中野修義氏

日常の中のスペシャルな存在として
プロジェクターの楽しさを訴求する
エプソン販売(株)
取締役 販売推進本部長
中野修義氏
Nobuyoshi Nakano

ビジネスユース、ホームユースでプロジェクターをけん引するエプソン。6月に発表されたビジネスプロジェクターでは、ホームシアターの入門機としての展開も視野に、さらなる拡大を目指す。同社のプロジェクター戦略を、エプソン販売の中野氏に聞く。

 

さらなる高みの追求とともに
裾野拡大はエプソンの使命

ビジネスプロジェクターで
ホーム用低価格機の選択肢増

── 御社の今年度におけるプロジェクター戦略を、あらためてお聞かせください。

中野 ビジネスプロジェクターについては、11年度の市場規模は18万台、私どもは50%のシェアを獲得しました。12年度は市場が20万台に伸長すると見ており、私どもはシェアを60%に拡大するつもりです。この市場で確実に伸びるカテゴリーのひとつはローエンドで、成長のドメインです。もうひとつはインタラクティブのカテゴリーにあたる超短焦点のタイプで、文教や一部会議室などで取り扱われています。今年ようやく本格的に立ち上がると見て、私どももさらに商品を投入するつもりです。高画質常設モデルの分野も有望です。小さいマーケットですが、主に6000ルーメン以上の性能をもち、単価も高いカテゴリーです。私どもはここもシェアを拡大させたいと考えます。

一方、ホームプロジェクターのマーケットは20000台程度で、今年度もそう大きくは伸びないと思われますが、そういった中でも我々はシェアを拡大させる方向性で、3Dをきちんと訴求できる場を多く設定していくつもりです。

── ビジネスプロジェクターをホームユースとして訴求するとは、どのようなことでしょうか。

中野 ホームプロジェクターの20000台の市場をピラミッドとすると、最上部がマニア層で、ホームシアターの愛好家を対象としたカテゴリーであり、ここの市場は11000台と見ています。私どもはEH-TW8000などを中心に、今後もしっかりと展開していくつもりです。その下にあたるのが、ホームシアターファンやファミリー層を対象としたカテゴリー。ここはおよそ9000台の市場ですが、私どもが高いシェアをもつところであり、DVD一体型モデルを中心に確実に展開して参ります。

ビジネスプロジェクターをホームシアターユースとする分野は、その下に位置づけられます。これはビジネスプロジェクター市場の20万台の中で26000台ほどになると見ており、私どもの商品ではEH-TW400やEB-S12H/S02Hといったところが対象となります。ファミリーやお一人暮らしの方、ゲームなどに使用される方を対象にホームシアターのエントリー分野と見て、ここを拡げ、底上げすることによって、ホームシアタープロジェクター市場そのものを将来的に拡大でき、かつての規模に回復できると期待しています。

── 各カテゴリーで、ユーザー数に変化はないのでしょうか。

中野 マニア層は、ここ数年増減はほとんどないと見ています。ホームシアターファンの層は、一時期減ったと言われていましたが、それはここに対して提案できるものがなかっただけで、実はここが増えているという感触があります。

私どもでは以前480pの商品を低価格で販売しており、ご購入いただいた方が数多くいらっしゃいました。それが480pが720pになり、1080pにと単価が高くなる中で10万円以下の商品はDVD一体型しかなくなった。そこで低価格帯を求める方々が、ビジネスプロジェクターにシフトしたということなのです。私どもが狙うのはそこです。26000台という想定ですが、さらに伸びて来ているのではないかと思われます。

── プレゼンなどでなれ親しんだビジネスプロジェクターと、ホームシアタープロジェクターの間には、やはり壁があると思われます。それを払拭するための方策はどのようにお考えでしょうか。

