザインから選んでいただいているお客様が、珍しく多かったですね。

── あの大きさでコンポーネントをすべて揃えて欲しいというお客様もいらっしゃるのではないですか。

土井 そうですね。とりわけ「CDプレーヤーを出して欲しい」という声が一番多かったです。ただ、CDプレーヤーの場合には、コストにメカの占める割合が大きくなりますから、なかなかむずかしいですね。14万8000円の価格設定は、当社にとっては廉価ですが、購入されたお客様はとても高価なものとして選んでいただいています。その期待にも応えられるレベルのものでなければなりませんからね。

── デスクトップで設置する例も珍しくなく、従来のフルサイズなどあり得ず、DA-200のサイズがちょうどいいのではないでしょうか。

土井 旧来のオーディオを知っている世代からすると、小さいサイズのものがミニコンポに見えてしまい、安っぽく感じてしまうことがあります。しかし、今の若い人はミニコンポの経験すらないですから、新鮮に見てくれるのだと思います。

── コンパクトサイズというコンセプトでは御社には「ネオクラシコ」がありますね。

土井 2007年に市場へ投入し、一昨年に生産を完了しました。現在、リニューアルを検討しています。コンパクトなサイズを求めるお客様は必ずいらっしゃいますが、発売当初は、リタイアする団塊世代需要の獲得が各業界で叫ばれていたころで、ネオクラシコの商品企画の狙いもそこにありました。価格をやや抑え、奥行サイズを短くすることで置き場所にも困らないようにしました。専門誌だけではなく、モノ系やデザイン系の雑誌にも注目して取り上げられましたので、「これは!」と期待したのですが、目論見とは外れ、既存ユーザーのセカンドシステム需要が多かったのです。

その点から言うと、DA-200/100には新規ユーザーの開拓というコンセプトはありません。弊社の開発エンジニアも若返り、彼らにとってはファイル音源の再生も日常的で、オーディオ再生と言えばCDプレーヤーだけでなく、DACもあたり前の選択してとしてあるということを前提にした商品なのです。

── ハイファイメーカーとしては早かったですね。USB DACはPC周辺機器としてスタートしたため、スペック的には十分ですが、ピュアオーディオという視点で見ると、音質的には物足らない内容でした。しかし、ラックスマンというブランドをほとんど知らない若い人に受け入れていただいたのは、何が決め手になったのですか。

土井 大きかったのはやはり口コミ効果です。聞き慣れないブランドでも、ネットで調べれば一晩でかなり詳しくなれてしまう時代です。ブランド信仰というものも、ある程度年配の人に限ったものではなく、今の若い人もある意味保守的です。そこへ、ラックスマンという創業90年に近いブランドが安心感へとつながっていったのではないでしょうか。

── 当時、すでに192kHz/24bitのハイレゾ音源への対応が当たり前になる中で、96kHz/24bit対応止まりだったことがウイークポイントにならなかったことも注目されます。

土井 趣味の世界でも新しいジャンルの製品では多機能が求められます。しかし、若い人の間では、不要な機能が付くことでコストパフォーマンスが落ちることを嫌う傾向が見られました。実際にはCDをリッピングした音源をメインにしている層が相変わらず多いこともあって、そうした実用性についてもやはり口コミ効果によって評価が定まっていったのだと思います。

土井和幸氏新期層を引き寄せる
ラックスマンの魅力と哲学

── これからのオーディオマーケットをどのようにご覧になりますか。

土井 もちろん、いいものを出せばマーケットは拡がっていく。なければ、どんどんシュリンクしていきます。ですから、いいものを出し続けていかなければなりません。携帯電話より面白いもの、自動車より興味を持つものを出せばいいわけです。楽しくないと売れないですよ。

社長に就任して以来、社員には「高音質で高品質で高品位、プラス魅力のある商品をつくろう」と言い続けています。魅力のある商品とは何か。それは、簡単に言えば皆が欲しがる楽しいもの。作っている人、自らが欲しくなるものです。ラックスマンでは毎年、この同じことを徹底して行っているだけです。

── お客様のニーズをきちんと捉えているということですね。その結果、ラインナップの選択肢がバランスよく拡がってきました。

土井  まだやりきれていないテーマも数多くあります。開発の人数を増やし、製品ラインナップを増やせば、売上は2倍、3倍へと膨らんでいく可能性もあります。しかし、現在の規模だからこそできることがあり、そこには迷うことなく線を引いていきます。

── 新しいお客様を取り込んでいくためにも、店の敷居をまたがないとわからないのではなく、人の集まるところにどう出ていくのか。顧客接点づくりをどう考えていけばいいでしょうか。

土井  例えば、高価なスピーカーやスタイリッシュなシステムをお求めになるお客様の中には、高額所得者や音楽ファンの方がいらっしゃって、この方たちは売り場においても雰囲気をとても大切にされます。一方、元来のオーディオファンは機械好きな方が多く、むしろごちゃごちゃといろいろなものがあることを好まれる。こうした違いをきちんと認識していくことも大切です。

私どもがDA-200で掘り起こしたような新規のお客様にとっては、オーディオは中古マーケットが成立しており、高価なものも価値を落とさず処分ができるという意識があるので、買い替えのサイクルも早い。「DA-100を買った!」とTwitterでつぶやいたお客様が、半年後にはセパレートアンプを手に入れていた例などもあります。通販で購入する場合などは、試聴をせず、現物も見ずに購入されることもあるようです。

── そういうお客様はメーカーとしてはどうなのですか。

土井  選んでくださるのはうれしいですが、ラックスマンというブランドを通り過ぎるスピードも早いですね。そのお客様を次に受け止めてくれるブランドがあればそちらに移りますし、なければあっさりとオーディオを止めてしまうこともあるでしょう。業界としては、口コミだけではなく、実体験も踏まえた購入前の製品評価をしていただけるよう、試聴会などのリアルと連動できるアイデアが提案できればいいと思います。

── こうした新しいお客様はどれくらいアドオンしていくことができるのでしょうか。ポテンシャルだけで言えばかなり大きいですね。

土井  弊社の場合は現在、そうした新しいお客様の商品が売上全体の中で20?25%くらいを占めています。単価が低い商品がどうしても中心になってしまいますが、反対に、それだけ人数が多いことのメリットもあります。

── ユーザーが増えてくれば、あとは、どういうお付き合いをしていけるかですね。

土井 そうですね。ただし、PC関連機器が常に競合としてあることも事実ですから、低価格でフルスペックの商品が市場にはある中で、お客様に「それで十分」と思わせることのない価値観の提案が重要になってきます。口コミでももちろん伝わっていきますが、やはりそこへ、実際に体験いただくことで納得できるパフォーマンスがあることを、できるだけ早い時期にわかっていただく必要があります。

── オーディオは生活に不可欠のものではないですし、現在二十代の人になると、ステレオのない家で育ってきているケースも珍しくありません。さらに下の世代では、家にヘッドホンしかない子どももあたり前になってくるでしょう。そういう人たちにオーディオをどう見せていくのかが業界の課題ですね。そうしたなかで今、ラックスマンが大きな役割を果たされ、市場からの期待を集めています。

土井  従来のオーディオ、さらに、DACやヘッドホンなど、それぞれの層のユーザーが完全に分離しているわけではありません。お互いに流入する度合いを少しずつでも大きくしていくことができれば、そこにブレイクスルーがあると確信しています。

◆PROFILE◆

土井和幸氏 Kazuyuki Doi
1953年北海道苫小牧市生まれ。自作アンプのクオリティを上げるため、「製品の中身を見てみたい」という理由で当時憧れていたラックス株式会社のサービス部門に入社。札幌支社での15年の勤務を初めとして、社内のほとんどすべての業務を幅広く経験した後、2002年、代表取締役社長に就任。現在は、日々会社全体の陣頭指揮を執る一方、真空管製品では、いち開発エンジニアとして高音質回路の検討と試作に忙しい毎日を送っている。座右の銘は「凡事徹底」。

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