中野 とりあえず大画面に触れていただくのが第一だと思っております。日頃テレビで映像をご覧になっている方にとって、大画面の体験がいかに楽しいか。コンテンツはゲームでも、映画でもスポーツでも何でも結構なのですが、大画面の迫力と楽しさを感じていただければ、さらに迫力ある映像、さらにきれいな映像、また3Dへといったこだわりが生まれる可能性があります。エントリー層の中である程度部屋の広さに余裕のあるような方なら、大画面の楽しさからマニア層のところへステップアップされる可能性もあると思います。

ビジネスプロジェクターがきっかけであっても、そうした実感によってホームシアター市場へお客様が入ってくださるのではないかと思います。そこを入門として、エントリーを確実にとっていくということが重要です。

まず大画面を体験する
その楽しさが気づきを生む

── 御社はホームシアタープロジェクターに参入された2003年当時から、クオリティモデルと、裾野拡大モデルとの展開を続けてこられました。一般家庭のプロジェクターに対するポテンシャルはどれほどとご覧になりますか。

中野修義氏中野 テレビの日常性に対して、多くの方が非日常性をもちたいと考えていると思われます。資金や家庭内のさまざまな環境などの要因を考えても、今のホームシアタープロジェクターのマーケットは余りにも小さい。日本の世帯数4000万に対して、その1割くらいがマーケットになるとすると、年間100万台弱というボリュームになってもいいのかと思います。

これまでのいろいろな調査で、プロジェクターは多くの方が知っているとおっしゃいます。しかし用途はと言うとプレゼンテーションという回答で、家の中で映画を見ることはほとんど認知されていないのですね。それはこれまで、日本の家庭環境に合わせたプロジェクターの考え方がなかなかなされなかったせいかとも思います。日本のご家庭では、壁面にはまず何かが置かれ、80インチや100インチのスペースを確保することは難しい。部屋自体広くはなく、投射距離を確保するのも難しい。

短焦点のモデルをインタラクティブのカテゴリーでいくつか展開していますが、明るさや価格、本体サイズなどまだ解決すべき問題があります。しかし解決できれば、狭い部屋、明るい中でも簡単にプロジェクターを楽しめるようになってくると思います。

マニアの方に対するスペックの追求は当然大事なことですが、ファミリー層、エントリー層の方々の価値観はそうではないのです。どちらか一方だけ追求すればいいというものでなく、裾野をしっかりと拡げつつ高みを追求するということが必要です。特に裾野の拡大については、エプソンの使命として追求していきたいと思います。

── モベリオについて、手ごたえはいかがでしょうか。

中野 この商品は、純粋にAVファンの方だけにご提案するものとは少し異なります。方向性を定め、ビジネスマーケットにしっかり訴求していきたいと思います。たとえばマニュアルを見、パーツを確認しながら修理の作業をする、そうしたマーケットを開拓中です。また不動産屋さんで、完成した間取りのイメージをバーチャルで見ていただくために使ったり、といったご提案ができると思っています。今の商品においてはそうした用途で進めていきたいですが、将来的にはホームシアターに訴求できるものも展開したいと思います。

イベントに手応え
今年も新たな展開を

── 各カテゴリーの売り場展開は、どのようにお考えですか。

中野 マニア向け商品を取り扱うのは当然ながらAVの専門店様、TW8000クラスの商品はそうしたところでの展開が主となります。そこに家電量販店様、カメラ系の量販店様を加え、しっかりと展開して参ります。ホームシアターファン向けの商品は、量販店様での展開が主体で、一部web通販でもお取り扱いいただいています。ホームシアターエントリー層につきましては、ビジネスプロジェクターの中でホームにお使いいただいている分に限ってweb通販の比率が30%となっており、さらに家電量販店様もここに加わります。また法人コーナーにも置かれているケースが多くあります。

── 昨今は暗室が店頭で減ってきており、体感の場を設けるということは課題ですね。

中野 量販店様でも暗室のあるお店様ではホームプロジェクターを十分に体感していただけますが、特に3Dはコンテンツも重要になります。もともと3D表現が想定されていないコンテンツですと、楽しさや魅力が伝わりにくくなってしまいますが、しっかりと創り込まれたコンテンツをご覧いただけると、想像以上の素晴らしさや迫力を感じていただけると思います。そこで我々としても、コンテンツを含めたデモのための材料をご提供する活動を展開しております。

AV専門店様の場合は、当然ながらシューティングの環境が高いレベルで構築されており、コンテンツも十分に素晴らしいものを備えておられます。また暗室のない量販店様の場合では、実機をまずご展示いただくということが主体になります。

それに加え、我々自らも体感できる場を増やして参ります。昨年も11月から12月にかけて、ふたつの手法でイベントを開催しました。ひとつは、常設のホームシアターコーナーで、東京と大阪に会場を設けました。もうひとつはトレーラーを使った稼働性のホームシアターで、全国キャラバンとして展開させていただいきました。当初合わせて10000人の集客が目標でしたが、おかげさまで大変ご好評をいただき、結果として14000人を集客することができました。

そこで今年も、7月21日から2週間程、スカイツリーの近辺であるスカイツリータウンに会場を設け、「EH-TW8000W」と「EH-TW6000W」を使った3Dの大画面シアターイベントを展開しております。昨年同様無料の開放型であり、多くのお客様にご来場いただけると期待していますし、状況によっては日程などさらに拡大することも考えております。

さらにホームシアタープロジェクターは秋の新製品も控えておりますが、その発売を機に、昨年同様全国をまわる展開も予定しております。このように年間を通じて、お客様に刺激を与えるイベントを展開していく計画でおります。

── 昨年のイベントについて、手応えはいかがでしたか。

中野 多くのお客様にとって、初めてのプロジェクター体験、特に初めてのプロジェクターでの3D映像体験ということで、非常に好印象をもって迎えていただけました。またそのうちの数パーセントは購買にもつながりました。大画面・3Dをまず感じるということで、我々の想定以上にいい感触で見ていただけました。多くの会場で大盛況となり、整理券を発行するような事態にもなったのです。こういう場づくりをできるだけ連打していきたいという気持ちです。

昨今ではテレビの3Dが少し下火になりつつあると聞いておりますが、放送のコンテンツの大部分が3Dでないということで、3Dはテレビ向きではないのかもしれません。日常的でないので、いざ体感するとなると違和感が生じるのではないでしょうか。

プロジェクターはもともと、日常の中にありながらスペシャルなものであるという捉え方をされております。対してテレビはまったく日常空間のままで楽しむことができるもの。そういうリビングになくてはならないものとはちょっと違い、使用する際も部屋を暗くして日常とは異なる空間が演出されます。家族が揃って映画を見たり、一緒に行った旅行のビデオを見たり、スポーツ中継を盛り上がって応援したり、というようなシーンに相応しいといえるのがプロジェクターであり、そういうスペシャルなときだからこそ、3Dコンテンツも楽しく体感できるのです。

また、テレビですと大画面も限度がありますが、プロジェクターは天吊りすれば存在感はなくなりますし、そうでなくとも使用時以外はしまっておくこともできます。これまでネックになっていた接続ケーブルの問題も、ワイヤレスで解決できました。

そうしたところをきちんと訴求していければ、プロジェクター拡大の余地はまだまだあると思います。この秋のホームプロジェクター新製品でも3Dモデルを中心に魅力的なモデルを展開して参ります。

── 秋の新製品を含め、多角的な展開となりそうですね。非常に期待しております。

◆PROFILE◆

中野修義氏 Nobuyoshi Nakano
1960年大阪府生まれ。1982年信州精器(現セイコーエプソン)に入社。83年エプソン販売に出向。 その後、05年エプソン販売コンシューマ東日本営業本部長、07年マーケティングセンター長、 09年取締役兼マーケティングセンター長を歴任。10年から現職。

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